ジュネーブ平原にて
アリス王女の提案もあり、今日はピクニックに行くことになった。
行き先はシオン城から約20キロ離れたところにある平原で空気が綺麗で見晴らしも良い、と評判のあるジュネーブ平原に決まった。
そこは特に強い魔物もいないということだった。
魔物とは動物が魔法力が溜まっている所に長く居続けるとなってしまうという特殊変異らしい。魔物は魔物どおしと交尾するとその子供はより強い魔物になっていくという厄介な点がある。魔物は見つけ次第討伐、捕獲、連絡が義務づけられており、そのおかげか王都では魔物被害はゼロのようだ。
行き先はそんなに遠くないので僕達は途中から歩いて行くことにした。王都から約15キロ地点にある休憩所まで馬車で行き、そこからは歩いて行くことにした。王ははじめは反対していたが、アリス王女が何か告げ口したらしい。寒気がするのは気のせいだろうか…
歩いて1時間30分、ようやく目的地に着いた。しかし、何か様子がおかしい。
周りを見渡すといたるところにクレーターのような穴や森林が燃えたような跡が残っている。これは一体…
「ドラゴンだぁぁぁぁぁぁ‼︎」
何処からか男の声がした。
そちらを見てみると防具や鎧を着た冒険者のような人が5と全長10メートルはあるだろう黒いトカゲのような姿をしたモンスターがいた。
僕達はみんな驚きと恐怖のあまり動けなくなっていた。僕達男4人は魔物と出逢うのが初めてだったということもあってガチガチにかたまっていた。
「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!」
先ほどの冒険者の1人が声を発していた。その声で僕達ははっとして、逃げることにした。必死に逃げながら先ほどの冒険者と合流する。
「何故こんなところにドラゴンが?」
「分からねぇ。ただ、ここら辺の様子がおかしいから調べろって言われてな…そんな事より逃げることに集中しろ‼︎」
このままだと皆全滅してしまうだろう。仕方がない。
優がその場に立ち止まるとドラゴンも止まった。
「真斗、僕がコイツを足止めする。先にみんな連れて逃げろ」
「何言ってやがる。それなら俺も!」
「これから先に何があるか分からないだろう。僕がダメなら次に君が食い止めてくれ」
「ッ!分かった、だから絶対勝てよ」
「無茶言うなよ」
「お前は負けないだろ、絶対」
「勝負に絶対なんてないよ」
「そういうことにしといてやるよ。みんな行くぞ」
優と真斗のその会話を聞いて女性陣の顔が青ざめる。
特にクレアとアリス王女が非難の声を上げる。
「優さんを見殺しにするんですかっ?」
「優さんが残るなら私も残ります。私の提案が原因ですから!」
「優の邪魔になるから行くぞ」
そう言って無理やりクレアとアリスを抱え込みこの場を離れる。
真斗たちが完全に見えなくなると優は威圧を解いた。するとドラゴンはまた動き出した。
優は右手を出して詠唱する。
《切り裂く刃よ、汝の力を与え給へ》
優の右手は刀となる。これは身体強化魔法の一つで【英雄の一撃】という中級魔法。
ドラゴンの鱗は非常に硬く、倒し方は普通は遠距離からの魔法のみ。
しかし魔法は使用者の込めた魔法力の大きさに比例するのだ。優はこの魔法【英雄の一撃】にほぼ全ての魔法力を使った。そうなるとこの世界に優の切れないものは無くなる。
「くらえこのトカゲ野郎ぉぉぉぉぉ!」
残っているのは無傷の優と胴体が真っ二つの黒いドラゴンだけであった。