異世界召喚
とある日の放課後
「おーい優、帰ろうぜ」
「ごめん、先行ってて」
「校門で待ってるぜ」
「おー」
校門に向かうと3人が待っていた。
「ごめん、遅くなった」
「おー、じゃあ帰るぞー」
「そーだなー」
「そーだね」
すると、4人の足元が急に光り出した。
「おいおい、なんだこりゃ?」
「真斗か恭平のイタズラじゃないの?」
「「ちげえーよ」」
二人は声を揃えて答えた。
「何コレ?逃げた方よくね?」
「動けないよね?ヤバくないかな?」
そう、逃げるということは出来ない。
そして、段々と光が大きくなり4人の姿が消えた。
この出来事は4人の人生を大きく変える…かもしれない。
目覚めると目の前には大勢の人がいた。何故だか騎士や貴族の様なコスプレをした人が大勢集まっていたのだ。
僕ーー灰原 優は少し冷静になって周りを見ると3人の友人もいた。
顔には出さないようにするが、1人じゃなくて良かったと心底安心している。
今の状況が気になったのでとりあえず話してみる。
「おい真斗、僕たちはどうしてここにいるんだ?」
「俺も知りたいんだが」
今喋ったのは西園寺真斗と言って、身長180センチで筋肉質、おまけに茶髪のイケメンというリア充の様な奴だ。毎月2回は告白されるモテ男とは裏腹に少しオタクっ気がある。ちなみに西園寺財閥の御曹司というキャラもある。
「学園の帰り道歩いてて、気がついたらここにいたんだけど」
真斗の次に喋ったのは加藤拓実と言って、身長165センチで白っぽいグレーの髪、カッコいいよりも可愛いという感じの容姿をしている。
よくクラスの女子にマスコットキャラクターのようにされており、本人は軽くコンプレックスらしい。
「そうそう‼︎何コレ⁉︎まさかの異世界転送ってやつ?」
この落ち着きのない奴は皆藤恭平と言って、身長190センチ以上でモデルをやっていそうな感じの金髪チャラ男だ。黙っていればクールなイケメンだが喋るとボロがでるという非常に残念な奴だ。
ちなみに僕ら4人は同じサークルにも入部していて親友と言えるような仲で、今日も一緒に下校してた。
そんな風に僕らが話していると、
「貴方様達が勇者様なのですね?ようこそアインクラッドへ」
物語の中に出てきそうなお姫様の様な格好をした人物が僕達に話しかけてきた。
具体的に表すと透き通った金色の髪に病気がちにも思われそうなほど白い肌、スタイルも出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるというモデル体型。
この姫のような女の子が言っていた『アインクラッド』という国も言葉も聞いたことがない。
まさか恭平の言った通り本当に異世界なのだろうか?
ここは誰かに代表して聞いてもらうしか…
まぁ僕しかいないか。
周りに目配せして僕が代表で受け答えすることにする。
「申し訳ないが僕らは今の状況が分からないんですが、ここは異世界ということでしょうか?」
「はい、ここは貴方様達の世界ではありませんわ。この世界はアインクラッドといいます」
恭平の言ったようにここは異世界であり、地球から転送されてきたと言うのか。
僕達が好きなライトノベルの中にも異世界モノがあったのでワクワクしなくもない。
ただこの女性が嘘をついているというかのうせいもあるが嘘をついている様には見えないし、何となくそんな気がするのも確かだ。
取り敢えず相手をあまり刺激しないで今の状況や今後の事について詳しく聞いてみるか。
異世界モノだとこの後は『勇者』として『魔王』を倒しに行くか、国王に『奴隷』にされるか、などどちらにしても碌なことはないだろうが。
「僕らが異世界に転送?された理由を伺ってもよろしいですか?」
「はい、正しくは異世界召喚と言い、私が行いました。そちらの事情も考えずに申し訳ありません。
そして理由ですが、この国の勇者となって国を守護してもらいたいのですわ」
「…勇者ですか?」
「はい、実は4名も召喚する予定ではありまでした。しかし、異世界召喚された人は『勇者』と呼ばれ、常人より遥かに強い能力を得るのですわ」
つまり僕らの中で1人が召喚されるはずが手違いで4人を巻き込んだということか…
1人で召喚されるよりも断然マシだ。
勝手に召喚されたのは若干腹立たしいが、このメンバーならば良かったと思う。
しかも軽いチート付きというのもいい点だ。
僕は親いないから帰んなくていいしな。
みんなはどうなんだろうか、後で聞いてみるか。
「これから僕達はどのようにしたらよろしいですか?」
「まずは国王様にお会いになっていただきますわ。質問等は国王様にお願いいたします。申し遅れました、私はアリス・ナリーシア・シオンと申します。アリスとお呼びください。この国の第1王女ですわ」
「僕は灰原優と言います。王女様から向かって右が西園寺真斗、左が加藤拓実、皆藤恭平と言います」
「自己紹介ありがとうございます。では、こちらに」
とりあえず聞きたいことは山ほどあるが後から国王様に聞くことにするとしよう。
僕達と王女、少しの騎士はさっきまでいた部屋を出て廊下を歩く。
廊下には豪華そうな絵、柱などがたくさんあった。イメージは中世のヨーロッパと言ったところだろうか。
そして、ここは城の中なのだろうか、と僕達4人が疑問に思っていると、
「ここはシオン王国内にあるシオン城です」
と王女が説明してくれた。
少しの間、ほんの4、5分歩くと一際豪華な扉があった。
「あそこが謁見の間です。今から勇者様にはこの国の国王様に会っていただきます。聞きたいことなどは全て国王様にお聞きになってください」
「はい、分かりました」
そして僕達が謁見の間に入ると、国王と思わしき威圧を放つ白髭の初老と貴族の様な人物達とその護衛達がいた。
「ようこそアインクラッドへ、勇者殿。
我はこの国の国王ライオス・ナリーシア・シオンと申す。こちらの勝手な事情でこの世界に呼んでしまって本当に済まないと思う」
そう言って国王は頭を下げた。
周りの貴族達は王のそのような態度に慌てた。
「王よ、そんなに簡単に頭を下げては…」
「いや、勝手に呼んだのは事実じゃ。それなのに頭を下げないのは我は良しとせん。
王とて人であるのだから礼儀を尽くすのは道理じゃ」
そう言うと納得したのか貴族達も僕等に向かって頭を下げる。
この人はまさしく『王』の器である、と僕等はその時そう思わされた。
「ご紹介させていただきます。僕の名前は灰原優と申します」
「俺は西園寺真斗だ」
「ボクは加藤拓実って言います」
「オ、オレは皆藤恭平っす」
「礼儀のなっていないのは申し訳ございません。なにぶん王政がないような世界からきた者ですから」
「そうかそうか、よいよい。では、これからについて話すとするかのう。お主らは見た所まだ子供じゃろう?これからお主達には学園に入ってもらおうと思っておる。魔法や戦闘などを学ぶ所じゃ」
魔法と聞いて僕達は反応した。僕達4人はちょっとオタクっぽいところもあるので魔法と聞いて少し興奮したのだ。
「…魔法って僕達も使えるんでしょうか?」
「代々勇者は魔法のない国からやって来る。しかし、この世界ではすべての生物が魔法を使える。つまり、お主らの努力次第で魔法を使えるというわけじゃ」
それを聞いてもしかして魔法使えないかも、と思った疑問が吹き飛んだ。やはり魔法と言うのはロマンというか憧れがある。
そして、同時に同じような境遇の人もいるのではないだろうか、と思った。
「分かりました」
「そこで学園に入学するにあたって少し魔法、歴史、語学について学ぶ必要がある。お主らの年は何歳じゃ?」
「全員高校2年で17歳です」
「高校というのは分からんが、17歳じゃな。
学園は16歳から通えて3年制度なんじゃ。だからお主らは二年生から転入じゃな。
ちなみにお主らが勇者ということは箝口令を出すつもりじゃ」
この世界には高校という言葉がないのか。
これは色々文化や制度が大きく違う可能性があるな。さっきの飾り物も中世のヨーロッパみたいだったしな。
それに箝口令と言うのはありがたい。学園で勇者扱いなど恥ずかしくて死にそうだ。
「分かりました。…で、どのように学べばよろしいのですか?」
「学園に通っている者でお主らと同い年、そしてお主らの正体を知っている貴族の者に任せる、よろしいか?」
「構いません」
「どのような人物がよい、とかの要望はあるかのう?」
「僕はありません」
「俺もないぜ」
「ボクもありません」
「オレもないっす」
僕、真斗、拓実、恭平の順で答えた。
「では、明日までに決めておくわい。楽しみに待っておれ。」
「質問よろしいでしょうか?」
「おう、よいぞ」
「僕等のような境遇の人物はいるのでしょうか?」
「前にいた。今は天寿を全うして墓の下じゃ。」
「そうですか、お教えいただきありがとうございます」
「よいよい、今日は色々疲れただろう、部屋は用意してあるから休むとよい。
おうい、誰かおるか?」
そう呼ぶと数人のメイドが来て、僕らを部屋に案内しようとした。
謁見の間の去り際に僕らは王にお礼を言って今日は寝ることにした。
1人に1室が用意されていたが何かと不安だったのでみんなで同じ部屋にしてもらった。
今日は色々あって疲れているはずなのに簡単には眠れず、少し話すことにした。
「今日は大変な1日だったな」
「だよね、まさか異世界召喚されるとはね」
「だからな、オレ興奮しちゃって眠れないわ」
「僕も魔法とか聞いて内心興奮してたよ」
「俺も俺も」「ボクもだよ」「オレも」
「…でも4人全員で来れて良かったな。俺1人とかだったら不安で仕方なかったわ」
「僕もそう思うよ」
「ボクもみんなでよかったよ」
「オレもそうかもな」
「なんか今のセリフみんなキモいけどな」
「「「「ぷっ、ははははは」」」」
4人は一斉に笑い出して気がつくとみんな眠りについていた。