第一話「夢」
気がつけば俺、日善カズトは荒野に一人たたずんでいた。
見渡すかぎり荒野が広がり、目に見える全てのものが灰色に映るこの光景に俺は見覚えがあった。
『………』
背後に人の気配を感じて振り返るとそこには五歳くらいの子供が空を見上げていて、その子供の姿を見て俺はここが自分の夢の中であると確信する。
この子供は間違いなく昔の俺。だとしたら昔の俺が今見上げているのは……。
ガキィン! ドゴン!
昔の俺が見上げている先に視線を向けると、二体の巨人が争っていた。
片方は人の影が立体化したかのような全身が真っ黒な巨人。
もう片方は緑色の装甲を身に纏い、装甲と装甲の間に機械の部品を覗かせている巨人。
ガッ! ギャリィィィッ! ガガガガガッ!
黒の巨人が両腕に鋭い爪を生やして緑の巨人に襲いかかると、緑の巨人は装甲を使って黒の巨人の攻撃を受け流し、その直後に腕に備え付けられている大砲から黒の巨人に向けて無数の砲弾を放つ。
黒の巨人と緑の巨人の戦いは熾烈を極めた。
黒の巨人が攻撃を仕掛けると緑の巨人はそれを紙一重で避けて反撃をする。二体の巨人はこれを何度も繰り返し、時間にしては数分しか経っていないのだろうが見ている俺には何時間も経っているように感じられた。
ガガガガガッ!
そしてついに緑の巨人が放つ砲弾が黒の巨人を貫くと、黒の巨人は動きを止めて次の瞬間には煙のように消えていった。緑の巨人は黒の巨人の姿が完全に消えたのを確認すると、今度は昔の俺に顔を向ける。
『おい、そこの少年。怪我はないか? っていうか、何で逃げなかったんだ? 踏み潰されたらどうするんだ?』
緑の巨人が男の声で昔の俺に話しかける。ああ、この声は間違いない。この夢は十年前に俺が初めて義父さんと出会った時の夢だ。
夢とはいえ義父さんの声を聞くのは久しぶりだな……。
『当航宙艦はまもなく学園都市惑星ミチマサに到着いたします。乗客の皆様はお降りの際、荷物などの忘れ物がないようにご注意ください』
艦内のアナウンスに夢から起こされると俺は航宙艦の客席の一つに腰掛けていた。艦内には三十くらいの客席が設けられていて、俺と同じ年齢の男女が座っている。
もう到着か。さっきの夢、もう少し見ていたかったのだけどな。
首を横に動かして窓ガラスを見るとまず前髪を目元まで伸ばした自分の顔が映り、その向こう側には宇宙に浮かぶ一つの惑星が見えた。
あれが学園都市惑星ミチマサ。今日から俺が学生生活を送る学問の星か。