表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

対面

瞬時にドーラと目を合わす。



強張った表情で、ゆっくりと頷くドーラを見て、確信する。




魔女だ……




本当にすぐそこにいる。



「さっきから、夢だ何だって、うるさいのよ。

 こんな古いボロ城、綺麗になるはずないじゃない。

 本当馬鹿馬鹿しい。

 まさかこの城自体がそんなモノ持ってるなんて、思ってなかったわ」


はぁ? あんたこそ、何言ってくれるのよっ!


焦って階段を眺めれば、おばばの表情がどんどん曇っていく。




「馬鹿を通り越して愚かだわ。

 もっと現実を見なさいよ。

 ほら。

 そんな馬鹿馬鹿しいモノ、早くなくしちゃいましょう」



たたみかけるように女の声が響き渡った直後。




階段に浮かんでいたおばばの顔はスッと消え去り、後にはおばばの流した涙だけが染みになって残っていた。




「おばば?」


つい、そう呼び掛けてみたものの、階段はもちろん、城のどこからも反応はなく。



「馬鹿馬鹿しい夢と一緒に存在自体消えちゃったんじゃない?

 まぁ静かになってよかったじゃないの」


あっけらかんとした声だけが満足気に響いた。



う……そでしょ……?



数秒前に、一緒に笑ったのに。



後で一緒に掃除から始めようねって。

約束したのに。




握りしめた拳が震える。





もぉ。



さっきから、怒りで頭ん中がどうにかなっちゃいそうよ。





「ばっかやろーなのは、アンタのほうだろっ!!」


階段の上に向かって叫んでた。



「どんな馬鹿馬鹿しくみえたって、どんな叶いそうにない夢だって、それぞれ大切な宝物なんだよっ!?

 それを。そんな大事な夢を、一つだって、アンタなんかに、笑う権利も奪う権利もないんだからっ!!」


一気に叫び通して、肩で息をする。



再度静まり返った広間。




微かに聞こえ始めた笑い声が、少しずつ大きくなっていく。



「あはははははは……!!

 何真面目に話しちゃってんの? 大切な宝物? ふふっ。……馬鹿らしい。そんなものはね、目障りなのよっ!!」



魔女の声が聞こえる。



その声に。

その台詞に。



眩暈と吐気がしそうだ……





「間抜けなばーさんも消えたことだし。早くその階段昇って、ココまできたら?

 私に会いに来たんでしょ?」



また……


おばばを間抜けだなんて言わないで。


綺麗にしてもらいたいと願うコトのどこがおかしいの?


真っ暗で。埃と蜘蛛の巣だらけで。誰もいなくて。


明るくて綺麗な想い出を夢見て憧れて、何が悪いの?




アンタに言われなくても行ってやるわよ。



アンタに会って、一発ぶん殴ってやらなきゃ。

私の気がおさまんない。




ドーラと目で合図を送り合って、私たちは階段を一段。また一段。と昇っていく。




昇り切った先には、大きな茶色の扉がそびえ立っていた。





扉に手をかけ、力をこめると、それは難無く開かれていく。




この先に。


魔女がいる。





今は、もう。



恐怖より怒りが勝ってる。




躊躇うことなく、足を踏み入れ、目の前を睨み付けるように見る。



大きな広間の一番奥に。

ゆったりと腰をかけて、脚を組んでる女。



「来てやったわよ……?」



すっぽりとフードを被ってる魔女の顔はよくわからなかったけど。


かろうじて見えた口元はニヤリと笑ってた。



トコトンムカつく女……


「待ってたのよ。あなたに会えるのを。あなたに会って……残されたすべてのユメを消し去れる時を」



まったく。


次から次へとヒトの大事なモン消し去りやがって……


「ユメカ……?」


ドーラが心配そうに私を見つめる。


大丈夫だよ。


大丈夫。


自分にも言い聞かすように。

ココロの中でドーラに伝えた。



大丈夫。


私はユメを信じる。


そして。諦めたりしない。




そんな私の声が届いたらしいドーラは、ホッとしたように微笑んでくれた。



「フフッ。フフフッ」


噴き出したように笑い出す魔女を、さらに睨み付ける。



「ごめんなさい? あなたには私が奪わなくとも信じる夢なんて……もともとなかったわよねぇ?」


さらにニヤリと口角をあげる魔女の唇が見える。



ドクン。


ドクン。



脈が大きな音になって、耳に届く。




私の夢……?



なかった……?




そんなこと。


そんなこと。


ないよね……?




魔女の気持ち悪い台詞を否定したくて。


そんなことないって否定したくて。



必死で頭ん中を探し回った。




けど。




どれだけ探してみても。




私の夢は見付からなかった……




「探しても無駄よ。始めからないんだもの。

 忘れちゃったの?

 あなたもユメなんて嫌いだったじゃない。」



ニヤニヤと笑いながら話す魔女の撫でるような声が、気持ち悪くて。



吐き気がする。




何も言えないまま立ち尽くしてる私に、魔女は嬉しそうに話し続ける。



「夢の持てないあなたは、叶いもしない夢を持ってる人達のコトも嫌いだったでしょう? 現実に起こり得ない夢をみることも、そんな夢を楽しそうに語らうことも。嫌いだったでしょう?」



ユメ……


キライ ダッタ ?




記憶ガ 交錯シテク。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ