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“ユメ”

とりあえず登録記念に☆

「ユメを守って。お願いだよ」


どんよりとした薄暗い雲と鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた世界で。


目の前に浮かぶ真っ白な生き物が私に話しかけてくる。



垂れ目のゴマフアザラシ……のようにしか見えないんだけど。

でも宙に浮いてる。



「ねぇ。お願い。

 すべてのユメが消されちゃうんだ」


おかしな生き物は無反応な私にめげずに話しかけて続けてる。




ユメを守ってって?


なにそれ?




てゆーかぁ……



アンタ何者?



そもそも。



「ココはどこなのよ~っ!?」





思わず声に出てしまった私の問いに、アザラシもどきが垂れ目を丸くして私を見つめ返す。


今更何言ってんの? とでも言いたげな顔で。



「まさか。何もわかってないなんて……」


ソイツは独り言のように呟いてたんだけど、全部聞こえてるわよ。



何もわかってないですが。

何か?



だって、気付いたら知らない世界で、目の前にいたのが宙に浮かぶゴマフアザラシだなんて状況。

一介の中学生の私には、体験したコトも聞いたコトもないんだからぁ!




「ココは、キミの夢の中だよ」


真っ白なアザラシは、大きな溜め息を一つついた後、静かにそう言った。



ふぅん。夢の中。

夢の中かぁ。


通りでね。こんなおかしな状況自体も、そんな状況のわりに落ち着いてる私自身にも納得だわ。


……ってぇ~

「納得できるかぃっ!」



そう叫んだ私をアザラシは冷ややかな瞳で見つめ返した。


「キミがどう思おうと構わないけど。」


もう時間がないんだ。

アザラシはそう続けた。


魔女がすべてのユメを消し去ろうとしてる。

だから。

ココがどこだろうと構わない。

すべきことは魔女の元に向かい、彼女を止めるコト。



そんなアザラシの言葉を、私は何も言えずに聞いていた。


真剣な表情を浮かべるアザラシが嘘を言ってるようには思えない。



でも。

それが本当だとして。


「“すべてのユメ”って何? どうして私なの?」


まだわからないことだらけだよ……



アザラシは真面目に質問を返してきた私に満足した様子で、少し偉そうに解説を始めた。



「さっきも言ったけど、ココはキミの夢の中だから。

 魔女を止められるのはキミだけなんだよ」



たから?

たから……て、何をどうしろっていうのよ。



「“ユメ”は“ユメ”だよ。知らないのかい?」


ユメ……?


眠ってるときに見る夢?

未来への希望を詰め込んだ夢?

すぐに消えてしまう幻想みたいな儚い夢?



「そのすべてだよ」


声に出していないはずなのに、突然アザラシが返事をしてきた。



「へ?」


我ながら女の子らしくない間抜けな声が漏れる。



アザラシはまた不満そうに垂れ目を必死で吊り上げて、怒った顔をしてる。


「今君が思い浮かべたすべての夢が、消されそうなんだよ。

 それから。まだあるよね?」


そのすべての夢と。

それから……?


「まだわからないの?」


さらに不満そうなアザラシは、待ちきれないといった様子でさらに口を開いた。


「キミの名前は?」


その一言で、私はソイツの言いたかったコトがわかった。


私の名前は――



「ユメカ」


夢の華と書いて、ユメカ。



魔女が消し去ろうとしてるのは。


私自身でもあるってコトか……





鬱蒼とした森の中。

湿度の高いじっとりした空気が纏わり付いてきて。


背筋にじわりと嫌な汗が滲んだ。





背中の気持ち悪い空気を振り払うように、頭をブンブンと振り回してた私に対して。


不機嫌そうなアザラシは言葉を続ける。


「わかってきたみたいだね。

 ところで……キミがさっきから“アザラシ”と呼んでいるのは、もしかしてボクのことかなぁ?」


えっ……!


いや。一度も呼んでないよねっ? 声に出しては。



てか、さっきから……まさか。


「人のココロが、読めるの?」


恐る恐る尋ねた私に、ソイツはギロリと視線を流してきた。


「問題はそんなことじゃないんだよっ。大切なのはボクがキミのココロを読めるってコトじゃない。」


そして、斜めに傾けてた首をまっすぐに戻して


「大切なのはボクがアザラシなんかじゃないってコトと、ドーラって立派な名前があるってコトさ!」


と胸を張って続けた。



むしろ私にとっては名前なんかより存在自体が謎なんだけど。


そう思った瞬間、またもアザ……ううん、ドーラの鋭い視線が飛んで、私は急いで「ごめん!」と頭を下げた。



ココロが読めるなんて。

なんて厄介なんだろ……



私の夢だって言うなら、も少し私にとって都合のいい世界になってくれたらいいのに。




そんな私の想いを当たり前のように理解してるらしきドーラが俯く。


「すべてがキミの思い通りになる世界なら、こんなに困りはしないんだ」


そりゃごもっとも。


確かに今まで見た夢だって、自分の思い通りになってくれたことなんてない。


「だけど。忘れないで。

 ココではユメカだけが使えるパワーがあるはずだから。」


最初に見せてくれた真剣な表情。


「この世界で。キミだけは諦めないで。ユメの存在を信じていて」




未だ状況はよくわかってない。



でも。



こんな真剣な眼差しを向けられて、その言葉を拒絶するようなことは、私には出来なかった。



ドーラの言葉に深く頷いた私に、彼は初めて安堵を交えた優しい笑みを浮かべた。



せっかく可愛い垂れ目なんだから。

笑ってるほうが似合う。



そう思った瞬間。

真っ白なドーラの頬が赤くなったように見えたのは、たぶん気のせいじゃないと思う。



さて、と。


「まずはどうすればいいの?」


そう尋ねれば、ドーラは深い森の奥を指し示した。


「時間がないんだ。一刻も早く、魔女の元へ」


「わかった」


短い返事をすると同時に、私たちは森の奥へと足を踏み入れていった。



読んでくださった方々、ありがとうございます(*´艸`*)♪

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