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八刃列伝  作者: 鈴神楽
第一期
7/22

片翼の炎鳥と百爪の剣士

強羽と烈羽の再登場。そして、邪悪なる東洋の妖帝とその護衛の剣士との対決です(直接的な表現はありませんがエッチです)

 江戸時代初期の話しである。



 何時もの食堂で、少女にも見える少年、萌野モエノ強羽キョウウが食事をしていると、辻易者をやっている強羽の妹、烈羽の常連客の女性が駆け込んで来る。

「強羽! 烈羽が突然駆け出していったの! またトラブルに会ったんだよ!」

 強羽が軽い溜息を吐いて、立ち上がる。

「よくあることだよ。俺も行くとするか」

 そして、店を出る強羽であった。

 しかし、強羽と烈羽がこの日、再開する事は、無かった。



「烈羽ちゃん、見つからないのかい?」

 翌日の昼、食堂の女主人の言葉に、強羽が力なく頷く。

「もしかして、例の神隠しじゃないのかい?」

 強羽が首を傾げる。

「神隠し? 人が居なくなったら、俺の耳にも入ると思うが?」

 女主人が肩を竦める。

「必ず帰ってきてるんだよ。ただし、帰ってきた少女達は、皆、金海教キンカイキョウに入ってるけどね」

 強羽が眉を顰める。

「そんな下手人が明確な神隠し、お上が黙っているのか?」

 女主人が深い溜息を吐く。

「何の証拠が何も無いのよ。表面上は、被害が無い上、お布施を払うどころか、逆に着物や玩具、下手したら家族へのお土産まで貰えるらしいのよ」

 強羽が難しい顔をする。

「なんだ、その宗教は、食うに困った信者に食事を分け与える奴等も居るが、基本的には、信者からお金を巻き上げるのが、教祖様だろうが?」

 その時、ある可能性に思いつき、店を飛び出す。

「個人的に解決しようと思ったが、あまり時間が無い」



「それで、調査結果は?」

 強羽の言葉に、八刃の中でも調査能力に長けた、谷走タニバシリの分家の男が答える。

「神隠しを行っているのは、そこの神社に居る、金海教の教祖、東洋の妖帝と呼ばれる、南蛮渡来の陰陽術の使い手らしいです」

 強羽は、拳を握り締めた状態で、言う。

「それで、かどわかされた少女達は?」

 谷走の分家の男は、淡々と答える。

「汚されていました。中には、十にも満たない少女が居ましたが、全員です」

 強羽の右腕から炎が立ち上がる。

「鬼畜野郎が!」

「男だったら、俺が殺していた。あいつは、女だ」

 突然の声に、強羽が振り返ると、そこには、中肉中背だが、鍛え抜かれた肉体を持った男が立っていた。

「金海教の奴等だな!」

 強羽が睨みつけると、その男は、深い溜息と共に言う。

「残念だが、その通りだ。身内をあいつの毒牙にかけられる心中は、察知する。だが、諦めてくれ。正直、救いとも言えないが、男には、汚されては、居ない」

 強羽は、詰め寄り、一気に勝負に入る。

 強羽の本能が、並みの使い手では、無いと、察知したからだ。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ全てを爆炎に包め、爆炎翼バクエンヨク

 自分の意思を爆炎に変化させ、放つ、強羽自身、精度の低いこの技で、ダメージを与えられるとは、考えて居なかった。

 相手の反応を見て、作戦を組み立てる予定であった。

 しかし、男は、剣を構えた。

百流オル、九十四爪『玄亀甲ゲンキコウ』」

 全ての攻撃が、受け止められ、刀の柄が、強羽の腹を強襲する。

 大きく跳び、勢いを殺す強羽、即座に体勢を整えて、男を睨む。

「百流、三爪『白鳥薙・ハクチョウナギ・エイ』」

 男の姿が消え、強羽は、背中からの強烈な一撃で、意識が刈り取られた。



「大丈夫ですか?」

 谷走の分家の男の声に、強羽が目を覚ます。

「なんで、生きているんだ?」

 強羽は、自分の死を覚悟していた。

 少なくとも、戦闘中に意識を失うと言う事は、二度と目を覚まさない事を意味している。

「あの男、東洋の妖帝の護衛者、百爪ビャクソウの剣士でした。もう直ぐ、全ての準備が整うから、見逃すそうです。烈羽様も、従順になったら返すと、約束してくれました」

 強羽が立ち上がる。

「そんなの事をさせてたまるか!」

 神社に向かって行こうする強羽に、谷走の分家の男が言う。

「勝てないのに戦いに行くのですか? 八刃は、そんな戦いを認めていない筈です」

 強羽が不敵な笑みを浮かべて言う。

「相手が、八百刃様の御技、百流を極めた、百爪の剣士だとしても、所詮は、人間だ。俺達八刃が、人外だと言う事を、教えてやるさ」

 谷走の分家の男は、その言葉に頷く。

「了解しました。私は、次の任務がありますから、これで失礼します」

 去っていく谷走の分家の男を無視して、強羽は、進む。



「それで、見逃したの?」

 美幼女をはべらかす絶世の和風美女、東洋の妖帝の言葉に、百爪の剣士が答える。

「あの程度の使い手ならば、もう一度来ても、問題は、無い。もう直ぐ、例の結界を完成するのだろう?」

 東洋の妖帝は、その手に持つ杖を見せて言う。

「幼女の快楽で、金海波様の御力を貸与する金波杖キンハジョウの力で、この神社を私に害する物を近づけない、究極のハーレムにするのよ!」

「海外の言葉を使った所で、後宮だろうが」

 沈痛な表情になる百爪の剣士。

「……本当に最低な人ね」

 肩で息をしながら、強羽に良く似た少女、烈羽が睨む。

 東洋の妖帝が微笑みかける。

「流石は、人外八刃ね。大抵の人間だったら、数分で快楽に溺れさせる、淫堕陣の中で、それだけ正気を保っているのだから」

 烈羽は、大きく深呼吸をして答える。

「保って一時(二時間)が限界です。我慢していた分、一度堕ちたら、後は、貴女に逆らえなくなるでしょうね」

 驚いた顔をする東洋の妖帝。

「あれ、自分は、決して屈しないとか、体は、汚せても、心までは、汚せないとか、言わないの?」

 烈羽は、荒い息ながらも、淡々と答える。

「術にかかっている時点で、私の意志力が、貴女の術に劣っている証拠。そんな状況で屈しないなんて、負け犬の遠吠え。体が汚れても、心が汚れないなんて、奇麗事。肉体があっての魂。この二つは、決して切り離せない物です」

 東洋の妖帝が微笑む。

「よく理解してるわね。でも、だったらどうして一時待つの? 正当は、屈した振りをして、機会を窺う事でしょ?」

 烈羽は、強い眼差しで答える。

「強羽が助けてくる可能性を、信じたいからです」

 東洋の妖帝が本当に嬉しそうに言う。

「これよ、これ! 家族を信じて、必死に我慢する少女の顔、最高! こんな少女が、堕ちて行く姿は、どんなに私を楽しませてくれるのかしら? 貴方が見逃したのも、許せちゃう」

 百爪の剣士が憎々しげな目で、東洋の妖帝を見る。

「人道から離れる行為だと、思わないのか!」

 東洋の妖帝が、余裕の表情で、紙を見せつける。

「この証文がある限り、貴方は、私を護らなければいけない。きっちり働いてね」

 高笑いをあげる東洋の妖帝は、術で、堕落させた少女達との淫靡な交わりを再開する。

 その時、百爪の剣士が、入り口の方を向く。

「やはり、来たか」

 烈羽の方を向く。

「すまないが、これも約定なのだ」

 頭を下げる百爪の剣士に、烈羽が強い意志を籠めて答える。

「私は、強羽を信じます」

 百爪の剣士は、自傷の笑みを浮かべて言う。

「その言葉が達成される事を祈りたいな」

 百爪の剣士が、戦いに赴くのであった。



 神社の一室が炎に包まれていた。

「何のつもりだ? ここには、お前の妹も居るのだぞ?」

 やって来た百爪の剣士の言葉に、強羽が答える。

「安心しろ、この部屋しか燃やさない様にしてある。そして、この炎は、死角を無くす」

 百爪の剣士は、刀を構えて言う。

「なるほど、同じ手は、通じないと言う訳だな。だが、実力差は、埋まらないぞ!」

「百流、一爪『白狼突・ハクロウトツ・シュン』」

 消えたと思えるほどの高速の突きが、強羽に迫る。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ尽きぬ流となれ、流炎翼リュウエンヨク

 強羽が前方に炎を撃ち放つ。

 大きく横に離れた所に立つ百爪の剣士。

「相打ちの可能性もあったぞ」

 強羽は、不敵な笑みを浮かべて答える。

「実力差がある相手に、安全策をとっていたら、勝てない」

 百爪の剣士は、刀を鞘に納め、答える。

「なるほどな、楽には、勝てないな。しかし、俺にも意地がある」

 普通の歩調で近付く、百爪の剣士。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ集いて敵を貫け、弾炎翼ダンエンヨク

 強羽が連続して、炎の弾を放つが、百爪の剣士は、それを紙一重でかわし、至近距離まで近付いた。

「百流、十四爪『黒蛇打コクジャダ』」

 放たれた百爪の剣士の拳を、強羽も紙一重でかわしたと思った時、その腕が巻き込まれる。

「百流、二十二爪『紫鳥投シチョウトウ』」

 百爪の剣士が前転すると、その勢いに巻き込まれて、強羽が地面に叩き付けられる。

「百流、十七爪『茶熊踏チャユウトウ』」

 百爪の剣士の踏み込みで、強羽が上空に打ち上げられ、完全に無防備になる。

「百流、六爪『青鷹暫・セイヨウザン・レン』」

 百爪の剣士が放った連続暫撃は、強羽の全身を切り裂いた。

 床に血まみれで倒れる強羽。

「今逃げれば、命だけは、助かる。お前の妹も死ぬわけでは、無い。意地を張るな」

 百爪の剣士の言葉に、強羽は、立ち上がる。

「命があればそれで良いと妥協する為に、俺達は、人の道の外に居るわけじゃない!」

 骨が見えるほど切り裂かれて、上がらぬ両腕、それでも強羽の瞳には、戦う意思が存在していた。

 百爪の剣士の目に迷いが生じるが、直ぐに首を振り告げる。

「本気の戦士に情けは、無用だな。行くぞ」

 激しい暫撃と炎が、荒れ狂う。



「頑張るわね? 貴女が私の物になるのだったら、あの子を助けてあげるけど?」

 強羽と百爪の剣士の戦いを、術で観戦していた東洋の妖帝の言葉に、体の内側から侵食する感情と戦いながら烈羽が答える。

「……私は、強羽の勝利を信じています」

 苦笑する東洋の妖帝。

「麗しい兄妹愛って奴ね。でも、そんな意地で殺されていいの?」

「……私は、強羽の勝利を信じています」

 烈羽は、虚ろな瞳で同じ言葉を返す。

 笑みを浮かべる東洋の妖帝。

「もう直ぐ限界ね。安心して直ぐに、どんな結果になっても、私の事しか、考えられなくなるから」

「……私は、強羽の勝利を信じています」

 烈羽は、その言葉だけを繰返すのであった。



 勝負は、圧倒的であった。

 強羽の全身からは、血が滴り落ち、いたる所で白い骨が見える。

 常人ならば、とっくに死んでいる負傷を負いながら強羽は、立っていた。

「もしも、あんたが俺を殺すつもりだったら、勝つことは、出来なかった」

 百爪の剣士は、刀を振り上げる。

「それでも次の一撃で終わりだ」

 強羽は、全力を込めて腕を振り上げる。

『我が攻撃の意思に答え、爆炎にて全てを切り裂け、暫爆炎翼ザンバクエンヨク

「百流、九十三爪『朱鳥翼シュチョウヨク』」

 百爪の剣士の刀と強羽の炎の暫撃がぶつかり、部屋一つを吹き飛ばした。



「自爆かしら? まあ百爪の剣士があの程度の事で死ぬ筈もないとして、貴方のお兄さんは、大丈夫かしら?」

 東洋の妖帝の言葉に烈羽は、何も答えない。

「あら、もう限界みたいね。でも安心して、直ぐ極楽に連れていってあげる」

 邪悪に微笑む東洋の妖帝。

「そこまでだ!」

 入り口が開き、強羽が入って来た。

 眉を顰める東洋の妖帝。

「どういうこと? あの爆発で生きていたとしても、百爪の剣士から逃れられた筈は、無い」

 強羽が烈羽を確認した後、強い眼差しで答える。

「殺して来た」

 東洋の妖帝が立ち上がる。

「そんな馬鹿な事は、無い! あいつは、貴方程度にやられる男じゃないのだから!」

 強羽が頷く。

「実力では、劣っていたのは、認める。百爪の剣士が自分の意思で戦っていたら、負けていたのは、俺だ」



 少し戻って、爆発の瞬間。

 打ち勝っていたのは、百爪の剣士であった。

 その力は、強羽側に押し寄せていた。

 しかし、それが勝負を決めた。

 溜まりに溜まった気の力が、部屋に満ちた炎の温度を一気に上げたのだ。

 吹き飛ばされた部屋の残骸から立ち上がる強羽。

 そして倒れたままの百爪の剣士を見下ろす。

「どれだけ優れた技を持っていても、肉体は、常人と同じ。肉体の限界を超えた高温の中では、体が保たない。これが、人外と呼ばれる八刃との差だ」

 百爪の剣士は、動かない体で苦笑する。

「俺に正義が有ったら、あの一撃でお前は、死んでいた」

 強羽もあっさり頷く。

「俺は、所詮、誓約のみで戦っていた。俺は、負けて開放される事を望んでいたのだな」

 そのまま、二度と動かなくなる百爪の剣士。



「なるほどね。流石は、人外。だけど、もう駄目、この子は、私に逆らう気力さえ無いわ」

 強羽の詳しい解説を聞き、東洋の妖帝が烈羽を抱きしめると、烈羽が激しく悶える。

「死にかけの貴方一人で、私には、勝てない。終わりよ」

 そう話している間も、東洋の妖帝は、烈羽の体を弄る。

 烈羽は、必死で堪えていた。

「無駄よ。抗う事は、出来ない。貴女に出来るのは、ただ、堕ちていく事だけ」

 そして、その瞬間が来た。

 激しい炎が、東洋の妖帝の腕を燃やした。

「強羽、コントロールは、任せたわ!」

 烈羽は、自分の炎を最大限に放出する。

 強羽も自分に残った最後の炎で烈羽の炎を包み、コントロールし、最後の攻撃を放つ。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ激しき流となれ、激流炎翼ゲキリュウエンヨク

 その炎は、身勝手な感情で、少女達を毒牙にかけ続けた東洋の妖帝を、一瞬の内に焼き尽くした。

 それを確認すると同時に倒れる強羽。

「大丈夫?」

 烈羽が傍による。

「なんとかな。それより、視線で時間を稼げと言われたから時間を稼いでいたが、結局どうなったんだ?」

 強羽の質問に烈羽が顔を赤くする。

「萌野の炎は、強い感情。その、……あの感情も炎に変換出来るの。だから、最大限に高まり、相手の油断した時に、中から東洋の妖帝の体を護る結界を焼いたの」

「つまり、あの時、い……」

 何かを言おうとした強羽の頭が叩かれる。

「忘れなさい!」

 烈羽の殺意すら篭った言葉に対して、強羽の返事は、無かった。

 暫くして、強羽の意識が戻らなくなっているのに気付き、烈羽は、慌てて背負い、実家に連れ帰ることになるのであった。



「金海教は、教祖死亡し、信者だった少女達も、普通の生活に戻った。無事全て終ったな」

 強羽が、辻易者を会っている烈羽に言うが、烈羽は、真剣な表情で首を横に振る。

「東洋の妖帝が使っていた金波杖が見つかっていない。そして、神社の中から、転生の術に関する研究資料が発見されてる」

 頭をかく強羽。

「生まれ変わって、復讐にくると?」

 烈羽が頷く。

「今度は、勝てないかもしれない」

 真剣な表情の烈羽に強羽が胸を叩く。

「今より強くなって、あんな連中なんか楽勝になってやるよ」

「単純」

 烈羽も笑顔に戻るのであった。



 東洋の妖帝の復活、それは、強羽と烈羽が生きているうちには、起こる事は、無かった。

 しかし、金波杖は、何れ復活する東洋の妖帝を待ち続けるのであった。

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