チャイルド、個を捨てた少女
少女は、全ての欲を捨て、御子として邪悪な竜を封じていた
今ここに語られるは、三強の一人と数えられる事になる霧流の次期長の少年と邪悪な竜を封じ続ける少女との出会い。
「チャイルドは、全ての欲を捨てて、その生涯をこの世界を邪悪な竜から護る為に使う者です」
まだ、十三歳になったばかりの少女、チャイルドを囲む大人の一人が説明する。
「本当にこんな子供で大丈夫なのか?」
囲んだ大人の一人が疑問を投げつけるが、説明をした大人は、自信たっぷり頷き、チャイルドの髪を切る。
ざわめく大人達。
しかしチャイルドは、眉一つ動かさない。
「チャイルドには、個がありません。全ては、邪悪な竜を封じる、その為だけの存在です」
その説明に満足する大人達。
そして、チャイルドは、光も無い闇の部屋に押し込められる。
時空を司る力を持ったチャイルドにとって、視力など、あまり意味の無いものであった。
例え、真に暗闇でもチャイルドは、恐怖する事は無かっただろう。
それが彼女等、チャイルドが住む部屋の奥に封印された邪悪な竜を封じる者達であった。
今日も、チャイルドは、怒りも悲しみも喜びも覚えず、その力を使い、邪悪な竜の封印を強化していた。
次の瞬間、物凄い衝撃がチャイルドの張った結界にかかる。
「痛!」
空中から、一人の少年が現れる。
頭をさすりながら少年が怒鳴る。
「誰だ、こんな所で、こんな強固な結界を張ったのは!」
チャイルドは、感情を全く感じられない顔で答える。
「私です。貴方は異界から来ましたね?」
少年は、頷く。
「まーな、俺は、霧流六牙だ。異界を回って竜退治をしている。お前の名前は?」
それにたいしてチャイルドは答える。
「ありません。私は、チャイルドと呼ばれる存在。個人を示す名などありません」
頭を掻く六牙。
「そうは、言っても呼び方が無いと呼びづらいだろう」
「ただ、チャイルドとおよび下さい」
チャイルドの返事に釈然としない六牙だったが、手を差し出して言う。
「宜しくな、チャイルド」
その笑顔は、チャイルドが始めてみる人の笑顔であった。
「今日は、お菓子を持ってきたぞ」
あの遭遇以来、六牙はチャイルドの所に通っていた。
「食事は、決まっています」
「時間まで間があるだろう? 美味しいぞ!」
笑顔で言う六牙にチャイルドははっきり言う。
「食べ物を美味しいと思った事はありません。食事は、単なる栄養補給です」
頬を掻く六牙。
「そうか? でも、単なる栄養補給でも、楽しくやった方がいいだろう?」
自分には、理解できない考えにチャイルドは苛立ちを覚えながら答える。
「楽しいと思った事もありません!」
笑顔になる六牙を見てチャイルドは更に苛立つ。
「どうして、笑うのですか?」
六牙は面白い顔をしながら言う。
「前に、言っただろう自分には、感情が無いって? こうやって面白い顔しても平気だから、どうしようかと思ってたけど、お前は感情があるよ」
チャイルドは、怒鳴る。
「ですから、栄養補給を楽しいと感じないと言っています!」
六牙は、そんなチャイルドを指差して言う。
「いま怒っている。それが感情の一つ、怒りだよ」
その一言にチャイルドが驚く。
確かに自分が常と違う感情を持っていたからだ。
「怒れると言うことは、怒り終えた時に、平穏も理解できる。怒りを嫌悪出来れば、怒らない状況を望むようになる。そうやって感情を理解していけば良いんだよ」
そして六牙が帰った後、チャイルドは涙を流す。
「何で今更感情なんて思い出させるのですか? 個が無い私に感情は、不要なのに・・・・・・」
数日後、六牙は、またお菓子を持ってチャイルドに会いに来た。
「今日のお菓子は、凄く高価だぞ」
そうして差し出されたケーキを無視するチャイルド。
さすがに怒る六牙。
「無視するなんて卑怯だぞ、喋れよ!」
しかしチャイルドは、無視を続けた。
チャイルドは、その後も無視をずっと続けるのであった。
チャイルドが無視を始めて一ヶ月が過ぎた日、六牙が切れた。
「これ以上無視するなら、俺は強引にお前にエッチするぞ!」
六牙にとっては、必殺の言葉だったが、その意味すら解らないチャイルドは、無視を続けた。
「解った、やるぞ!」
強引に押し倒し、六牙はチャイルドの唇を奪う。
驚くチャイルドに欲望のまま、エッチする六牙。
そのエッチは、チャイルドにとって今までの常識をぶち壊すには十分な衝撃を与えた。
「こんな凄いものが有ったのですね」
頬を赤く染めて六牙の膝の上に頭を乗せるチャイルド。
「個なんて捨てても良いこと無いって証明だよ。俺達の未来は、こうやって個と個をぶつけて新しい個を生み出す事で生まれていくんだよ」
チャイルドは素直に頷き、そして悲しそうな顔をするチャイルド。
「でもそれだと邪悪な竜を封じられない」
その言葉に六牙は、頭を掻いて言う。
「他の世界に過剰に干渉するのはルール違反なんだが、俺は、お前が好きだ。始めてあった時からずっと一緒に未来を作りたかった。だから、全てを教えてやるよ」
六牙は、先祖から受け継がれた霧流最強の神器、竜牙刃を振り上げる。
『ドラゴンクラッシャー』
それは、純粋な力の塊、それが、物理的に邪悪な竜を封じていた筈の部屋の壁を粉砕する。
そして六牙は、竜牙刃の先を光らせて、その奥をチャイルドに見せるとチャイルドは言葉を無くす。
そんなチャイルドに六牙が答える。
「あそこにあるのは、強力な力を持った竜の遺体だ。長い間の封印の中、消耗して、残ったのは遺体に残留した力のみだ」
「そんなどうして、代々チャイルドはこの邪悪な竜を封じる為にその生涯を捧げてきたのですよ?」
困惑するチャイルドに六牙が言う。
「チャイルドの力は、強大だ、その力を封印に使用し続けさせることで、封じていたんだよ。そして、ここの管理をしてる奴は、周囲には、邪悪な竜を封じる大切なお役目と言って、権力を自分の物にしていった。それがこのシステムの正体だ」
チャイルドは、悲しい顔をするのを見て、六牙が言う。
「復讐するなら手伝うぞ?」
チャイルドは首を振って言う。
「この世界には、私の居場所はありません。貴方と一緒の未来を歩かせてください」
嬉しそうに頷く六牙。
「任せておけ、俺の所属している八刃の力があれば、戸籍の一つの二つ偽造するなんて朝飯前だ。俺だって好きな女一人養っていく甲斐性くらい持ってるぜ」
そして、二人で、空間を飛ぶ。
その途中六牙が言う。
「そうだ名前を決めないとな。なんて名前が良い?」
チャイルドが少し考えてから言う。
「八刃って所でお世話になるのですよね? それでしたら、頭の一文字を貰って八子が良いです」
複雑な顔をする六牙。
「八を使うのは、良いとして、子って言うのは女性だからって単純じゃないか?」
チャイルドは、首を横に振る。
「私は、自分がチャイルドだった事を忘れません。それは、いままでチャイルドだった人達を切り捨てる事です。だから自分の名前に、チャイルドを貴方の国の言葉で表した子を入れたいのです」
六牙が頷く。
「そういうことだったら仕方ないな。霧流八子か、うん言い名前だ」
そしてチャイルド、八子が微笑み言う。
「向うにいったら又、エッチして下さいね」
強く頷く六牙。
「任せておけ。一杯子供作るぞ」
こうして、八子は、霧流家に入る事になり、翌年には長男、一刃を産む。
前から書きたかった八子と六牙の出会いの話しです。
八子がエッチで欲深いのは、ストイックな幼少時期の反動です。
それにしても、六牙は、野獣ですね。