人の最強と白い風
明治時代、海外から流れて来た異邪と戦う白い風。そしてその前に立ちふさがる十三闘神との戦い
鎖国を止めたばかり明治時代の話しである。
三人の若者(?)が居た。
一人は、おっとりした感じの中肉中背の十六歳の若い男。
一人は、気の強そうな、長い髪を結い上げた、スタイルに恵まれていない童顔の十五歳の少女。
一人は、お預け食らった子犬のような、童顔の十四位の少女。
「ねー折角の厚焼き玉子が冷めるよー。食べようよ」
ほかほかな厚焼き玉子を目の前にし、懇願する十四位の少女。
「その前に、用件を仰ってください」
十四位の少女をじっと見つめながら言う十五歳の少女。
「まー食事くらい食べてからでも」
とりなそうとする十六歳の男。
「そうそう、あったかいうちが美味しいんだから」
直ぐに同意する十四位の少女。
「甘い!」
十六歳の男を睨み返した後、十五歳の少女は十四位の少女の方を向く。
「用件を先にお願いします」
その言葉に十四位の少女は、名残惜しげに厚焼き玉子を見た後話を始める。
「海外で悪魔と呼ばれる異邪がこの国に入ろうとしてるの。そいつの名はべールズ。ハッキリ言って、貴方達以外の八刃の人間では逆に殺されるレベルの相手だよ」
その言葉に残りの二人は唾を飲む。
「強いんですか?」
十六歳の男の言葉に、十四位の少女が少し困った表情をしてから答える。
「強い、それは、間違いないけどそれ以上に狡猾だよ。あらゆる状況で相手を倒せる白風の技が必要になる相手」
「その異邪を迎え撃つ為にこの横浜に来るように神託をお与え下さったのですね?」
十五歳の少女の言葉に頷き、哀願する様に言う十四位の少女。
「用件は終わったから食べていいよね」
十五歳の少女が微笑み。
「これはあたし達が処分しておきますので、早く戻ってお仕事をしてください」
固まる十四位の少女。
「何もそんなに急かさなくても」
十六歳の男がとりなそうとする。
十四位の少女も強く頷くが、十五歳の少女はハッキリ言う。
「駄目です。あたし達の家の守護者、白牙様からの神託にも、用件が終わったら直ぐにお帰り頂けとあります」
十四位の少女は口を膨らませて、
「白牙とあちきの言葉どっちに従うって言うの」
逆切れした。
それに対して十五歳の少女は、入り口を指差す。
そこには一匹の猫に似た白い存在が目を吊り上げていた。
『毎度毎度何やっている。帰るぞ!』
常人には聞こえ無い、テレパシーでそう言われた後、引っ張られて去っていく十四位の少女と見えた、八百刃は、
「あちきの厚焼き玉子!」
最後に心から悲しそうな絶叫を残し、この二人の前から消えていった。
「口伝では聞いていたけど本当に、あーゆー性格なのねー」
少しあきれた感じで呟く十五歳の少女、白風都。
「本当に偉いの偉そうにしていない所が良いと思うよ」
のほほんと言う、都の兄十六歳の男、勇。
「神様なんだから神々しさが欲しいわよ」
都がそう呟くが、勇が苦笑する。
「でも、戦ったら絶対勝てない感じは常に感じたよ」
少し考えてから都も頷く。
「そうだね、あーゆー態度じゃなかったら、間違いなく圧倒されて、まともに対応も出来ない位だよね」
勇は厚焼き玉子を綺麗に切り分けて言う。
「さーこれを食べたら、問題のべールズ探しだ」
頷く都。
「それでは、日本で一番強いのは八刃と名乗る一族の人間なんだな?」
金髪の男性が目の前に立つ、老紳士風の男に確認する。
「人間かどうかは正直判断つかないが、間違いありませんよ」
そして金髪の男性が笑みを浮かべる。
「構わんさ強ければな」
そして金髪の男の後ろには十三人の男が居た。
外見には何一つ共通点が無いこの男達だが、唯一つ共通点があった。
それは、みな凄まじい程の戦闘能力を有していた。
「それで何処から探す?」
都の言葉に勇は横浜港を指す。
「やはり海外から来た以上、港から探すのが手だろう」
その言葉に頷き、都が言う。
「まー人手の方は百母から、丁度良い物借りてきたから大丈夫だしね」
巾着の中から、小さな鳥のぬいぐるみを取り出す。
『真の主に成り代わり、八刃の盟約の元、汝等に命ずる。邪悪なりしものを探せ、魔追鳥』
ぬいぐるみは本物の鳥の様に空に飛び立ち、散っていく。
「通常、一体しか使えない、魔追鳥を同時に六体も使うとは、鍛錬は怠っていないみたいだな」
勇の言葉に胸を張る都。
「当然だよ」
その時、一人の金髪で長身の男が勇達の前に立つ。
そしてその影に隠れていた小柄の男が二人に言う。
「お前等、八刃の人間の居所を知っているか? 知っていたら金を払うから案内しろ」
虎の威を借る狐を体現した男の言葉に、都は呆れた顔をするが、勇は呼吸を整え言う。
「案内する必要はない。俺が、八刃の一つ、白風の勇だ」
その言葉を訳されると、長身の男は拳を握り締める。
「キルユー」
それだけ言うと、一気に間合いを詰めてくる長身の男。
常人をはるかに超えたスピードで接近し、決まれば熊ですら殺せそうなアッパーを出す。
しかし、勇むにはかすりもしない。
体を回転させて、拳を避けると同時に遠心力で加速した蹴りが長身の男の顎に決まる。
それだけで、その男は崩れ、暫く起き上がれなくなった。
腰を抜かす狐男(仮名)に都が近づき言う。
「さて何で八刃を狙うのか教えてもらえる」
激しく頷く狐男(仮名)
「そこに落ちてた」
そう言って、元のぬいぐるみに戻った魔追鳥を勇に見せる都。
勇は目の前にある、豪華客船を見る。
「この船のオーナーが、強い奴を集めていて、本当に強いのなら八刃の人間も取り込もうとしている。それで間違いないよな?」
勇の言葉に都が頷く。
「狐男は、その捜索の為に雇われたみたい。んで、兄さんに一発でやられた奴が、選漏れした奴らしいね」
「詰まり、最低でもあいつより強い奴がいる訳だね」
勇の言葉を聞きながら都が今回の敵の印象を元に答える。
「八百刃様のご判断に間違いは無いみたいだね。常人相手じゃ他の家の人間じゃ苦戦するかもね」
苦笑する勇。
「確かに、他の家の人間には人を殺さずに無力化する方法なんて少ないから」
都は周りを囲む気配を感じながら続ける。
「あたし達、白風は全ての者と戦えるから、そー言った意味じゃ、対人戦ではあたし達が有利って事ね」
一斉に襲い掛かってくる、筋肉を無駄に膨張させている男達の一撃を避けると、両手で大きな円を描く。
『我が意思に答え、白き風よ、雷を産め、白雷』
都が描いた円から電撃が発生して、男達を一瞬のうちに無力化させる。
次の瞬間、大きなブーメランが都に襲い掛かる。
術を使った後、隙をついた見事な攻撃だが、勇はそのブーメランを蹴り返す。
蹴り返されたブーメランを受け止める、仮面の男。
そして、勇達の居る横に飛び降りるレイピアを持った金髪の美男子。
何か英語を喋っているが、流石の都達でもこの時代では英語は解らない。
「自分は十三闘神の一人で正々堂々勝負をしたいと言っています」
都に連れてこられた狐男(仮名って面倒だから狐男で決定)が通訳する。
勇はその男の前に立ち頷く。
「狐男、あの仮面の奴がわかる言葉に言い換えなさいよ!」
そう言ってから、仮面の男を指差す都。
「よくも不意打ちしてくれたねー。卑怯と言うつもりは無いけど、借りはきっちり返させて貰うよ!」
狐男の通訳を通し、仮面の男がブーメランを再度投げる。
都はそのブーメランを避けるが、次の瞬間仮面男の踵が都の肩を捕らえる。
『終わりだな』
都に解らない言葉で呟く仮面の男だったが、次の瞬間、踵に違和感を覚える。
「あんなフェイントが通用する白風じゃないよ」
都はそう言って手刀を作る。
『白い風よ、我が手を包み、全てを切り裂け、白刃』
都の手刀は容易く、仮面の男の筋肉を貫き、行動不能の大怪我を与えた。
『馬鹿な、我が踵を食らって平然としてるだと?』
仮面の男の言葉は狐男によって訳され、都に伝わる。
「来るのが解っていれば、体を鋼鉄の様に硬化させとくだけで良いだけだよ」
狐男が訳すと、仮面の男の仮面が丁度外れ、驚愕の表情が見せた。
『そんな人間居るわけは無い』
そんな言葉を無視して、都は、豪華客船に乗り込む。
その後ろでは、尋常では無いスピードで突きを続ける金髪の美男子に勇が後退をさせられていた。
『所詮こんな島国で最強を誇った所でこの程度だな』
そして、金髪の美男子のレイピアが勇の左腕に刺さる。
『これが限界だな』
余裕の笑みのまま、レイピアを引き抜こうとするが、抜けずに焦りはじめる金髪の美男子。
勇の無言の拳が金髪の美男子の顔を変形させて吹っ飛ばす。
「流石に、強さを誇るだけはある。しかし、そんな細い刀で白風は殺せない」
そして、都とは別ルートを通り、真の敵、ベールズに向かって進んでいく。
豪華客船の最深部にその男と、老紳士が居た。
「見事の腕前だ、十三闘神を打ち破り、私の前に現れるとは」
拍手をする強い存在感を持つ男に、出入り口の側で勇と合流した都が答える。
「大したこと無いよ、異邪に比べればね」
その男は手元の金塊を見せて言う。
「私のもとに来ないか? そうすれば贅沢が出来るぞ」
その言葉に都が口ごもるが、勇はハッキリと答える。
「私たちの力は、異邪と戦う為にある。そこに居るベールズと戦う為に」
その言葉に老紳士はその姿を異形のそれに変質させた。
『上手く人間とぶつけて、消耗させようと思ったが、所詮ただの屑。お前達の相手には成らなかったな』
そして、ベールズはその翼を広げて、二人に襲い掛かる。
都が両手を前に差し出す。
『大いなる白き風よ全ての邪悪なる存在を弾け、白壁』
ベールズは突風とぶつ当り、空間を歪ませる。
『この程度の防御魔法が通用すると思うな!』
ベールズは突風の防壁を打ち破るが、完全に動きが止まったその真下に勇が居た。
『白き風よ全てを打ち砕く力となれ、白撃』
勇の拳がベールズの胸を貫く。
『まだだ!』
ベールズはその爪で勇を切り刻もうと腕を振り上げる。
空中に八方を描き、都はその中心を拳で打ち抜く。
『白空拳』
異邪を滅ぼす力を増幅したその空気の固まりは、振り上げたベールズの腕を打ち砕く。
「とどめ!」
ベールズを床に叩きつけ、飛び上がる勇。
ベールズは咄嗟に飛びのこうとするがそれより先に、都がベールズの周りに印を刻み終えていた。
『白地鎖』
床に縛り付けられるベールズ。
そして勇は両手を広げる。
『大いなる白き風よ全てを燃やす炎を産め、白炎撃波』
両手から凄まじい炎があがりベールズの振り下ろす、ベールズとぶつかる直前ぶつかって更に激しく燃え上がりベールズを撃ち滅ぼす。
そして勇は振り返り笑顔で言う。
「帰るよ都」
「うん」
白風兄妹が帰っていった後、一人取り残された男が震えていた。
恐怖の震えではない。それは歓喜の震えだった。
「これが力と言う物か……」
そして立ち上がり言う。
「私は手に入れるあれを、白風を越す力を」
この日より、彼が運営した戦闘ショーは、貴族の道楽、殺し合いを見せるだけのバトルから、人知を超えた力を得る為のバトルに変っていった。