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八刃列伝  作者: 鈴神楽
始祖系
21/22

獣達と共に生きる者

百母の始祖の話

 軽装の男が山道を駆けていた。

 彼の名は、谷走。

 その背後から、多くの人々が追いすがる。

 殺気が篭った矢が飛ぶ中、谷走は、反撃をせずに逃げ続けていた。

 しかし、谷走の行く先が崖になる。

「追い詰めたぞ!」

 人々が農具を振り上げ迫る中、谷走は、覚悟を決めて崖から飛び降りる。

 人々が驚き、崖から下を除くと、谷を流れる川に何かが落ちるのを見えた。

「川だ! 川に落ちたぞ!」

 道を戻って川に向かう人々。

 そんな中、影が動き、谷走が現れる。

「どうにか、やり過ごしたか」

 安堵の息を吐くが、大量の出血に、倒れてしまう。



「ここは?」

 次に谷走が目覚めた時、そこは、小さな小屋の中だった。

「おじさん、もう良いの?」

 粗末な布を縛っただけの服を着た十歳くらいの少女が現れる。

「君が助けてくれたのかい?」

 少女が頷く。

「そうだよ。でも、こんな所に村の人が来るなんて珍しいね」

 苦笑する谷走。

「残念だが、村人では、無い。逆に村人から追われている」

 それを聞いて少女が首を傾げる。

「どういうこと? おじさん、何か悪いことをしたの?」

 谷走があっさり頷く。

「そうだな、村の神様に喧嘩を売った」

 それを聞いて少女だったが、眉をひそめる。

「それって悪いことなの? 喧嘩なんて誰でもする事だよ。昨日だって、熊の五郎と四郎が喧嘩してたもん」

 頬をかく谷走。

「そういうのとは、ちょっと違うのだ。何にしてもありがとう。お礼は、出来ないがこれで失礼する」

 立ち上がり去ろうとする谷走の裾を掴み少女が怒る。

「それは、駄目。助けられたら恩を返す。それは、当然の事!」

 困った顔をする谷走。

「正直、生産的な事は、苦手なんだが……」

「恩を返す!」

 強固に主張されて、引き下がる立ち去れない谷走であった。



 谷走が何故襲われて居たのか、それを語るには、話を前日に戻す必要がある。



 異邪の発生を聞き、やってき谷走だったが、そこにあったのは、平和そうな村であった。

「誤報か、こういう事もあるか」

 苦笑しながらも、谷走は、安堵していた。

 戦いが無い事でなく、不幸な人々が居ないと言う事実が彼には、うれしかった。

「旅の人、こんな何にもない村になんの用かね?」

 村の老人に谷走が笑顔で答える。

「いえ、ちょっと間違った噂を聞いた物で、でも勘違いみたいです。こんな平和そうな村は、そうありません」

 老人が頷く。

「そうじゃろ。この村は、百面様が護って下さっているのだから」

 それを聞いて、谷走が眉を顰める。

「百面様?」

 老人が自慢げに告げる。

「百面様は、百の姿を持ち、その力は、万能。どんな災害からも村を護ってくださるのじゃ」

 頬をかく谷走。

「その百面様には、余所者でも会えるのでしょうか?」

 老人が鷹揚に頷く。

「勿論じゃ。来るが良い」

 そして谷走が案内されたのは、一つの祠だった。

 その中央には、一人の美少女が居た。

「百面様、この旅の者が、百面様にお会いしたいと言われたので案内して来ました」

『それは、ご苦労様。さあ、我が百面なり、こちらに来るが良い』

 美少女が女でも魅力しそうな笑みを谷走に向けた。

 しかし、谷走は、咄嗟に飛びのく。

 そして谷走の足元には、謎の粘液が広がっていた。

「何のつもりだ!」

 怒鳴る谷走に百面が高笑いをあげる。

『面白い。偶には、狩りを楽しもう』

 粘液が人の姿をとり、村に駆け出していく。

 油断無く構える谷走に百面が語る。

『我は、それほど強い力を持っていない。ただ、一体でも我の分身が残っていたら、それから復活が可能だ。そして、わが分身は、我が食した村人と成り代わり村で生活しておるわ』

 谷走の目に怒りの炎が燃える。

「貴様! 村人を騙し、隠れ蓑にしたのか!」

 百面は、あっさり肯定する。

『その通り。大きな騒動を起こさなければ討伐も来ない。これが我の処世術って奴じゃ。まあ、戯れに山賊を一つ食した時に一匹逃がした所為で貴様みたいのを呼び込んだみたいじゃがの。貴様を食らい、貴様に成り代わって貴様の仲間を騙せばそれで大丈夫じゃ』

「簡単にやられると思うな!」

 影が百面を切り裂く。

『なるほど、強いな。じゃが、それだけじゃな』

 崩れいく百面。

 その姿をやってきた村人達が見る。

「貴様! よくも百面様を!」

「殺せ! 殺して、百面様の復活の生贄にしろ!」

 次々に襲い掛かってくる村人に、谷走は、逃走を選ぶしか無かった。



 少女の代わりに薪を割りながら谷走が呟く。

「何とかして、百面だけを選別しなければな」

「おじさん、薪割れた!」

 裸の少女がやってくる。

 顔を押さえながら谷走が言う。

「服は、どうした?」

 少女は、膨らむ兆しすらない胸を張って言う。

「これからお風呂入るんだから、裸で当然だよ」

 頭をかきながら谷走が言う。

「解った。直ぐに終わらせるから少しだけ待っていろ」

 そして、風呂を沸かし、薪をくべながら谷走がたずねる。

「お前は、一人で暮らしてるのか?」

「ううん、森には、狼の太郎や、狐の次郎も居るから一人じゃないよ」

 少女の答えに、少し考えてから谷走が問う。

「お父さんとお母さんは?」

 少女は、あっさり答える。

「居ないよ。去年までは、おじいちゃんが居たけど、狼の十郎達に食べられちゃった」

 沈黙する谷走に首を傾げる少女。

「どうしたの?」

「その狼を恨んでないのか?」

 沈痛な表情で言う谷走に少女が疑問をぶつける。

「どうして? あたしだって、十郎達家族を食べたことあるよ?」

 純粋な言葉に谷走が驚く。

「そういう問題なのか?」

 少女が頷く。

「悲しくないわけじゃないけど、おじいちゃんは、十郎達の肉となった。何時かは、その肉をあたしが食べるかもしれない。そうやって巡って行くっておじいちゃんも言っていたよ」

 食物連鎖を受け入れた少女の言葉に谷走が感嘆する。

「それを認められれば、人も苦しまなくても済むな」

 しかし、谷走は、同時にそれが駄目だとも理解していた。

「私には、無理そうだ。同じ人間が異邪の被害にあってると思うと止まらない」

 それを聞いて少女が驚く。

「おじさんも異邪と戦っているの?」

「おじさんも?」

 谷走が聞き返すと少女が言う。

「おじいちゃんは、言っていたよ、異邪は、輪から外れた存在、決して認めては、いけないって。何時かは、村から異邪を追い払うって」

「気付いていた人間も居たのか……」

 その思いが達成できなかった事に谷走が哀愁を覚えながら呟く。

「それは、私がやり遂げる」

 そんな時、複数の気配が表れた。

『追い詰めたわよ』

 百面の声に振り返ると、村人達が少女の小屋を囲んでいた。

 谷走が悔しそうに言う。

「少女は、関係ない! 用があるのは、私だけだろう!」

 それに対して村人の一人が言う。

「この娘は、前々から百面様の言うことに従わず、こんな山奥で暮らしている。異端者は、村には、要らない!」

 排他的な思考、それは、小さな村を結束と言う言葉で守る為に必要なことなのかも知れないが、異端者は、徹底的に排除される。

「百面様への生贄にしろ!」

「そうだ! その生贄で百面様が復活させろ!」

 次々とあがる声に谷走が怒鳴る。

「お前ら、同じ人間を犠牲にして、心が痛まないのか!」

 老人が、強い悔恨と共に告げる。

「村人以外の人間が信用できない。山賊に役人、物を売る商人でさえ、我々を獲物としか思っていない。力が無い我々は、結束するしかないのだ!」

 谷走が奥歯を噛む。

 同じ人間を食い物にする様な人間が多い現実が、この村を百面なんて異邪の支配を受け入れさせる素養していた事実が辛かった。

「それでも、少女を、無垢な者を犠牲にする事は、私が認めない!」

 炎が生み出す影が壁を切り裂き、少女をお風呂場から強制排出する。

「おじさん!」

 谷走は、少女を抱えると、木々に飛び移っていく。

「追え!」

 追いすがる村人達。

「おじさん、あの人たち、あたしをどうするつもりなの?」

「異邪の生贄にするつもりなんだろう」

 苦々しい口調の谷走。

「だが、安心しろ、俺が安全な所まで連れて行く」

「降ろして! あたしは、この山に生きているの。この山の輪の一つなの。それから外れる事は、出来ないよ」

 固い決意を持って語る少女の言葉に谷走が戸惑う。

「このままでは、村人達に生贄にされる事になるのだぞ?」

「あたしは、戦うよ」

 少女の言葉に谷走が足を止める。

「せめて一緒に戦わせてくれ」

「良いよ!」

 元気に答える少女。

 そして、二人が地面に降りると村人が囲う。

「出来れば被害を出したくなかったが、この少女を生贄にすると言うのなら、抵抗させてもらう」

 谷走の言葉に若い男が言う。

「逃げ回っていた癖に、この人数に勝てると思ったのか!」

 鍬を振り上げてくる中、谷走の影が伸びて男の足を切り裂いた。

 倒れる若い男に村人達が戸惑う。

「覚悟を決めて来い!」

 谷走の叫びに村人達が戸惑う中、百面の声が響く。

『安心しろ、その男の力も限界がある』

「しかし、俺らも死にたくない……」

 村人の一部が躊躇すると百面が告げる。

『ならば、元に村に戻るか? 山賊に恐れ、役人の無理難題に泣く、そんな村に戻りたいのか?』

「嫌だ! もう、あんな思いをしたくない!」

 襲い掛かってくる村人達に舌打ちをしながら谷走が対応する。

「せめて、異邪が変化したやつらだけでも、はっきりすれば……」

 すると少女が言う。

「異邪が解れば良いの? 動物達だったら解るよ」

「どういうことだ?」

 谷走が問うと少女が答える。

「人と違うみたいで、警戒するから。あそこの人なんてそうだよ!」

 少女が後方に居た女を指差す。

 顔を引きつらせる女に谷走の影が襲い掛かる。

『ギャー!』

 崩れ落ちる女に村人達が戸惑う。

「どういうことだ?」

 谷走が言う。

「お前らは、騙されていたのだ。村人の何名かは、百面の者に食われて、入れ替わられているぞ」

 ざわめく村人達。

「そんな、嘘だろ?」

「本当なのか?」

「嘘に決まってるだろ!」

 困惑する中、谷走が言う。

「他に解る奴は、いるか?」

 少女が悩みながら言う。

「覚えてないけど、この森に住む動物達だったら、直ぐに解るよ」

 谷走が周囲を見ると、村人達の数人に警戒する動物達が居る事に気付く。

「所詮は、異界の存在、山の連鎖の輪に居る動物は、騙せないって事だな!」

 次々と放たれる影が百面の分身を次々と切り裂く。

『畜生に足を引っ張られるとは!』

 百面の者は、その力で動物達を虐殺していく。

「皆!」

 少女が叫ぶ中、その惨劇は、広がっていく。

『この村は、諦めるしかないな。今回は、お前の勝ちだ』

 そのまま、百面の者は、村人に紛れながら逃亡を図ろうとする。

「止めて! こんなの違う! 無駄に命をとらないで!」

 少女の悲痛な叫びは、届かない。

「逃げられてしまう!」

 谷走が悔しそうにした時、光が舞い降りた。

『無限増殖する魔道生物。通称、百面。残念だけど、ここまでだよ』

 少女の外見をしているが、圧倒的な存在感を放つ者、八百刃が現臨した。

『馬鹿な、神々に気付かれるような大きな力は、使っていないぞ!』

 驚愕する百面に対して八百刃は、谷走を指差して言う。

『この子には、あちきの上位使徒が力を貸しているからね、それを通じて前々から流出禁止対象だったあなたの存在を知ったのよ。百姿獣ヒャクシジュウ、回収』

 命令に従い、スライム形態していた上位八百刃獣、百姿獣が百面を次々と取り込んでいく。

 八百刃に畏れる村人達を見て谷走が眉を寄せる。

「彼らは、これからどうするのだろうか?」

 八百刃は、告げる。

『どうもこうもないよ。異邪の力を借り続けるなんて事は、出来ない。早いか遅いかの違いだった。村を滅ぼすのも、栄えさせるのも彼ら自身が決める事』

 動物達の死骸を抱きしめて泣く少女。

「酷いよ! こんなの酷いよ!」

 谷走が辛そうに見る中、八百刃が声をかける。

『彼らを再び、輪に戻す方法が一つだけあるよ』

 それを聞いて少女が言う。

「本当!」

 八百刃が百姿獣を呼び戻して言う。

『この子の力を貸してあげる。その力で、貴女の一部にすれば、貴女と共に輪の中に入る事が出来る』

 それを聞いて驚く谷走。

「八百刃様、この娘にそんな重みを背負わせる事は、無い筈です!」

 八百刃は、切り捨てた。

『年齢なんて関係ない。本人の意思しだいよ』

 少女が八百刃を見て言う。

「背負います! 皆をあたしの一部にして下さい!」

『他人の命を背負うって事は、簡単な事じゃない。きっと、後悔することになる。それでも良いのね?』

 八百刃が確認すると少女が固い決意を籠めて答える。

「はい。あたしは、皆と一緒に輪に生きます!」

 この後、少女は、百姿獣の力を借り、死んだ筈の動物達を復活させて使役した。

 自分の死と共に新たな輪に加われるように。



「この山で生きるのだな?」

 谷走の問いに少女が頷く。

「うん。ここで、子供を産んで、その子がまた子供を産む。あたしは、輪の中で永遠にいき続ける」

「そういう生き方もあるのだな。お互いに名乗って無かったな。私は、谷走だ」

 少女が答える。

「あたしは、百母モモモだよ」

 こうして、二人は、一度は、道を別れる。

 しかし、異邪との戦いは、二人の子孫を再び出会わす事になるのであった。

 それは、また違う機会に話そう。

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