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八刃列伝  作者: 鈴神楽
第一期
2/22

刀を背に戦う少女

大正時代、戦いを嫌う少女。一人の剣士と出会いが運命の歯車を回す

 これは大正時代の話しである。



「あたしは神谷の家には帰りません」

 銀座に新しく出来た洋風茶屋ハイカラの裏で少女が言った。

「十朝解っているだろう、我々は戦わないといけない」

 そう言う男に少女、神谷十朝が睨み返す。

「ふざけないで、何で神谷に生まれただけで戦わないといけないの! あたしはあたしの生きたい様に生きる!」

 そういって十朝はお店の中に入っていく。

 そして男は大きく溜息を吐く。

「何故なんだ、何故神谷歴代最大ともいえる力を持つ彼女が戦いを拒む」



「もーやってらんない、何でこんなアルバイト先までくるかなー」

 ぷりぷり怒りながら仕事に戻る十朝。

「十朝ちゃん、三番席のお客さんにこのアイスクリーム持って行ってくれるかな」

 ハイカラの店長が戻って来たばかり十朝に言う。

「解りました店長」

 そう言って、ハイカラ名物のアイスクリームを持って客席に向う十朝。

「お待たせしました」

 笑顔でそう言う十朝。

「待ったよー。アイスクリームって食べるの初めて」

 嬉しそうに答える十四歳位の少女の顔を見て、十朝が固まる。

 そんな十朝を気にせず少女はアイスクリームを食べる。

「冷たくてって甘くて美味しい。これに卵料理があればあちきは他に何も要らない」

 幸せ絶頂の少女のテーブルを十朝が力いっぱい叩く。

「こんな所で何しているんですか八百刃様」

 眉を顰めてその少女、新型の擬似肉体を使っている八百刃が言う。

「十朝ちゃん。ウェイトレスはお客様には笑顔で対応しないといけないんだよ」

「神様に何が解るんですか!」

 十朝が怒鳴るが、八百刃は余裕な態度で指を横に振って言う。

「あちきも神様候補だった時代は、もの食べないといけない時期があって、その時にはウェイトレスをよくやったものよ」

 それを聞いて大きく溜息を吐く。

「そのウェイトレスの経験がある神様がここに何しにきたんですか?」

 引き攣らせて十朝が言う。

「それはもう十朝ちゃんが家出してアルバイトした先のお店にあのアイスクリームがあるって言うから、十朝ちゃんを説得するって誤魔化して食べに来たの」

 ストレートに暴露する八百刃。

「えーと説得来たんですか?」

 その言葉に八百刃は楽しそうにアイスクリームを食べながら言う。

「うんうん。取り合えず、もう一個アイスクリーム食べた後に、説得みたいな事するつもり、あー説得されなくても良いよ次来る言い訳になるから」

 十朝は大きく溜息を吐く。

 八刃の家の守護神、八百刃獣という強力な聖獣を使徒とする最強の戦神、八百刃。

 多数の世界の戦いを管理する高位の神の筈である。

「お代わりをお持ちしました」

 新しいアイスクリームをテーブルの上に置く十朝。

「ありがとう」

 嬉しそうにアイスクリームを食べながら八百刃が言う。

「一応言っておくけど、貴方達の力の源はあちきだって事解ってる?」

 十朝は頷く。

「重々知ってます。ですからあたしは貴女を恨んでます。何であたしにこんな強い力を与えたんですか?」

 そう十朝が真面目に問いかけている時、八百刃はアイスクリームのカップの底を舐めて居た。

「真面目に答えて下さい」

 カップを弾く。

「あーまだ舐め終わってないのに」

 涙目になる八百刃。

 それを見て、店長が出て来る。

「十朝ちゃん知り合いなのは聞いてるけど、こんな小さい子を泣かしちゃ駄目だよ」

 事情が説明出来ない十朝はきっと睨むが、八百刃は涙目で床に落ちたカップを眺めるだけだった。

 溜息を吐いて、十朝が新しいアイスクリームを持ってくる。

「話の続きお願いします」

 八百刃は嬉しそうに食べながら言う。

「大きい力だからだよ。普通の力だったら万が一、暴走した時に他の人が止めてくれる。強い力は使われない方が良い。貴女が本当に必要と思うその時まで使われない方が良いんだよ。はっきり言って使われないならそれでもOKだと思ってるよ。何だったらあちきの口から家の人に言ってあげようか?」

 そんな明確に答えに十朝が驚いた顔になる。

「どうしたの明確な答えが聞きたかったんじゃないの?」

「なんか使命や運命なんて言葉で言われると思っていた」

 十朝が力ない言葉を呟く。

「戦いは自分の意思でする物だよ」

 八百刃はアイスクリームを食べ終える。

 その時、一匹の白い猫が入って来てテレパシーで言う。

『八百刃、何遊んでるんだ?』

 その言葉に八百刃はそっぽを向いて言う。

「困ってる信徒に戦いと言うのを説いていたんだよ」

 その白い猫、白牙ビャクガはアイスクリームのカップを指して言う。

『これは何だ?』

 冷や汗を流す八百刃。

「それは働いている所に来てるんだから注文しないと悪いかと思って」

『とにかくもう終ったな、帰るぞ色々仕事が溜まってるんだ』

 白牙の言葉に八百刃がテーブルにしがみつき言う。

「もう一つ食べてから行く!」

 その後、猫と喧嘩する可愛そうな少女の話がハイカラの噂となったとだけ言っておこう。



「戦いは自分の意思でするものか……」

 十朝は八百刃の言葉を思い出す。

 小さい頃から戦うことを強制されてきた。

 十六歳の時、父との決闘に勝って自由を手に入れて、町にでた。

 そこには様々な楽しいことがあった。

 自分が戦闘訓練に明け暮れていたいた間も他の人間はそんな生活を楽しんでると思うと凄く不公平に思えた。

 しかし、いざ自分がその生活をしていると違和感があった。

 大きい力は、異邪の存在を常に知らせてくる。

 そんなもの知らなければ普通に暮らせる、でもそれが暴れるのが手に取るように解る今は普通の暮らしを続ける自分に強い違和感があった。

 それでも強制されている時は大丈夫だった。

 それが、自分以外の誰かが戦っている証明なのだから。

 しかし戦わなくても良いと言われた。

 大きい力もってるから無闇に戦うなとすら言われた気がした。

 自分の力がこの世界では余計な物と言われている気もした。

 だからそれを無視しろと。

「望んでいた事、肯定して欲しかった事。やっぱり八百刃様は神様だ。あたしの気持ちを全て知って、言ってくれたんだ」

 十朝はそれでもウェイトレスの仕事を続けた。

 今はそれしか無かったからだ。

 仕事している最中に何度か八百刃がサボり来ようとしてたみたいだが、アイスクリームを食べる前に白牙に連れ戻されていた。

 そんなある日、一人の青年が声を掛けてきた。

「十朝さん今度、活動写真見に行って下さいませんか!」

 刀を腰に差したその青年は無骨だが、実直そうだった。

 十朝はその青年の強さを確認しようとした自分に苦笑した後、微笑んで言う。

「喜んで」



 青年の名は一文字イチモンジ剣一ケンイチ京都で有名な剣術の流派の人間らしい。

 東京には、こっちの道場の出稽古に来ていたそうだ。

 そして二人はいつの間にかに恋人同士になっていた。

 二人の数回目のデートの帰り道。

「今日も楽しかった」

 十朝の言葉に剣一が頭をかきながら

「楽しんでくれているんだったら嬉しいよ」

 そこに一人の鋭い目つき男がやってくる。

「一文字の、今日は約束の日だと言う事を忘れたのか」

 その言葉に剣一はその男を睨み言う。

「解ってる直ぐ行く」

 その言葉に十朝がなにか嫌な予感を覚えた。

「剣一さん、なんの約束をしているの?」

 その言葉に剣一は困った顔をした後、無理な作り笑いを作り答える。

「たいした事じゃないんですよ。野犬の退治を頼まれてるだけです」

 その言葉に十朝は違和感を、嘘を嗅ぎ取った。

「それだったらあたしもつれてって」

 慌てる剣一。

「それはいけません、危険です」

「剣一さんが守ってくれるでしょ?」

 そういわれたら何も言えない剣一であった。

 そして十朝達は、夜の神社に向う事になった。



「こんな所に野犬が出るんですか?」

 十朝の言葉に乾いた笑いを上げて剣一が言う。

「そうですね無礼な野犬です」

 十朝には解っていたここに居るのが野犬なんて代物じゃないことを。

「現れるぞ!」

 男の言葉にそれが具現した。

『我は神、人犬神ジンケンシンなり、汝等神に捧げられる貢物だな』

 それは人の体型を持った犬だった。

「黙れ邪神め!」

 鋭い目つきの男の言葉にその人犬神はその手を広げる。

 それだけで男は吹き飛ばされる。

 剣一は素早く刀を構え十朝の前に立ち塞がる。

「十朝さんすいません嘘をついていました。こいつはここ最近この周囲で人を食らっている邪悪な土地神なんです」

 その言葉に十朝は拳を握り締める。

 自分は気付いていた。近くで異邪が動くのを感じていた。

 しかしそれを無視していたのだ。

 十朝は最後の力を振り絞り言う。

「剣一さん逃げましょう。こんな化け物とやりあっては勝てません」

 それは真実だった、剣一に関しては。

『その娘の言うとおりだ人が神に勝てぬ。ここで大人しく我、貢物として、我、力となれ』

 人犬神がそういって余裕たっぷりな態度で近づいてくる。

 その時、鋭い目つきの男が唱える。

ちゆういんぼうしんしんゆうじゆつがい。時空を司る十二の獣よ我が意に答え、我が式神と成りてここに』

 そして一枚の寅と描かれた護符が反応する。

雷寅ライトラ

 電撃を纏った寅が現れる。

「奴の式神は強力です、きっと奴を倒せます」

 剣一の言葉はすぐさま否定された、人犬神は避けることすらしなかった。

 雷寅は、人犬神に触れるだけで砕け散った。

『愚かな、人の力で我を倒せる訳は無いわ!』

 人犬神の口から放たれた衝撃波は今度こそ、鋭い目つきの男を弾き飛ばし、戦闘不能にした。

「逃げましょう!」

 必死に剣一の袖を引っ張る十朝。

 そんな十朝に対して剣一は強い意志を込めた顔で言う。

「私は、貴女を守りたい。こんな化け物をほっておいて貴女に万が一のことがあったらどうするんですか。私はこいつを倒します」

 剣一の抜刀は人犬神を捕らえる。

 しかし、人犬神は平然と言う。

『無駄。我は神、人の力は通用せん』

 そして剣一に手を向けた時、十朝が動いていた。

『我は神をも殺す意思の持つ者なり、ここに我が意を堅め、敵を撃ちぬかん』

 拳から放たれた十朝の戦う意思は人犬神を吹き飛ばす。

 驚いた顔をする剣一。

「ごめんなさいあたし剣一に黙っていたことがあるの。あたしは神谷、こんな化け物、異邪と戦う為の一族の人間なの」

「まさか君みたいな子があの八刃の一つ神谷の人間だ何て……」

 何も言えないという感じの顔になる剣一。

 そして剣一との別れを感じながらも十朝は知ってしまった。

「あたしは、戦うの嫌でした。何で他の人間が人生を楽しんでるのに自分だけ命がけで戦わないといけないのかと。でも今だったら断言できる。あたしのこの力は、あたしの大切な人を異邪の手から守る為にあると」

 十朝が手を広げる。

『我は神をも殺す意思の持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』

 その手に一本の剣が生まれる。

 そんな中人犬神が起き上がる。

『人間の分際で神である我に逆らうか!』

 次々と口から衝撃波が放たれる。

 しかし、十朝は長い鍛錬で身につけた本能で、それら全てを、自分の闘志で相殺する。

「あたし達の力は貴方の様な邪悪な神に虐げられた人の意思なり。神に逆らい、神を殺す為の力、この剣こそ神威カムイなり」

 十朝は、手の剣、神威で一刀の元に人犬神を真っ二つにする。

『馬鹿な我は神……』

 そのまま崩れ消えていく人犬神。



「まさか、神谷の人間だったとはな」

 鋭い目の男の言葉に十朝が言う。

「これでお別れですね」

 それに対して剣一が言う。

「どうしてです?」

 その言葉に十朝が言う。

「あたしは、異邪の暴れるのが解る。それをほっておいて平和には暮らせていけない。自分の出来る精一杯な事をする。例えそれが他人から止められようとも」

 そんな剣一が言う。

「だったらその背中を私に守らせてくれませんか?」

 その言葉に十朝が言う。

「解っている? そっちの業界では八刃は禁じ名ですよ。そんなのと付き合ってるのがばれたら、ただではすまないよ」

 剣一が言う。

「十朝さんと一緒ですよ、私は十朝さんが危険な事をしてるのに普通に暮らしていけないんですよ」

「危険だよ」

 淡々と十朝が言う。

「覚悟の上です」

 一片の曇りの無い答えに、十朝は嗚咽をする。

 その日、神谷の歴史の中でも最強といわれた戦士が生まれた。

 その背中には何時も一本の刀を持った男が付き添っていた。

この件があり、ヤヤシリーズに出てきた一文字家は、八刃に敵愾心があります

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