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八刃列伝  作者: 鈴神楽
始祖系
18/22

失ってからの参戦

萌野の始祖の話

 それは、溶岩が流れる活火山。

 生きるものを寄せ付けない筈のその場所に、それは、居た。

 周囲の熱を吸収する存在。

『良い世界に来たぜ! この火の山がある限り、俺は、無敵だ!』

 それは、熱を吸収する異邪、鋼鉄の体を持つそいつは、己の事を『鋼炎コウエン』と称し、多くの人をその力で支配していった。

 そして鋼炎は、女を好んだ。

 しかし、常に高熱を放つ体は、女を壊す。

『お前等、新しい女は、どうした!』

 鋼炎が怒鳴ると、支配された人々を取り纏める男が暑さからとは、異なる汗を垂らしながら答える。

「もう、ここらには、女は、居ません。どうか、お許しください!」

 必死に頭を下げる男に鋼炎が言う。

『そうか、仕方ないな』

 鋼炎が嫌そうな顔をしながらも言った言葉に、男が安堵の息を吐くが、鋼炎は、続けた。

『この間の女についてきた、ガキが居ただろう。それを連れて来い』

「あの娘は、まだ八つにもなっておりません! とても鋼炎様のお相手が出来る訳がありません!」

 反論する男に鋼炎も嫌そうな顔で言う。

『俺も、あんな小さなガキ相手じゃ、抱いた気がしないが、我慢が出来ないんだよ、この昂ぶりがな』

「どうかお許しください」

 手が焦げるのを構わず、男は、鋼炎に縋り付くが、鋼炎は、無邪気とも思える笑顔で答えた。

『どうせ一緒だろ、俺が抱いたらどんな女だって壊れるんだからよ』

 男は、絶望の中、了承するしか無かった。



「妹を差し出せって言うのか!」

 全身にいくつもの火傷を持つ少年が怒鳴る。

「これも、皆を護るためだ、了承してくれ」

 頭を下げる、纏め役の胸倉を掴む。

「そうやって、村中の女を差し出してきた。残ったのは、年端も行かない奴だけだ。女を犠牲にしてまで男だけが生き残ってどうなるって言うんだよ!」

 視線を逸らす纏め役。

「俺は、あいつを倒す!」

 火傷を持った少年の言葉に、後ろから少女がしがみ付く。

「駄目、あいつ、強い! 何度も負けてるよ!」

「だからって、お前を差し出せるか!」

 火傷の少年が突っぱねる。

「また、あんな思いをしたいのか?」

 纏め役の言葉に火傷の少年の顔に緊張が走る。

 その様子を見て、少女が前に出る。

「あたし、行く」

「止めるんだ!」

 火傷の少年は、必死に止めるが、少女は、答える。

「あたし、お兄ちゃんの事が大好き。だから、あんな姿を見たくない……」

「俺は、平気だ! 現にこうやって生きてる!」

 火傷の少年が必死に言うが、纏め役と一緒に来た男達に押さえられ、少年の妹は、纏め役に連れて行かれる。



「絶対に助ける」

 火傷の少年は、男達の監視から逃れ、鋼炎が居る山に向かっていた。

「ちょっとそこの、少し道を聞きたいんだけど良いか?」

「後にしろ! 俺は、あの化け物から妹を助け出さないといけないんだ!」

 火傷の少年の言葉に鋭い目をした髪の短いその少女が言う。

「丁度良い、あたしは、そいつを倒しに行くところ、案内しなよ」

 火傷の少年は、驚く。

「本気か?」

 その少女が頷く。

「異邪なんかに、この世界を自由にさせない」

 強い意志が篭った目に火傷の少年が頷く。

「こっちだ」

 そして、駆けながらその少女が言う。

「あたしの名前は、遠糸エンシ

 そして二人は、問題の山に向かう。



 鋼炎は、舌打ちした。

『こんなガキを相手しないといけないなんてな』

 未成熟な火傷の少年の妹の体に苛立ちながら鋼炎は、その灼熱の手を少女に向けた。

 少女は、辛い現実から逃れるように目を瞑り、逃れようの無い激痛の瞬間に恐怖した。

『グワァァァァァ!』

 しかしあがったのは、鋼炎の悲鳴だった。

 少女が目を開けると鋼炎の腕に矢が突き刺さっていた。

『馬鹿な! 人間の矢が俺に刺さる訳がない!』

「はやくこっちに来い!」

 火傷の少年の言葉に妹は、反応して駆け寄る。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 火傷の少年が笑顔になって答える。

「あの化け物を倒す味方が現れたんだよ!」

 遠糸は、九尾鳥キュウビチョウから授かった九尾弓キュウビキュウから、色鳥矢シキチョウヤを射る。

『舐めるな!』

 鋼炎が炎を出すと、色鳥矢が焼け落ちる。

 しかし、遠糸は、かまわず色鳥矢を射続ける。

『無駄だ!』

 鋼炎は、炎の壁を生み出して、色鳥矢を完全に防ぐ。

『お前の矢など効かぬ!』

 小さくため息を吐いて遠糸が言う。

「やっぱり力押しは、無理だね」

 無限に矢を収める、羽矢筒ハネヤヅツから、茶色の羽根がついた色鳥矢を取り出し、炎の壁がある手前の地に射る。

羽撃ハバタ

 色鳥矢が射た場所が盛り上がる炎の壁の下に穴を生み出す。

「一撃で決める!」

 遠糸は、白い羽根が付いた色鳥矢を番える。

「これがあたしの全力よ!」

 白い羽根の付いた色鳥矢は、鋼炎に直撃し、その体に大きな穴を穿つ。

 炎の壁が消え、遠糸が笑みを浮かべる。

「勝った……」

 激しい疲労からか、倒れる遠糸。

「あんた凄いな」

 火傷の少年が遠糸に憧れを込めた目を向ける。

「どうしたら、そんな力がもてるんだ? 俺もその力が欲しい!」

 遠糸は、鋭い目を火傷の少年に向ける。

「無理ね。この力を手に入れようとして、何人もの人間が死んだ」

 言葉を無くす火傷の少年に遠糸が叫ぶ。

「逃げなさい!」

 次の瞬間、遠糸を鋼炎の足が踏みつける。

『痛かったぞ!』

 憎悪をぶつける鋼炎。

 強烈な熱気は、傍に居るだけの火傷の少年の肌すら焼く。

 当然、直に踏みつけられた遠糸の体には、激しい火傷が出来る。

 その火傷を見て、火傷の少年は、母親を取り返そうと向かって体を焼かれた恐怖を思い出し、頭を抱えて震える。

「お兄ちゃん、大丈夫だよ! あたしが護るから!」

 妹が必死に火傷の少年を庇う様に立ち、全身がジワジワと焼けていく。

『もしも、火の山の力を得て、無限の回復能力を得ていなかったら、死んでいた! お前は、簡単には、殺さない。俺の物で中から焼き殺してやる!』

 鋼炎が遠糸の服を破り捨てる。

 しかし遠糸の目に恐怖は、無かった。

「あたしは、諦めない」

 九尾弓に色鳥矢を番えようとする遠糸。

『やらせるか!』

 鋼炎が九尾弓を持つ遠糸の左腕を掴む。

 肉が焦げる異臭が火傷の少年達にも解った。

 そんな状態でも遠糸は、九尾弓を離そうとしない。

『貴様、痛みが無いのか!』

 鋼炎の言葉に、後ろから回答が来る。

「その子は、九尾鳥の体の一部を体内に取り込む試練に打ち克った。その程度の痛みでは、屈服は、しないよ」

 鋼炎が振り返ると、ポニーテールの少女と炎の翼を持った鳥が居た。

『……何者だ?』

 鋼炎の顔に恐怖が走る。

 本能的に察知したのだ、目の前の少女が、尋常な存在では、無い事を。

「あちきの名前は、八百刃。聖獣戦神八百刃。貴方のしている事は、我々が決めている異界干渉法に違反しているから、今すぐ戻りなさい。さもなければ滅ぼすよ!」

 圧倒的な気配に畏怖しながらも鋼炎は、火山が生み出す無限の力を信じ、抗う。

『誰が、お前の言葉に従うか!』

 炎を放つ鋼炎。

 その炎は、八百刃に届く前に、炎の翼を持つ鳥、八百刃獣の一刃、炎翼鳥エンヨクチョウによって防がれる。

「そいつの始末は、任せた」

 八百刃は、鋼炎を無視して、鋼炎が知らない間に後退して開放された遠糸に近づく。

「遠糸ちゃんも無茶するんだから、白風からの返事が来るまで待ってられなかったの?」

 遠糸が苦笑しながら言う。

「すいません。本当は、場所だけ確認する予定だったんですが、そこの子が犠牲になるかもって聞いて……」

 八百刃がため息を吐きながら、力を注ぎ込み、九尾鳥からの力の増幅を促し、遠糸の傷を癒していく。

『無視をするな!』

 鋼炎が再び炎を放とうとすると炎翼鳥がその前に出て告げる。

『愚か者が、お前程度の存在が八百刃様に危害を加えられると思うな!』

 鋼炎は、怒鳴り返す。

『俺は、熱を力にする神だ! お前が炎を使う以上、俺には、勝てん!』

 炎翼鳥は呆れた顔をしながら言う。

『試してみるが良い』

 そして放たれた炎翼鳥の炎を鋼炎は、力に変えていく。

『凄い、凄いぞ! これだけの力があれば、この世界の全てを焼き尽くせる!』

 しかし、炎翼鳥の炎は、止まらない。

 段々と鋼炎の顔が引きつっていく。

『おい、これ以上は、無理だ! 止めてくれ!』

『所詮は、その程度の器。八百刃獣の一刃である私の力を食らうのは、小さすぎたな』

 更なる炎と共に熱を力にするは筈の鋼炎は、焼けていく。

『止めてくれ!』

 そのまま、灰一つ残さず昇華する鋼炎であった。



「本当にありがとうございました」

 纏め役が八百刃に感謝する。

 その様子を見ながら傷を癒した遠糸が旅の支度を整える。

 そんな遠糸を見ながら火傷の少年が言う。

「俺も連れて行ってくれないか?」

 遠糸は、首を横に振る。

「駄目よ、貴方には、大切な妹さんがいるでしょ?」

 火傷の少年は、手に握った髪の毛を見せる。

「さっき、死んだ。俺を庇ってあの鋼炎の炎の余波を受け続けた所為だ。俺には、何も残っていない。俺も戦わせてくれ」

 大きなため息を吐く遠糸。

「それじゃあ、次は、誰を犠牲にして生き残るの?」

 痛烈な一言に火傷の少年が言葉を返せないで居ると遠糸が続ける。

「貴方が恐怖し、萎縮するたびに人が死ぬ。それを理解しなさい」

 火傷の少年は、搾り出すように言う。

「……次は、絶対に恐怖しない」

 必死の訴えだったが、遠糸は、信じない。

 そこに炎翼鳥が来る。

『その思いを示す覚悟は、あるか?』

「炎翼鳥様!」

 遠糸がクレームをあげるが火傷の少年が大声で答える。

「あります!」

 炎翼鳥は、その羽根の一枚を落とす。

『真に戦う意思があるのなら、その羽根を体に押し付けて、己が一部とするが良い。先に言っておくが、私の炎は、お前が畏怖した者と比べ物にならない熱さだぞ』

 その言葉に火傷の少年の脳裏に恐怖が蘇る。

「止めときなさい。貴方の妹さんも、貴方に生きていて欲しいでしょうから」

 遠糸の制止が、逆に火傷の少年の決意を強くする。

「そうです、妹の為にも生きて戦いたい!」

 そのまま羽根を拾い、胸に押し付ける。

「ガアァァァァァァ!」

 人の物とは、思えない悲鳴をあげる火傷の少年。

 慌てて遠糸が駆け寄ろうとするが、火傷の少年が渾身の力で拒絶する。

「俺は、耐えてみせる!」

 遠糸が足を止めると、八百刃が来て言う。

「こっから先は、この子の意思だけが全てを決める。見守ってあげてなよ。生き残った時は、白風の所に連れて行きなさい。あそこなら戦う環境がある」

 そう良い残し八百刃は、去っていった。



 火傷の少年は、三日三晩苦しみ続けた。

 そして、四日目の朝、遠糸が目を覚ますと火傷の少年は、井戸の水を飲み、立っていた。

「よく耐え切ったわね」

 遠糸の静かな問いに火傷の少年も静かに答える。

「死ねなかった。妹が救ってくれたこの命を捨てるわけには、いかなかったからな」

 遠糸は、相手の心を貫くような目で最終確認をする。

「人としては、強大な力かもしれない、でもあたし達が戦うのは、神とも呼ばれる化け物達。苦痛で死んで居たほうが楽だと何度も思った。それでも戦いの道を選ぶの?」

 火傷の少年が答える。

「俺は、常に最前線で戦い続ける」

 遠糸が手を差し出して言う。

「一緒に戦いましょう。貴方の名前は?」

 火傷の少年は、手を握り返して答えるのであった。

萌野モエノだ」

 こうして、萌野の始祖が八刃入りをするのであった。

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