片羽の二羽の炎鳥
江戸時代初期の混迷期に闇夜を行く、炎を操る双子の八刃
江戸時代初期の話しである。
一人の美少女が道端で辻易者をやっていた。
その外見が評判を呼んで、男達が集まっていた。
「貴方は、水難に会うでしょう。軽減したいのでしたら、この護符を買うことです」
そう言って、数枚の護符を取り出す。
「買います買います!」
そう言って、大金を払って離れていく客を少女は見送る。
そんな時、一人の少年が現れる。
その少年は一見すると男装した女性にも見えるが、よくよくみると喉仏が出てたりと男性の特徴があるのが解る。
そして何といっても少年は易者の少女にそっくりであった。
「強羽どうしました?」
その言葉にその十六の少年、萌野強羽が手を合わせる。
「すまんお金貸してくれ、チンチロリンですられた」
その言葉にその少年の双子の妹、萌野烈羽は溜息をつく。
「又ですか?」
それに対して、強羽は指を横に振っていう。
「前回は、丁半博打だ」
「どっちも同じです。賭け事はいい加減にしないと身を滅ぼします」
そう言いながらも烈羽はお金を渡す。
「感謝するぜ」
江戸の町を駆け出して、周りの視線を集める強羽であった。
「うーん今日は、ついてないな」
烈羽と二人、食事を食べながら愚痴る。
烈羽は気にした様子も無く、食事を続けていると、一人の少女が席に着く。
「賭け事はだめだよ」
その声に、二人は驚く。
声の主は、十四歳位の少女に見えるが、それは人ですらない。
強羽が緊張した様子で言う。
「八百刃様が降臨なさる程、強い異邪が現れたのですか?」
それに対して、八百刃といわれた少女は手を横に振る。
「うんにゃ、あちき偶々空き時間出来たから、朧の写獣の体借りて、人間ポイ事してただけ。やっぱり、この世界のお米って美味しいよ」
その言葉を聞き改めて八百刃の顔を見ると、その頬にはご飯粒が付いている。
「でもでも、小さい問題だったらあるよ。子の刻に現れる、妖怪の噂聞いてる?」
その言葉に強羽は迷わず、烈羽を見る。
「はい。私は、そういった噂を集める為に易者をやっています」
烈羽の答えを聞き、八百刃は烈羽の頭を撫でながら言う。
「良い子だねー。それじゃあその妖怪が異邪の可能性が高いのをしってる?」
烈羽は少し頬を赤くしながらも頷く。
「って事で、あちきはあまり良い予感しないから急いで調べるんだよ」
そう言い終わると、近くの席に居たのに全く気配のさせていなかった、百母朧の所に戻ると、茶漬けを啜る八百刃。
そんな八百刃を取り合えず棚置きにして強羽は、朧の隣に座る。
「居たんだったら声くらい掛けろよ、同じ八刃だろがよー」
それに対して朧は抑揚の無い口調で答える。
「関係ない我々は馴れ合う為に八刃を名乗っている訳ではない。お互いに自分の役目を全うすれば良いのだ」
「あーなんだって」
その物言いに強羽の表情が険しくなったが、八百刃が女中に追加注文した後止める。
「最初に言っておくけど、貴方達の力は異邪と戦う為に与えて有るんだよ。理解してる?」
「解ってますよ!」
そう言って舌打ちした後、もう食事をする気が無くなったのか店を出て行く強羽と慌ててその後を追う烈羽。
朧が八百刃の方を向く。
「宜しいのですか?」
その声は先程前の無関心のそれでなく、二人を心配する感じがあった。
「あの二人は、強い力を秘めてるよ。力の解放には試練が必要だよ」
シリアスな顔をする八百刃。
「厚焼き玉子です」
「わーい。卵料理だ卵料理だ」
女中がもってきた玉子焼きに目を輝かせる八百刃。
そんな八百刃を見て、小さく溜息をつく、朧であった。
「強羽何処に行くんですか?」
烈羽の言葉にずんずんと前に歩きながら強羽が言う。
「俺達は戦うそれだけの存在なのかよ!」
烈羽少し躊躇した後、答える。
「多分そうだと思います」
その答えが出る妹に強羽は苛立ちを覚えた。
そんな二人の前に一匹の炎を纏った獅子が立っていた。
『この世界の人間だな。我が楽しみの為に死ね』
次の瞬間、無数の火炎球が二人を襲う。
『我が守護の意思に答え、炎よ我等を守れ、守炎翼』
烈羽の呪文に答えて、烈羽の腕から出た炎が幕を作り、火炎球から二人を守る。
『ほーお前等ただの人間じゃないな』
強羽が胸を張って言う。
「異邪に名乗るのも勿体無いが、俺達は、八刃の一振り、萌野だ!」
その言葉に獅子が高笑いをあげる。
『八刃の名は、こっちの世界に退屈しのぎをしに来た仲間から聞いた事があるが、萌野と言ったら炎を操る一族。炎を武器にする我に通じると思ったか!』
次々と火炎球を放ってくる。
強羽は腕を振り上げるとその腕から炎が発生する。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ敵を撃て、撃炎翼』
凄まじい炎が火炎球を飲み込んで、炎の獅子に迫るが、炎の獅子は平然とその場に立っている。
炎が炎の獅子を襲う。
「決まった!」
強羽がそう言った時、強羽の放った炎を取り込み、爆炎となったそれが、強羽と烈羽を襲う。
咄嗟に自分の炎で身を守りながら、回避する二人。
『その程度の炎で、炎の主である私に勝てるつもりか?』
嘲りが篭ったその言葉に、舌打ちをする強羽。
「俺たちの力では敵わないと言うのかよ!」
その時、二人の後に朧が現れる。
「お前いつからここにいたんだよ!」
朧は二人に視線を合わせず答える。
「八百刃様からの伝言だ。炎翼鳥の炎は邪悪な炎には負けない。もし撃ち負けているとしたら、それはお前達の心の性だと」
その言葉に、自分達の守護者、八百刃に仕える使徒にて獣を超えた獣、八百刃獣の一刃、炎の翼を持った鳥、炎翼鳥の姿を思い出す強羽と烈羽。
直接炎翼鳥に触れた事が有る人間は限られている。
そして強羽と烈羽はその限られた人間だった。
赤子の時、一度だけ、炎翼鳥に翼に触れたことにより二人の力、炎は他の萌野の人間のそれを超越した物になったのだ。
そして自分達の炎は炎翼鳥に炎を継承する物、その炎が通じないとなれば、朧が言うとおり、自分達の心が弱い性だと強羽が思い、呟く。
「これが俺達の限界なのかよ!」
その時、烈羽が手を結んでくる。
「こんな時に何するんだ!」
手を離そうとする強羽に烈羽がその目をじっと見つめて言う。
「私達は、生まれる前か一つ。炎翼鳥様の炎も二人で分け合った、だから一つにすれば通じる筈」
その言葉に強羽は自分の手を握る妹、烈羽の手を改めて握る。
「やるぞ!」
無言で頷く烈羽。
そして二人の詠唱が重なる。
『我等が正義に答え、炎よ敵を浄化せよ、浄炎翼』
二人の手から先程と同じ様に炎が巻き起こり、炎の獅子に迫る。
『愚かな、何度やっても同じ事よ!』
しかし、二人の炎は、炎の獅子の炎に交わらず、水で炎を消すように、邪悪な炎を消滅させていく。
『馬鹿な炎で炎を消すなど!』
それに対して強羽が答える。
「炎翼鳥の炎は浄化の炎、お前の邪悪な炎と一緒にするな!」
強羽の言葉に答え炎は更に高まり、炎の獅子を焼き尽くし、この世界から消滅させる。
全ての力を出し切り、しゃがみ込む烈羽。
そして強羽が朧の方を向き言う。
「八百刃様は知っていらっしゃったのだな」
朧が頷く。
「炎の獅子は自分の気紛れでこの世界に来れるほど高位の異邪だ。白風や神谷、遠糸に任せた方が良いと進言したが受け付けて貰えなかった」
強羽が拳を握り締めた時、烈羽が言う。
「感謝します。八百刃様が私達を信用してくださった事を」
その言葉に朧が答える。
「これからの戦いは更に厳しくなる。その為にお前達の浄化の力が必要なのだ」
朧を睨み強羽が言う。
「お前も俺達が戦う道具だというのか!」
朧が首を横に振る。
「私は何度も八百刃様とあった。私の使う写獣を八百刃様がこの世界での肉体にする為だ。八百刃様は何時も言っている戦うのは人だと。自分はその助けをするだけだと。そして我等一族は自分の意思で戦う事を選んだ八人の子孫だ。私もお前も」
強羽が詰め寄る。
「子孫だからって戦わないといけないのかよ! 俺は博打が好きだ! 妹が好きだ! 大切な物がある。それを捨てて、犠牲にして! 異邪と戦えって言うのかよ!」
朧が初めて真っ直ぐ強羽の目を見て朧が答える。
「子孫だから大切な物を、この世界を守る為に戦う事を選べると言っているんだ」
烈羽が後から強羽に抱きつき言う。
「私たちは、守れる力があります。あまり当らない易を見る易者に毎日見に来てくれる面白い人達の笑顔を守れる力が」
その言葉に強羽が毒気を抜かれた顔になる。
「お前な、あいつ等が本当に易を見て貰いに来ていたと思っていたのか?」
その言葉にキョトンとする烈羽。
「それ以外に易者の所に何しに来るのですか?」
朧も苦笑する。
そして、強羽が天を仰ぎ言う。
「俺も博打が出来るこの世界を守りたい。これでいいのかい八百刃様」
八刃の戦いは続く、異邪がいる限り、その戦いは何時終るのか、それは聖獣戦神八百刃も知らない事である。