第0話 俺とあなたの物語
この世界はーー
俺たちが考えていたより…
ずっと公平でーー
ずっと不公平だーー
「プロローグ」
春ーー
俺は、もっと駅から近いところに造っとけ、とか、来るのは四日ぶりぐらいだろうか、などとどうでもいいことを考えながら大学まで続く長ったらしい坂を歩いて行く。
春の日差しが眩しい。桜が舞っている。そして・・・馬鹿が騒いでいた。
「おい、こら馬鹿。馬鹿が何馬鹿なこと、馬鹿みたいにやってんだ」
俺は堪らず正門の前で騒いでいる馬鹿に声をかける。
「はっはっは、静。君はわざわざレポートを持ってきた僕に何回馬鹿馬鹿言えば気が済むんだい。ええこらぁ!!!!!」
そして勝手に切れた。さすが馬鹿。どこが地雷か不明だ。ただ、今の言葉から、どうやらこの馬鹿は俺を待っていたらしいことは予測できる。
「俺、お前に校門前で待ってろなんて頼んだか?」
「はっ!静は帝大の癖してそんなのも知らないの。レポート持ってこい=校門の前にたってろの法則だよ。受験でもでたろ?」
「…よし、病院行こうな。俺、有名な先生知ってるからさ。てか、その前に全国の受験生に謝れ!!」
「はい。すんません」
素直だった。相変わらず変なとこで素直な奴だ。
さて、登場人物もたくさん出てくることだし、あんたにもとっととこの馬鹿の紹介をしよう。
成瀬慎也。静の相棒だ、と本人はいたって真面目に主張している自称相棒。自称な。自称だからな!大事なことだから三回言ったからな!実際、こいつとの縁は去年からだし…そのころはまだ色々あったから友人ですらなかった。そんな奴だが凄く良い奴だ。なんせ、俺のことを「人間のクズだ」と評価するぐらいだからな。
ああ、そうだ、ついでに自己紹介をしておこう。この物語の語り部であり高学歴・高身長・高収入でイケメンの時田静だ。あんたには説明するまでもないかな?
ーー「これ、あなたのこと指してるの?」
ーー「当然だろ。俺みたいな完璧超人が世界に二人もいるはずないだろ…まてまて無言で原稿破ろうとするな。わかった、わかりました、以後自重します」
ーー「はぁ…じゃあ、続き読むわね」
「そういえば、静。あの子はどうしてる?」
あんたのことだ。一応、こいつにはあんたの事情も話してる。
「変わらずだ。変わらず可愛い顔してるくせに眉間にシワ寄せてつまらなそうに世界を見て俺にモノ投げつけ知らん顔しておっきな胸揺らして殴りかかってきて罵詈雑言吐いて一向にデレる気配がなーー
ビリリーー
「あっ、麗奈、バカっ、お前、せっかく人が書いてきた原稿破るとか!この人でなし!デレなし!巨乳!!」
「言いたいことは、それだけ?」
「すんませんでしたー!!」
ダメだ。目が本気だ。クソ、こういう時に病室は危険だ。果物ナイフという微妙に危険なアイテムがいつも隣にある。
「で、あなたがなぜこんな、小説って呼べるほどのものではないけど、わざわざこんなモノ書いてきて、あろうことか私に読ませようとしたのかしら?」
「あー、、、暇つぶし?」
「いっぺん死んで来い!」
麗奈が握っていた果物ナイフを思いっきり投げてきた。多分、第三者が見たら冗談抜きで殺しにかかっているように見えるのだろ。だが、こんなやりとりを何度も繰り返している俺にとってはそれは脅威ではない。ナイフの軌道を読み余裕を持ってそれを右手で掴み取る。
麗奈にもそれがわかっていたのだろう。俺がナイフを掴み取るという離れ業をしたにも関わらず特に何も言わず視線を俺から逸らした。くそう、初めて見せたときはあんなに驚いたのに。
麗奈ーー神無麗奈は大層ご立腹なのか俺と顔も合わせようとしない。俺も今日はこれ以上は話しても無駄かなと思い部屋を後にしようとする。すると、いつもと同じように麗奈が俺に尋ねる。
「今度はいつ来るの?」
「あんたが目を覚ましたらーー」
いつもの常套句を残し俺は部屋を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇
彼が部屋を後にし私は病室にひとり取り残された。周りを見渡す。あるのは変わらず白い壁だけ。窓も天窓があるだけだ。いや、今日はこの部屋にいつもはないものが存在する。彼の書いた原稿だ。思わず破いてしまったが、今となれば確かに彼の言うとおり暇つぶしの道具になるだろう。
私は破れたものも含めて手元に紙束を集める。そのなかで、最初は気付かなかったが一枚、明らかに本文ではなく、短いフレーズの詩みたいなものがあった。そして、そこにはこう書かれていた。
この世界はーー
俺たちが考えていたより…
ずっと公平でーー
ずっと不公平だーー
思わず目を奪われた。その言葉に。その思いに。
あぁ、この世界は公平だ。どんな奴でも死ぬ。どんな人でも生きれる。
あぁ、この世界は不公平だ。どんな人でも死ぬ。どんな奴でも生きてる。
神無ーー。神はいない。それが私の苗字。文字通り私の人生に神はいない。あるのは理不尽な結果とこの白い病室だけ。
私は、神様に時間を、わたしのじんせいを半分奪われた。