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舞踏会2

作者: WAIai
掲載日:2026/09/11

ー…アリ、メアリー。

うーん…。誰?

メアリーってば!!

誰? 誰よ、もう!!

メアリーは眠りからいきなり起こされ、がばりと上体を上げる。

ー男の子の声がしたような…。

腹を立てつつ、周りを見れば、メイドのジェリーが顔を覗き込んでくる。

「どうしました、お嬢様?」

年齢的には、ジェリーのほうが少し上で、姉みたいな存在だった。

メアリーは髪をかくと、ジェリーに聞く。

「ジェリー、私を起こした?」

「いいえ。起こさないように、花を変えたりはしましたが…」

テーブルの上には、シュウメイギクが凛と咲いている。

白とピンクで可愛らしい花であり、朝から心が清らかになっていく気がした。

ージェリーじゃないんだ…。じゃあ誰?

自分の名前を知っていて、尚且つ、小さな男の子など覚えがなかった。

腕を組んで「うーん」と唸ると、ジェリーが慌てて聞いてくる。

「私、うるさかったでしょうか?」

「いや、全然。気にしなくていいわよ」

「そうですか…。良かった」

ジェリーが本当に安堵したのが伝わってくる。

首になったら、明日からどうやって暮らそうか、分からない時代だった。

「うーん、分からない!!」

ぼすっと、布団を叩くと、ジェリーが聞いてくる。

「お嬢様、何が分からないんですか?」

「何でもない。こちらの話」

ジェリーに聞かせてもしょうがないので、黙っておくことにする。

ー男の子、男の子…。うーん、身に覚えはないな。

頭の中はメアリーを呼ぶ声を思い出そうとするが、余計、頭が痛くなってくる。

「…やめた、やめた!! あー!! ジェリー、起きるわよ」

「は、はい、お嬢様。ドレスは何色にしますか?」

「そうね…。今日は明るい気分にになりたいから、黄色かしら」

2人はドレスを選び始め、男の子のことなど、忘れていった。


支度が整うと、1階に下りていき、家族に挨拶する。

「ーおはよう、お父様、お母様、それにお兄様」

テーブルについた3人に挨拶すると、視線が集中してくる。

父親はジョージといい、新聞を読んでいる。

母親のエマは食事を待っているようで、椅子に座り、膝の上で手を合わせている。

兄のケントはメイドに水を頼んだらしく、ごくりと飲んでいく。

「ー朝食は…?」

「これからよ。メアリー、座りなさい」

「はい。失礼いたします」

しずしずとドレスを手に持って進むと、ジェリーに椅子をひいてもらい、座る。

間もなく食事が運ばれて来て、パンやサラダなどが、テーブルの上に並んでいく。

メアリーは牛乳を飲むと、母親のエマが聞いてくる。

「今日は体調はよくて?」

「今日は…いまいちです。妙な…その、夢を見て」

「夢? 何の話だ?」

肉を食べながら、ケントが聞いてくる。

2つ上の兄は文武両道で、憧れの存在だった。

仲は良く、困ったことがあると、彼に相談していた。

「それが…言ってもいいのかしら?」

最後は自分に問うことになり、尻つぼみになる。

ケントはフォークとナイフを置くと、口を拭きながら、メアリーに言う。

「何でもいいぞ。俺が頼りになるならな」

「もちろんです!! その…男の子に名前を呼ばれる夢を見て…」

「男の子? 俺の友達か?」

「…うーん、どうなんでしょう? お兄様の友達、お兄様の友達…」

確かに幼い頃、一緒に遊ばせてもらって、ツリーハウスという木の上にある家を隠れ基地にして、皆で遊んだが、その中の1人だろうか。

顔を思い出そうとするのだが、月日が経ち過ぎていて、よく覚えていなかった。

「分かりませんわ。子どもの頃の話なので」

正直に言うと、ケントが「そうか」と淡々と答える。

メアリーは一口、パンをちぎって食べると、咀嚼し、ナイフとフォークを持とうとした。

しかしエマが聞いてくる。

「それで? この前の舞踏会はどうでしたの? メアリー?」

「え…。えっと…」

目を流し、やり過ごそうとしたのだが、ケントが余計なことを言ってくる。

「そうだぞ、メアリー。大事な出会いはあったか?」

「それが、その、あの」

しどろもどろになったのは、舞踏会で出会った男性のことだった。

結局、一曲のつもりが、ニ、三回と踊ることになり、自然と離れていったのだった。

華麗に舞う華達ーお嬢様達は山程いたので、メアリーと手を放すと、あちこちの華達に手をつけていったのだった。

ーこういう場は苦手だって言ったくせに!! 全く、男ったら。

ダン、とテーブルを叩くと、食器が揺れ、皆の視線が集まってくる。

メアリーはまだ怒っており、先日のことをまざまざと思い返す。

ー私の名前を覚えているのだって、気のせいだわ。全く、男ときたら適当に話を合わせるんだから。

結局、名前も知らず、自然と別れたのだった。

別にメアリーが目的だったわけではないと決めつけ、それなら話しかけてくるなと腹の中が怒りで渦を巻いている。

「何かあったのか? その、失敗したとか?」

「私は別に!! ちゃんとしましたわ」

ケントに向かって怒りの矛先を向けるのは、間違っているのだが、メアリーはスープに手をつけると、ふうと息を吐く。

「私、次は行きませんからね。もうたくさんですわ」

「それはいけないわ、メアリー。次も行きなさい」

エマが躊躇なく言い、ケントも加わる。

「そうだぞ、メアリー。そろそろ理想の男性を手に入れないと、女性は年をとっても魅力的だが、若いのはもっと男性を魅了する」

「…そういうものですか、お兄様?」

「そうだ。もっと社交界に行け」

「しかし…」

「ー行け。邸の主の私が言う」

「お父様…」

ジョージはナプキンを膝に乗せると、メアリーに命令してくる。

「次も行け。理想の相手、将来の相手くらい、自分で見つけなさい。それでこそ、価値がある」

「お父様…。でも」

あの空間に1人きりになるのは、うんざりだった。

よほど、家庭教師と問題を解いていたほうが楽である。

「嫌と言ったら…その、どうしますの?」

「駄目だ、行け。もっと社交の場に出ろ。ウィンストン家の娘として」

「…」

メアリーは何だか身体が重くなり、食事の手を止める。

あの場に行くのは苦痛であり、例の男性にも会いたくなかった。

ー何か起こりそうなのよね…。

一波乱ありそうで、難しい顔をする。

するとジェリーが言ってくる。

「お嬢様、お嬢様!! 朝食を召し上がらないと」

「ああ、うん。残したら悪いものね」

食べられない人達もいるのだからと、メアリーは肉を口にする。

領民がいるから食べていけるわけで、食べ物を粗末にするなんてあり得なかった。

使用人達だって、食べるのを我慢しているのかもしれないのだ。

ー小麦がたくさんとれたと聞いたのだけれど…。

主食がないとまずいのだが、無事に収穫できたのなら、安心だった。

最後にデザートのフルーツを口にすると、メアリーは家族に言う。

「次は行きますが、その次は分かりませんわよ」

「駄目よ。若いんだから、色んなところに顔を出さないと」

「俺とお父様で狐狩りに出かけるんだけど、一緒に行くか? 伯爵、子爵、男爵の友達が来るぞ」

「狩り!! いいですわね!!」

手を合わせ、喜んだのだが、ジョージが咳をする。

メアリーは女性ているよりも、男性みたいに走り回ったり、馬で駆けたりと、そのほうが気が楽だった。

「我慢しなさい、メアリー」

「…。はい、お母様」

渋々、言うと、ナプキンを置き、立ち上がる。

「ごちそう様でした。部屋に下がらせてもらいますわ」

「ちょっと待て。友達に合わせてやるから。…あ、来たかな」

玄関が騒がしくなったので、メアリーがケントの後に続くと、友達が10人くらい集まっていた。

「こ、こんなに行かれるのですか、お兄様?」

「まあな。狩りを楽しむのは多いほうがいい」

ケントは仲間に寄ると、何か言ってからメアリーの背を押す。

「妹のメアリーだ。よろしく」

「あ、あの、よろしくお願いいたします」

口々に「よろしく」と言われ、メアリーは視線を落とす。

じろじろ見るのはマナー違反なような気がして、遠慮したのだった。

ーでもお兄様、社交性があるのね。どの御方も負けずに体格がいいし。顔も申し分なさそう。

軽く見回すと、ケントの袖を引っ張る。

「お兄様、私は部屋へ…」

「ああ、また後でな」

「はい」

静かにドレスの裾を掴むと、踵を返し、待っていたジェリーとともに、部屋へ向かう。

ー私も男だったらな…。思いきり走ったり、大声で笑ったりしてみたいものだわ。

階段を上りながら、メアリーはため息をつく。

次の社交界のことを考えると、気が重かった。

ーあの人はいるのかしら…?

ふと男性のことがちらついたが、首を振って打ち消す。

いないほうがいいに決まっている。

「そろそろ家庭教師の先生が来ますわ、お嬢様」

「そう。じゃあ準備しましょうか」

ジェリーと話しながら、メアリーは廊下を歩いて行くのだった。




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