表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭魔の鬼 ~俺の意識を乗っ取る絶壁美少女は、世界最強の呪物で無双する~  作者: MASAO
第1話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

反転鏡面 2.


「いらっしゃいませぇーっ!!」


 野太い声が店内に響き渡る。僕のバイト先である『麺屋・烈火れっか』は、深夜23時まで営業している駅前でも屈指の人気店だ。豚骨醤油の濃厚な匂い、充満する湯気、そして食器がぶつかり合う音。ここは僕のようなヒョロガリには似つかわしくない、まさに戦場だ。


「3番テーブル、ラーメン二丁上がり! おい狭間はざま、さっさと運べ!」


「は、はいっ!」


 厨房の奥から、店主の村上が怒声が飛んでくる。四十半ばくらいで強面の店主村上は、味にはうるさいが根は悪い人じゃない。ただ、ピークタイムになると鬼軍曹に変貌するのだ。


 僕は出来上がったラーメンを火傷しないように慎重に、かつ迅速に足を運ぶ。熱い。重い。そして何より……体が痛い。今朝のベンチでの目覚めから続く謎の筋肉痛が、立っているだけで悲鳴を上げている。太ももが鉛のように重い。


「お待たせいたしました、チャーシュー麺大盛りです」


「おう、サンキュ」


 お客さんにスープをこぼさないよう、また指が入らないよう気を付けて提供し、空いたグラスにすかさずお水を注ぐ。


「おい信也! 何トロトロやってんだよ! バッシング(片付け)が追いついてねぇぞ!」


 背後からドンと肩をぶつけられた。同じバイト仲間の佐竹恭平さたけ きょうへいさんだ。彼は同じ学校の先輩で中学時代はバスケ部のエースでバリバリの体育会系、色白メガネの僕とは人種が違うのだ。学校では僕をパシリに使う困った人である。


「す、すいません! 直ぐやります」


「ったく、お前が入ると回転率落ちんだよなー。邪魔!」


 佐竹先輩は鼻で笑うと、両手にジョッキを抱えて風のように去っていった。……悔しいけど、事実だ。僕は運動神経も鈍いし、要領も悪い。このバイトを始めたのも、そんな自分を変えたかったからなのに。


「狭間くん、焦らなくていいわよ」


 ふと、涼やかな声が耳元に届いた。水木純子みかみ じゅんこさんだ。 黒髪を後ろで一つに束ねた、女子大生の先輩。テキパキと作業をこなしながら、僕のフォローに入ってくれる。


「佐竹くんの言うことは気にしないで。狭間くんの接客は丁寧だから、お客さんの評判はいいのよ。ただ、もう少しだけ動線を意識してみて。戻る時にお冷のピッチャーを確認するとか、ね」


「あ、ありがとうございます、水木さん……」


 まさにクールビューティー。 忙しい中でも汗一つかいていないように見える。美咲ちゃんが変に勘ぐるのも無理はないくらい綺麗な人だけど、僕にとっては雲の上のお姉さんだ。


「よし、ピークは抜けたな。狭間、厨房入って皿洗い手伝え!」


「はい、大将!」


 店主村上の指示で、僕はホールから洗い場へと走った。その時だった。


「――っ!?」


 床に落ちていた水滴に足を取られた。さらに悪いことに、襲ってきたのは強烈な太ももの激痛。踏ん張りが効かない。バランスが崩れる。目の前には、積み上げられたコップの山。


 終わった……


 派手に転んで、店中に音を響かせる。店主の村上さんに怒鳴られ、佐竹先輩に嘲笑される。そんな最悪の未来がスローモーションで見えた、その瞬間。


トンッ。


「……え?」


 気付けば僕は、転んでいなかった。いや、転ぶどころか、滑った右足を軸にしてクルリと半回転し、倒れかけた体を最小限の動きで立て直していたのだ。まるで、武道の達人が体捌き(たいさばき)を行うようにだ。


……今、僕、何をしたの?


 心臓が早鐘を打っている。運動音痴の僕に、あんな反射神経があるはずがない。足の痛みすら、一瞬だけ忘れていた。


「おい、ボーッとしてんじゃねぇ! 手ェ動かせ!」


「あ、す、すみません!」


 店主の村上の声で現実に引き戻された。 僕は慌てて食洗器に向かったが、手先が微かに震えていた。今の動きは、僕じゃ、ない? 僕の体が、勝手に動いたような……。


モゾリ……


(ふんっ……無様ね)


 頭の芯で、舌打ちが聞こえた。冷たくて、呆れ果てたような女の声。


「え?」


 僕は思わず手を止めて周囲を見回した。水木さんは来店の対応をしている。佐竹先輩はホールを奔走中だ。誰も僕に話しかけてなんていない。


 今のは……また、幻聴なのか?


「おい狭間! あがりだ。そろそろ22時たぞ。着替えてこい!」


「あ……は、はい。お疲れ様でした」


 僕は逃げるように更衣室へと向かった。制服を脱ぎながら、自分の体を見下ろす。気のせいか、腹筋が少しだけ割れているような気がする……錯覚だろうか?


 目をこすり、もう一度腹部を見る……いや、まさかね。


 昨日の夜、僕はいったい何をしていたんだろう。そして、あの一瞬の動きと、あの声は一体……。


「無様……って言ったのかな?」


 誰もいない更衣室で、僕の呟きだけが虚しく響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ