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狭魔の鬼 ~俺の意識を乗っ取る絶壁美少女は、世界最強の呪物で無双する~  作者: MASAO
第4話

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剣気凛然 1.


 薄暗い無機質な部屋の中、複数のモニターが青白い光を放っていた。


 画面に映し出されているのは、昨夜の河川敷で観測された、規格外の霊子濃度の波形データ。


「……何度見ても、異常な数値だ」


 氷室拓馬は、コーヒーカップを片手に、忌々しそうに、だがどこか歓喜を含んだ声で呟いた。


 彼の一族である『氷室家』は、かつて帝を守護する退魔の血族『闇風やみかぜ』の筆頭であった。しかし今や、ある出来事をきっかけにその力は衰退し、日本政府と結託した新興の『鈴宮家』に実権を握られていた。


 御家再興おいえさいこう


 そのためには、あの少年の内に潜む『美しき魔怪』――かつての四家筆頭が有したとされるいにしえ神威かむい『金剛羅刹』に匹敵するあの力が、どうしても必要だった。ゆえに、それを解明するための調査が急務であった。


――ピリリリリッ。


 不意に、暗号化された専用端末が鳴った。

 ディスプレイに表示された発信元は、『闇風・本部(鈴宮派)』。拓馬は舌打ちをしてから、通信ボタンを押した。


「……こちら氷室」


『夜分にご苦労。昨夜のD級水傀消失の件だが……君の報告書には、不可解な空白があるね』


 スピーカーから響く、鈴宮の幹部特有のねっとりとした声。


「現場に到着した時には、既に自壊した後でした。残留エネルギーの痕跡から見て、同士討ちの線が濃厚かと」


『ふむ……まあいい。それより、君に新しいパートナーを派遣した』


「……パートナー? 聞いていませんが。私は単独任務ソロを申請しているはずです」


『本部(我々)の決定だ。君も最近、スタンドプレーが目立つからね。優秀な“目”をつけておくのも悪くないだろう。すでにそちらへ向かわせている』


「……(チッ)。どこの系譜の者ですか」


『分家の娘だよ。古式術に固執する、少々融通の利かない手合いだがね。……うまく使いたまえ』


 一方的に通信が切れる。

 拓馬は端末を乱暴にデスクに放り投げた。


「監視役(犬)か……。まあいい、誰が来ようと、俺の邪魔はさせない」


 モニターの中で不規則に跳ねる『蒼い波形』を見つめながら、拓馬は冷たく目を細めた。




   ♢   ♢   ♢




 翌朝。

 僕は、鉛のように重い体を引きずって、なんとか教室の席についていた。


「ふぁぁ……」


 大きなあくびが出る。


 昨夜、純子さんを家まで送り届けた後、脳内の同居人マヤにコンビニで高いプリンを3個も買わされ、帰宅したのは深夜だった。


 当然、寝不足である。


(――小作人。わたくしの睡眠を妨げないでいただけます? 下僕の分際で、朝からため息とは、なかなか不愉快ですわね)


『……マヤさんが深夜にプリンの品評会なんか始めるからでしょ』


 脳内で文句を言い返すが、相手はふんと鼻を鳴らして黙り込んでしまった。


「おいおい狭間ァ! 朝からシケた面してんなぁー!」


 鼓膜をつんざくような下品な大声。


 ビクッと肩を揺らして顔を上げると、先輩の佐竹恭平がニヤニヤと笑いながら僕の机の前に立っていた。


 うわ……今、一番会いたくない人だ……昨日の今日だし。


「あ、佐竹先輩……おはようございます」


「おはよーじゃねえよ。お前、昨日バイトの後、なんかコソコソやってたらしいじゃねえか。純子さんに付きまとってんのか?」


 何で知ってんだろうこの人……?


 ドンッ、と佐竹先輩が僕に肩を組んで来た。


「俺の情報網を舐めんなよ」


 佐竹先輩はにやりと白い歯を見せた。


 相変わらずの理不尽だ。僕がパシリなのをいいことに、彼はいつもこうして絡んでくる。


 学年もクラスも違うのに……暇なのだろうか?


 そんなにバイトの後輩が気に入らないのだろうか?


「そ、そんなことないですよ……」


「怪しいねぇ。それよりお前、俺にあの事を話せよ……昨日」


 佐竹先輩は僕のうなじの匂いをクンカクンカしてきた。


……怖い。


ガラッ!


 佐竹先輩が僕の顔に鼻を近づけようとしたその時、教室の前のドアが勢いよく開き、担任の先生が入ってきた。


「はいはい、席につけー。朝の会を始めるぞ……ん? 佐竹、お前は学年もクラスも違うだろ? さっさと自分の教室へ帰れ」


「チッ……命拾いしたな、狭間」


 佐竹は忌々しそうに舌打ちをして、自分のクラスへと戻っていった。


 ふう、と息を吐き出す僕をよそに、担任は黒板の前に立ち、パンパンと手を叩いた。


「えー、今日は皆に紹介したい人物がいる。入ってきなさい」


 先生の声に促され、廊下から一人の女子生徒が教室に入ってきた。


 その瞬間、クラス中の空気がピンと張り詰めたような気がした。


 艶やかな黒髪を肩口で切り揃え、背筋を定規のように真っ直ぐに伸ばした少女。


 彫りの深い端正な顔立ちは、息を呑むほどの『美少女』と呼ぶにふさわしかったが、その瞳はまるで硝子玉のように冷たく、感情の揺らぎを一切感じさせない。


 彼女は担任の横に立つと、軍人のような隙のない動作で、黒板にチョークで名前を書いた。


 神代かみしろ りん


「神代凛です。一身上の都合により、本日付けでこのクラスに編入することになりました。以後、よろしくお願いします」


 抑揚のない、だがよく通る澄んだ声だ。


「お、おい見ろよ……すげぇ美人……」


「でも、なんか近寄りがたいっていうか……」


 クラス中がざわめく中、突然後ろの扉が開いた。


 先程、自分のクラスに帰ったはずの佐竹だった。

 彼は調子に乗った顔を出すと、凛に向かってニヤケ面を向けた。


「よぉ、神代さん! 俺、佐竹恭平っていうんだ! 転校初日で不安だろうから、放課後、俺がこの辺を案内してや――」


「不要です」


ピシャリ。


 佐竹の言葉を、氷点下の声が遮った。


「は……?」


「学校周辺の地理的データ、および当該地域のハザードマップは既に頭に入っています。貴方の案内による情報のアップデートは、限りなく無意味かつ非効率的。ゆえに、提案を却下します」


「な、なんだと……っ!?」


 顔を真っ赤にする佐竹。クラスメイトたちは、佐竹が正面から叩き斬られたことに呆然としている。


「それに――」


 凛はスッと目を細め、佐竹から……奥の席にいる『僕』を、射抜くような鋭い視線で睨みつけた。


「貴方のように、知性よりも腕力に特化した個体と接触することは、私の任務……いえ、学業に支障をきたします。下がってください」


(――あら。古臭い『気』を纏った小娘ですわね。よく絡んで来た犬の同類……忌々しい匂いがしますわ)


 脳内で、マヤの声が微かに不機嫌の色を帯びた。


 凛の冷たい瞳と、僕の視線が空中で交錯する。


 彼女から発せられる、見えない刃のような『気配』。


 どうやら、僕の日常は、さらに厄介な方向へと転がり始めてしまったようだ。



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