表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狭魔の鬼 ~俺の意識を乗っ取る絶壁美少女は、世界最強の呪物で無双する~  作者: MASAO
第3話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/14

境界侵蝕 3.


 逢魔が時が過ぎ、街が本格的な夜の闇に包まれ始めた。

 狭間信也はざま しんやたちが去った学校から、数ブロック離れた雑居ビルの屋上に男がいた。


 周囲の闇に溶け込むような黒一色の特殊戦闘スーツ(タクティカル・コンバット・アーマー)をまとった姿――氷室拓馬ひむろ たくまであった。


「……こちら氷室。ポイント・デルタより本部へ」


 拓馬は耳元のインカムに、感情を排した冷徹な声で囁いた。


 彼の右眼に装着された特殊なゴーグル型デバイスの奥で、幾何学模様きかがくもようの光が高速で点滅を繰り返していた。


――『古式術複合霊子観測機(オーラ・オプティカル・ハイブリッドセンサー)・麒麟眼きりんがん』。


 それは、現代の光学技術と、古来より「闇風」に伝わる呪術的な索敵法を融合させた、対異怪用の特殊装備だった。


目標ターゲット確認。並びに小規模な『顕在化現象オーガライズ』を検知。……映像データを転送します」


 拓馬がグローブの指先で操作すると、腰に巻かれたタクティカルポーチから、微かな駆動音が響く。


 彼の視界に、先ほどまでの駐輪場の様子が再生された。

 赤外線サーモグラフィーのような映像の中に、信也の姿だけが、禍々しいほど濃密な「蒼色のオーラ」で縁取られていた。


『――ピピピッ。警告。霊子濃度、測定不能エラー。災害指定レベル、暫定Sと推測』


 ゴーグルに表示される赤い警告文字。


 それを見た拓馬の眉が、わずかに動いた。


「……Sクラス? 報告にあった少年……いや、『被験体0号』。あれは一体何だ?」


 拓馬は懐から、鈍い光沢を放つ勾玉まがたまを取り出した。

 それは、彼の近くに強大な「鬼」がいることを知らせるかのように、熱を帯びて微かに震えている。これだけ離れているのに、勾玉が黒く変色していた。


 だが、次の瞬間、勾玉の濁りがスッと消えた。


「……ターゲットロスト。対象は逃走、現在位置は不明」


 拓馬はそう報告すると、背の鞘から愛刀の柄に手をかけた。

かつてのオーパーツ……神代じんだい禁忌きんきうたわれた「金剛羅刹こんごうらせつ」を模して打たれた、特殊合金と呪符のコンポジットの刃『対魔刀・影断かげたち』。

 冷たい金属の感触が、彼の戦士としての本能を呼び覚ます。


「……了解。引き続き、対象の追跡と監視……はっ……河川……了解。『狩り』の準備は整っています。……いつでも」


 通信が切れた後も、拓馬はしばらくの間、信也が消えていった方角を見つめていた。


チンッ……


 抜剣ばっけん


『対魔刀・影断かげたち』の刀身に刻まれた呪符印が青白い燐光りんこうを放ち、特殊合金が高周波の駆動音を上げ始めた。


 あの少年の奥に、あの「美しき魔怪まかい」が潜んでいる。


 その事実が、拓馬の背筋にゾクゾクとするような熱を走らせた。

 恐怖ではない。爬虫類を思わせる冷たい瞳の奥で、確かな殺意の炎が燃え上がり、狂気にも似た歓喜が彼の顔を歪ませていた。


 だが、その前に……。

 



   ♢   ♢   ♢




「信也君、たまには一緒に帰ろうか」


 僕を呼び止めたのは、バイトの先輩、水木純子みずき じゅんこさんだった。


「あ、はい。いいですよ」


「じゃあ、ちょっと待っててね。すぐに着替えてくるから」


 そう言い残すと、純子さんは更衣室に消えた。

 純子さんが僕と同じ時間に上がるなんて珍しい。そんな事をぼんやり考えながら、僕は店の外に出て彼女を待つことにした。


 すると扉の奥から、着替えを終えた後輩の高木瑠璃たかぎ るりちゃんが顔を出した。


「お疲れ様でした」


 瑠璃ちゃんは軽く会釈をすると、そのまま駅の方へ。彼女は僕たちとは帰る方向が違うのだ。


 程なくして、裏口の重い鉄扉が開き純子さんが現れた。


「お待たせ。行こうか」


 現れた純子さんは、すっかり女子大生らしい私服姿になっていた。

 柔らかな素材の黄緑色のカーディガンを優しく肩に掛け、ふわりとシャンプーのいい香りがする。いつも頭に三角巾を巻き、前掛けをしている姿ばかり見ていた僕は、その大人びた雰囲気に少しだけドキドキしてしまった。


「今日は、早い上がりなんですね?」


 いたたまれずに口を開く。


「そうなのよ。明日ちょっと早起きしなくちゃいけない用事があってね」


「そうだったんですね」


「ごめんね。突然、帰ろうとか言って……」


 純子さんは申し訳なさそうに両手を合わせた。


「そ、そんな事ないですよ!」


 純子さんと一緒に帰れるなんて考えたこともなかった。高嶺の花である『麺屋 烈火』の看板娘と一緒に帰路につけるとは、幸運としか言いようがない。


(――あらあら。小作人でも、このような甘い恋慕を持ち合わせていようとは。驚きましてよ、うふふ)


 公園に差し掛かった頃、突然マヤが僕の頭の中で茶化すように囁いた。


『う、うるさいですよマヤさん! 突然、思考に入ってこないでください!』


(まあ、なんて言いぐさですの? これでもわたくしは、気を使って遠慮していたんですのよ?)


『お願いですから、今は出てこないでください……そうだ。後で美味しいプリンを買って帰りましょう。マヤさんが好きなのを選んでいいですから』


 僕の提案に、マヤの喉がゴクリと鳴ったような気配がした。


(あら、わたくしをそのような安い女だと思ってらして?)


『え? いらないんですかプリン2個』


(……ふむ、いいですわ。ここは一つ、身を引いて差し上げましょう)


 そう言うと、マヤは僕の意識の奥へと沈んでいった。


「どうしたの信也君? 急に黙り込んじゃって……お腹でも痛くなっちゃった?」


 純子さんが心配そうに、僕の顔を下から覗き込んでくる。


「だ、大丈夫です!」


 慌てて純子さんの方を向いた僕は、息を呑んだ。

 純子さんは、僕の顔を見たままではなかった。僕の肩越し、あらぬ方向を凝視して完全に固まっていたのだ。


「……純子さん?」


 僕の言葉に、ワンテンポ遅れて純子さんがハッとして振り返った。


「あ……うん。何でもないのよ……」


 そう言って、もう一度その方向に強張った視線を送った。


 つられて僕も振り返る。


 公園の入り口。そこには、少年が一人で立っていた。


……え? 変だな。


 今はもう、夜の十時を回っているはずだ。


 しかも、ずぶ濡れ?


……あの子の周りだけ水溜りができている。

 

「こんな夜中に、あんな小さな男の子が一人でいるなんて心配ですよね」


 僕は何気なく、純子さんに同意を求めた。


 その瞬間、純子さんがバッと僕の腕を強く掴んだ。


「……えっ? 信也君、あの子……視えるの?」


 震えるような、怯えた声。


「……え? は、はい?」


 あれ? 僕、何か変なこと言ったのかな……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ