人生大逆転ゲーム
夜の9時13分、私は何の荷物も持たず、家を出た。目には何の光もなく、ただ無心に歩き続けていた。どんなゲームが行われるのか、参加人数はどれくらいなのか、負けたらどうなるのか、色々と考えなければならないことは山程あったが何も考えない。いや、考えることを諦めたのかもしれない。場所は山奥の学校だった。もうこんな夜遅いので不気味だったが、そんな事は気にもとめなかった。
「ここか。」
学校の周りには年齢も服装も違う様々な人がいた。
「皆さんこんにちは。夜遅くにもかかわらずここまで来てくれてありがとうございます。ゲームのルール説明を行いますので地下の体育館に移動願います。」
アナウンスがどこからともなく聞こえてきた。
「体育館?」
「こんなとこでゲームするのかよ。大丈夫なのか?」
様々な声が飛び交う中、人々は体育館に移動した。
「では、ルール説明をさせていただきます。ゲームをすべてクリアできれば、人生の勝者、人生を自分の思う通りに進めることができる、それは手紙でもご説明しましたよね?まず、ゲームは第4ラウンドまであります。今から皆様には第1ラウンドを行っていただきます。ゲームは全部で6つです。一日に1ゲーム行います。時間はランダムです。ゲームに負ければ即この人生というゲームから脱落してもらいます。なにかご質問はありますか?」
ルール説明が終わった瞬間、雷雨が鳴り響いた。
「おいっ!!ほんとに人生を自分の思い通りにできるんだよなあ!!現実的に可能なのかよ。詐欺だったら許さねえぞ!!」
「ええ!!大丈夫です!皆さんはすべてを賭けてこのゲームに参加しているため、その覚悟を踏みにじるような事は絶対にいたしません。ご安心ください!」
貼り付けたような笑顔を浮かべながらもゲームマスターと思わしき人物は語る。その姿はどこか不気味だった。
「質問はこれだけですか?」
「はい!手紙が届いたのが急だったので動きにくい格好なんですけど、着替えることはできないんですか?」
「出来ます!これからみなさんが休憩時間に過ごす部屋に案内するのでその時に着替えることが出来ます。」
女性の質問が終わるともう皆質問がないようだった。私も質問は特にない。
「では、皆様には移動していただきます」
そうするとガスが体育館に放出された。
「なにこれ?なんだか急に眠くなって・・・・」
私はそこで意識を切らした。
「ここは?」
私は小さな個室で一人寝ていた。ベットと、机、冷蔵庫、本があり、窓はなく、ドアは鉄製で少し錆びており、ドアのところの窓は鉄格子となっていた。窓の外は暗く、外がどうなっているのかも全くわからなかった。部屋があまりにも質素すぎるので少し怖かった。
「ここどこ?さっきの人たちは?」
頭が混乱しているなか、アナウンスが流れた。
「この部屋でゲームが開始するまでここで過ごしてもらいます。ゲーム会場に案内されるまでは出ることは出来ません。あと、ランダムに選ばれた服が机においてあると思うので、それを着てください。もうすぐ朝食の時間になると思うので食事をお持ちいたします。ゲーム開始は3時間後です」
「朝ごはん?もうそんな時間たったの?!!」
時計がないから、今何時なのかもわからない。感覚狂うなあ。でも、
「バイト忙しくて本全然読めなかったから嬉しい!!本読んで待ってよう!あ、あと着替えなきゃ!」
机の上には、ジャケットにスカート、これからゲームをするとは思えないほどきちんとした服装だった。
「これは、なんかデイーラーみたいな服装。まさか、ギャンブルとかじゃ、そんなわけないよね!お金なんて持ってないし。私、社会の底辺だよっ?そんなわけないない」
そんなことを考えていると。
「食事をお持ちいたしました」
扉のところから食事が出てきた。もう、食事の時間になったらしい。
「あ!私の好きなメロンパンだ!それにリンゴジュース。私の好みなんで知ってるんだろう?」
ゲームの待ち時間にしては、あまりにも親切な待遇に少し驚きながらも、全然味わえてなかった時間を有意義に過ごそうと思い、朝ごはんを食べながら本を読んだ。どれくらい時間が経っただろうか。本を1冊読み終わった頃にまた、アナウンスが流れた。
「ゲーム開始時刻になりました。皆さん、着替えは済ませましたか?これからゲーム会場に向かいます。黒服の人の後をついて行ってください。」
ガチャッ。扉のロックが解除される音がした。先程とは違う声質で少々驚いた。
「さっきは人の声で明るかったのに、AIの声になってる・・」
さっきの娯楽のような時間から現実に戻らされた気分になる。どんなゲームなんだろう?色々なことを考えながら、薄暗い不気味な廊下を進む。ポタッポタッ。水が落ちる音が聞こえる。
「ここで待機していてください。第一ゲームのルール説明があります。」
案内されたのは貴族達が暮らしているような大きな大広間だった。なぜか、服装と雰囲気があっていて怖い。
「まさかだけど、私の勘当たってないよね?」
「みなさ〜ん!お集まりいただきありがとうございま〜す!」
子供のような無邪気な声が響く。
「第一ゲームはズバリ、ペアブラックジャックで〜す!」
ペアブラックジャック?ブラックジャックは聞いたことあるけど、このゲームは聞いた事・・ない。
「ルールは簡単だよっ!!この参加者の中からランダムにペアが選ばれるからね、その人とデイーラとブラックジャックをするだけ!ゲームは全部で10ターン。一人ずつチップが10枚配られるよっ!毎ターンごとに参加費としてチップを一枚賭ける。そうして、コールするか、レイズするか決めるよっ!」
つまり、ギャンブルをして勝ち抜けってことか。もしかして勝者は1ペアだけ・・とか?
他の参加者も同じことを思ったらしく、空気が重くなる。
「1部屋デイーラとペアが5組!最終的にデイーラーよりもチップの枚数が大きければ勝ちだよ!いい、デイーラーよりも・・ねっ!あ、あと、ゲーム10ターンのうちにチップがすべてなくなったペアはそこで脱落ね!」
そうか、デイーラーよりも多ければいいのか。つまり、ペアは何組も勝てるってことだよね?できればみんなで勝ちたい。
「普通のブラックジャックだと思うでしょ?でも違うのよねえ。まず、一人1枚カードが配られる。カードは自分しか見れない。そのペアのカードの合計が21より近い人が勝ちでチップをすべてゲットできる!でも全員21バーストしていたら、カードが一番大きいペアが勝ちになる!勝って得られたチップはペアで誰が持つか決めてね!」
相手との信頼関係・・。ううっ。そんな短時間で築けるかな・・。私、自分の意見言うの苦手なのに。学校で友達1人もいなかったんだよ?やばい、第一ゲームで敗北とか洒落にならない・・。
「10分間のシンキングタイムがあるけど、その場から動くことは出来ないから、場に会話は公開されるから注意してね!シンキングタイムのあとは1人ずつヒットするかスタンドするか選べるから選んでね!あと、相手がオールインしたら、枚数差があってもオールインすること!説明は以上!一発で全部覚えるのは難しいと思うから、みんなにルールをまとめたカードを配るね!まあ、最初のゲームだし、親切にしてあげないと・・ね!じゃあ、みんな頑張ってね〜!」
え?会話は公開されるの?つまりカードを教え合っても聞かれるから確実に負けるじゃん!!さっきとは程遠いぐらい明るい声に度肝を抜かれてしまった。明るすぎない?しかもギャンブルじゃん!私の予想当たってるじゃん!もう嫌だあ。ギャンブルしたことないって。しかも社会の底辺にいるような人たちばかりだから、ギャンブルめっちゃ強い人とか中にはいるんだろうな・・。ひええええ。配られたカードの下には、あなたのペアは花月海ですと書かれていた。誰だろう?非協力的な人だったらやだなあ。お願い!ギャンブルに強い人であってくれ!!私のペアを探していると同じ高校生ぐらいの女の子が話しかけてきた。
「ねえ、もしかして、雨宮雪菜?」
とてもキリッとした目で美しい顔立ちをしていた。青色の長い髪で何だろう。立ち姿が凛としている。私とは大違いだ。私なんていつもおどおどしてるのに。
「は、はい!えっと、雨宮雪菜です!あなたが、花月さん?」
「そうよ。よろしく。」
彼女の背中はとても大きく見えた。体は華奢なのに。
「あの・・みんなで協力して勝ちましょう・・ね!」
すると、彼女はとても冷ややか目を向け、はっとため息を付いた。
「・・お気楽なもんね。ギャンブルの世界じゃ、あんたみたいな自分の芯がなくておどおどしてるやつ、一瞬で潰されて終わり。」
「え?」
彼女はギャンブルについてよく知っているようだった。壁に背をもたれかけ、腕を組みながら話を進める。「あんた、何歳?」
「・・17です。」
「私は16。あんたみたいなのが年上だなんてね。笑えるわ。」
確かに。とても大人っぽい。何だろう。いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた目をしてる。
「私がこのゲームに来る前、何やってたか知ってる?」
私は少し考えながらも答える。
「・・もしかしてだけど、危ない道で生きてきた?」
彼女は、少し笑いながらも答えた。
「だいせいか〜い。そうよ!私は、ヤクザのトップの女だったの。だから、こういうギャンブルとか裏社会で行われてるような事はよく知ってる。簡単だなんていってるけど、甘いわね。あんたみたいな性格じゃ生き抜いていけないよ。」
彼女は、本気で人生を変えようとしている覚悟の目だった。鋭く目が光る。
「あのペアを見てみな。信頼関係じゃなくて支配してる。あの目は濁ってる。あのペアのどっちかは確実に脱落するね」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「目を見れば一発さ。そいつが強いのか弱いのか。」
裏社会で培った生存本能。彼女がこのゲームでの強者でいる理由のようだった。強者、少なくとも私は今弱者で彼女は強者だ。私と違い、芯があるのを身にしみて感じる。
「でも、どうして蹴落とすの?みんなで勝てばいいのに」
彼女は呆れた目で私を見てきた。
「こういうゲームは裏切りとか人間の本性が現れるように設計されていくもんなんだよ。そんな、理想論みたいな考え、通用しないから。どんな犠牲を払ってでも手に入れる。あんたも覚悟決めな。」
「私の事も・・裏切るの?」
「・・さあね。利用価値があるかないか判断した結果次第かな。」
彼女は目を伏せた。
「・・私はどんなことがあっても裏切りたくないな。信頼・・してるから、よ、よろしくね、花月さん」
純粋な目で見つめる。彼女にとっては珍しい人間だろう。裏社会の現実を知らぬ目、人間の土壇場での非情さを知らぬ美しい目だった。少し、彼女は考え込みながらも
「・・不思議。まあ、せいぜい脱落しないようにこれからも頑張ってね〜、・・部屋行くよ」
そう言って部屋に入っていった。




