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第三話「思わず泣いてしまいました」

お待たせしました。第三話です。

ルーナは両親に会えるのでしょうか。

 朝の身支度を終え、カリアの案内で食堂へ向かっている俺ことルーナ。相当気分が良いのだろうか、カリアは鼻歌混じりで浮き足立つように歩いている。あまりの可愛さについちょっかいをかけたくなってしまう。


「カリア、いつどこで、誰が見ているのかわからないのですよ?どのような状況であろうとも粛然とした態度でいるのが、仕える者としての役目ではなくて?ちょっと嬉しいことがあったからとはしゃいでいては主人である私、ひいてはカトラス家の名に泥を塗ることにもなりかねませんのよ?」


 決まった。これは悪役令嬢っぽい発言なのでは?……って脱破滅ルートを辿ると決めたばかりなのに、なんで悪役令嬢ムーブをかましてしまったのだろうか。これでは、これまでのルーナに逆戻りではないか。

 とはいえ、一度放った言葉は取り消せない。覚悟を決めて、カリアの返答を待つ。


「申し訳ありませんルーナ様!以後気をつけまあす!」


 文言としては反省そのものだが、妙に声色がうわずっている。指摘したはずの歩き方も全然直ってないどころか、更に足が上がりだしたようにも見える。

 呆れるを通り越して、ここまでくればもう愛おしさすら感じてしまう。年上なのに、妹を見ているような気分だ。……俺1人っ子だったけど。幸い、自室からここまで誰ともすれ違ってはいないので、カリアを咎めるのはここまでにしておこう。


 そうこうしているうちに食堂へ辿り着く。いよいよルーナを超甘々で育てたという両親との対面だ。今の俺にとっては実の肉親なはずなのだが、何故だか会うことに対して妙な緊張感を覚える。

 そんな俺の心境はつゆ知らず、カリアが食堂のドアを開ける……が、そこにいたのは少しくすんだコックコートに身を包んだ恰幅の良い中年男性のみだ。俺はルーナの記憶から目の前にいる男の名前を探し出し、声をかける。


「ダン、ご機嫌よう。……お父様とお母様はどちらに?」


「ルーナ様、おはようございます。ギルバート様と奥様は、急な仕事が入ったと、朝食を終えてすぐ発たれました。まあ、娘の顔を見ずに出るのは嫌だと最後まで粘っていたようですがね……」


 俺の問いにダンは苦笑しながら答えた。ちなみにギルバートとはルーナ、つまり今の俺の父親の名だ。ダンの表情から察するに、相当駄々をこねたのだろう。食堂に来るまでほとんど他の使用人たちを見かけなかったのも、恐らくこれが原因か。

 まだ会ってもいない(ルーナとしてはいつも顔を合わせているが)内からこの有様とは、実際に会ってしまったら果たして身が持つかどうか分からない。……色々考えていたらお腹が減ってきた。両親への対応は、腹ごしらえをしてからにしよう。

 ダンに朝食の用意をするよう伝えると、すぐにテーブルに食事が並べられた。香ばしい匂いのロールパンに、食欲が唆られるような、具沢山なホワイトシチュー。「いただきます」と手を合わせ、早速シチューを口に運ぶ。口に入れる直前、ダンが「えっ」と声を漏らしたのが聞こえたような気がしたが、気にせず食べる事とした。

 ……美味い。美味すぎる。食べやすい硬さになるまで調整されて煮た野菜たちに、濃厚でクリーミーなルウの組み合わせがたまらない。そしてそれ以上に、とても心が温かくなった。俺は料理ができなかった訳ではないが、食事はいつも出来合いのものばかりだった。そのせいか、前世の俺は「食事を楽しむ」ということをすっかり忘れていた。作る人が、食べる人の事を想って作られた料理とは、これ程までに心を動かすものなのだろうか。

 

「ルーナ様?!大丈夫ですか?!」


「ルーナ様……!もしや、お口に合いませんでしたか?」


「え……?」


 2人揃って何を慌てているのかと不思議に思った矢先、俺の頬を何かが伝う感触がした。――間違いない。涙だ。俺は感嘆した。感動こそすれど、食事で涙を流すとは夢にも思っていなかったからだ。俺は急いで涙を拭き、2人に謝罪と弁明をする。


「……失礼。あまりの美味しさに感動してしまって。ついはしたない真似を」


 俺の謝罪を聞くや否や、今度はダンの方が涙を流し始めた。


「……ってダン?!あなたこそどうしたの?!」


「おおお……頑なに野菜を食べようとしなかったルーナ様が、野菜を口に運んだだけじゃなく美味しいとおっしゃる日が来るとは……!」


 その言葉を聞いた俺は再びルーナの記憶を頭に巡らす。……ああ、ダンの言う通り、ルーナは大の野菜嫌いで、ダンはなんとか克服させようと野菜をふんだんに使った料理を出す度にルーナは癇癪を起こすという流れが日常茶飯事だったようだ。ダンが泣いたり「えっ」と声を漏らすのも納得だ。

 それにしても、毎日こんな料理が食べられるのであれば、学園に通う時や万が一この家にいられなくなったとしても、この料理が食べられるとなれば大きな心の支えになるだろう。それに、人間関係の構築にも有効に働く場面があるはずだ。とはいえ、あちこちダンを連れ回すという訳にもいかない。彼はこのカトラス家の料理長だ。そのためには……こうするしかないな。


「ダン。折入って相談があるのだけれど」


「はい、なんでございましょう。昼食や夕食のリクエストならば受け付けておりますよ」


「それは嬉しいのですが……その話では無いのです」


 普段ならばその提案は大変喜ばしい。だが、これは将来に関わる話だ。今一度ダンの方に体を向け、俺の真剣さを余すことなく伝えるべく、彼の目を見ながら改めて口を開く。


「ダン。私に――料理を教えてちょうだい」

最後まで読んで頂きありがとうございます。

第四話は2月4日公開予定です。

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