第二話「使用人を驚かせてみました」
お待たせしました。第二話です。
いよいよ異世界編突入です。
『月と魔法のプリンセス』通称『月プリ』。中世ヨーロッパ風の異世界が舞台であり、魔法や魔物といったファンタジー要素も盛り込まれた女性向け恋愛ゲーム。
貴族や王族が魔法技術を磨くために通う学園に、希少な聖属性魔術の素質を持って生まれた平民『メリア・クエリー』が入学するところから物語は始まる。
聖属性という特異体質はもちろん、メリアの人柄に惹かれた攻略対象達が徐々に距離を縮め、卒業式の日に誰かと結ばれればハッピーエンドだ。
さて、そんな世界にやってきた俺は『ルーナ・カトラス』に転生した訳だが、ルーナがどういう立場というと……メリアのライバル、いわゆる悪役令嬢だ。
カトラス公爵家の一人娘として自由気ままに生きてきた為、性格は非常にわがままかつ傲慢。ゲーム中でも事あるごとにメリアに突っかかってくる。
普通ならプレイヤーからは忌み嫌われる存在でしかないのだが……俺は寧ろ心が跳ね上がっていた。なぜならば、俺はこのルーナが最推しなのである。
俺は男性向け、女性向け問わず両方プレイするのが好きだった。もちろん、到底他人には言えない趣味である事は重々承知の上だ。
だが、推しに転生したからと手放しで喜べる状況かと言われれば、答えは「NO」だ。ルーナは、メリアがハッピーエンドを迎えた場合、高確率で破滅への道を進む羽目になるのだ。その確率はなんと3/4。なんと75%の確率で、俺の人生は学園卒業と共に終了だ。その内容は国外追放に公開処刑……今思い出すだけでも凄惨なイベントだ。
じゃあ残りの1/4を選ぶしか無いだろと思った人も多いだろうが、そうは問屋が卸さない。あくまでさっきの確率はルーナ”自身”が破滅する道だ。残り1つは一家ごと破滅する最悪極まりないルートとなる。
ルーナが最推しだった俺にとっては、何故悪役令嬢というポジションだけでこんな目に遭わせるのか不服でしかなかった。
ルーナを死なせる訳には――不幸な目に遭わせる訳にはいかない。というか、2回も死ぬなんて真っ平ごめんだ。ルーナとして転生した以上、何がなんでも学園卒業までに出来ることをやり、ルーナにとってのハッピーエンドにしなければ。
幸い、俺が転生したのは6歳頃のルーナだ。設定資料によれば、ルーナは幼い頃から高慢かつわがままであり、使用人たちからも嫌われていたとか。だから今からでも印象を変える事は遅くないはずだ。まずは味方を少しでも増やす。これに限るだろう。
ある程度今後の方針設計を決め終えたタイミングで自室のドアを激しくノックする音が聞こえた。「どうぞ」と一声かけると、ドアが慌ただしく開く。
「ルーナさまあああ!ご無事ですかああああ!!」
けたたましい声と共に現れたのは、赤いボサボサ髪が特徴的な給仕服の少女だ。見覚えがある気がするが一体誰だったか……。見るからに使用人であることは間違いないのだが……。
もう適当に繕おうかと思った矢先、様々な記憶が脳裏を駆け巡った。これは――ルーナの今までの記憶か?ルーナがルーナとして過ごした記憶が、まるで昨日のことのように鮮明に思い出せた。記憶だけに留まらず、ルーナの所作、話し方、立ち振る舞いが手に取るように分かる。
「あらカリア。そんなに慌ててどうしたの?」
カリア。ルーナの専属使用人。ゲームではルーナが紅茶をこぼしてしまった彼女を厳しく怒鳴りつけるシーンがある。俺が思い出せなかったのは、目の前にいるカリアが、見たことのあるカリアの10年前の姿だったからだ。
「どうしたではありませんよお!お嬢様の部屋から叫び声が聞こえたら急いで来たんですよお!」
「ああ……そ、それはね……」
今後の方針を考えるのですっかり忘れていた。そういえば、鏡を見た時叫んでしまっていたと。まさか、「気づいたら女になっていてビックリしちゃいました〜!」なんて口が裂けても言えないし。さて、どう誤魔化そうか。
「ゆ、夢の中で素敵な王子様とダンスしていたのよ。夢が醒めて急に王子様がいなくなるものですから、つい驚いてしまったのよ……!」
……我ながらなんて酷い言い訳だ。考える時間が無かったとはいえいくらなんでもこれは馬鹿馬鹿しすぎる。夢と現実の見分けくらい子供だって簡単にできるはずだ。これは流石に……
「……なるほどお!夢の中とはいえ、王子様を虜にしてしまうなんて、流石はルーナ様ですねえ!」
「……え、ええ!当然でしょう!私を誰だと思っているのかしら?!」
マジか。これが通るのか。どうやらカリアは、俺が思っていた以上のアホの子みたいだ。こんなやつが使用人とは……大丈夫かルーナよ。
「……はっ!そうだルーナ様!雑談をしている暇はありませんよお!朝食の準備ができたから、お呼びするように言われていたんでしたあ!ご主人様と奥様も、既に食堂で朝食を食べられていますのでえ!」
「分かったわ。カリア、支度を手伝ってくれるかしら?」
素直に頼み事をする俺に思わずキョトンとした顔をするカリア。きっと今までのルーナならば、遅れたことに対し癇癪を起こしていたはずだ。それを覚悟していたカリアにとっては拍子抜けもいいところだろう。だが、破滅を防ぐ第一歩としてカリアはうってつけだ。
しばらく呆けていたカリアだったが、首を横にブルブル振って、満面の笑みを浮かべた。
「かしこまりました!ルーナ様!」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
第三話は2月1日投稿予定です。




