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第十六話「ごろつきに絡まれました」

お待たせしました、第十六話です。

今回はお休み回です。


「ルーナ様! 明日の休日、一緒に王都を見て周りませんこと?」


 武闘大会から一夜明けた放課後。英気を養うべくビュッフェでスイーツを頬張っていた俺に、同じくスイーツを食べていたマルシアが、クリームが頬に付いている顔を近づけ懇願してきた。

 ――王都か。確かに、こっちに来てからドタバタ騒ぎの連続で気を休める暇が無かったな。ここらで一つ、羽を伸ばすのもありかもしれない。それに、今の俺は学園の”生徒”なのだ。休みの日に友人と街にお出かけ……うん、実に良い響きだ。ただ、せっかくの外出だ。人数は多い方が楽しいだろう。


「ええ、もちろんよろしいですわよ。でも、行くならメリアも一緒にどうかしら?」


「わ、私もよろしいのですか……?」


 誘われると思っていなかったのか、メリアは目を皿にするかのごとく見開いた。


「私たちは既に友人……いや、親友とさえ私は思っていますわ。今更メリアを仲間外れにするなんてこと、私には到底できませんわ!」


「……ありがとうございます! では明日、よろしくお願いします」


 俺の言葉にメリアは持っていたスイーツを急いで平らげると、こちらに向かってお辞儀をしてきた。

 ……俺は既にメリアとは打ち解けたと思っていたが、メリアの言動には少し堅苦しさを感じる。真面目な性格ゆえ、公爵と平民という身分を弁えてしまっているのかもしれない。パーティでの一件があれば尚更だ。

 であれば、今回の外出はメリアとの距離を縮められる良い機会かもしれない。グッジョブだ、マルシア。


 外出するにあたって、気になっていることがもう一つある。それはメリアの服装だ。ゲームはほとんど一人称視点で進行するため、攻略対象とお出かけをしたとしてもメリアの姿はほとんど見えないのだ。

 それ故、SNSでは各々が想像したメリアのお出かけコーデのイラスト投稿が後を絶たなかった。ちなみに俺の想像は白い清楚なワンピースに薄めのショールを羽織っているというものだ。この想像が合っているかどうか、それも楽しみなのである。


 そして来たる当日。楽しみすぎてほとんど眠れず、集合場所にも予定より30分も早く到着してしまった。遠足の時の小学生かよと、自らの行動に思わずツッコミを入れてしまう。

 待つこと15分、見覚えのあるピンク髪の少女が駆け寄ってくるのが見えた。


「ルーナ様ああ! ご機嫌ようですわああ!!」


 元気な挨拶と共にマルシアが現れる。淡い色合いのブラウスに髪色とよく似た柔らかなスカートを合わせた、彼女らしい装いだ。


「あら、ご機嫌ようマルシア。今回の服も素敵ね」


「いえいえ、黒を基調にしたお召し物を華麗に着こなすルーナ様には遠く及びませんわ。……それにしても、随分と早いご到着ですのね?」


「そ……そういうマルシアこそ、まだ約束の時間までは時間がありますわよ?」


 俺の返しにマルシアも目を泳がせる。きっとマルシアも俺と同じ口なのだろう。お互いオホホと笑い合って誤魔化し合う。

 5分ほどそうしていただろうか。そろそろこの空気に耐えられなくなってきたところに、小走りに駆けてくる足音が聞こえた。どうやらメリアも到着したのだろう。


「ルーナ様にマルシア様、おはようございます……!」


「――!」


 その姿を見て、俺は息を呑んだ。白い髪によく映える白のワンピースに、肩から羽織っている淡いグレーのショール。まるで朝の日差しそのもののような彼女の姿は、俺がかつて頭に思い描いていたメリアそのものだった。


「ありがとう……ありがとう……」


「え……あの……え?」


 困惑するメリアをよそに、俺はしばらく優越感から溢れ出る感謝の言葉を呟き続けた。数ある予想の中から俺がピタリと的中させたのだ。俺の解釈が正しかったという事実に、喜びの涙を禁じ得なかった。


 その後なんとか俺は落ち着きを取り戻し、改めて王都の街へ繰り出した。一応護衛としてカリアやマルシアの使用人もいたが、なるべく3人で楽しみたかったので、少し離れた位置からついてきてもらうことで了承を得た。

 ルートやお店選びについてはマルシアが既に用意してくれており、その甲斐もあってスムーズに王都を巡ることができた。

 だが、その街中でもやけに周囲からの視線を感じた。武闘大会の優勝者ということもあり、ルーナの顔と名前はすっかり王都中に広まっているようだ。……何か面倒ごとに巻き込まれなければ良いのだが。


 そんな俺の嫌な予感は早くも的中することになる。マルシアが「ここのコーヒーが美味しいと話題ですの!」と選んだカフェに立ち寄った。テラス席に座り注文したコーヒーを待っていると、少し離れた席を陣取る男3人が、俺たちを見てはヒソヒソと何かを話しているのが見えた。見るからにガラの悪いザ・ごろつきといった出立ちだ。

 男たちはしばらくヒソヒソ話を続けたあと、一斉に立ち上がり俺たちのところへズカズカと歩いてきた。標的はもちろん俺だった。


「てめえがルーナっつうやつだな?!」


「……もしそうだと言ったらどうなるのかしら?」


「どうなるもこうも、てめえのせいで俺たちゃ大損こいたんだよお!」


「この落とし前、きっちりつけさせてもらうぜえ!」


 八つ当たりもいいところだ。おおよそどこかで武闘大会をネタにした賭博でもやっていたのだろう。そして男たちはジェイドに賭け、それで負けた。

 そもそもこの国では賭博自体が禁じられているはずなのに、それを堂々と明言するに飽き足らず逆恨みで俺たちの楽しいお出かけタイムを邪魔するとは……実に良い度胸だ。

 とはいえ、こんな街中で問題行為を起こして奴らに言いがかりを作る隙を与えてしまえば、どのような事態になるか想像もつかない。ここは耐えるしかないだろう。


「おいおい、ダンマリかよ? なんとか言い返してみろよ!」


「高貴なお貴族様は、俺らみてえな底辺なんざ相手にする価値すらねえってか?」


「それとも、お前の得意な魔術とやらで吹っ飛ばしてやるとでも考えてんのか? そうすれば、終わるのはお前たちの方だがなあ!」


 そう挑発しながら男たちはゲラゲラ笑い合う。聞くに堪えない言葉の数々だが、ここで返しては男たちの思う壺だ。マルシアも同じ思いからか、俯いたまま動けないでいる。

 本当に方法は無いのかと、何もできない悔しさに唇を噛み締めていた――その時だった。


「やめてください! これ以上ルーナ様に狼藉を働くのは、私が許しません!」


 なんとメリアが急に立ち上がり、男たちに向かってそう叫んだのだ。男たちにとってメリアは眼中に無かったのか、メリアの方を向いて呆然としている。

 正直メリアにこの状況をどうにかできるのか不安だったが、メリアの目に迷いは無さそうだ。ここは1つ、彼女を信じてみよう。

最後までお読みいただきありがとうございます。

第十七話は15日投稿予定です、

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