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第十五話「激闘を制しました」

お待たせしました、第十五話です。

武闘大会決勝戦……結末をお楽しみに!

 いよいよ決勝の舞台。今まで以上に沸き立つ歓声に普段なら耳を塞ぎたくなるが、今の俺はこの9年……いや、転生前を含めたとしても、これ以上無いと言えるほど意識を研ぎ澄ませていた。

 改めて対峙して分かる、ジェイドの威圧感。肌がピリつくかのような感覚。これまでの俺なら怖気ついていてもおかしくはないだろう。


「まさか本当に決勝まで上がってくるとはな。あの時お前をみくびったことは謝罪しよう。そして認める。お前は強い」


 これまでジェイドからは聞いたことが無かった素直な賛辞に、思わず少し動揺してしまう。俺も何か言い返そうと口を開こうとするが、ジェイドが「だが!」と言葉を遮り、こう続けた。


「俺だってスミス公爵家として、幼い頃から鍛錬をして強くなった自負がある! その努力を否定させないためにも、この勝負は負けられないのだ!」


 ジェイドの覚悟を聞いた瞬間、俺はなんとも言えない不思議な感覚に囚われた。――そう、俺とジェイドは似た者同士。理由は違えど、幼少期から自らの力を鍛え続けてきたのだ。いわば、これは2人のこれまでの人生を賭けた闘いなのだ。これは……本当に負けられなくなってきたな。


「私こそ、これまでに培ってきたものがあります! おいそれと負けるわけにはいきませんの!」


 俺も覚悟を述べ、腰を落として臨戦態勢を取る。それを見て、ジェイドも不敵な笑みを浮かべながら剣を構える。お互いの準備が万全なのを確認した審判が、高らかに試合開始を宣言した。


「ッシャアアア!」


 合図と共に、ジェイドが雄叫びを上げながら突っ込んでくる。闘い方はこれまでの対戦相手と似ている。しかし、他の相手とは比べ物にならないくらい速い。これではクロウ召喚やシャドーバインドは間に合わない。……仕方ない。早速だが、ジェイド対策として特訓した技をお披露目しよう。

 足に魔力を集中させ、それを放出させて一気に移動距離を稼ぐ。闇魔術の上級技の1つ、「ゴーストステップ」だ。元々は、その名の通り幽霊の如く宙に浮ける魔術なのだが、バランスを保つのが難しくてまともに練習したことは無かった。他人より身体能力の低いルーナではジェイドの猛攻を凌ぐのは困難だが、そんな体でも剣戟を交わすことができるようコニーが技の改良を提案してくれた。

 ただ、足から魔力を放出するのが案外難しく、1週間コニーにこってりしごかれた。……あれはまさしく絵に描いたようなスパルタだったなあ。まあ、お陰で当日までに形になったので良しとしよう。

 俺が元いた場所でジェイドが思い切り振り下ろした剣が空を切る。それが舞台の床に当たった瞬間、凄まじい轟音と共に大きな亀裂が床に走った。あれに当たればひとたまりもないのは誰でも分かる。


 だが、あれだけ大振りならば体勢を立て直す隙も大きいはずだ。その内に攻撃を……と思ったのも束の間だった。


「……ウオラアアアア!!」


「マジかよ……!」


 なんとあそこから無理矢理体勢を変えて再び俺に突っ込んできた。あまりにも人間離れした所業に思わず素の口調が出てしまったが、急ぎゴーストステップを発動させて攻撃をかわす。


 そこからもジェイドは休む暇なく、ただひたすら俺に猛攻を仕掛けてくる。それに対して俺は回避し続けることしかできなかった。これがジェイドの言う俺対策なのか。

 確かに、このままでは魔力よりも先に体力が持たなくなる。ジリ貧になるのは明らかだろう。何か解決の糸口は無いものかと、攻撃を掻い潜りながらも必死に突破口を探す。


(……ん?)


 よく見れば、ジェイドの攻撃によって舞台はズタズタになっていた。俺はゴーストステップで浮きながら移動できるのであまり影響は無いが、上手く使えばジェイドの動きを止めることができるかもしれない。

 それに、ジェイドの攻撃にもある程度パターンがあるのも分かった。ある程度距離が離れた時は上からの大振りで突撃、近ければ横に薙ぎ払い。距離を上手く調整すれば誘導もできそうだ。……よし、早速実践してみよう。


 次に来たジェイドの攻撃を大きくかわして、最初の一撃で入った亀裂を跨ぐように着地する。俺の読みが正しければ、距離が離れていれば――


「オラアアアアア!!」


 やはり来た。上段からの大振り。後はギリギリまで引きつけ、紙一重でかわす。ジェイドが振り下ろした剣は先に入っていた亀裂に直撃し、深く突き刺さった。あそこまで深く入れば抜くのにも多少時間はかかるはずだ。


「……クソ! 抜けねえ!」


 俺の目論見通り、ジェイドは剣を抜くのに悪戦苦闘している。この千載一遇を逃す理由は無いだろう。俺は急ぎシャドーバインドを発動させ、ジェイドを捉えることに成功した。


「……参った参った! 降参だ! 降参!」


 1回戦の相手みたいに抵抗することも予想したが、身動きがとれないと悟ったジェイドはあっさり負けを認めた。投了を聞いた審判が高らかに試合終了を宣言する。


「勝負あり! 勝者、1年3組ルーナ・カトラス!」


 優勝者の決定と共に、これまで以上の大歓声が響き渡る。それが全て俺に向けられたものだと理解した瞬間、優勝したという実感が突如として湧いてきた。嬉しさが込み上げ、歓声に応えよと一歩前に進もうとした――その瞬間だった。


「…………あれ?」


 足が動かない。それどころか、だんだん力が入らなくなっている。どうやら思っていた以上に体力と魔力を消費しすぎていたようだ。

 俺はやがて立っていることすらままならなくなり、後ろに倒れ込みそうになる。だが、そんな俺を助けてくれたのは、やはり彼だった。


「お疲れ様、ルーナ嬢。よく頑張ったね」


「あ……ありがとうございます……」


 後方で控えていたギースが駆けつけ、俺を受け止めながら労いの言葉をかけてくれる。優しく微笑みながら俺の顔を覗き込むギースに、思わず心臓が跳ねてしまう自分がいる。お礼を言うので精一杯だった。


「いやあ、負けたぜ! なかなかやるじゃねえかルーナ!」


 そう言いながら、ジェイドが笑いながら歩み寄ってくる。ギースの手を借りながらなんとか立ち上がり、近づいてきたジェイドと固い握手を交わす。


「ありがとうございます。ですが、ご覧の通り私はもう満身創痍ですわ。あと少し長引けば、勝っていたのはジェイド様だったでしょう」


「そう謙遜するなよ! 剣が抜けなくなったのだって、偶然というわけではないだろ?」


 互いの健闘を称えていると、コニーの時と同じような感覚に包まれた。今の彼とならば、きっと良好な関係を築ける――そんな予感がした。


 かくして、武闘大会で見事果たし「スイーツビュッフェ1週間食べ放題」という報酬を手に入れた俺たち1年3組。

 ……だが、その大会で圧倒的な存在感を見せつけた『ルーナ・カトラス』の名が王都全域に知れ渡ってしまったのは言うまでもない。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第十六話は12日投稿予定です。

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