第十三話「両親がやって来ました」
お待たせしました、第十三話です。
いよいよ大会当日……の前に何やらあったようです。
時は流れ武闘大会当日。会場には学園の生徒のみでなく、学園外からも試合を一目見ようと観戦客が集まってくる。それに乗じて出店も幾つか出されるため、さながら一種のお祭りのようだ。
更には、一般客のみならず王家直属の騎士団や宮廷魔術師といった人々も観戦に来る。さしずめ将来有望株のスカウトも兼ねられているのだろう。
さて、そんな武闘大会に出場することになった俺は、出場生徒が入る控え室にて精神を集中したかった――のだが、とある事情により困難を極めていた。
「ルーナ嬢、喉は乾いていないかい? 良ければお茶を入れてあげよう」
武闘大会のルールとして、出場生徒につき1人付添人(いわゆるセコンド的役目をする人)を付けることができる。俺は確かメリアにお願いしていたはずなのだが、目の前にいるのは紛れもなくギースだ。
ギースに理由を訊ねると、お茶を俺の前に差し出しながらこう答えてきた。
「せっかくのルーナ嬢の活躍を、観戦席から観るだなんてもったいないだろう? せっかくなら特等席で君を観たいとメリア嬢に話したら、快く付添人の権利を譲り渡してくれたよ。あの子は実に誠実で優しい。彼女が君の友人でいてくれて本当良かったよ」
毎度のことながら、ギースの行動力には恐れ入る。ここまで来てしまっている以上追い返すわけにもいかないので、ここは大人しくギースの援助を受け入れよう。
ギースが淹れてくれたお茶を嗜んで改めて心を落ち着かせようしたのも束の間、今度は控え室のドアをノックする音が聞こえた。「僕が出るよ」とギースがドアを開けたその瞬間、入口から飛び出した人影が俺に迫り、抱きついてきた。
「ルーナああああ! 会いたかったわあああ!」
そう泣き叫びながら俺の懐に飛び込んできたのは、俺の母、ソニアである。実は出場が決まったあの後、俺は両親にその旨を伝える手紙を書いて送っていたのだ。観に来るだろうとは思っていたが、まさか控え室にまで入り込んでくるとは。まだ離れてから1ヶ月も経ってないというのに、まるで数年会っていなかったようなテンションのソニアに、思わず苦笑してしまいそうになる。
「……ソニアよ、ギース第二王子の御前だぞ。はしたない真似は慎みたまえ」
そう言いながらソニアに続いて、父ギルバートも入ってくる。ギルバートはギースの存在に即座に気づき、ソニアを諭したようだ。
「あら、ごめん遊ばせ。無礼をお許しくださいギース王子。……それにしても、何故ギース王子がルーナのところにいらっしゃってますの?」
「確かに……言われてみればそうだな。失礼ながら王子よ、お答えいただいてもよろしいですか」
2人の疑問も尤もだ。何故なら、”あの件”は2人にはまだ伝えていないのだ。伝えたらなんて言われるか分かったものではなかったからだ。……まあもう間もなく知ることになってしまったが。
「ギルバート公爵。ソニア夫人。挨拶及び報告が遅れてしまったこと、まずはお詫びしよう。そして私、ギース・クロムウェルは、ルーナ様に婚約の申し入れをさせていただきました」
「こ……こ……こん……」
「……やく……だと……?」
見るからに動揺しまくっている両親は、驚きで丸く開いた目で俺を見つめてくる。あまりにも痛く刺さる2人の視線に、思わず目が泳いでしまう。
我が娘が王子から婚約という願ってもない話に2人は大手を振って喜ぶかとも思ったが、意外にも2人はすぐに冷静さを取り戻して再びギースに問いかける。
「……それで、ルーナはなんと?」
「私の方から、返事はまだしなくても良いと伝えています。まだ会ってから日も浅いですし、もう少し関係を深めてから改めて答えを聞こうかと」
ギルバートが「そうですか」と一言告げると、2人は俺に向き直る。
「ルーナよ。これは一生に一度訪れるかどうかの大切な縁だ。有耶無耶にせず、必ず答えをだすのだぞ」
「ルーナ。あまり殿方を待たせるものではありませんよ?でも、だからといって適当に答えるのはダメ。きちんと誠実に、彼の想いに向き合ってあげてね」
両親からの実直なアドバイスに思わず鳥肌がたった。これまで俺は、ギースを破滅への特大な要因という、ゲームによる先入観でしか見ていなかった。これは俺の第二の人生でもあるが、ルーナの人生でもある。これからは俺だけの価値観に囚われず、しっかりギースや周りの友人たちに向き合わなければ。
「ありがとうございます。お父様、お母様。2人のお言葉、しかと胸に響きました。このルーナ、より一層気を引き締めて学園生活を送りますわ」
俺は感謝の意を両親に伝え、一礼した。それを見た2人は深く頷く。やがて、ギルバートが「試合、楽しみにしているよ」とだけ告げて2人は部屋を後にした。
両親がいなくなってからしばらく静寂が続く中、ギースが口を開いた。
「素敵なご両親だったね。あのご両親あってこその君なんだと、心の底から実感したよ」
「……ええ。私の、自慢の家族ですわ」
両親への素直な褒め言葉に、思わず俺も嬉しくなってしまう。やはり家族とは良いものだ。思わぬサプライズに目が潤んでしまいそうになるが、大会開始まであと僅かしかない。両親の期待を裏切らないためにも、今は目の前のことに集中しよう。
「では、私たちもそろそろまいりましょう……!」
少しぬるくなったお茶を飲み干して気合いを入れ直した俺は、ギースと共に歓声沸き立つ会場へと足を踏み入れた――!
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第十四話は6日投稿予定です。




