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ルートヴィッヒ視点

 ユリアンナと2人きりで会えるのは毎週水曜日の14時から1時間。


 その日をどれだけ待ち望んでいるか。ユリアンナは知らない。いや、私に気の無いユリアンナに知られてはならない。

 神龍の子孫である王族の番への執着は有名だ。彼女を確実に捕まえる前に逃げられてはたまらない。


 毎週1時間のお茶会の時間を確保する為に必死に働き予定を調整し、彼女の好みそうなお菓子を用意する。

 初めは町で評判のパティスリーのものを取り寄せていたが、番を餌付けしたい神龍の血が騒ぐのか、彼女に自作のお菓子を食べて欲しくて、お茶会の片隅に用意するようになった。

 

 1時間のお茶会で決してお菓子を食べることのない彼女にお土産と称して自作の菓子を忍ばせ始めたのはいつだったか。

 

 帰り際に彼女から数多の菓子の中から自作の菓子をまた食べたいとリクエストされるようになると舞い上がるように嬉しかった。


 毎週たったの1時間二人きりで過ごせる夢の時間。彼女の姿を目に焼き付けようと彼女の一挙一投足を必死で追った。


 気の利いた会話の1つでも出来たら良いのに、ただただ指先1つの仕草すら完璧な彼女の所作を見ることしか出来ない。


 今日のミルフィーユは甘くて美味しいよ。いちごから育てたんだ。ユリアンナは食べてくれないけれど、目が追ってるから、お土産に入れよう。

 溢れやすいミルフィーユを食べさせてあげたい。口についたクリームを舐めたい。甘いんだろうな。


 ユリアンナがこちらを見た。あぁ、幸せだ。愛おしい番に認識されている。

 いつもは、無視されているもんな(泣)しくしく


 私の色を纏ったユリアンナ可愛い。また、貢ぎたい。理由なく贈ると彼女が嫌がるから何か理由を見繕わねば。

 ユリアンナ、実は私も毎日君の色に包まれたくて君の黒髪色の軍服を作ったんだ。ボタンは君の瞳と同じ暁色。毎日着れるように制服にしたんだ。

 なんて、バレたらひかれるから言えないけれど…。


 ユリアンナ、我が番が愛おしくて堪らない。この時間が永遠に続けば良いのに…


 無情にも砂時計の砂がサラサラと落ちてゆく。


 私の至福の時が終わりを告げる。



 馬車までユリアンナをエスコートする。可愛い可愛い番に堂々と触れられるチャンスだ。


 なんて華奢なんだ。手に力を入れたら、危うく壊れてしまいそうだ。


 誘うように甘い番の香りにクラクラした。理性を総動員して努めて紳士的に振る舞う。これぞ神龍の生殺しだ。天国なのか地獄なのかわからないくらい幸せで残酷な時間だ。


 土産を渡せば彼女を手放さなければならないこの時間は神龍の子孫にとっては生木を引き裂かれる程辛い時間だ。

 番を見つけた神龍の子孫達は番を離さない。なのに私は…。

 

 始祖たる神龍が子孫にかけた制約は絶対だ。番に無理強いしないように、王族から番への結婚の申し込みも、髪を捧げて番になりたいと希うこともたったの一度きりしか赦されない。


 例え番になれなくとも、『大人になったら結婚しようね』とユリアンナが言った発言だけは有効なのだ。

 結婚は出来る。番には出来なくともドロドロに甘やかしたい。



 お土産を見つめるユリアンナのうれしそうな顔。この顔が見れた、だだそれだけで幸せになる。

 いっそこのお土産になりたい…。連れて帰って欲しい。ユリアンナに食べられるなら本望だ。


 先週公務の合間をぬって焼いた洋ナシのタルトを褒めてもらえた。愛おしい番が食べてくれる、それだけの事で幸せになれる。ミルフィーユよ、美味しく食べられてくれ。


 無事、結婚出来た暁には、憧れの餌付けをしよう。番になれなくともかまうものか。膝に乗せてあーんしながら食べさせたい。

 いやいや、結婚したなら、もっと…。


 ゲフンゲフン、いかんいかん。これ以上不埒なことを考えては。



 たった週一度のお茶会すら、忙しさにかこつけて辞めようと提案してくるユリアンナは私が好きではないのだろう。


 きっぱり番を断られたあの日。ショックに打ちひしがれる私に同情した彼女が軽い気持ちで口にした言葉を逆手にとって婚約に漕ぎ着けたにすぎない。  


 仮の婚約者。王族の婚約者は番が見つかるまでの代打にすぎない。だからそう呼ばれ彼女も安心しているのだろう。彼女の周りには婚約解消後の彼女の婚約話が話題だ。


 彼女の相手として名が挙がったものにはパーティーの度に牽制し、そっと手を回し縁談を世話する。


 ユリアンナを私以外の者に渡すつもりなどないからな、せいぜい幸せになれよ。


 



 成人まであと半年。


 血の制約が解除されるその日が待ち遠しい。


 ルードヴィッヒは帰宅するユリアンナを見えなくなるまで見送った。

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― 新着の感想 ―
手作りだったんですね…!! いちごから育てていたなんて…体を構成する食べ物を、自らが作ったもので埋めつくしたいくらいなんでしょうね、公務が忙しくて泣く泣く諦めていそうですが。 この想いの重さ、すれ違い…
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