後編
「今日はありがとう。楽しかったよ。」
全く楽しく無さそうな無表情のルードヴィッヒから手土産をもらう。流れるようにさりげないエスコートが心憎い。
ルードヴィッヒめ、なんて良い匂いなんだ。見た目も声もマナーまで完璧人間のくせに匂いまでとは…。
毎回いただくそれはお茶会に出たお菓子の中からルードヴィッヒが厳選したお勧めのお菓子なのだそうだ。
多忙を極めるルードヴィッヒが厳選したのは建前だろうが、ユリアンナはこのご褒美欲しさに苦行のお茶会を耐えていると言っても過言ではない。
だから、心からの笑顔でお礼を言う。
「殿下からのお土産、毎回楽しみにしておりますの。前回の洋梨のタルトなど絶品でしたわ。」
お礼とともに次回のリクエストをぶっこむ。
こうしておけば、無駄に記憶力の良い殿下の事。来週には洋梨のタルトをお土産に入れてくれることだろう。ふふふ。
「そうか、気に入ってくれたら嬉しい。次回も用意するとしよう。今日はミルフィーユがお勧めだよ。」
やったわ。あのミルフィーユが食べられるのね。自宅で気兼ねなく食べましょう。
にんまり笑っていると、ふとルードヴィッヒがはにかむように微笑んだ。心なしか顔が赤い。
近距離で食らったその破壊力にユリアンナは悶えた。
ただでさえ綺麗すぎる顔に表情が乗るだけでも危険なのに。はにかむなんて、なんて危険なのかしら。
ほんのり赤くなるなんて、カッコいいからの可愛いギャップは反則技よ。
危うく悶え死ぬところだわ。命があるうちに退散せねば。
ルードヴィッヒめ、乙女の恋心を弄びやがって。
「それでは、殿下。また、来週。」
あらっ?ルードヴィッヒの顔から表情が抜けたわ。美人の無表情ってなまじ整っているだけに本当に怖いわね。夜中に見たら悲鳴あげるレベルだわ。
私、何か地雷踏んだかしら?
そういえば、殿下は最近お忙しいとか。いい加減この無駄なお茶会も無くせば良いのに…
そうだわ、私毎週お土産だけ届けていただければ…。
「殿下、最近お忙しいとお伺いしましたわ。お忙しければ…」
「ユリアンナ、週一度のお茶会は婚約者の義務だ。わかっているよね。それと、もう半年もしないうちに夫婦になるんだ。殿下なんて他人行儀な呼び方いい加減止めてほしいな。」
ひぐっ。いきなり呼び方を変えろなんて…。半年もしないうちに夫婦なんて全く実感がわかないわ。
そもそも結婚式当日に番に出逢うかもしれない王族との結婚。全く信用出来ない。
だが、いつになく真剣なルードヴィッヒにとりあえず呼んでみる。
「ルードヴィッヒ様。」
へへっ、どうだ。満足かい?
「様はいらない。それとも昔のようにルーとユーリで呼び合う?」
私の耳元で囁いた殿下の低音ボイスにゾクリとする。エスコートで腰に回った腕の力が強まり、抱きしめられているような感覚を覚えた。
ひぃー。殿下。色っぽすぎますよ。仮の婚約者には過ぎたる刺激です。
ふぅーっと息を吐いて、軍服の詰襟のボタンを外すの止めてくれませんか?黒地に暁色のボタンが私の色合いに似ていてドキッとするのですよ。
目のやり場に困るくらいの色気にクラクラする。
心臓のバクバクが止まらない。きっと顔が真っ赤になってるんだろうな。
無駄な色気を仮の婚約者に使わないで、早く番を捜してくれ。
心臓に悪い。