表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

座敷牢

作者: 白山菊理

「待ちぼうけ、いくつ数を数えてもあなたは絶対にやってこない。」


座敷牢の中に着物姿の少女が一人。

彼女は生贄になる為に育てられ、この座敷牢から一歩も外へは出たことが無い。


「壱つ、弐つ、参つ……」


彼女が外へと出るときは、生贄になるその瞬間。


足には鎖。決して壊れることの無い鉄格子。運ばれてこない食事。

彼女は分かっていた。生贄になる瞬間だけ外に出られることと、その瞬間は訪れないことを。


「来ない、決して来ないのよ。そうでしょ?」


彼女は誰に問いかけているわけでもなく、微笑を浮かべながらそう呟いた。


「お母様、貴女は温かかった。その温もり、私は今でも覚えています。」


そっと、自分の唇に手を当てて。


「お父様、貴方の厳しさを私は今でも覚えています。」


妖艶に微笑みながら。


「お兄様、貴方は私と随分長いこと一緒でしたね。でも、今日でお別れです。」


彼女はカプッと上品に、それに牙を立てた。

それ、それは人間のであったもの。人間の一部であったもの。腕という名の肉片。

彼女にとってはそれが最期の晩餐であった。







「ねぇ知っていて?山の麓に広がるあの森の奥深くに食人鬼が住んでいるんですって。」


「ええ、その噂なら知っているわ。没落貴族のお屋敷でしょ?生まれた娘は突然変異で人肉しか受け付けず……って噂よね?」







人に相応しいものを食べろと、初めて人肉を食べた時にお父様はそうおっしゃった。

初めての肉は女中のモノ。これを食べなきゃ私は殺されるところだった。でも、食べても同じ。私は座敷牢へと入れられ、そこで餓死してしまうまで繋がれるはずだったの。

それを不憫に思ったお母様。お父様を殺して私にくれた。そして、お父様が完全にいなくなってしまうと、座敷牢の中で自ら首を切り、肉片…私の食事になったの。それを見たお兄様は、私を殺そうとした。でもね、勢い余って自分で自分を刺してしまったの。こうして私の食事は増えたわ。

でも、今日で終わりね。



彼女は「餓死」への生贄に。飢えと言う名の死神の手に掛かり死んだ。

けれども牢からは出られなかった。

出してくれる人がいなければ、出られる筈も無いのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。 偶然この不思議な作品に出会いました。 読み進めるうちに、頭の中に、脳内麻薬が滲み出て、現実世界から、異界へと引き込まれてしまいました。 山の中に密かに眠る朽ちかけたお屋敷。…
[良い点] 幻想的で、個人的にめっちゃ好きでした^^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ