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7.男、更なる高みを求めるべし

 私も強くなりたい――紗璃菜の訴えを聞き入れたその日から、義零の新たな戦いが始まった。


(あいつの目は本気だった……ならば俺も、それに応えるだけだ)


 義零は久々に闘争心が湧いた。 

 ひとりの女性を美しく、そして強く仕立て上げるのも立派な戦いだ。これを意気に感じないのは、ただの腰抜けだとすら思った。

 その為にはまず、下らない女共に舐められぬ程の整った顔立ちへと変貌させる必要がある。

 素材の美しさを徹底的に引き出し、誰もが一目置く美貌を現出させるのだ。

 義零は紗璃菜の輪郭、目鼻立ち、髪質、そして肌質などを事細かに観察し、それらを全て画像に取り込んで解析を進めた。

 彼の師匠である源次郎は意外にも、美容方面に多くの知己が居る。その伝手を頼らせて貰った。

 義零自身には女性を美しく仕立て上げる為のスキルも知識も無かったが、源次郎の紹介で数多くの美容関係者と顔を合わせ、紗璃菜に必要な、或いは最も効果的な美容術を短期間で一気に学んだ。

 次いで義零は学校内外で紗璃菜と連絡を取り合い、自らが学んだ美容術を施し、或いは紗璃菜本人に実践させていった。

 バサバサで潤いを失っていた髪へのケア。

 太くて何の手入れもされていない眉のスタイルアップ。

 もともと二重でぱっちりと大きく開いていた瞼への見栄えするメイク術。

 更にはかなり良い加減に施されていた従来のスキンケアの見直し。

 義零は今すぐに出来ることは、全てやり尽くした。

 鼻先や口元、頬の造形はもともと良いものを持っているのだから、それら以外の全て改造すれば別人の様な美女が誕生するに違いない。

 一方で、ボディラインの強化には更に時間がかかる。

 食事の見直しや適切な運動のメニュー化などは一両日中に終わらせたが、それらを継続して実践させても、彼女のカラダに変化が現れるまでには今少し時間を要するだろう。

 だからこそまずは、首から上の部分に集中しての美貌強化に急ぎ着手した。

 肌質と髪質の改善にはそこそこの日数を要するが、外的手段で改善可能な部位は早い段階から知識を吸収させて、日々練習を重ねさせた。


「自分の美容にこれだけ時間をかけるのって、初めてです」

「なら、すぐにでも慣れて貰うぜ。てめーはまず外見から強くなる必要がある」


 休み時間の合間に、こんな会話が一体何度交わされたことだろう。

 義零は授業以外の全ての時間を、紗璃菜の美容強化伝授に費やした。更に放課後も彼女と一緒にコスメ用品の買い出しや、美容関係者との顔合わせ、会合などに使った。

 そうしてゴールデンウィークが間近に迫った頃には、紗璃菜は今までとは別人の様に美しく凛とした空気を纏う様になっていた。


「これでまず、勝負出来そうだぜ」


 自身の持てる全てを、彼女の美容強化に使い切った義零。ゴールデンウィーク直前には、いよいよ美容強化最終段階へと至った紗璃菜をお披露目することが出来るだろう。

 そして事実、彼女は圧倒的な美貌を携えてクラスメイトらの前に新たな姿を現した。


(遂にやり抜いたな。俺が見込んだ通り、大した根性だぜ)


 美しさは、ただ願っただけでは決して叶わない。

 努力と覚悟、そしてそれらを継続する意志の力が無くては決して為し得ない。

 それを紗璃菜は見事に、やり切った。

 あの時、強くなりたいと語った彼女の言葉に、偽りは無かったという訳だ。


(だがな……まだ終わりじゃねぇぜ)


 義零はクラスの全ての男子生徒らの視線を奪いながら、凛とした表情で自席に就いている紗璃菜を見遣りながら太い腕を組んだ。


(体の線は、まだまだだ。完成には程遠い。これから地獄を見て貰うぜ)


 流石にアメリカ海兵隊式ブートキャンプの様な過酷な訓練を課す訳にはいかないが、芸能事務所で行われているレッスン程度のことはやらせるつもりだった。

 肉体を外面も内側も改造する。

 人間の最大の資本は、健全な肉体だ。健康無くして明晰な頭脳も得られない。その健康を創出し、維持させるのは肉体へのトレーニング以外にあり得ない。

 そのことは、紗璃菜にもくどい程に伝えてある。

 紗璃菜は、


「やります……絶対最後まで、やり抜きます」


 と、新たに獲得した美貌を僅かに上気させて、いささか興奮気味に力強く宣言した。

 自らの新しい一面に目覚めた彼女は、より強い意志を抱く様になったのだろう。

 義零の思惑通りだった。


(俺以上に、強くなって貰うからな)


 あちこちから、惚けた様な顔つきの男子共が送る視線を一身に浴びている紗璃菜。これだけでも十分に成果が出ているといえなくもないが、義零が彼女に課したハードルは更に高かった。

 そして、衝撃の超絶美少女デビューを果たした紗璃菜は放課後、艶のある長い黒髪を揺らしながら義零の席へと近付いてきた。

 この日から彼女はミニスカートに履き替え、白くて健康的な脚を惜しげも無く披露している。恐らく以前の彼女ならば、これ程に丈の短いスカートを着るのも相当に嫌がっただろうが、今は違う。

 その美貌に自信を得た紗璃菜からは、従来の様な恥じらいなど微塵も感じられなかった。


「今日は、どこへ行けば良いですか?」

「そろそろてめーの肉体改造に着手する。覚悟して貰うぜ」


 すると、それまで黙ってふたりのやり取りを聞いていた里琴が通学鞄を抱えて立ち上がり、さも当然とばかりに割り込んできた。


「わたしも御一緒させて貰うわよ。こんな面白いプロジェクト、見逃せる筈がないわ」

「好きにしろ」


 そうしてふたりの美女と長身の巨漢は、大勢のクラスメイトらから畏怖に近しい眼差しを浴びながら教室を後にした。

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