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13.謀略、巡らせるべし

 桃円高校一年D組の宇津木隆哉(うつきたかや)は、一年A組の教室前を通りがかった時、驚く程に目を引く数名の美少女グループに思わず釘付けとなり、その場で足を止めてしまった。


(お……凄いな、このクラス。あんなに可愛い子が一杯居るなんて)


 以前聞いた話では、A組には魅姫ともうひとり、近衛という名の女子が相当に美人だということだったが、今ここで隆哉が見る限り、他にも負けず劣らずの美麗な顔立ちが揃っている。

 そのうちのひとりはシルバーフレームの眼鏡が凛々しい知的な美女で、もうひとりは可愛らしく愛嬌のあるギャル系女子だった。

 実は隆哉、中学生の時には魅姫と付き合っていたことがあった。

 だからいずれはA組にも顔を出し、可能ならば元サヤに、などと考えていた時期もあったのだが、今この教室内を見る限りでは、魅姫以外にも十分に男心をそそられる美人が揃っていた。


(へぇ……あいつ以外にも、粒が揃ってんじゃん)


 これは是非とも、彼女らを攻略してひとり残らず落としてやろうという野心が急激に持ち上がってきた。

 実際隆哉はクラスでも指折りのイケメンとして、特にクラスメイトの女子らから人気が高い。

 しかしD組の女子はどの顔ぶれも余りパッとせず、少々物足りなさを感じていた。そこへ来て、A組の美少女達の、あの姿だ。気にならない訳がない。


(ま……俺がちょっと声かけりゃあ、大抵の子はコロっとなびくけどな)


 などと余裕の構えで自身の教室へと戻り、早速A組に友達が居るというクラスメイト女子の柴山多香子(しばやまたかこ)に声をかけてみた。

 ところが、思わぬ反応が返ってきた。


「A組の子? あー、やめといた方が良いかも……確か、神岡君っていうヤンキーだかたチンピラだかよく分かんないけど、めっちゃ怖い男子がその可愛い子らを仕切ってるんだって」


 多香子の応えに、隆哉は思わず考え込んだ。

 どうやら、事はそう簡単には運んでくれそうにはないらしい。

 しかし、ここで諦める彼ではない。


「なぁ、何でも良いから、その神岡って奴の周辺について探りを入れてきてくれないか?」

「うん、イイよ。宇津木君の為だったら、何でもしちゃう!」


 そういって多香子は妙に張り切った様子で大きく頷き返してきた。

 その後、二日程経ってから彼女が仕入れてきた情報は、中々有意義なものが多かった。

 まず神岡なる男は同じA組のクラスメイト、特に一部の男子連中からは余り評判が良くないらしく、彼を敵視する向きも決して少なくないのだという。


(成程、そいつは好都合だ)


 これなら、何か策を考えれば上手くいくだろうという漠然とした希望が湧いてきた。

 しかし相手は手強そうでもある。

 どうやら神岡なる男子生徒は中々のイケメンで、真正面からぶつかるとかなりの難敵として立ちはだかるであろうことが分かってきた。

 ならば少し方向性を変えて、搦め手で攻めてやれば良い。


「あの神岡君ってひと、大体いつも歩いてガッコに来るらしいけど、たまに電車で来ることもあるんだって。何でだろうね?」


 D組の教室で、隆哉の自席前で小首を捻る多香子。

 そんな疑問は隆哉にはどうでも良い。この情報を上手く活用しない手はない。

 その電車通学のタイミングを利用すれば、簡単に罠を仕掛けることが出来るだろう。


(面倒な奴さえ叩いちまえば、後はこっちのモンだ)


 A組の美少女は魅姫も含めて全員、自分になびかせてやる――隆哉は椅子から立ち上がって、多香子の肩をポンと軽く叩いた。


「な……お前、俺の役に立ちたいか?」

「え? アタシが宇津木君の?」


 多香子の瞳には、妙に打算的な色が見え隠れしている。隆哉に手を貸す代わりに、自分を隆哉のカノジョのひとりにして貰おうという魂胆が、多香子の腹の底に潜んでいるのかも知れない。

 しかし隆哉にしてみれば何でも良かった。要は魅姫を始めとするA組の四人の美少女らを自分のものに出来れば、それで良いのである。


「イイよ、任せて!」


 これで話は決まった。

 後は、直接A組に乗り込んで行って神岡とかいうチンピラを脅してやれば良い。


◆ ◇ ◆


 初夏の遠足を間近に控え、いよいよ班分けのホームルームが明日に迫ろうという日になって、魅姫は思わぬ人物の来訪を受けた。

 中学時代、一時期だけ付き合っていたことのある隆哉だった。彼は随分馴れ馴れしそうな様子で手を上げながら、A組の教室に足を踏み入れてきた。


「よぅ、魅姫。久しぶりだな」

「え……隆哉、今頃何の用?」


 魅姫は軽く警戒し、身構えた。

 隆哉は女癖が悪く、ふたりが別れる切っ掛けとなったのも隆哉の浮気が原因だった。にも関わらず、この男は親しげに歩を寄せてくる。

 正直、少し腹が立った。


「なぁ、神岡って奴はどいつだ?」

「義零君に、何の用?」


 硬い表情で応じながら、自席に座ったまま何かの本を読んでいる義零にちらりと視線を送った。

 すると隆哉は魅姫の目の動きを読んだのか、そのまま何もいわずに義零の席へと近付いていった。その隆哉の後ろには、小柄な女子生徒の姿がある。彼女は妙に芝居がかった怒りの表情を浮かべていた。


「見つけたぞ、このクソ野郎が」


 隆哉はいきなり、嘲笑と罵倒を同時に浴びせかけた。

 その瞬間、義零の近くに居た紗璃菜や渚沙が色めき立って隆哉を睨みつけた。

 そんなふたりに妙な色目を使ってから、隆哉は尚も勝ち誇った様子で挑発を続けた。


「お前、随分調子こいてるらしいじゃないか……けどな、それも今日までだ。お前の悪行、俺がこの場で暴いてやる」

「ちょっと隆哉……変ないいがかりつけないでよ。義零君が何したっていうのよ」


 魅姫は嫌な予感を覚えつつ、強い口調で牽制した。

 しかし隆哉は余裕の笑みを崩さず、傍らの小柄な少女を軽く指差してからフンと鼻を鳴らした。


「その神岡って野郎、電車ん中で痴漢なんて卑劣な真似をしやがったそうだぜ……うちの大事なクラスメイトにな」


 その瞬間――教室内は、冷めた空気に包まれた。

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