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あの雪女、剣の極意分かってやがるぜ

 雪女の構えを見て、永倉新八は興奮した。

 別に着物が、雪女装束がはだけて胸や足がなまめかしいから興奮したわけではない。いや興奮はするが。

「あの雪女、剣の極意分かってやがるぜ」

 そう言って、永倉新八は刀を抜く。そして、言葉を続ける。

「それは、『脱力』だ。脱力のうまさをモノにできねえ奴は剣がいつまでたってもうまくならねえよ。

 あの雪女、それがわかってやがる。

 どこに力入れてっか分かんねえ、つまり、先の動きが読めねえ」

 二尺四寸の氷の刀。

 江戸の世でポピュラーな打刀のサイズだ。

 龍飛剣を繰り出すつもりの永倉新八。

 右の八相の構え(野球での右打者のバッティングフォームににている)で距離を詰めようとする永倉新八。

 八相の構えというのは乱戦だろうが1対1だろうが強いのが特徴で、全方位の敵に対応できやすい型である。まあ、1対1の場合は正眼の構え取るのが普通ではあるが。

 だが、永倉新八は、八相の構えから臨機応変に斬っていって、一気に斬り下ろして、そこから相手の刀を抑えつつ斬り上げる、そこからさらに斬り下ろすの龍飛剣につなげることが多い。

 だが、永倉新八の刀は桜の花に抑えられた。

「!?」

 自分の剣が桜の花びらに覆われている、その事態が理解できない永倉新八。今は夏だ。

 桜の花びらは桜雪さゆの左手から出ている。それだけは目で見て確認できた。

 これまでいくつもの戦場で相手の剣をカウンターで抑えて剣をさかのぼり敵を切ってきた永倉新八だが、こんな妖怪じみた現象は初めてだった。

「さゆちゃん…………」

 呆然とした様子で永倉新八はうめき、十二単を見やる。

 あだ名で春女と言われている春物の十二単の妖怪雪女。

「冬華。あなたも手ぇ出さないで。永倉さんも、平隊士の皆さんも」

 その眼は冷たい。ぎゅっときつい目つきをして。いつもの能天気な彼女とは違う、冷たい目。

「自分とこの身内の不始末は自分でつけさせてもらうわ」

 桜雪さゆの冷たい目を見て、水鏡冬華は恐れを感じた。

 ビュンッ――――

 さゆが氷柱と火柱を雪女に投げる。

「かかってこい、木花咲耶姫のいう事すら理解できない雪女よ

 『水火相入る(みずひあいいる)』もわからん上に人斬りのマネするアホが、くたばれ!

 八力とは横4つ、縦4つの螺旋運動。

 一段目より二段目、二段目より三段目……円が重なるたびに加速がつき、力が増してくる。星が誕生したあの時のように。

 呼吸に合わせて、まるで生き物のように、膨らみ、 または縮みを繰り返す。 そして球体となって、熱と光を発生させる。

 星創造、宇宙創造の歴史そのものを再現するのよ、剣で。

 力の根元は、わたしたち雪女の水(陰、マイナス)と木花咲耶姫このはなさくやひめの火(陽、プラス)の『結び』よ。

 だからわたしたち水の雪女と炎の女神木花咲耶姫このはなさくやひめが結ばれることにより、熱と光が生まれ、生き物が育つ環境ができる。

 二三枝ふみえ。あんたわたしより年上だからって先輩風ふかせてたけどさ。木花咲耶姫このはなさくやひめの言う事理解せず人斬りに身分落としてただけじゃん。

 雪女の恥さらしが……まだ下界の男と恋愛してた方がマシだったね」

 二三枝ふみえ。それが雪女の名前らしい。

「いいたいことはそれだけ?」

 雪女が構えを崩さず言ってくる。

「あぁ!?」

 桜雪さゆが、怒りを隠しもせず、背中の刀を抜く。

 道横の木がさゆから発せられた霊気で凍り付いた後、炎を発し燃え尽きてゆく。

 そして背中から抜いた剣の峰で、トーントーンと自分の右肩を叩きそのまま歩んで行くさゆ。構えも何もない。

「まだ若いあなたにはわからない…………恋の痛みは」

 雪女の二三枝ふみえは向かってくるさゆにそう言い捨てた。

「ん~、男と女がいるだけで、何でも恋愛ってないだろ」

 永倉新八はそう言い捨てた。

「男は性欲を満たしたいのが一番だけど、女はいつだって一緒に生きる相手を探してる。

 宙ぶらりんのときに捕まえずに放置して、ずっと女抑えて置ける気になるとかないわな。

 逆に女はそこらへんはすばやいっつーか怖いねぇ~、うん。妖怪もそこは同じかぁ~」

 雪女に斬りかかるのを、さゆに桜の妖力で止められて、することがないのか永倉新八は言葉をつづけた。

「今のわたしは、恋愛の名残りよ。浅葱色の男」

 キレイなフォームで刀を構える雪女が、永倉新八の方を向いてそういった。

「え…………まあ、雪女といえば昔話でも色恋沙汰と相場は決まっちゃいるが」

 永倉新八は、そう呆然と呟いた。

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