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ラブレター殺人事件

作者: ホタテ貝

登場人物

石川細(いしかわさざれ) 陸上部

空蝉命(うつせみめい) 後輩

天笠姫姫(あまがさひめき) 死人

石川細(いしかわさざれ)先輩へ

先輩、愛しています。

先輩、死んでください」

このような奇妙な始まりをした手紙は ラブレターだった。この手紙の送り主はボクの部活の後輩で空蝉命(うつせみめい)という名前のかわいらしい少女だ。今朝ポストを見ると入っていた 。

「先輩が愛した姫姫先輩はどこに行ってしまったのでしょう、いやどこに逝ってしまったのでしょうか?」 五日前ボクの恋人であった天笠姫姫(あまがさひめき)が転落死した。警察もうちに来ていろいろ話を聞きに来て発見当時の様子や現在事故として捜査中だが事件の可能性も追っていると話して帰って行った。アリバイは聞かれなかった。

最初のひと文だけを読んで勝手にラブレターだと思 ったが、なぜ事故の話をしたのかわからない。

「姫姫先輩が死んでしまったと聞いて私は耳を疑いました。警察は事故死だと言っていましたが私には信じられません。普通こういう時って『姫姫先輩が殺されるはすがない、あんな優しい人が誰かに まれ て殺されたなんてあるはずがない』というべきなのでしょうけども、私は事故死であることが信じられませんられません。だって姫姫先輩は殺されてなくてはいけないんですから。」

意味がわからなかった、彼女は姫姫が殺されたというのか。一般人が憶測で物を言うべきではないとボクは思う。

「先輩もご存知の通り私は中学時代姫姫先輩と同じ陸上部での先輩後輩でした。というか先輩後輩という関係を望まれた、という言い方の方が正しいのかもしれませんが。

少なくとも私にとっては姫姫先輩は 憧れの先輩を超えた姫姫先輩でした。」

そこには姫姫への想いが語られていた。ボクは姫姫から中学生時代の空蝉を聞いたことがある。明るく元気で常に前しか向かず全てに全力を尽くせるいい子だ、と言っていた。

「私はバカだけど命ちゃんはね、すっごく賢いの。中学生で英検準一級だよ!本当すごいよね。今もう二段くらい持ってるのかな?』

そう言ってころころと鈴を転がしたかのような澄んだ声で笑って見せた後

『でも命ちゃん私のことすごく慕ってくれてね、あんまり私のこと追いかけすぎて大切なものを無くさないといいけど 、、、。あはは、私何言ってるんだろうね 。とにかくすごくいい子だか今度なんかの機 会で紹介するね。』

と言った姫姫の物哀しそうな表情をボクは忘れられない。

「去年になって姫姫先輩が陸上部を辞めた後、私には何も残りませんでした。姫姫先輩が残した結果も、私に譲ってくれた靴も、思い出も、姫姫先輩が綺麗と言った夏の青さでさえ、 『姫姫先輩がいない』、 その事実越しに見る景色は色がなく平坦で単調で単純で退屈なものに感じられました。だからこそ今年になって先輩と同じ学校に入学できたことが本当に嬉しかったです。また陸上部に入って一緒に走れることが幸せでした。 」

「愛」、なのだろうか。それもいきすぎた。

ボクにはいまいち空蝉の気持ちも言いたいこともよくわからない。彼女にとっての姫姫はボク以上に“姫姫”だったのだろ うか。だがもう姫姫はいない、どこかに行ったわけではなくて単純に逝った。 たった一年、それだけの期間で彼女はこれだけの虚しさや哀しさを感じた、それをこれからもずっと背負っていかなくてはならないのだ、追いかけるべき背もないのに。

「先輩 、あなたがいたのです。姫姫先輩の隣にはあなたがいました。私が三年かけて立てなかった姫姫先輩の笑顔の先にはいつも先輩がいました。」

「はっきり言って私は先輩を恨みました、なぜ私じゃダメだったのか。姫姫先輩が私の知らない顔で先輩に笑う、私の知らない仕草を先輩に見せる、私の知らない声を先輩に出す、私の知らない“天笠姫姫” を 先輩に見せる。 そう考えるだけ で焼けるように、妬ける程に私が憧れ、恋焦がれた姫姫先輩が壊されていくような気がして、気が狂いそうでした。

もう私は姫姫先輩に見てもらえない。これもやっぱり私が女だからでしょうか?」

一年間姫姫のいない世界に耐えて耐えて耐え抜いた結果、憧れの隣にはぽっと出のボクがいた。そりゃ誰だって許せないし、やるせないだろう。だが申し訳ないと言う気持ちは起きない。当然だ、そこには空蝉の言うとおり性別の壁がある。姫姫の方から壊そうとしない限り、決して両者が交わることを許さない不動の壁が。

「だけどつい一カ月程前私はその笑顔が曇るのを見てしまいました。姫姫先輩が私に相談を持ちかけてきたのもちょうどその時期でした。初めは『誕生日プレゼントはどうしたらいいか』、『デートに着てい く服は何がいいか』と言った内容でしたが、一週間前 、ついに姫姫先輩の曇りの原因に触れることができました。」

ほう、姫姫は何か悩んでいたのだろうか?ボクは気づけなかったが、彼女は何を相談したと言うのだろ うか。核心に迫りそうでボクの心拍も幾分か上昇して手紙の続きに目を当てる。

「そういえば、姫先輩は山の神社の石段から落ちて死んでしまったそうですね。前日も雨が降ってたので足でも滑らせたのでしょうか。だけどさっき言った通り私は姫姫先輩は殺されたと思っています。殺 されてなくてはいけないのです。

だって石川細先輩、あなたが殺したんですもんね。」

核心を心が突いた。

「 一週間前姫姫先輩は私 にこう言っていました。

『細がね、わたしが他の男の子と喋ると怒るの』私はもちろんすぐにそんな男とは別れるべきと思いました。でも姫姫先輩は『細がわたしのことを愛してくれているのはすっごく嬉しい、だけどわたしが細にそう思われていのは嫌だなって思って。もちろんわたしは細以外の男の子のことを好きになるなんてないし、、、それを細にもわかって欲しくて。』と。

何を言うのが正解だったのでしょうか。いまだに私にはわかりません。どうすれば誰も不幸にならずに済んだのでしょうか。

結局私の口から出たアドバイスともいえないアイディアはいたって陳腐で、本気でも本音でも本意でもない言業でした。

『一度ちゃんと会って話してみてはどうです?』 今となっては後悔しかない一言が発端で姫姫先輩はその二日後の日曜日、ちょうど今日から四日前ですね(先輩がこれを読んでる時は日が変わっていると思いますが“ 山の神社” で話をすることを決めたそうです)

もうわかりましたよね。

その時おふたりが何を話し、何をした、されたのかは知りませんが、その時姫姫先輩が死んだのは確実でしょう。姫姫先輩という動かぬ、というか動けぬ証拠があるのですから。」

ボクは思い出してしまった。記憶の彼方に消そうとしても裏にこびりついて離れないあの日の出来事を。


五日前の日曜日、前日の大雨が嘘のように晴れ、やけに青く寒い空の下、ボクは姫姫に呼ばれてまだぬかるんでいる山の神社にいた。ボクと姫姫が初めて出会い、姫姫がボクに告白した、きっと空蝉にとってはいまいましい場所。この場所を指定してくるということでボクは何かがある、そう直感した。ボクが到着してからぴったり一時間後、いつも通り待ち合わせの三分前に彼女はきた。

『大変だったね』

『えっ何が』

『だって今からちょうど四十三分前、家から出て約五百メートル先にあるよくお釣り渡すとき手触ってくる店員がいるコンビニの前で、おじいさんに話しかけられてなかった?』

ボクが そう言うと姫姫は驚いたような声 で

『なんで知ってるの?』

なんでってボクが言いたいよ

『ここから見えたんだもん。』

『ああ、そういうもんだったっけ。』

ハハッと乾いたよ うな笑い声で姫姫が納得したことを悟った。

『大丈夫だよただ道を聞かれただけだから。』

『それより大事な話があるの。』

さっきとは打って変わって神妙そうな声色で姫機は言った。

『細ってさ、わたしが他の男の子と喋ったりしたらすぐ不機嫌になるでしょ。』

そう言う姫姫の表情は逆光で見えなかった。

『そしてわたしのすることもずっと見てくるし、』

影になった姫姫は再び口を開ける。

『ちょっとやだなって思って、、、。』

闇の発する音からは感情が読み取れなかった。

『わたしは...』

姫姫が続きを言 うことはなかった。

代わりに声を発したのは多分ボクだ、姫姫は宙を舞ったその瞳でボクに何かを訴えるようにして落ちていった。最後まで姫姫の顔はわからなかった。今までに聞いたことのない骨の音、肉の音、人が折れて壊れて潰れ て解けて死ぬ音。だがその後のボクは不思議と何も感じなかった。

『寒くてよかった。寒くなくて手袋してなかったらボク捕まるかもな。』

それ以上は何も思わなかった。


あのときボクは姫姫に振られると思ったのだ。結局ボクは姫姫を愛したのでなく姫姫に愛されている自分を愛していたのだろう。だから一生姫姫に愛してもらえるよう、振られる前に突き飛ばし、殺した。『こんなことになるなんて思ってなかった』なんか言わない。突き飛ばしたら姫姫は滑って転んで落ちることは予想できていた。取り乱した頭の片隅で冷静に状況を見ていた自分もいた。だけどそいつはボクの行動を止めてはくれなかった。冷静ではなくただ冷酷だっただけかもしれない。

『そういえば、今日うちに警察が来ました。事件の可能性が出てきたので協力していただきたい、ですって。アリバイまで聞かれましたよ。こっちはとっくにあなたの犯行に気づいていそいそと告白文ならぬ告発文を書いているというのに何も知らない警察が私にアリバイだなんてなんだかもう傑作ですね。いっそのことこれを本物の告発文しちゃいましょうか。なんて、姫姫先輩がわたしを差し置いて愛した細先輩です。警察なんかに任せてたまるもんですか。』

もはや彼女は狂気だ。ボクのことを殺す気だ。

そういえばさっきからどうにも文字が見えずらい。心拍もさっきより上がっているような気がする。

「これが私の復讐です。

だからもう一度言います。

姫姫先輩、愛しています。

細先輩、死んでください。

もしかして最初の『愛してる』、自分に言われたとでも思いましたか?ざんねん、あなたのことは大嫌いです。憎んで憎んで仕方がない、だからこの手紙を書いています。

もしかしたらこういうのって先にいた方が良かったかもしれませんね。

『この手紙を読んでいる時私はもうこの世にはいないでしょう。』

ふふっ、気づきました?このインクの発色の良さ。若干緑がかってますよね。実はこれ花緑青っていう毒性の人工塗料混ぜてるんですよね。どうでしょうこのインクで人って死ぬのでしょうか。死ぬといいですね。私は死んだら地獄でしょうか、それとも悪を成敗という体で天国でしょうか?どちらにせよあなたは地獄で姫姫先輩が天国でしょうね。姫姫先輩と一緒なら幸せだし、先輩と一緒だったら同じ女性を愛したもの同士、憎み合い妬み合い恨み合い悼み合い蔑み合い、愛し合いましょうか?」

もう何が書いているかさえわからない。あたりが暗くなってきた。なんだもう夜か、今日はなんだか疲れた、なんでだろうか、とってもねむい、ああさむい、まどあけっぱかな、しめなきゃ、まどなんてないか、もうねむいや、なんで、こんなに、ねむいんだろ、おもいだせないや、

「これはきっと締めで言うとカッコいいですよね。

『この手紙を読んでいる時私はもうこの世にはいないでしょう。そして先輩、あなたもこの世にはいないでしょう。』」


こんにちは、ホタテ貝です。

初投稿です。読んでくれた人本当にありがとうございます。ふと思い立って、この短編を書きました。

これからもいくつか投稿できたらいいなぁと思います。

応援おねがいします

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