五幕
夜の中、だった。
桜の花びらが舞い散る、寂しい夜の中だった。
「ここだね」
先頭にいた人影が呟きながら、屈み込む。
そこには、半ば地面に埋まっているように、鉄の扉が横たわっていた。
両開きの扉の取っ手を掴み、開く。軋んだ音を立てながら、夜空に向かって扉が開く。
開いた扉の先には、地下へと続く階段があった。
スマホを光源の代わりにして、集団で階段を下る。地下の中、靴音が無節操に反発し合っていた。下まで降りた階段の先には、また扉があった。こちらは、平面ではなく垂直にそそり立っている。
先頭の人影が、扉を手前に開いた。
鍵は、かかっていなかった。
密室ではなかった。これまでとは、違って。
扉を開くと、内側に満たされていた光がこちらに雪崩れ込んでくる。そうして、地下室内の光に晒された人影たちからは影が消え、人の形を取り戻した。
侵入者である人の形が、口を開いた。
この地下室内にいた先住者に向かって。
「よかったよ、ここで間違いなくて」
侵入者の声の主は…神降悠。神さえもその座から引き摺り堕ろす、安穏ではない未知。
「これはこれはどういうことなのですか、ユウ様……どうして、『この方』がこんなところにいらっしゃるのですか!?」
神降悠の背後から、猫を連想させる瞳の少女が、犬を連想させる首輪を嵌めたまま狼狽していた。
声の持ち主は…翼王道沙良羅。皇女の気品を携えた、最強最愛のお嬢様。
「いや、しかし、なんと申しましょうか…」
老執事の巻島半兵衛も、あまりの光景に戸惑いを隠せない。
当然、目の前の光景に、私も言葉を失っていた。
…なぜ、どうして、意味が分からない。
疑問符の釣る瓶打ちだ。私たち三人の混乱に拍車がかかる。
ご主人様だけは、違ったけれど。
悠は、『お邪魔します』もなしに地下室の中に足を踏み入れる。悠の距離と『先客』の距離が、少しだけ縮まった。
さらに悠が歩く。さらに、距離が縮まった。
そこから、引力が生じ始めて、斥力も、同時に生まれ始める。
張り詰めた私的な狂想曲と。
切り詰めた死的な夜想曲と。
この狭苦しい地下世界が、片腹痛いほどに湾曲していく。
「ユウ様…これは一体、どういうことなのですか?」
お嬢さまが、再び問いかける。
その問いに、主は答えた。
「これが、この世界の正解だよ」
その世界のど真ん中にいたのは。
神降悠。そして。御雅来砂鳥。
原罪を背負った二人の咎人が、小さな世界を挟んで向かい合っていた。
そんな二人を中心にして。
新しいカタチの世界が…正解が、孵化をする。




