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最終話 私以外の女に声をかけたら殺すわよ?

「私の夫はもう、隣にいるウメボシ様ですから」


 面白猫から様付けに昇格かよ。本当に恋は盲目だな。


「……そうか。人間の女性と婚姻関係になるのが禁止されてるわけではないからね。素直におめでとうと言わせてもらうよ」


 そうなのか? そこらへんはよく知らなかったぞ。なんせ、生後数日で地球に送り込まれたからな。


「では妖精界側の届け出は私がしておこう。元となる夫の身柄も預かる以上、そちらの手続きについても協力しよう」


 ありがとうございますという翔子の隣で、俺は首を捻る。


「人間の役所とかに干渉が可能なのか? だったらアクダマン関連の話も頼めばいいじゃねえか」


「人間の協力者はいるが、国を動かせるほどの権力者ではなくてね。ウメボシ君の提案が可能であれば、我々としてもお願いしたいところだよ」


「そうだったのか」


「とにかく、今回はお疲れ様。しばらくはゆっくりしているといいよ。人間世界ではすぐに再婚できないだろうが、妖精界では支障はないからね。こちら側の認識では、すでに君たちは新婚夫婦だよ。おめでとう」


 笑顔で拍手を送りながら、エダマメが通信を切った。何がおめでとうだよと言う暇もなく、俺はその場に押し倒される。翔子によってだ。


「やっと二人きりになれたわね、あ・な・た。さあ、愛し合いましょう。二人とも、そのままの姿で!」


 貧乳の自分を受け入れてもらえたのがよほど嬉しいのか、すぐにでも翔子は愛し合いたがる。


 俺としても異論はない。翔子は十分に可愛い。扱い方を間違わなければ、恐ろしい目にもそうそうあわないだろう。


 何より! 前世で童貞のまま死んだ俺が、ついに初体験できるチャンスを得たのだ。これを喜ばすにどうする!


「ヒトヅウーマンはまた新しい女を探せばいいしな! こうなったら夫として、妻となった翔子を徹底的に愛させてもらうぜ!」


 毒を食らわば皿まで、なんて思ったのは内緒だ。とにかく童貞を卒業させてもらうぞ。やっほーい!


 歓喜のダイブをしたのに、何故か途中で翔子に両腕でキャッチされてしまう。


「どうしたんだ?」


「さっき、新しい女を探すって言った」


「ああ、あれか。お前にやったブローチの変身条件は処女の人妻だからな。処女でなくなれば変身できなくなる。そうなれば新しい戦士を探す必要が出てくるだろ」


「なるほどね」


「わかってくれたなら続きを――」


「――すわよ」


 ん? 翔子の奴、何か言ったか?


「私以外の女に声をかけたら殺すわよ?」


 笑顔でとってもデンジャラス。目が笑ってませんよ、翔子さん。


「だ、だって、それは仕事上必要で……」


「駄目よ。貴方の妻は私ひとり。理解してくれないと……翔子、泣いちゃう」


「ぎゃああ! 両手で潰そうとしながら言わないでくれっ! わかった! わかりました! 新しいヒトヅウーマンなんて探しません!」


「そう言ってくれると思ってた! やっぱり貴方は、私の最愛の人だわ」


 こんなのと結婚して大丈夫か、俺。勢いに押されてしまったとはいえ、早まりすぎたんじゃないか。


 後悔先に立たずとはこのことかもしれないが、童貞のまま死した男の気持ちなど誰もわからない。俺以外に!


 さらなる後悔が待ち受けようとも、俺は男になる! 一人前の男に!


 ヒトヅウーマンもアクダマンも知るか! そう考えて再度ダイブしようとした時、唐突に携帯電話がエダマメの顔を映し出した、


「言い忘れていたが、ウメボシ君のいる地区に、新たなアクダマンが現れた可能性があるそうだ。定かではないが、警戒はしておいてほしい。現にすでに一体のアクダマンがいたし、彼らの幹部だった日本人――翔子君の元夫もいたのだからね」


 確かに考えてみれば、この地区に新たなアクダマンがやってくる可能性は高い。そうなると、自分たちの身を守るためにもヒトヅウーマンの力は必要だ。


「翔子君と二人で、任務にあたってくれるのを期待しているよ。ああ、万が一だけど、翔子君からヒトヅウーマンの能力が失われたら、君の責任になるからね」


 な、何だと!? それじゃ、俺は結婚したのに童貞のままだってのか!? 冗談じゃねえぞ!


「離婚予定とはいえ、すでに条件を満たしてるだけに変身には支障をきたさないそうだ。処女の人妻である限りはね。ウメボシ君が彼女の夫になってくれてよかったよ。君なら問題を起こさないだろうしね」


 処女を奪うなと釘刺されてんじゃねえか。


「君には借金返済もあるしね。期待しているよ」


「ちょっと待て! それはおかしいだろ。借金なら、あの女から回収しろよ!」


「それが彼女を取り調べた結果、どうやらレイジというホストに貢いだらしいんだよ。全額、彼のエステ費用に使ったそうだ」


「エステで六億全部使った!? んなわけねえだろ! アホじゃねえのか! 仮に事実だったとしても、あの女を働かせろよ」


「残念ながら、彼女は破産宣告したよ。ついでに借金はすべて君の名義だ。しかし我々も鬼ではない。アクダマンを一体退治するたびに、百万円のボーナスを出そう。十体倒すと一千万円だ。仕事に励んでくれれば、借金の返済は早まる。では、改めて期待しているよ」


 ……エダマメの野郎。言いたいことだけ言って、通信を切りやがった。これで俺は借金大王のままじゃねえか。


 話を聞いていたはずなのに、何故か翔子はうっとりしている。


「夫婦で協力しながら貧乏生活を耐え、やがては祝福されるゴールへ到着する。ああ、これが結婚の醍醐味よね」


 駄目だ。自分の世界にどっぷりと浸かっていらっしゃる。


「こうなりゃ、さっさとアクダマンを地球から全部追い出してやろうじゃねえか! そうすりゃ借金もチャラになんだろ! 俺が童貞を卒業するために、こっちから探しに行くぞ、こんちくしょう!」


 涙を流しながら翔子の腕を引っ張り、新しい住居となる予定の部屋を出る。


「貴方、素敵よ。これから夫婦で頑張りましょうね!」


 ああ! やってやるよ、ちくしょう!


「どこだ、出てこいアクダマン! 早く出てきてくれえぇぇぇ!」


 数多の星が輝く夜の空に、俺の悲痛な叫びが空しく木霊した。

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