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第27話 成敗

 俺をコケにするひと言を発した以降は、飽きもせずにせっせと黄金を地面にばらまき続けている。相変わらず、どこから取り出してるのかは謎だが。まさかアクダマンの体内で生産してるとかじゃねえよな。


 だったら怖すぎるし、手に取るのも躊躇われるぞ。もっともコリーだけは気にせず、頬擦りもするだろうが。


「いい度胸だわ。人間の牝ごときが、妖精のアタシに盾突いた罪を――おおお!?」


 急にコリーが、目ん玉をひん剥いた。ちょっと怖すぎるぞ。一体何があったんだ。


「ああっ! 私の黄金が!」


 お前のじゃねえだろってツッコミを入れつつ、翔子も驚いたものを確認する。


 最初の方に吐き出された黄金が、次々と単なる砂に変わっていた。なるほど。連中はこれを見て驚いたわけか。確かにそりゃ、目ん玉飛び出そうになるわな。俺を殺してでも、金や黄金を奪い取ろうとしてやがったんだから。


「アタ、アタシの、おご、おうご……ひぎゃああ! ちょっと! どうなってんのよ、クソファッキンチャリ野郎!」


 断崖絶壁でブチ切れた翔子の威圧感と迫力も凄まじかったが、今のコリーも負けていない。空気が震えるようなプレッシャーを放ち、アクダマンに詰め寄っている。


 あれが俺だったら、また泣きながら逃げてたな。しばらくは包丁を持って追いかけてくる元嫁が夢に出てきそうだし。


「どうなってると言われましても、一定時間がくれば砂に戻りますよ。当たり前じゃないですか」


「当たり前じゃないわよ! どうして黄金が砂になるのよ。百歩譲って認めたとしても、それなら砂金になるべきでしょ!」


「はあ……でも、そもそもこれは黄金ではないですしね。あくまでも地球の黄金みたいな本星の物質ですし」


 しれっと言い放つ自転車アクダマンを前に、コリーがショックのあまり絶望する。目の焦点は合わず、全身をプルプルと震わせている。


 億万長者になったと狂喜乱舞した挙句に、この結末を迎えたからな。受けたショックは計り知れない。俺はざまあみろとしか思わねえけどな!


「地球は暖かいですからね。溶けるのも無理ありません。溶けたら輝かなくなるんですよ。で、元にも戻らないのです。邪魔でしかないので、本星ではゴミ扱いですよ。我々には鬱陶しいだけのものでしかありませんが、地球の方々は喜んでくれますからね。どんどん運んできますよ!」


 楽しそうに言っているが、元の黄金に戻らないでのあれば、砂ばかりが増えていくだけだ。


 アクダマンの本星にあるらしい黄金もどきが全部地球で砂になったら、新しい砂漠でもできるんじゃねえか。だとしたら、運ばれるだけ迷惑だな。一瞬でも喜んだ俺がアホみたいだぜ、もっとも、さらにアホな妖精がいるけどな。


 黄金から変化した砂は、どこにでもありそうな普通の砂だ。価値なんてあるように見えない。芸術的な氷のアートが溶けて、ただの水に戻ったような感じかもしれねえな。


 ひとりで勝手に納得してうんうん頷いてる途中で、とある事実に気づく。今って、千載一遇のチャンスじゃねえか。


 まだ硬い黄金をしっかりと握り締め、呆然と地面に膝をついているコリーの背後に立つ。


「成敗!」


 決め台詞とともに右手を振るう。確かな手ごたえがあり、コリーはその場にドサリと倒れた。


「うわ。見事すぎる不意打ちね」


「やかましい。いきなり包丁持って襲いかかってきた奴に、手加減なんぞできるか」


「まあ、正論ね。それにしても、黄金がただの砂になるなんてね。予想外だったわ。欲のない私は、貴方の元奥さんみたいに取り乱したりしなかったけど」


 俺の記憶が確かなら、コリーと一緒になって私の黄金がとあわあわしてたはずだが、触れない方が身のためっぽいな。別にどっちでも構わねえし。


「あ、俺だ。元妻を捕獲したから、妖精界に連行してくれ。きっちり俺の金を回収してくれよ」


 携帯でエダマメに連絡を取り、倒れたコリーを見せる。


「了解した。持ち出ししたお金の在り処が判明すれば、君の借金もなくなるね」


「そうすりゃ、地球ともおさらばだ」


「そうもいかないよ。君はすでにそこにいる翔子君の……ん? 仕事のしすぎで目が悪くなったかな」


 テレビ電話中のエダマメが目を擦りだしたので、たいして心配でもないが、とりあえずどうしたと聞いておく。


「いや、私の気のせいだと思うのだけど、君たちの後ろで自転車が勝手に動いているように見えてね。私の記憶違いでなければ、自転車というのは人間が操作して初めて動く乗物なはず。やはり仕事のしすぎなのだろう。少しばかり、休養を取るのもいいかもしれないね」


「そうですか、それはお疲れ様です。ご自愛くださいね」


「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」


 画面の向こうでお礼を言ったあと、エダマメは「ん!?」と目を丸くした。


 エダマメに声をかけたのが、他ならぬ無人の自転車だったからだ。坂でもないのに勝手に動いたどころか、人間の言語を口にしたのだから驚いて当然だ。腰を抜かしてもおかしくない。


 案の定エダマメは声を震わせながら、俺に自転車が喋ってると言ってきた。


「そりゃ、喋るだろ。この自転車はアクダマンだからな」


 早くも妖精界からやってきた妖精たちに、気絶中のコリーを引き渡しながら言った。別に隠す理由もねえしな。


「なるほど。アクダマンであれば、人間の言葉を話すのも難しくないだろうね。納得したよ。ではこれで通信を終える……わけにはいかないよね!?」


「ノリツッコミごくろうさん」


「ああ、ありがとう、ではなくて! どうして君はアクダマンと仲良さそうにしているのかな。ヒトヅウーマンの翔子君と協力して、早く倒すんだよ!」


「わかってるって。ただ六億の借金を背負ったままじゃ、首が寒いんでな。ちょっと順番を変更しただけだ。その証拠に、アクダマンを逃がしてねえだろ」


 仲良くしてるわけじゃないと示す俺の説明を受けて、ようやくエダマメは落ち着きを取り戻したみたいだった。


「現場の指揮はウメボシ君に任せている。しっかり頼むよ。妖精界で裏切り者扱いされないためにもね!」


 通信を切る直前に、きっちり脅していきやがった。気持ちはわからなくもねえけどよ。なにせ俺がヘマをしたら、上司のエダマメの責任にもなるんだからな。ケケケ。


 あれ。それって今の俺にも当てはまるんじゃねえか? 望んでなくとも、部下ができちまったわけだからな。


 うん。やっぱりわざとヘマをするような真似はよくないな。上司にはなるべく迷惑をかけないようにしないと。俺ってば部下の鑑じゃねえか。これは翔子にも徹底させることにしよう。そうしよう。


 ともあれ、エダマメにアクダマンの存在もバレたことだし、そろそろ真面目に退治させてもらうとするか。


「聞いてのとおりだ。俺たちが給料を貰うためにも、そこの自転車アクダマンをぶちのめすぞ」


「ごめんね。私は自転車として使ってあげたいんだけど、上司命令だから。これも悲しき会社員の宿命よね。でも安心して、貴方のことは忘れないから。多分!」


 準備運動とばかりに右腕をブンブン振り回しながら、翔子が自転車アクダマンに近づいていく。

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