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第24話 げっちゅう

 地球でいうところの郵便屋を電話で呼び出し、書類を渡す。エダマメに届ければあとはやってくれるらしいので、これで終わりだ。


 代金もきっちり着払いにしておいたし、俺に抜かりはない。さあて、あとは元クソ嫁から金を奪い返すだけだ。


「あのさ」


「何だよ、翔子。俺は忙しいんだ。用件があるなら、後にしてくれ」


「その用件だけど、黄金を詰め込んだ風呂敷を背負って逃げたわよ。実家に帰らせていただきますとか、わけのわからないことを言ってたけど」


「何だと!?」


 マジか。本当にいねえじゃねえか。郵便屋とやりとりしてたのは一分かそこらだぞ。その間に逃げたってのか。結構な数があった黄金とともに。


 俺に借金背負わせてとんずらぶっこいた時もそうだが、行動が迅速すぎるだろ。そもそも、あの牝はどうして地球にいやがったんだよ。謎だらけじゃねえか。


「あれが貴方の奥さん?」


「元だがな」


「駄目よ。結婚する時は相手を選ばないと。独身時代に経験を積むと同時に見る目を養うの。そうすれば、私みたいに素敵な結婚生活を送れるわよ」


「的確なアドバイスはありがたいが、見る目がどうこうじゃねえんだよ。こっちの意思なんぞ関係なしに、コンピューターによる相性診断だけで生涯の伴侶が決められちまうんだからな」


「まあ、ロマンチック」


「ロマンチックじゃねえし、確か何回か同じような説明をしてたと思うんだけどな! 元嫁といい、お前といい、俺の女運は悪すぎだろ!」


 本気で嘆く俺を見て、いまだヒトヅウーマン化したままの翔子がケラケラ笑う。


 何がおかしいんだよ、こんちくしょう。際どいレオタード姿のくせしやがって。あれ。そういやヒトヅウーマンから元に戻るのはどうやるんだ?


 ……まあ、俺が変身してるわけじゃねえし、気にしないでおくか。翔子の性格上、一生レオタード姿でもあまり気にしなさそうだしな。パッドが外れたままでなけりゃあな。


 そんなことより、問題はコリーだ。あんの元クソ嫁。どこへ逃げやがった。あいつをとっ捕まえて、金の在り処を白状させねえと駄目なのによ。


 しかし六億円もあって、見つけた金にあそこまではしゃいだりするもんかね。とことんまで金にガメつい女だぜ。


「あのー……そろそろ、私も帰宅してよろしいでしょうか」


 どこにだよとツッコミを入れるのはナンセンスだろうか。本星か地球での活動拠点に決まってるもんな。本来なら相手にしてる時間はねえんだが、さすがにはいどうぞと帰すわけにもいかねえしな。


 どうするか……おっ、良い案を思いついたぞ。俺ってば、冴えてるじゃねえか。


「……って、何でお前は人の背後で変な顔をしてんだよ」


 地面に二足で立つ俺のすぐ後ろにいたのは、翔子だった。見るからに下品さ満点の笑顔を作っている。


「誰も相手してくれなくて暇だったから、貴方の顔真似をしてみたの。似てるでしょ?」


「似てたとしたら大問題だな。変顔ってレベルじゃねえぞ。そんな顔を見せたら、旦那も裸足で逃げ出すんじゃねえか?」


「なるほど。だから貴方の奥さんは逃げ出したのね」


「やかましい!」


「あのー……」


 翔子とやりとりをしてる俺に、自転車アクダマンが申し訳なさそうにまた帰っていいかと尋ねてきた。


 逃げたかったらコリーみたいに何も言わずに消えてりゃよかったものを、律儀すぎんだろ。根は悪い奴じゃねえかもしれねえな。悪意がないからといって、当たり前のように人間を洗脳したがるような連中を肯定はできないが。


「悪いが帰らせるわけにはいかねえな。ただ、どうしてもって言うなら、考えてやらんこともない」


「ほ、本当ですか?」


「ああ。さっきの黄金をまた出してくれよ。どっさりとな」


「それならお安いご用ですよ」


 せっせと金を吐き出し始める自転車アクダマンを眺めつつ、翔子が笑顔で俺に声をかけてくる。


「貴方って、とっても素敵なゲス妖精ね」


 お褒めの言葉をどうもありがとうよ。だが、金を出させてるのには理由がある。カツアゲをしたいわけじゃねえ。


 地面に転がっていく黄金のおかげで、土まで眩しくなってくる。輝きが増えていくにつれ、徐々に近づいてくる奴の気配を感じる。


「キャー。また黄金がこんなにある! この地こそが、アタシの探し求めるエルドラドだったのね!」


「はい、げっちゅう」


 どこからともなくダイブしてきたコリーを、ガッチリと両手で捕まえる。


「つーわけで、金を返せ。そうすりゃ、俺を騙してきたのは許してやるからよ」


 この状況にもかかわらず、催促された元クソ嫁はぷいとそっぽを向く。こんな牝をよくできた嫁だと思っていたんだから、本気で俺の見る目はどうかしていた。翔子にからかわれても、何も反論できないレベルだ。


「元奥さんを呼び寄せる罠だったのね。貴方にしては、なかなか考えたじゃない」


 またしてもお褒めの言葉をありがとうと言ってやりたいところだが、大きな疑問がひとつある。


「お前、何で黄金を漁ってんだ?」


「そこに黄金があるからよ」


「そうか。もう何も言わねえよ」


 瞳が黄金の形に変わってるじゃねえか、金って怖えよな。欲深い人間の本性を丸出しにさせちまうんだからな。せめて俺だけは真っ当に生きていこう。


「貴方、何憐れんだ目で人を見てるのよ。いの一番に誘惑されて、敵に寝返ろうとしたくせに」


「そんなこと言ったか? 最近、忘れっぽくてな。よく覚えてねえんだよ」


「それなら、アタシのことも忘れてるはずよね」


 さらっと言ってくれやがったので、遠慮なくコリーの肩を掴む手に力を込める。


「はっはっは。知らない間に、六億の借金を残していった元嫁の顔を忘れるわけがないだろ」


「蛇みたいに執念深い男ね。そんな貴方に変わってほしかったけれど、駄目だったからアタシは、アタシは……!」


「うるせえよ。今さらお涙頂戴な罠に引っかかるかよ。いいから、さっさと六億出せ。俺の借金をチャラにしても、黄金が手に入ればいいだろうが」


 それもそうねと言うだろうと思っていたが、予想外にコリーは拒否の姿勢を見せた。


「あの六億はアタシのよ! ついでに、ここにある黄金もね!」


 とことんまで強欲な牝だな。ホスト狂いしてやがったくせに。

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