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第2話 その女、凶棒につき

「待ちなさいよ」


「こらっ! 脇腹を触るな、持つな、愛でるな!」


 くっ! こっちが猫も同然の体をしてるのをいいことに、あっさりと顔の位置まで持ち上げてくれやがって。


 ミニサイズなわりに体重が凄いということもないからな。女の細腕でもご覧の有様だ。元が人間の男だっただけに、なんとも情けなく思えてくるぜ。


「貴方、処女の人妻を探してたんでしょ? さっさと声をかけにいきなさいよ」


「お前、本気で言ってんのか!? あのオバハンが処女だった場合、それは誰にも相手にされてこなかったからだ。そんなオバハンが、結婚してたりするわけねえだろ。常識で考えやがれ、ノータリン女が!」


「文句のセンスが古っ! でも腹が立ったから、排水溝に捨てちゃうね♪」


「楽しそうに言うなァ! 待て、話し合おう……と言うとでも思ってんのか! 俺を甘く見――ほごぼぼぼ」


 ぐおお! このアマ、本気で道路横の排水溝に俺を全力でぶん投げやがった!


 つーか排水溝って、誤って誰かが落ちたりしないように、金網みたいな蓋がついてないか!? どうしてここには何もないんだよ!


「素直に謝るなら、助けてあげるわよ。私も鬼じゃないし」


 鬼じゃなければ悪魔だよ、こんちくしょう。だが、さっきも言ったとおり、俺を甘く見てくれるなよ。


 んしょっと。


 こうやって腕を排水溝から出して、アスファルトを掴めればこっちのもんだ。熱いのがムカつくけどな。


「見たか、オラっ! 目ん玉ひん剥いて驚け!」


「ふうん。背中から羽が生えて、飛べるようになるんだ」


 あれっ!? 舌が長いのには驚いたのに、猫な外見の俺が飛んでも反応はそれだけだと!?


 この女、変だ。変すぎる。


 本能が関わり合いになるのを警告してくるが、この際だから排水溝に落とされた復讐だけはきっちりしておいてやろう。


「で、貴方は何でこっちへ飛んでくるの?」


「お前に抱きしめてほしいからさ。汚泥にまみれたこの体をな! ひーひっひっ!」


「何なの、その猫じゃありえない笑い方は。気持ち悪い!」


「そこに怖がったりするなら、もっと前に――んぼごぉ」


 ぬかったぜ。まさか背中にハンドバッグを隠し持っていたとは。


 俺の体当たりを防ぐと同時に、反撃の手段としても使うとは。


 見事としか言いようがないな。


 ……何になりきってんだ、俺は。


 それより、叩かれた顔面がめちゃくちゃ痛え。結構な衝撃で頭もクラクラするし、この分じゃ、受け身も取れそうにねえな……って、嘘だろ!?


 オイっ! 脱出したばかりの排水溝がどんどん近づいてきてるじゃねえか。


 待て! このままだと顔面から突き刺さる形になるぞ。あの女にぶん投げられた時でも足側からだったのに、いくらなんでもあんまりだろ!


 う、うおお――っ!


「あ……頭からずっぽりと排水溝に突き刺さった」


 知ってるよ、ちくしょう。


 黙ってろよ、こんちくしょう。


 息が出来ねえよ。あんちくしょうめ、とりあえず足を引っ張って俺を助けろよ。


 そのとおりにしてくれてありがとう。言葉にはしてやらねえけどな!


 逆さに見えてる女の顔に、唾でも吐いてやりてえ気分だよ。


 なんて思ってたら、ついそのとおりにしちまったぜ。てへぺろ♪


「何してくれてんのよ、この駄描があぁぁぁ!」


「やめろ! 俺の足を持ってぶぎっ! 叩きぶごっ! つけんごっ! るなあぶぶっ!」


「言いたいことがあるなら、きちんと発音しなさいよ」


「できるかっ! どこの誰が、人の顔面を情け容赦なくアスファルトに叩きつけてると思ってやがんだ!」


「やあねえ、怖いわ。酷いことをする人がいるものね」


「ああ、俺の目の前にな! 皆さーん! ここに可愛らしい猫を虐待するサイコパスがいますよーっ!」


「あらやだ。不細工な猫が何かを口走ってるわ。こんなに可愛がってあげてるのに」


「にっひょり、わらいひゃがら、ほっぺを、つねりゅにゃあ」


 この野郎。今度は足じゃなくて、俺の頬に狙いを定めやがった。痛めつけるように、ひねりまで加えてきやがる。


「語尾がとっても猫っぽいから、もっとつねってあげる。そうすれば可愛くなるわよ」


 なるかと叫びたくても、目の前のアホ女が万力込めて頬を左右に引っ張ってくれるせいで、上手く口を動かせねえ。


 妖精なんだから、テレパシーくらい使わせろよ。


 こんな女と心を通わせるのはごめんだがな!


 とりあえず脱出させてもらうぞ。


 このまま放尿でもしてやろうか。人間だった頃なら恥ずかしくて無理だが、今の俺は外見ならただの猫だしな。


 悪しきオーラでも感じ取ったのか、唐突に女が俺の頬から唐突に手を離しやがった。


 地面に向かってダイブ。俺は鳥になる。


 遊んでる場合じゃねえな。考えてみれば俺には羽があるんだ。受け身を取らなくても、飛べばいいやな。


 ふわっと浮いた俺を、女が自分の顔の前あたりで丁度キャッチする。


「何しやがる! まさか、また叩きつけようってのか!」


「それも楽しいけど、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」


「よくない」


「刺すわよ」


 待てっ! 何でいきなりそんな物騒な話になる!


 つーか、人を刺せる武器を持参してんのかお前は!


 真顔の女から急いで逃げようとするも、想定どおりにはいかない。妖精に生まれ変わった影響とはいえ、前世と比べて俺の力、弱くなりすぎだろ。


「ちくしょう! 刺して、煮て、食べるつもりか!」


「いくら私でも食べないわよ。旦那様も嫌がるだろうしね。それより貴方、人間なの?」


 これは驚いた。まさか俺の猫としか思えない外見から、人間なのかという質問をしてくるとはな。


 エスパーではなさそうだし、何か思うところでもあったんだろうか。


「どうしてそう思うんだよ」

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