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第16話 だって欲しかったんだもん

「何が地球を救うよ。貧乏くじをひかせるのが目的じゃない。アクダマンによる支配で、今より景気が良くなるかもしれないでしょ。人間の体を乗っ取るんじゃなくて、共存を望むかもしれないし。可能性の話なら、どうとでも言えるわ。したがって! 私には貴方たちに協力する理由がないのよ!」


 どーんという効果音でも聞こえてきそうなほど、堂々と翔子が宣言した。


 ここまで図々しくされると、いっそ清々しく思えてくるから不思議だ。俺にもこれくらいの度胸があれば、前世はもっと違った人生になっていたんだろうか。


 今さら言っても仕方ねえな。俺はもう妖精だ。この生を全うするぜ。寿命のほぼすべてを借金返済に費やさないといけないけどな!


 とにかく、翔子にヒトヅウーマンとして戦ってもらうためには、給料を出すしかなくなった。生憎と俺のポケットマネーでは対応しきれないので、妖精界側に頑張ってもらうしかない。


「上と相談するから、少しだけ待っていてくれ」


 そう言ってエダマメは席を外した。翔子はすでに勝利を確信しているみたいだが、果たしてそう上手くいくものか。


「お前、下手したら自分がアクダマンの餌食になるかもしれねえのに、よくあんな強気に出れんな」


「だからこそでしょ! 命を落とすかもしれないのに、無料で敵とドンパチなんてやってられないわよ」


「まあ、それもそうか。妖精界から給料が出るのを祈ってるぜ。そうすりゃ、俺の任務も終了だしな」


「終了だしなって、貴方は六億の借金を背負ったじゃない。危険地域の仕事以外で、月々百五万の返済を維持できるの?」


 うっ――! すっかり忘れてた。そういや髭面元係長は、残業代や諸々の手当てを含めて先月の俺の給料は百七万とか言ってたな。妖精界でまったり新たな生を堪能するのなんて、夢のまた夢じゃねえか!


 俺が何も返せずにいると、上との話を負えたらしいエダマメが戻ってきた。


「お待たせしてすまなかったね。翔子君だったね。望むなら、日本円で給料をお支払いしてもいい。その場合は月々五十万円ほどだ。これは初任給であり、成果に応じて昇給も検討する。提示額以上の給料を求めるなら、結果を出してほしいということだね。不満かな?」


 五十万と聞き、瞳を輝かせる翔子が異論を口にするはずもなかった。あれだけわーぎゃー言ってたくせに、金が絡むとこの様だ。強欲アホ女め。


「問題はないみたいだね。ただし、条件もある。妖精界で人間の君の給料を負担する以上、こちらの管轄下、つまりは妖精界への所属となる。とはいえ住居を変える必要はないし、生活は今までどおりで構わない。妖精界という会社に、社員として入社したと考えてもらえばわかりやすいかもしれないね」


「ふうん。別に構わないわよ。給料は貰えるわけだしね」


「そう言ってもらえると、我々としても助かるよ。翔子君の直属の上司は、そこにいるウメボシ君だ。彼の指示に従い、行動をしてもらう。いいね」


 ……なん、だと……。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。いいねじゃねえだろ! 俺の意思を確かめろ! 俺だって妖精界という会社で働いてる社員になるんだろ!? 会社として社員の身を守ろうぜ! こんな部下がいたら、絶対に心も体も壊すって!」


 ジト目の翔子が失礼ね、なんて言ってるが、そのとおりだと返してる余裕はない。このままでは、最悪な部下の面倒を見させられるはめになる。


 ここが一世一代の勝負どころだ。


 思いつく限りの理由を並べて考えを変えさせようとしたが、その前にエダマメが俺にとどめを刺しやがった。


「ウメボシ君が借金を返済していくには、危険地域での勤務が必要条件になる。その場合、彼女の上司として残るのが一番だと思うよ。妖精界に戻ってきて、月々百五万も稼げるのかを真剣に考えればね」


 なんてこった。俺には拒否権がねえっことか。い、いや。まだ諦めるのは早い。翔子の上司になるなんて、自殺願望のある奴以外には無理だ。


「借金を背負った責任は、俺じゃなくて嫁にあるはずだろ。そもそも本人確認もなく、勝手に金を貸した連中にも問題があるじゃねえか。それでも払えってんなら、妖精界側で建て替えておいて、とっ捕まえた俺の嫁から回収すべきだろ。違うか!?」


「正論だね。だが、君との契約書には、夫に代わって妻が妖精界での雑務をすべて担当するとある。ウメボシ君も印を押しているんだ。知らないでは済まされないよ」


 今、明かされる衝撃の事実。それが本当なら、確かに言い逃れはできない。本当ならな!


「俺は印なんて押してねえぞ! 印鑑自体を作ってる暇がなかったしな! 生後一週間もしないうちに地球へ送り込まれたんだ。印を押してあるってんなら、あの女の勝手な行動に決まってんだろうが!」


「何を言ってるんだい。妖精の牡たる者、生後一週間近くもあれば立派に成長してるじゃないか。勝手に印を押されたなど、言い訳にもならないよ」


 駄目だ。こいつにも話が通じねえ。


「ウメボシ君にも言いたいことはあるだろうが、これは決定事項だ。変更は許されない。それでも拒否するというのなら、君の妖精界への帰還を禁止させてもらうよ」


「なっ――!? 待て、コラ! それだと借金の肩代わりが嫌だから、俺を見捨てるみたいに聞こえるぞ。もしかしてお前も俺の嫁とできてたんじゃねえだろうな!」


「はっはっは。そんなはずがないだろう。ではこれで通信を終わる。振込口座などに関しては、希望を上司のウメボシ君に提出しておいてくれ」


 野郎、逃げやがった。しかも上司の部分を、わざと強調していきやがった。


 公園で苦悩する俺の肩に、誰かがポンと手を乗せた。翔子だ。


「ドンマイ」


「うるせえよ! 元はといえば、お前が給料なんぞを妖精界に請求したせいじゃねえか!」


「だって欲しかったんだもん」


「可愛く言えばいいってもんじゃねえぞ、ちくしょう! こうなったら、さっさとアクダマンぶちのめして終わらせるぞ。そうすりゃ、俺にもボーナスとか出んだろ!」


 日本での任務を終え、首尾よくボーナスを得られたら妖精界に戻る。もちろん、俺の金を持って、とんずらぶっこきやがった嫁のコリーを探すためだ。


「給料が支払われるっていうなら、協力してあげなくもないわよ。私が優しい女性でよかったわね」


「いやー、まったくです。お話がまとまったみたいで、何よりですね」


「それもこれも全部、俺が――って、ちょっと待て。さっきのは誰の声だ」

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