みんな経験済
「おー、初襲われかー」
「軽っ!」
チェスの駒を動かしながらランタナカマラ公爵家黒珠が暢気な声で言う。
「まあ、王族を狙う命知らずなんて殆どいないからさ。俺と黒曜なんてトチ狂ったヤツがよく寄ってくるからさ〜」
珍しくないという黒珠の隣で本を読んでいた黒曜が無言で頷く。
3才と2才年上のこの兄弟は家の関係でよく市井の教会に足を運ぶ。その時せまってきたり部屋に連れ込もうとしたりする子爵や男爵の令嬢がいるらしい。
確かに12、13で色気ダダ漏れな見目麗しい公爵家の美少年を彼女達は狙わずにいられないんだろう。
「もちろん、そんなヤツの家なんて根切るけどね」
「根切る?」
「あぁ、親・兄弟纏めて処刑」
「ひぇ・・・」
「いいのいいの。そういう家って裏で悪さやってる事多いから」
さも当たり前のように話す黒珠を見て身震いしてしまう。
「・・・分かってるだろ?俺達は王族と五公爵家内で婚姻を結ばなくちゃいけない事。それはこの大陸を守る事でもあるんだからな」
この大陸に点在する四つの王家とそれに附随する五公爵家内で婚姻を結び続ける事は創世時代から変わらない契りだ。理由も知ってる。しかしこれは秘匿だ。
古くから在る一部の侯爵家や伯爵家は理由は知らなくてもその事実は知っている。
だから強引な手には出ないが関わりを持つ為に自分の家に嫁がせたり婿に貰おうと画策する。それはそれで面倒くさいのだが。
強引な手を使うのは成り上がりが殆どだ。
「ジークは恋慕が強すぎて行動起こすヤツに当たったんだろうな。見た目完璧な王子様だし」
「そんなのに好かれたくない」
「ステラもよくあるらしいぞ」
「えっ⁉」
「チェックメイトっと」
「あっ!いや、ちょっとそれ詳しく!」
ニヤリとしながら駒を動かし爆弾発言。聞き捨てならない。黒曜が隣でピクッと反応する。動揺する俺をニヤニヤ眺めながら目を細め
「大丈夫、あそこの家は要塞みたいに強固だし騎士団が既にステラの親衛隊みたいになってるから未然に防いでる。本人は知ってる程度だけどな」
「そっか」
それを聞いて胸を撫で下ろす。黒曜も力が入っていた本を持つ手を緩める。
「・・・面白い話をしてるのね?」
「おや、ステラ。俺に会いに来たの?」
「んなわけ無いでしょ」
「んー、ご令嬢がそんな話し方でいいのかい?」
「ここにはあなた達しかいないんだからいいでしょ」
ひょっこり顔を出したステラが肩を竦めながら俺の隣に座る。
今日も可愛くていい匂い。
こら、黒珠頬を赤らめるな。俺の嫁(希望)だぞ。
ステラは俺の顔を心配そうに覗き込み
「もう気持ちは大丈夫?辛いなら話してね?」
「う、うん大丈夫。ステラは優しいね」
近い近い。嬉しいけど近い。厚化粧とキツい匂いはトラウマになりそうだけど世の中そんな人殆どいないよね、多分。
「そういえばお前達10才だろ?今度侍従を連れて俺達と顔合わせやるよな?誰になったの?」
「俺はアイネだよ」
「私はシャルドン伯爵家のミュスカよ」
四つの王国では10才になった王族と五公爵家の子供は侍従を伴い未婚限定で交流を始めるようになる。所謂婚活みたいなもの。
国外に出向いたりするから侍従を伴って行く事になる。
俺の侍従は代々宰相をやっているアルストロメリア公爵家のアイネだ。父ガルザスの弟ラルスバインの息子で俺の従兄弟でもある。
「婚活なんて面倒い。興味ない」
「まあ、そう言うなよ。他の国の美姫は目の保養だぞ・・・っといけね、口が過ぎた」
黒珠は急に口を噤み目を逸らす。隣で黒曜が微かに震えている。
どうした?
「婚活と捉えないで親睦を深めるって考えればいいんじゃない?この先必要な事よ?」
ニッコリ微笑みながら首をこてっと傾げるステラ。・・・可愛いい、結婚して。
「今回はガーデニアでやるから気楽にいこうぜ」
まあ、みんな知ってる仲だし乗り気はしないけどしょうがないと思いつつアイツも来るのかーと思うとちょっと気が重くなってしまう。
「アイスフィールドの王子がステラに会うの楽しみにしてたぞ」
黒珠が面白そうにニヤニヤと俺を見ながら放つ言葉に心の中で喧嘩を吹っかけながら二週間後の集まりに溜息をついた。