とある伯爵令嬢の決意
皆さまこんにちは。
わたくしシャルドン伯爵家長女のミュスカと申します。
我が伯爵家とリーゼンパーク伯爵家、クク伯爵家の三伯爵家は昔よりドラグニ公爵家の下、王家・五公爵家の方々の御学友兼護衛の任や諜報を代々申しつかっております。
三伯爵家の子供は幼き頃から剣術や体術、護衛法など王立学園での護衛ができるように教育されます。
もちろん護衛対象の方々に恥じぬよう貴族としての嗜みも身につけます。・・・ええ、それは血ヘドを吐くくらい。
そしてこのたびわたくしは護衛対象のドラグニ公爵家ステラマリア様にお目にかかる為公爵家へお父様と馬車で向かっております。
わたくしと同い年のステラマリア様はとても麗しいご令嬢とお父様からお聞きしております。なのでお話を聞いてから今日をとても心待ちにしておりました。
お屋敷に着き通されたお部屋は華美ではなくとても落ち着いた場所でした。お屋敷自体も落ち着いた雰囲気です。
いつもより背筋を伸ばし緊張しながらお父様の隣に座って待っていると扉からステラマリア様がいらっしゃいました。
しっかりとお顔を拝見する前にカテーシーを決めて礼をします。
「初めまして。ドラグニ公爵家ステラマリアです。お顔を上げて?」
とても涼やかなお声です。ドキドキしながら顔を上げるとそこには額絵など及びもしないほどのご令嬢が佇んでおりました。
青黒い艷やかなサラサラな髪、少し切れ長の瞳は深い紫、桜色の頬と唇・・・メッチャご尊顔!!なに⁉天使⁉後光が射してる気がス!!
・・・ハッ、失礼しました。わたくし脳内がハッピーパニックになってしまいました。
互いに座り主にお父様がステラマリア様とお話してわたくしは隣で必要な時だけ口を開きます。座る佇まいや所作は10才にして完璧な淑女!ステキです。
ちょっと見惚れていたらどうやら一番大切な箇所を聞き逃したみたいです。ステラマリア様が立ち上がりわたくしに向けてふわっと笑った瞬間にわたくしの脳内は一瞬にして真っピンクになり意識を手放しました。・・・笑顔、尊い。
・・・意識を取り戻した時には既にステラマリア様はいらっしゃいませんでした。
わたくしが意識を失っていたのはほんの2〜3分、お父様に気持ち悪いから笑顔で気絶するなと注意されました。お父様酷いです。
ステラマリアは着替えに中座されたようで目の前に用意された色とりどりのお菓子を食べながら待ちます。
15分ほどでしょうか?カツカツと踵を鳴らし凛としたお声で「お待たせしました」と言い部屋に入ってきた方がいらっしゃいました。そしてまた意識が飛びました。・・・びっ・・・美少年・・・!
2度目だからかお父様に頬を叩かれながら目を覚ましました。
・・・強く叩きすぎですお父様。
向かいの椅子を見ると意識を失う前に見た美少年が足を組み笑顔でお座りになっておりました。・・・くぅっ、なんという破壊力・・・!にやけたいけど淑女教育の賜物、顔には出しません。
青黒い髪を後の上で一つに結び騎士服を着ています。
端正なお顔に印象的な深い紫。そう、美少年はステラマリア様でした!一瞬で恋に落ちたわたくしは一瞬で恋が塵になるほど砕けました。・・・サヨナラわたくしの初恋・・・
今回のステラマリア様との顔合わせは四年後の入学前に親睦を深めたい意向と騎士団の訓練場へ見学という名の婿探しにくる令嬢達を王子・ジークライン様から遠ざける任をステラマリア様から直接依頼する為だったようです。カテーシーを決め
「ステラマリア様お任せください。ミュスカ=シャルドン、必ずステラマリア様が満足いくように任務をこなしてみせます」
「うん、任務の件宜しくね。あとこれから仲良くしてくれるかな?」
「はい」
「・・・ありがとう」
少しはにかみながら笑う姿を向けられてわたくしは本日3度目の意識を手放しました。もちろん脳内はピンク色でした・・・
気づいた時には既に帰りの馬車に乗せられていたわたくし。お父様に再度笑顔で気絶するなといわれました。もちろん「気持ち悪い」を添えられて。
お父様のお話ではドラグニ家の意向でステラマリア様は王立学園に入学するまで深層の令嬢として表には一切出ず男装で剣術を磨くそうです。
確かに令嬢として訓練できませんものね、納得です。
ステラマリア様との親睦はあの破壊力の高い笑顔に意識が勝てるかは心配ですがあと四年、ゆっくり慣れていきましょう。・・・慣れるかな?
さて、騎士団の訓練場での任はどうしましょうか。
王子様をあのハイエナ令嬢達から遠ざけるのは骨がいりそうです。淑女教育を受けている令嬢達は口が達者な方が多いですからね。だったらハッキリズバッと言って追い払った方がいいでしょうか?
・・・あっ、これ少し(多分)気の強めなわたくしなら出来そうですね。庶民向けの小説の中にあった悪役令嬢みたいにハッキリズッパリ追い払いましょう。
ステラマリア様、わたくしがんばりますわ!!
・・・お父様、意気込んでいるわたくしをそんな不安そうに見つめないでください。