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生き残った少女

実体の有る神ってなんか神っぽくない気がする

ジャラリと死体が歩くたびに鎖の擦れる音がする

焦点の合わない虚ろな目に生気を感じさせない土気色の顔

両腕は力無くだらりと垂れ下がっているが未だに鎖は力強く握りしめている


「おいダグナ平気か?」


確認の為に鎖の先に繋がれている少女に一応声をかける

と言うのもこの突然動き始めた死体は少女には見向きもせずに俺の方へと

向かって来ているからだ

動く死体に敵意や害意が有るのかは知らないがこの狭い室内で出来ることは

多くない

意思の無さそうな動く死体に対して意味があるか分からないが本を手放すと

右腕を突き出すようにして半身に構える


(げほ)…も、もんだいないです…(げほ)


そもそも部屋の入り口に居た死体に鎖を持たれた状態で少女は棺の前で祈っていた

死体が動いたからと言って相当無理な動きをされない限り座ったままでも問題ない

そう考えて死体の行動に意識を注目する

のろのろと緩慢な動きで目の前まで来た死体は歯をむき出して唸り声をあげて

掴みかかってきた


「グゥウウuuuウウォオオオooooオオ!!!」

「いきなり元気になったな」


少女に負担を掛けないように転ばせる方向を鎖を持つ手が下側に来るように狙う

右手で掴もうとした手を反らし左拳で右側頭を殴りつけ右足で蹴り払う

倒れた死体の首を思い切り踏みつけ骨を砕くと首から下は動かなくなったが唸り声は止まなかった

ひとまず無力化には成功したが動き続けていると言う事はトドメを刺すには頭部を破壊するしかないらしい

蠢く死体の被っている鉄兜を脱がすと思い切り振り下ろし再び物言わぬ死体に

戻るまで繰り返す


「ん~神官だよなダグナ、この動く死体について何か分かることはあるか?」

(すぅ)…ぐ、ぐーるです…(ふぅ)ほ、ほんのまりょくがなにかしたような……」


死体が動かなくなったのを確認すると鉄兜を投げ捨てて放っていた本を拾い上げる

いつの間にか頁の隙間から怪しげな青白い燐光を放つようになった本はまるで

別物の様に変化していた

題名は変わらず「笑う髑髏の月」だがまるで骨の如き装丁に変化しており

月色に輝いている

表紙には黒白紅の三色の宝石が心臓のように脈打ちそれぞれを中心に罅割れの

意匠から金色が滲み出している


くるくると裏表を何度か見回して確認が済むと問題の燐光を放つ頁を開く

その頁の見出しには「夜の荒野を彷徨う腥風」と書かれよく分からない文字列と紋様が青白く輝き燐光を放っていた


少女の隣に座り込み問題の頁が見えやすいように本を持ち上げる

輝く文字列にそっと少女は手を触れて何かを考えるように紋様を見つめている

俺が見ても何も意味を読み取れないのに対して少女のその目は文字列を読み取り

紋様の意味を理解しているようで奴隷神官にしては教養があると思えた


(はぁ)…これはすごいです…(はぁ)い、いくつものまじゅつが…(すぅ)ぐちゃぐちゃなのに

 せいじょうです…(えほ)!」

「なるほど?複数の魔術?が混ざってるけど上手い具合にまとまって

 形になってるって事か?」

「そうです…(ふぅ)もはやげいじゅつです…(げほ)

「なるほどな(最初に見た時に捨てて行かないで得をしたな)」


片手で少女の髪を撫でながらもう片手で(笑う髑髏の月)の背表紙を支えて隣でぱらぱらと頁を捲っていく姿を眺める

本の内容は最初に見た副葬品の目録や死者の功績などといった内容は影も形も無く不可思議な文字列と紋様がずらりと記されていた


内容に夢中になる少女とは反対に理解できない内容に興味が薄れていく

意味も無く狭い室内をぐるっと見回していると棺の前に置いていた副葬品が

1つ残らず消えていることに気が付いた

元々持っていくつもりは無かったがどこに行ったのかと視界を彷徨わせていると

唐突に死体から青白い燐光が舞いはじめた

舞い上がった燐光が(笑う髑髏の月)に吸い込まれていく度に死体は存在感を失っていき

僅か数秒で元から何も無かったかのように剥ぎ取られていた装備ごと消滅した


「おぉ?ダグナはその(笑う髑髏の月)持ってて何ともないのか?」

「……すこし、ちょうしがよくなりました……」

「そうか、なら良いが」


少女はゆっくり立ち上がり身体の調子を確かめるように手足を動かすと

目を閉じ深く深呼吸した

何度か繰り返した後ふと思い出したように言った


「ん……あなたはあはとねうす(古代プノレト国祖神)さまですか……?」

「アハトネウス?いや、知らないが蘇らせたのならそうなんじゃないか?」


グールと闘りあう時に棺のそばに放置した松明を回収し振り返りながらそう答える

実際に名前は憶えていないがそれ以前に俺が元々生きていたであろう時代の

知識さえ曖昧で生き返る時に記憶の欠如か再生に失敗したのかもしれない

当たり前だが今の一般常識的な知識すらないので生きるのには困らないだろうが諸々が面倒臭そうだと感じていた

俺の返事にダグナは少し悩んだような顔をしたがしばらくして納得したのか

何度か頷いた

少女は手に持っていた(笑う髑髏の月)を俺に渡すとまっすぐに目を見つめながら右手で俺の胸に触れて左手を自分の胸に当てて言った


「……あはとねうす(古代プノレト国祖神)さま……だぐなのしんこうをうけとりください……」

「あぁ、受け取ってやる。来れるところまでついてこい」


ドクンと心臓がはねる

まるで誰かの心臓と心臓が繋がったような不思議な感覚

最初に見た時と変わらぬ陰のある沈んだ金色の瞳の中に信仰の炎が揺らめいていた


この時から奴隷神官ダグナは古き新神アハトネウスの眷属になった

人を恐怖させる物の条件は三つ必要って言う怪物定義の神ヴァージョン必要よね

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