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短編集・散文集

振られて

作者: Berthe

 振られた。彼はそれこそ身が引き裂かれる思いだった。


「あなたは変わっちゃった」


 芝居の台詞めいた言辞にいざ邂逅すると、それは重く胸を打った。


  *


 晩酌の席に一つ年下で、まだ学生の(かん)()を呼び寄せ、繰り言を言うようになったばかりではない。


 すでにいっぱしの仕事人のつもりだろう、どうすれば上手くこなせるか、横着する方法を披露するにおよんで、彼女があきれ顔になったのも、陶然とあごをさする彼は気づかなかった。


 一度や二度、それも心労の果ての所為であったなら、彼女も同情しただろう。が、そうでないことは、晩酌につきあわされる頻度がいや増すにつれ、疑えなくなった。


 青春のひとときを捧げた男と離れるのは彼女としてもつらかった。


 別れるときめてから幾日も、栞奈はさんざん泣いて、なおさめざめとつづく際限のない悲しみのなか、ふいに、未来の幸福がほのめいた。


 彼と、そうでない別のものがあらわれて、ひとつが掻き消えた。


  *


『直すから──』彼はそういいかけてやめた。


 彼女のためにみずからを矯正すると、造作なく言葉にはできても、実行は至難であると、わかっていた。


 そのままのおれを知ってもらわねば、きっとこのさき、同様のことにぶつかる。栞奈がそれを望まないなら、無理に引き留めることはない。


 それから、一度だけ会って食事をし、閨房を訪れた。


 最後に、と相手にも自分にも誓って、その場をあとに舗道を歩いていると、次第に冷ややかな解放感につつまれた。


 その冷淡さは彼女ひとりのみではなく、全女性へむけられているのを、感じていた。


  *


 それ以降、酒量はずっと減り、おだやかに女性を愛するようになった。広く女と交際し、旧交を温め、彼女たちの話にすすんで耳を傾けた。


 しかし自身の内側については、つとめて秘するようになり、そして、恋を覚えたことは一度としてない。


 ただ、今はより深く、それでいて身近に、女性たちへの愛を感じている。

読んでいただきありがとうございました。

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