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俺は彼を送った

作者: ツカサ

気ままに書いた初投稿です。

感想への返答などはできないので、ご了承ください。

ピッ、ピッ、ピピッ、ピピッ、

ピピピピピピピピピピピピッ … … カッ ゴトンッ!


耳障りに鳴り響く音を振り払おうとして、無造作に腕を動かしたら指先が何かに当たった。

そのあと聞こえたのは、どこか不吉な鈍い音。その音によりようやく俺は目を覚ました。

昨夜スマホをいじっていたら、そのまま寝てしまったことを思い出す。

眠い目をこすりながら身体を起こすと、まず目に入ったのは、昨夜飲んだ発泡酒の空き缶。

片付けようかと手を伸ばすも、途中で止まる。

今日も〔当番〕の日だ。どうせ今夜も飲むのだから夜にまとめてやろう。

もともと気が向いたときに飲むぐらいで、その感覚も週に1日くらいだったのが、今では〔当番〕の後は必ず飲むようになった。


苦い光景を目にしたことからの現実逃避ではない。

この世界から消えてしまった者への懺悔でもない。

ただいつの日からか〔当番〕帰りに必ず近所のスーパーに立ち寄り、夕飯と一緒に酒を買い物カゴに入れている自分がいることに気が付いた。

このことに気が付いてからも、大して不具合はないためこの習慣をやめる気はないが、今日みたいに〔当番〕が続くと自分の健康が心配になってくる。


空き缶に伸ばした手を戻したとき、ふと床に転がった時計の文字盤が目に入る。

遅刻するほどではないが、あまり余裕もない時間。つまりいつも通りの時間だ。

完全に目が覚めた俺は、手早く支度を始める。

身だしなみは社会人の基本だし、朝食は1日の仕事への活力になる。

昨夜の残りを胃に収め、腕時計を見るとちょうどいい時間だ。

火元のチェックや忘れ物がないかを確かめた俺は、通勤バッグと今日のゴミを手にして家のドアを開ける。最後に無人の室内に向けて声をかけた。

「行ってきます。」


「おはようございます」

仕事場に着くと、既に出勤している人達に挨拶をする。

周囲から返事が返ってくるのを脇見に自分の机に向かい、今日の予定を確認していると後ろから声をかけられた。

「おはよう。」

「おはようございます。」

「あれ? 今日も〔当番〕? 昨日もじゃなかった?」

声をかけてきた先輩が目ざとく、俺の手元を覗きながら聞いてきた。

「そうなんですよ。本当は今日だけだったんですけど、昨日急に連絡が入ったらしくて。

しかたなく手の空いている俺が行きました。」

「それはご苦労様。」

苦笑いをしながら、先輩は俺に労いの言葉をかけてくれた。

そして「今度食事にでも行こうな。」と俺の肩を軽く叩いてから、自分の席に戻っていった。

俺は人と話すのが苦手という訳ではないが、積極的に世間話に興じたりもしない。

そんな不愛想と言っても過言ではない俺にも気を配ってくれ、親身に接してくれる先輩の存在は素直にありがたい。

正直、今の仕事を続けられている要因の大部分は、あの頼りになる先輩の存在かもしれない。


今日の内に片付けておくべき仕事が一通り済んだところで、ふと時計を見ると〔当番〕の時間まで少し時間があった。丁度よいので休憩スペースに行き、缶コーヒーを買う。

プルタブを開けて一口飲むと、コーヒーの仄かな甘みが疲れた脳みそに染み渡るような感覚を覚える。

ホッと一息つきながら、休憩室の窓から外の景色を眺める。スーツ姿の男が足早に歩く姿や、就活生らしき女性が向かいのビルに入っていく様子が見える。

それを見て「今日も平和だな」なんて考えている自分が、何処か可笑しく思えてしまう。


そんな風に過ごすうちに〔当番〕の時間が近づいてきた。

まだ半分ほど残っていたコーヒーを一気に喉に流し込むと、自分の机に向かう。

手早く荷物を纏め「〔当番〕に行ってきまーす」と声をかけながら部屋を出る。

向かうのは「車両管理室」だ。


部屋に着くとノックをしてから入る。すぐさま壁にあるホワイトボードに目を走らせると、今日の車は2tトラックだった。それを確認すると、目の前の受付へと声をかける。

「すいません、今日の〔当番〕です。2tトラックの鍵をください。」

「わかりました。少々お待ちください。」

受付の人が背後の戸棚へ向かい、車の鍵を探しているのを見ながら、今日の車が2tトラックであったことに安堵する。もしこれが昨日みたいなセダンやSUVだったら、2日続けて悲惨な光景を目にする羽目になっていた。

別に俺が逮捕されるわけでもなく、今まで何回も繰り返してきたことだ。

それでもあの間近で起こる出来事と、同時に車へ響く鈍い衝撃にはなかなか慣れない。

おそらく一生慣れることはないだろうし、その方が良いとも思う。


「お待たせしました。こちらが本日の鍵となります。」

「ありがとうございます。」

「2日連続ですよね? お疲れ様です。」

どうやら、俺が2日連続で〔当番〕であったことに気づいていたらしい。

確かに最近では〔当番〕が連日にならないようにシフトが組まれているが、それも一昔前までは違ったらしい。3~4日連続〔当番〕があるのはざらで、ひどい時には6日連続なんてこともあったらしい。

そんな、ブラック企業も真っ青な状況が改善されたのは、大規模な会社の制度改革があったのもあるが、あちらの世界の情勢が落ち着いてきたことも大きい。できることなら、あっちの問題はあっちで解決して欲しいと思う。


受付の人からの労いの言葉に感謝を伝え、部屋を出て車庫へと向かう。車庫の扉をくぐり、2tトラックに乗り込むとエンジンをかける。ミラーや各種装置のチェックをした後、中央の液晶端末を操作する。

今日の〔当番〕資料と照らし合わせながら、指定時刻と目的地などの入力を済ませていく。入力を終え端末がルート検索をする間に、資料に張り付けてある今日の対象者の顔写真を見る。利発そうな顔立ちの青年で、笑顔がよく似合っている。

世界を救う人間と言われても納得だ。ついでに経歴の欄にも目を向けると、まさしく文武両道、品行方正を絵にかいたような、素晴らしい活躍の軌跡がズラッと書いてある。

きっと周囲の人間には自然と好意を持たれ、初めは敵対しているような人間であっても共に過ごすうち次第に心惹かれるようになっていくのだろう。

まさに物語の主人公というべき存在だ。


端末のルート検索が終わると、アクセルを踏んで車を走らせる。

会社の建物を出ると、すぐに右折をして国道に入る。

しばらく道なりに進むと、端末が左折するように告げたので指示に従う。ここまで順調に進んでいる。


端末の出す指示に従いながら走ること1時間。ようやく目的地が近づいてきた。

辺りを見回せば、住宅街に入ったようで一軒家が目立つようになっている。指定時刻も迫っている。

念のため車の周囲、特に後方に目を光らせ、余計な人や車が無いことを確認しながら進んでいく。

唐突に端末が鋭いブザーを鳴らす。今日の対象者の発見を告げる合図だ。すぐさま前方に目を凝らす。

いた、彼だ。俺が発見した直後、端末が車の加速を促す指示を出す。俺は躊躇わずアクセルを踏み込む。

俺の体が強くシートに押し付けられるのを感じながらも、前方の対象者からは目を離さない。

どうやら対象者である彼とは別に、近くにもう1人女の子がいるようだ。

この時点で、俺にはこの先に起こる出来事の予測がついた。車のメーターは既に70キロを指している。

こんな住宅街ではもちろん速度違反だ。


前方の2人まであと30メートル。

どうやら2人は喧嘩をしている。


あと25メートル。

女の子が対象者に向かって何かを叫んでいる。


あと20メートル。

女の子が道に飛び出してくる。もちろんブレーキは踏まない。


あと10メートル

女の子が車に気付き、目を大きく見開く。だが遅い。もう彼女自身では避けられない。


あと5メートル。

女の子は恐怖に身を硬直させる。対象者が道に飛び出してくる。そうだ、頑張れ。


あと3メートル。

対象者が女の子を、渾身の力で突き飛ばす。よくやった。


あと1メートル。

対象者が満足げに笑う顔が目に入る。大丈夫、一緒にいた女の子は絶対無事だから。

直後トラックの前方に、複雑な紋様と奇怪な文字で作られた魔法陣が広がり、対象者を一瞬にして光で埋め尽くす。もう彼には届かないと分かってはいるが、俺はいつものように最後の言葉を口にする。

「 あっちでも頑張れよ。 」










俺がトラックで走りぬけた後の様子をミラーで確認すると、そこには何も残っていなかった。

彼の死体も。

彼の荷物も。

彼が最後に突き飛ばした女の子が、立ち尽くす姿も。

何も残っていなかった。

そこには静かな住宅街の光景が広がるだけであった。









車を会社に返すと、俺はすぐに家に帰った。

もちろんスーパーに立ち寄って、夕飯と一緒にビールとつまみを買った。

手早くシャワーだけ済ませて、風呂場を出ると早速ビールに口をつける。

喉を抜けていく爽快感に酔いしれながら、夕飯を平らげていく。

買ってきたビールがなくなったので、冷蔵庫に常備してあるウィスキーを取り出す。

テレビのバラエティ―番組を横目にハイボールを楽しんでいると、ふいに睡魔が俺を襲った。自然と降りてくる瞼に少しだけ抵抗しながら、ベッドに向かう。

心地よい柔らかさを堪能しながら身体を横たえると、発泡酒とビールの空き缶が目に入った。

まあいい。

明日は休みだ。明日片付けよう。

そう結論付けた俺は、今度こそ睡魔に身を委ねた。






俺の職業は異世界転生ドライバー。

今まで何人も異世界に送ってきた俺が、決して異世界に送ることができない少女に出会ったのは、この1年後のことだった。


読んでくださり、ありがとうございました。

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