悪役令嬢はモブキャラに溺愛される
悪役令嬢だって幸せになっていい
はじめまして、ご機嫌よう。私、リリー・ヴァイスと申します。公爵令嬢ですの。そして、この乙女ゲームの世界の悪役令嬢ですの。
私には前世の記憶があります。そこでは、私は平民ながら恵まれた環境におりました。そして、そこで乙女ゲームという遊戯に没頭しておりましたの。ですが、お気に入りの乙女ゲームを完クリした後すぐに交通事故で儚くなってしまいましたの。
そして、目が覚めたらその乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生していましたわ。
ですから、私は一生懸命に破滅フラグを回避するため努力致しましたわ。まず、子煩悩なお父様におねだりして、破滅フラグの第一歩、ヒロインの攻略対象者の一人、シャルル・ド・ブルボン第一王子殿下との婚約を結ばれる前に、明らかにモブキャラの侯爵令息(次男)と婚約を結ばせていただきました。我が家には私しか子供がいないので、婿養子として迎えることになりますわ。これで私の破滅フラグその二、ヒロインの攻略対象者の一人、跡取りとして養子に迎えられる筈だった遠縁の親戚のパトリック・ヴァイスの登場も無くなりますわ。
さらに、ヒロイン、ナーサシス・ヒーリングのお母様がご病気で儚くなって、ヒロインの実父であるヒーリング男爵がナーサシス様を実子として引き取るのも邪魔させていただきました。私のお小遣いからナーサシス様のお母様の治療費を負担して、治して差し上げましたの。さらにナーサシス様のお母様の新しい就職口も我がヴァイス家の実質的な配下であるコマンドー伯爵家のメイドに斡旋し、ナーサシス様にもコマンドー伯爵家のメイドの仕事を与えました。
これで破滅フラグは回避できた…と、思います。ですが、一つだけ問題が。それは…。
「リリー!愛してるよ!」
「はいはい」
明らかにモブキャラの侯爵令息(次男)の婚約者の溺愛っぷりです。彼の名はウィステリア・リッチ。モブキャラの割に、攻略対象者程ではないものの中々のハイスペック。学業優秀、文武両道、穏やかで、優しく、見た目も攻略対象者程ではないものの中々のイケメン。しかし、婚約者の私を溺愛するあまり、普段は私に対して忠犬、私に何かあると狂犬のようになるのです。
「ねえ、リリー。学生結婚しちゃおうよ」
「ウィリー。待ても出来ない駄犬は私には要らないわ」
「ご、ごめん!ちゃんと待て出来るよ!学園を卒業してから結婚しよう!」
「よく出来ました」
ウィリーの頭を撫でる。ウィリーは嬉しそうににこりと笑う。
「えへへ。大好きだよ、リリー!」
「私もよ、ウィリー」
これが私達の日常です。
ー…
「リリー・ヴァイス!今ここで貴様の悪行を断罪する!」
あらまあ、結局はこうなるのですね。
シャルル・ド・ブルボン王太子殿下が、この学園の卒業パーティーというおめでたい席で、隣に見知らぬ少女を侍らせ、私を断罪します。知らない子ですが、恐らくは転生者なのでしょう。その知識をフル活用して、本物のヒロインの退場したこの舞台でヒロインごっこですか。
「悪行とは?」
「惚けるな!貴様、ルルを虐めただろう!」
あー、ヒロイン擬き、ルルっていうんだ。全く知らないなぁ。
「証拠はあるのでしょうか?」
「ルルの証言だ!」
「そうですか。話になりませんね」
私は呆れてため息をつく。
「き、貴様!生意気な態度は許さんぞ!」
「それはこちらのセリフですよ、シャルル王太子殿下」
ウィリーが颯爽と現れて、私を背中に隠します。
「な、なんだ貴様!」
「僕はリリーの婚約者です。それよりも、これを見てください」
「なんだこれは?」
ウィリーの手には無数の紙の束。その紙の束の一つをシャルル王太子殿下に渡すと、他の紙の束を他の生徒にも渡す。
そこには、ルルさんとやらの虐めの自作自演、シャルル王太子殿下他、沢山の貴公子達との不純な恋愛関係についてが赤裸々に綴られていた。うわぁ、色々えげつない。
「こ、これは…ルル!どういうことだ!」
「え?…こ、これは!」
シャルル王太子殿下から紙の束を突きつけられたルルさんとやらは顔が真っ青。
「…っ!」
そして脱兎の如く逃げ出し、シャルル王太子殿下他、沢山の貴公子達に追いかけられて行きました。
「リリー。大丈夫だった?来るのが遅くなってごめんね。紙の束を作るのに手間取っちゃった」
「大丈夫よ。ありがとう、ウィリー」
「…っ!可愛い、リリー!」
ー…
その後。ルルさんとやらは王太子を誑かし、私に冤罪を吹っかけた罪で毒を呷ることになった。シャルル王太子殿下は一から王太子教育のやり直し。その側近兼ルルさんとやらの逆ハーレムメンバーも親御さんから鍛え直されている。本物のヒロインのナーサシス様はお母様と一緒に幸せそうにメイド生活を送っている。
そして、私達は卒業してからすぐに結婚した。みんなから祝福された、幸せな結婚式。新婚生活を送ることになった私とウィリー。その関係はというと。
「リリー、朝摘みの薔薇でブーケを作ったよ!よかったら受け取って!」
「ありがとう、ウィリー」
「どういたしまして!」
相変わらず溺愛されています。幸せです。
大団円を迎える二人