8話「女王と女神」
よろしくお願いします!
登場人物
霞勝 透(17)(7)
天童 一葉(17)
霞勝 鼓滝(17)
三嶋 緋炉鬼(17)
阿国 優花里(17)
佐久間 恋夜(17)
八坂 夜宵(17)
佐藤
高津
能海
医師
○オープニング
○病院・全景(昼)
○同・透の病室(朝)
霞勝透(17)「(一葉を見て)母さんに会わないか?」
天童一葉(17)「・・・お母さん?」
透「ああ、俺のな」
一葉「な、なんで、急に?」
透「実は、母さんはここに入院してるんだ」
一葉「え、そうなの?」
透「あと、前に母さんの見舞いに行った時にお前の話
をしたら、お前から離れろって言われたんだ」
一葉「え?」
透「決して悪気があって言ったわけじゃないんだ。多
分、お前が一般人だから巻き込んだらいけないって
思って言ったと思うんだ。それに──」
一葉「それに?」
透「また見舞いに行った時にお前の事を悪く言われる
とこっちまで嫌な気分になる、お前を守れるって母
さんに証明したい」
一葉「・・・わ、分かった!」
ドアが開く
天童美波(39)「おはよ〜」
透「おはようございます」
一葉「おはよ〜」
美波「(歩きながら)怪我はどう?」
透「大丈夫です」
天童剣司(17)「(歩きながら)星見れた?」
一葉「うん!凄かった!」
透「そうだ、美波さん」
美波「ん?」
透「母さんに一葉の事を話しておきたいんです」
美波「別にいいんじゃない?何か問題あるの?」
透「母さんが一葉に対して強く当たりそうなんですよ
ね、前、見舞いに行った時に一葉を嫌ってたみたい
な節がありまして」
美波「大丈夫じゃない?鼓滝だって自分の息子の将来
の──」
天童「(美波の口を塞ぎ)それはダメ」
美波、頷くと天童は手を離す
美波「鼓滝だったら許してくれると思うわよ、けど疑
い深いからね〜」
透「どうやったら説得出来ますかね?」
美波「簡単簡単、本人と一対一」
透「母さんと一葉が?」
美波「そう」
一葉、不安な顔になっている
美波「(一葉の肩をポンと叩き)大丈夫よ、鼓滝は貴方
を嫌ってない。ちょっと不安なだけなのよ」
一葉「う、うん」
○同・鼓滝の病室(昼)
霞勝鼓滝(39)、上半身を起こして窓の外を見ている
ドアが開く音
透の声「母さん」
鼓滝「(振り向き)透、どうしたの?・・・入院してる
の!?」
透「ああ、能力者と戦って怪我したから、少しだけ」
鼓滝「大丈夫?傷はどのくらいなの?」
透「(椅子に座り)平気だ。明日には退院できる」
鼓滝「そう・・・なら、いいけど」
透、指を膝にトントンさせている
鼓滝「何か、話したい事があるの?」
透「・・・ああ」
鼓滝「(透の手を握り)話して?時間なら沢山あるわ」
透「・・・分かった。怒らないで、聞いてほしいん
だ」
鼓滝「(手を離し)なに?」
透「・・・今、廊下で一葉が待ってる」
鼓滝「!」
透「一葉を呼ぶ前に聞いておきたい、なんで一葉から
離れなきゃいけなかったんだ」
鼓滝「・・・一葉ちゃんが、ある器の持ち主だから
よ」
透「器?神器の事か?」
鼓滝「神器とは違う。言うなれば、神の領域を脱した
神」
透「一葉は一般人だぞ。それが一葉に何の関係がある
んだ?」
鼓滝「・・・」
透「母さん!」
医師「(ドアを開け)検温でーす」
鼓滝「あ、はーい」
医師・看護師、入ってくる
拳を握りしめ出ていく透
○同・廊下(昼)
一葉、椅子に座っている
一葉「あ、透。どうだった?」
透「(椅子に座り)何かしらの訳がある、母さんは、俺
とお前が一緒に居るのが気に食わない訳じゃないら
しい、なにか別の事が・・・」
一葉「な、なにかって?」
透「さあな」
一葉「(寂しそうに)・・・私、何もしてないのに」
透「(一葉の頭をポンポン叩き)落ち込むな、なんとか
する」
医師、病室から出てくる
透、病室に入っていく
○同・病室(昼)
透「母さん」
鼓滝「呼んで」
透「(立ち止まり)は?」
鼓滝「一葉ちゃんを呼んで。あなたは出てなさい」
○同・廊下(昼)
透「(病室から出てきて)一葉」
一葉、透を見る
透の声「入れ」
一葉、病室へ入っていく
透「(一葉を制止し)一葉、もし何か酷いこと言われた
ら、出てきていい。耐える必要はないからな。俺は
ここにいる」
一葉「う、うん」
○同・病室(昼)
一葉、ドアを閉める
鼓滝「(一葉を見て)座って?」
一葉「(椅子に座り)こ、こんにちは。おばさん」
鼓滝「久しぶりね、一葉ちゃん。透から話は聞いてる
でしょ?」
一葉「は、はい。私と透が一緒に居ちゃいけないっ
て」
鼓滝「美波は、なんて言ってるの?」
一葉「私のそばにいて守れって」
鼓滝「そう。なら、その意見は尊重しましょう」
一葉「な、なら!」
鼓滝「でも、1つだけ聞かせて?」
一葉「は、はい!」
鼓滝「一葉ちゃんは、好きな人の為なら何が出来
る?」
一葉「え・・・?す、好きな人の為に・・・私は、私
は!」
鼓滝「相手が透だから、何も出来ないんでしょ?」
一葉「え?」
鼓滝「透は、永治が死んで私が倒れた後から、今の今
まで「全部」をやってたわ、家事・スポーツ・勉
学、さらには人殺し、文字通り「何でも出来る」あ
の子に、一葉ちゃんは何をしてやれるの?」
一葉「(戸惑いながら)わ、私、は、私は──」
鼓滝の声「そばにいること」
一葉「え?」
鼓滝「あの子ね、泣かないでしょ?」
一葉「え?」
× × ×
(フラッシュ)
一葉、透に抱きついて泣いている
透の声「無理してるんじゃないか?」
× × ×
鼓滝「昔、私や永治に稽古つけてもらってた時も絶対
に泣かなかった。泣きそうになると自分を殴ったり
壁に頭を打ちつけてた。なんでそんなことするの?
って聞いたら──」
× × ×
(フラッシュ)
透(7)「強い人は泣いちゃいけないんだ!」
× × ×
鼓滝「って・・・それだけを思って何でも「1番」を目
指した。料理をする事、洗濯物を取り込む事、戦う
事・・・貴方を守る事」
一葉「透が・・・そんなことを」
鼓滝「まさか、まだ生まれて10年も経ってない子がそ
んな重たい事を思ってたなんてね」
一葉「私、どうすれば」
鼓滝「「1番」でいるってことは1人になること。あの
子はもうその域に達してる。もし、あの子が無茶を
するようなら、傍で止めてあげて?」
一葉「・・・分かりました!」
鼓滝「うん、よろしくね。ところで」
一葉「はい?」
鼓滝「透のどこが好きなの?」
一葉「(頬が染まり)ど、どこって・・・」
鼓滝「顔?」
一葉「か、かっこいいんですけど」
鼓滝「あの子の1番優れているところは──」
一葉、鼓滝を見ている
鼓滝「人を愛する事が上手なところ。私が家事で疲れ
てたら代わりにやってくれるし、買い物もやってく
れたり、その人が弱い所を的確に補助してくれる。
だから、あの子には弱い所が無い。いや、見せない
だけかもね」
一葉「(俯き)・・・」
鼓滝「それじゃあ、もう行きなさい。私が貴方を嫌っ
てるって聞いて心配してるだろうから」
一葉「最後に、1つ聞きたいんですけど」
鼓滝「なに?」
一葉「透が記憶喪失なのはなんでですか?」
鼓滝「・・・事故にあったのよ。それで記憶喪失と、
それに伴って「失意症」も発症した」
一葉「失意症?」
鼓滝「詳しい事は美波に聞いたら分かるけど、ある感
情が記憶と共に無くなること、かな?それが透の場
合、人を好きになる感情が欠落したのよ」
一葉「・・・」
鼓滝「残念だけど、貴方を好きになることがないの
よ」
一葉「治せないんですか?」
鼓滝「治療法はない。記憶喪失はともかく、失意症は
どうすればいいか」
一葉「(俯き)・・・・・・」
一葉、拳を握り締めている
鼓滝「それでも、あの子のそばにいたい?」
一葉「・・・はい」
○同・廊下(昼)
透、椅子に座っている
佐久間の声「何してんだ?」
透「ん?」
佐久間恋夜(17)、立っている
佐久間「(椅子に座り)人待ちか?」
透「まあな、そんなところだ」
佐久間「ここって、お前の母ちゃんの病室じゃねぇ
か。入んねぇの?」
透「ああ、人と話してる。お前何してんだ?」
佐久間「友達の見舞い」
透「お前友達いたの?」
佐久間「内臓えぐり倒すぞ」
透「・・・ところで、八坂夜宵って覚えてるか?」
佐久間「何だ急に」
透「ふと思い出してな」
佐久間「・・・あいつは、京都に戻った」
透「へぇ〜、なんで?」
佐久間「さあな・・・ついでに言うと今度、転校生来
るんだが」
透「だが?」
佐久間「(立ち上がり)転校生が、その夜宵だ」
透「あいつが戻ってくるのか?あいつ苦手なんだよ」
佐久間「ハッハッハ、また騒がしくなるな。それじ
ゃ、俺はこれで」
恋夜、遠ざかっていく
透、天井を見上げていると一葉が病室から出てくる
透「(立ち上がり)一葉、どうだった?」
一葉「うん、何も、言われなかったよ」
透「そうか!よかった!母さんがなんか言いそうで怖
かったんだ」
一葉「うん」
透「さ、飯食いに行こう。腹減った」
遠ざかっていく透・一葉
○神崎高校・全景(朝)
○同・教室(朝)
生徒ら、席に座って前を見ている
担任「あー、今日からうちのクラスに転入してきた」
八坂夜宵(17)、教壇に立っている
夜宵「八坂夜宵です、よろしゅう」
夜宵、一礼する
佐藤「か、かわいい」
高津「凛々しい」
能海「恋に落ちた」
担任「黙れ、3ナンパ」
佐藤・高津・能海「うるせぇ!」
佐藤・高津・能海、担任と言い合っている
一葉「あの子、可愛いね」
透「そうか?性悪だぞ」
一葉「え?」
夜宵、透の横に座る
夜宵「ウチが性悪?酷いこと言いはりますな〜」
透「久しぶりだな、夜宵」
夜宵「ええ、ホンマ。6年ぶりどすなぁ、透君?」
一葉「透、知ってる人?」
透「昔の友達だ」
夜宵「友達?ウチら、付き合うてましたやん」
一葉「え!?」
夜宵「あの時は楽しかったどすなぁ」
透「嘘つくな、俺はイエスとは言ってねぇ」
夜宵「でも、うちのデートのお誘いにはイエスしてく
れたやろ?」
透「デートじゃねえ、買い物だろうが」
夜宵「あら、ウチはデートって思うてましたけど?」
透「俺はただの買い物と思ってた」
夜宵「うちの手繋いできてくれた時は嬉しかったど
す」
透「人が多かったからな」
夜宵「お揃いの物も買うたなぁ」
透「鉛筆削りをな」
夜宵「熱い夜を一緒に過ごしたこともおましたよな
あ」
透「バーベキューやったな」
夜宵「ウチが作った弁当、美味しゅう食べてくれはっ
たな〜」
透「あれ全部冷凍だろうが。卵焼きでさえ冷凍だった
ぞ」
一葉「透、トイレ行ってくるね」
透「おう」
一葉、歩いていく
夜宵の声「ウチと一緒に夏祭りも行ったやろ?」
透の声「それはあるな」
一葉、涙を拭いながら教室を出ていく
阿国優花里(17)、一葉を見ている
○同・屋上(朝)
一葉、椅子に座っている
ドアが開く
優花里「一葉?」
一葉「ん?」
優花里「大丈夫?」
一葉「うん」
優花里「そんな暗い顔で大丈夫って言われても信用出
来ないのよ、どうしたの?」
一葉「・・・」
優花里「友達?あの転校生が?」
一葉「うん、昔の友達みたいで」
優花里「恋のライバルってわけね」
一葉「スゴい綺麗でスタイルもよくて・・・」
優花里「そこはどうしようもないわね」
一葉「透のそばにいたいのに」
一葉、涙目になっている
優花里「なら、尚更負けられないでしょ?」
一葉「うん」
優花里「透をとられたくないんでしょ?」
一葉「でも──」
優花里「でもじゃない、それが恋愛よ」
一葉、優花里を見る
優花里「相手を突き落として、その人をゲットする。
それが普通の恋愛」
一葉「したことあるの?普通の恋愛」
優花里「ないわよ。だから、憧れてるの」
一葉「え?」
優花里「私は、たくさんの人を知ってるけど好きにな
ったのは緋炉鬼だけ、しかも、穢れてるから」
一葉「・・・」
優花里「だから、頑張らなきゃ。透の事が好きなら。
他の人に取られたくないなら」
一葉「・・・うん。私、頑張る!」
一葉、屋上を去る
優花里、一葉を見ている
三嶋の声「なんで俺も聞かなきゃいけねぇんだ?」
優花里「困ったらアドバイスを貰おうかと」
○同・トイレ(朝)
三嶋緋炉鬼(17)「(鏡を見ながら)俺に頼られても困るん
だがなぁ」
優花里の声「でも、私より人生経験はあるでしょ?」
三嶋「そりゃ、お前よりかはな」
○同・屋上(朝)
優花里「出会った人の中で私は何位くらい?」
三嶋の声「・・・順位をつけるのは、好きじゃねぇ」
優花里「・・・よかった。それじゃ、ありがとう」
三嶋の声「ああ」
○同・トイレ(朝)
三嶋「・・・」
○同・屋上(朝)
優花里、立っている
優花里「否定してくれなかったなぁ」
○同・廊下(昼)
一葉、走っている
○同・教室(昼)
一葉、ドアを開け入ってくる
透・夜宵、話している
一葉の声「八坂さん!」
夜宵「(一葉を見て)ん、どうしたんどす?」
一葉「(真剣な顔で)ちょっと来て!」
夜宵、首を傾げている
○同・屋上(昼)
夜宵の声「なに?」
一葉「私と勝負しましょ!」
夜宵「いきなりなんどすか?透君と話すのに忙しかっ
たんやけど?」
一葉「私とあなた、どっちが透に相応しいか、勝負
よ!」
夜宵「透君が好きなんどすか?」
一葉「そうよ!大好きなのよ!」
夜宵「!驚きました。朝は逃げてたどすからな〜。も
う、負けを認めてくれてたかと思ってましたわ」
一葉「そんな訳ないでしょ!」
夜宵「透君をとられるのが怖いんどすな?分かりまし
た、そういうことならこの勝負、受けて立ちます」
一葉「内容は料理!今度の日曜日、透の家に来て!」
夜宵「分かりました、楽しみにしてます」
一葉・夜宵、睨み合っている
佐久間、壁に隠れている
佐久間「エライ事になったな〜」
○神崎高校・全景(夕)
○同・教室(夕)
透、着替えているとドアが開く
透、振り向く一葉が立っている
透「おお、一葉。帰ったんじゃないのか?」
一葉「うん、忘れ物して」
一葉、ドアを閉める
透「なら、一緒に帰るか?あと、飯も食いに行こう。
商店街のラーメン屋で──」
透、後ろから体重がかかる
一葉、透に抱きついている
透「一葉?」
一葉「八坂さんの事どう思ってるの?」
透「なんとも思ってないぞ?喧嘩したか?」
一葉「いや、そんなんじゃなくて」
透「なら、どうした?」
一葉「・・・いや、なんでもない」
一葉、透を離す
透、服を着る
透「(一葉の顔を覗き込み)なにかあったなら言えよ?
無理をするなって言ったろ?」
一葉「・・・うん」
透「(歩き出し)さ、行くぞ」
一葉「(小声で)・・・それは、せこいよね」
透「ん?なんか言ったか?」
一葉「(笑顔で)な〜んも!」
一葉、透の横に並ぶ
ドアが開くと夜宵が立っている
夜宵「あら一葉はん。学校の中やっちゅうのに大胆ど
すな〜。それより透君?一緒に帰りまへん?」
透「え?」
一葉「ダメ!透は私と一緒に帰るの!」
夜宵「独り占めはあきまへんで?」
一葉「私は透と帰る方向が同じなんです!」
夜宵「ウチもですけど?なんなら透君の住所言うてあ
げましょか?」
一葉「え!?なんで知ってるの!?」
夜宵「小学校が同じだから知ってるに決まっとるや
ん」
一葉「そう言ってホントはストーカーしてたんじゃな
いですか!?」
夜宵「ウチはアンタと違ってそんな事しません!」
一葉「私だってそんな事しません!」
透「もう帰っていい?」
一葉「私とだよね!」
夜宵「ウチとですよなぁ?」
透「・・・じゃあ、両方で」
○神崎町・住宅街(夕)
透・一葉・夜宵、横に並んで歩いている
透「なんでお前らそんなに仲悪いの?特に一葉、夜宵
は転校してきたばかりで不安なんだから、ダメだ
ぞ?お前もそうだったろ?」
一葉「そ、そうだけど」
夜宵「ウチもう、怖かったわ〜。無理やり屋上に連れ
ていかれて」
透「一葉、仲良くしろよ?」
一葉「・・・う、うん」
夜宵「せや、透君。一葉ちゃんがウチに勝負を挑んで
きたんやけど〜」
透「勝負?なんの?」
夜宵「ウチと料理対決がしたいって言うてはりました
けど、今度の日曜日」
透「別にいいと思うが、何かダメなのか?」
一葉「そ、その、どっちが美味いのかを、透に、決め
てほしくて」
透「ああ、いいぞ。で、場所は?」
一葉「それなんだけど」
○霞勝家・全景(昼)
透の声「で」
○同・居間(昼)
透「(机に肘をついて)なんで俺ん家なんだ?」
一葉・夜宵、台所に立っている
一葉「(台所に立って)私達が知ってる場所が、透の家
しかなかったから」
透「まったく、で」
恋夜、机に肘をついて座っている
透「(恋夜を見て)なんでお前も居るんだ?」
恋夜「朝起きたらここにいた」
夜宵「審判は多い方がいいやろ?」
透「つーかよ、それなら料理じゃなくて家事全般で勝
負したら?」
一葉・夜宵「え?」
透「俺今日、熱っぽいんだよ。だから、家事で勝負す
れば?ていうか、して」
一葉「え?大丈夫なの?」
透「まあ、動けるのは動ける」
佐久間「つー事は、今日は透をどれだけ楽させられる
かが勝負だな」
透「まあ、そういう事だ。よろしく頼む」
一葉M「透が私を頼ってくれてる!」
夜宵M「今度はウチが助けたる!」
一葉・夜宵「喜んで!」
○同・洗面所(昼)
一葉、洗濯機を見ている
透「出来るか?」
一葉「う、うん!」
一葉M「えっと、これかな」
一葉「(ボタンを押し)あれ?ならない」
一葉、ボタンをおし続ける
透、傍観している
一葉M「あれ、ならない。あれ、なんで?うちにある
のと違うのかな、ならない!」
透、歩き出す
透「(一葉の横に来て)ちげえんだよ、ほらどけ」
透、一葉にデコピンする
一葉「あう」
透、ボタンを押していく
洗濯機が回り始める
透「夜宵に負けたくないなら、洗濯機の使い方ぐらい
覚えとけ?」
一葉「は、はい」
透、歩いていく
○同・庭(昼)
シートが干され、靡いている
夜宵「(タオルを干し)よし!」
佐久間「よし、じゃねぇよ。下ずってんぞ」
夜宵「あ!」
佐久間「はーい、ポイント100点マイナスでーす」
夜宵「(洗濯カゴを持って歩きながら)しゃあないや
ろ!ウチのと勝手がちゃうねん!」
夜宵「(石につまずき)あ」
佐久間「!」
佐久間、夜宵を支える
佐久間「(夜宵を見て)これも、マイナスだな」
夜宵「・・・アンタに助けられてもキュンとせんな」
佐久間「はらわたえぐるぞ」
透「おーい、夜宵ー、昼飯の時間だぞ〜」
夜宵「(駆け出し)は〜い♡」
佐久間「(夜宵を見ながら)・・・ったく、勝てねぇの
目に見えてんじゃねぇか」
○同・台所(昼)
一葉、天ぷらを作っている
透「お前、天ぷら作れんの?」
一葉「私の得意料理だもんね〜」
透「水で溶いた小麦粉つけて揚げるだけなんだが?」
一葉「そ、そこに、ちょっと、こだわり、が、あるん
で」
透「(ため息をつき、夜宵を見て)で、お前は何してん
の?」
夜宵「ウチ?ウチはオムライス」
夜宵、一葉を見ている
一葉、首を傾げている
夜宵、ニヤァと笑う
一葉M「(ハッとなり)ま、まさか!あれを!」
夜宵M「(ニヤァと笑いながら)そうや、ケチャ文字や!
これで、氷のように凍りついて動かん透君の心も溶
けるで!!これで透君はウチのモンや!」
一葉M「な、なんとかしなきゃ!」
一葉、エビを鍋に入れる
油が飛ぶ
透「(一葉の腰に手を回して引き寄せ)バカ!天ぷら揚
げる時はもっとゆっくり入れるんだよ!」
一葉「(頬が染まり)う、うん」
透「(一葉の顔を見て)ほら見ろ」
一葉、透を見ている
透「(一葉の顔に手を伸ばし)小麦粉がついてんぞ」
一葉「わ、うそ!」
透「待て、俺がとってやる。お前、髪にもついてん
ぞ」
一葉「髪にも!?」
透「(一葉の髪を触りながら)待て待て。あれ、とれね
ぇ」
一葉M「(照れながら)か、顔が、ち、ち、近い!!」
透「・・・よし、とれた」
一葉「あ、ありがとう」
透「ついでに髪も結っとくか」
透、一葉をポニーテールに仕上げる
透「よし、これでいい」
一葉M「なんでポニーテール?」
一葉「ありがとう」
透「夜宵、作れたか?」
夜宵「もうちょいやで」
透「何書いてんの?」
一葉「(勢いよく振り向き)ハッ!」
夜宵「秘密やで♡」
透「・・・ふ〜ん」
○同・居間(昼)
透・一葉・佐久間・夜宵、座っている
透「俺が両方食ってどっちが美味いか言えばいいの
か?」
夜宵「せやで」
透「(オムライスを見て)お前、普通に上手いんだな」
夜宵「そうやろ〜?ウチ、料理だけは得意やね〜ん」
夜宵M「ケチャ文字、無視されたけど」
透「(1口食べ)うん、美味い。卵に少し砂糖入れた
ろ?」
夜宵「そう!透君甘党やったから、卵焼きとかも甘い
方がええと思って!」
佐久間「おっと、これは高得点か〜?」
佐久間、オムライスを1口食べる
夜宵「なんでアンタも食うとんねん!」
佐久間「俺も審判なんだろ?なら、いいじゃん」
夜宵「もう!で、味は?」
佐久間「悪くない」
夜宵「やかましい!」
一葉「透!天ぷら早く食べて!」
透「おう」
透、天ぷらを食べる
一葉、不安な顔で透を見ている
透「・・・」
一葉「ど、どう?」
透「・・・普通」
一葉、ショックを受けている
夜宵「ウチの勝ちみたいやな〜」
佐久間「・・・いや」
夜宵「(佐久間を見て)ん?」
一葉、肩が震えている
一葉、俯いて涙目になっている
一葉M「ダメなのに、泣いちゃ・・・ダメなのに!」
一葉M「(手を握りしめ)お願い!・・・止まって!」
佐久間「嬢ちゃんの勝ちだ」
一葉「え?」
透「ごっそさん」
オムライスが残っている
天ぷらが無くなっている
一葉「あ!」
透「確かに、飯の味としては夜宵の方が美味かった。
だが、俺の好きな味としては一葉の方が美味かっ
た。一葉の天ぷらの方が箸が進んでな、オムライス
は入らねぇや」
夜宵「なっ!?」
透「好みを優先して悪いが、俺は一葉の方が好きだ
な」
一葉「ホ、ホント?」
透「ああ」
夜宵「・・・」
透「(立ち上がり)さて、俺はもう寝る。風呂掃除は一
葉がしてくれてるから、入っていっていいぞ。帰る
時は起こさなくていい。恋夜、送ってやってくれ」
佐久間「分かった」
透、出ていく
一葉・夜宵、透を見ている
一葉「・・・」
夜宵「・・・」
○神崎町・全景(夕)
夕日が出ている
○同・寝室(夕)
透、寝ている
ドアが開く人がベッドの横に来る
透「俺が2階で寝ている訳知ってるか?階段の音で誰が
登ってくるか分かるからだ。床の音の鳴り具合から
して、多分女、てことは一葉か夜宵、どっちか。そ
して、一葉に男の寝室に無断で入るような度胸はね
ェ」
透「(目を開け)てことは、夜宵か」
立っている夜宵
○同・居間(夕)
一葉、座っている
佐久間の声「心配って顔だな」
一葉、佐久間を見る
佐久間「そんなに心配しなくても、夜宵は手を出せね
ェよ」
一葉「八坂さんと知り合いなの?」
佐久間「まあな、もとより俺たち3人は、小学校から同
じ、ってのは知ってるか?」
一葉「え、初めて知った。透は八坂さんをどう思って
るの?」
佐久間「何も思ってないだろな、夜宵は必死にアピー
ルしてるが、透はバカだからな。気づく事
はねぇよ。それでも不安なら部屋に行ってみればい
い」
○同・寝室(夕)
夜宵、ベッドで透の上で四つん這いになっている
佐久間の声「夜宵じゃ、落とせねぇだろう
よ」
夜宵「ウチはそんな事が出来るふしだらな女って言い
たいん?」
透「そうだな、これも2度目だしな」
夜宵「・・・答えは、変わらんの?」
透「・・・ああ」
夜宵「なんで、ウチやとダメなん?」
透「一葉がいなければ、お前のそばにいた」
夜宵「なら、あの子がいなかったら!」
透「それは許さん」
透「(体を起こし)アイツを傷つけるというのであれば、相手が誰だろうと」
透「(夜宵の頬を触り)お前でも、倒さなきゃならん。
俺に、そんな事させないでくれ」
夜宵「(透の手を握り)・・・すこいよ。そんなの、そ
んな顔で、ダメ言うんは」
夜宵「(ベッドから下り)・・・ごめん」
出ていく夜宵
○同・廊下(夕)
一葉、歩いている
一葉「(立ち止まり)あ」
夜宵、歩いている
一葉「八坂さん?」
夜宵「(一葉とすれ違い)夜宵でええ。ウチは、透の横
におる人やなかったみたい」
一葉「・・・」
夜宵「ウチは恋夜に送ってもらう、あんたは透君に送
ってもらって」
夜宵、遠ざかっていく
一葉「う、うん」
○同・寝室(夕)
一葉「(ドアを開け)透?」
透「ん?どうした?」
一葉「熱は大丈夫?」
透「熱?何のことだ?」
一葉「熱っぽいって言ってなかった?」
透「もし、本当に熱っぽいならお前の天ぷら食わずに
おじや食ってたよ」
一葉「う、嘘ついてたの!?」
透「お前の家事を見るいい機会だったしな。料理作っ
てる段階で気づかなかったか?」
一葉M「また私のダメな所が透にバレた〜、あ!」
透「さ、そろそろ送っていこう」
一葉「ま、待って!」
透「ん?」
一葉「八坂さ・・・夜宵ちゃんに何もされなかっ
た?」
透「何も?」
一葉「そ、そう」
透「何か、心配してる顔だな」
一葉「な、なんもないよ!ホ、ホントに!」
透、一葉をじーっと見ている
一葉「(頬が染まり)・・・あ、あの、夜宵ちゃんが、
透に何かしてないか、気になった、だけ、です」
透「なんだ、そんな事か。大丈夫大丈夫、何もされて
ねぇよ」
一葉「ホントに?」
透「ああ」
一葉「うん!なら、私、もう帰るね」
透「分かった、送っていこう」
透、ベッドから出る
○エンディング
○神崎町・住宅街(夜)
佐久間・夜宵、歩いている
佐久間「だから、無理だって言ったんだ」
夜宵「ウチは、諦めへん」
佐久間「叶わぬ恋はとっとと諦めた方が身のためだ」
夜宵「(立ち止まり)(大声で)なんでそんなこと簡単に言
えるん!?」
佐久間「(立ち止まり)経験者の言う事は聞いとけよ」
佐久間、歩き出す
夜宵「アンタは、諦めきれない恋はなかったん?」
佐久間「諦めるしかなかった、事はあった」
夜宵「・・・」
遠ざかっていく佐久間
ありがとうございました!