7話「陽の狼と闇の熊」
よろしくお願いします!
登場人物
霞勝 透(17)
天童 一葉(17)
中田 蒼海(17)
神田 海生(17)
阿国 優花里(17)
天童 美波(39)
天童 剣司(16)
安藤 沙良(39)
安藤 高彦(7)
瀬戸 光輝(16)
瀬戸 影輝(16)
女性
店員
○オープニング
○神崎町・全景(夕)
○同・住宅街(夕)
霞勝透(17)「(歩いていて)・・・・・・ん?」
透、立ち止まって前を見ると天童剣司(16)が歩いてきている
天童「(立ち止まり)あ、先輩。何やってるんすか?」
透「学校の帰り。お前は?」
天童「バイト帰りです。そういえば月無で姉ちゃんが
慕っていた弓道部の先輩から連絡がありました」
透「今更なんだ?」
天童「ごめんって言ってました」
透「お前が言わせたのか?」
天童「いえ、実は、しばらくその先輩が姿消してまし
てね、俺は忙しかったから友達に頼んで捜してもら
ってて、この前見つかったんです」
透「そうか、友達に礼言っといてくれ」
透、歩きだふ
天童「分かりました。・・・あ、そうそう」
透、振り向く
天童「最近、町のあちこちで流れ星が見えるって噂さ
れてるんですよ、知ってますか?」
透「こんなところで見えるのか?」
天童「それが見えるんですよ、港の方で。今度姉ちゃ
んと見に行ったらどうですか?姉ちゃん意外と星と
か見るの好きなんですよ」
透「へぇ〜、考えておこう」
○神崎高校・全景(朝)
○同・教室(朝)
天童一葉(17)「(机をバンと叩き)透!」
透、椅子に座っている
透「・・・何?」
一葉「だから!今度、遊園地行こうって言ってるじゃ
ん!」
透「遊園地?断る」
透、白米を一口頬張る
一葉「なんで!?」
透「どうせ海岸沿いのかんざきパークだろ?あそこ、
高いくせにおもんないって言われてるぞ」
一葉「(カバンをゴソゴソしながら)新しいアトラクシ
ョン出来たんだ〜」
一葉、ガイドブックを取り出す
一葉「(指さしながら)ほら、コレ!」
透「・・・断固拒否する」
一葉「いいじゃん、行こうよ!今度の日曜日!用事で
もあるの?」
透「特に無いが。けど、何で俺なんだ?海生ちゃんと
か誘ったらいいじゃん、優花里とか」
一葉「(ギクッとなり)・・・い、今、カップル割引が
出来てお得なんだよ?」
一葉「(照れながら)お、男の人と一緒に行けるなら、
それが出来て安くなるんだけど」
透「安くなんの?」
一葉「うん・・・?」
透「よし、分かった。そういうことなら俺も行こう」
一葉「ホント!?ありがとう!」
○同・廊下(昼)
神田海生(17)・阿国優花里(17)、覗き込むように一葉を見ている
海生・優花里M「それでいいのか、一葉ちゃん」
○天童家・全景(夕)
○同・居間(夕)
天童美波(39)、テレビを見ている
ドアが開き閉まる音
一葉の声「ただいまー!」
廊下を走る音
一葉「(走ってきて)お母さん!日曜日、透と遊園地行
ってくるね!だから、ご飯いらない!」
美波「(一葉を見て)・・・え?」
一葉「透とデート行くんだ〜、フフ〜ン」
美波「楽しんでおいで。けど、いいの?」
一葉「え?何が?」
美波「あなた、服のセンスが壊滅的にないじゃない」
一葉「(ハッとなり)そ、そうだった。私、服選ぶの苦
手だった〜!お願い、お母さん!服一緒に選ん
で!」
美波「そう言うと思ったわ。土曜日に行きましょう
か」
一葉「うん!」
○神崎町・ビル群・全景(深夜)
○同・ビル屋上(夜)
瀬戸光輝(16)、遠くを見つめながら立っていて弓を構える
瀬戸「・・・・・・」
瀬戸、弓を放つとビル群上空を光る矢が突き抜けていく
遠くで矢を弾かれる
瀬戸「・・・チッ」
暗転
○神崎町・遊園地(昼)
○遊園地・ジェットコースター・全景(昼)
ジェットコースターが動いている
客の声「キャーーーー!」
○神崎町・遊園地・ゲート前(昼)
透、立っている
透「寝みィ」
一葉、角から透を見ている
一葉M「(目を輝かせ)カッコイイーー!なんであんなに
カッコイイのー!?モテないのが不思議でしょうが
ないんだけど!?私なんかが隣に居ていいの!?」
一葉「(服をチェックしながら)私、大丈夫かな。変じ
ゃないかな、化粧なんて初めてだし」
一葉「(時計を見て)あ!もうこんな時間!行かなき
ゃ!あ〜、けど緊張する〜!」
一葉「(手を握り)大丈夫よ一葉。あなたなら出来る!
プラン通りにやるのよ!」
一葉、角から出ていく
透、女性と話している
一葉「(立ち止まり)あっ──」
透「いや、待ち合わせなんで」
女性「いいじゃないですか。少しお茶しませんか?」
透、オロオロしている
一葉M「透が困ってる、私が助けなきゃ!でも、どう
したら・・・?」
透「いえ、ホントに──」
透、右から少し押される
透「(右腕を見て)ん?」
一葉、透の腕に抱きついている
透「お、一葉」
一葉「(頬を染め)わ、私の、か、か、彼氏に、何か用
ですか!?」
透「(一葉を見ながら)・・・」
一葉、女性をじっと睨んでいる
透「(女性を見て)・・・という訳で、すみません」
女性「いえいえ、こちらこそ。楽しんでください」
女性、去っていく
透・一葉、振り返って入場口に向かって歩いていく
透「見てたなら早く来てくれ。俺はああいうのは苦手
なんだ」
一葉「え?苦手なの?」
透「ああ」
一葉「(透を見ながら)・・・フ〜ン」
透「なんだ?」
一葉「透の苦手なもの知っちゃった♪」
透「あまり知られたくなかったがな」
一葉「今度から私が守ってあげるね!」
透「どの口が言ってんだ」
一葉「あ、チケット買わなきゃ」
透「もう買ってるぞ」
一葉「ありがと!後で返すね!」
透「おう」
○遊園地(昼)
一葉「(ジェットコースターを指さし)ねね、あれ乗
ろ!」
透「いいけど、その前に昼飯食おうぜ。腹減った」
一葉「あ、そうだね!私、弁当作ってきたんだ!」
透「(引き気味に)え?」
透・一葉、ベンチに座っている
一葉「(弁当を開け)ジャーン!」
透「ほ〜、少しはうまく作れるようになったな〜」
一葉「で、でしょ〜。頑張って作ったんだから〜」
× × ×
(フラッシュ)
○天童家・キッチン(夜)
一葉・美波、弁当を作っている
一葉の声「お母さんに手伝ってもらったけど」
× × ×
透、卵焼きをとる
一葉M「あ、私が作った卵焼き・・・」
透、卵焼きを食べ、それを一葉はドキドキしてい見ている
透「・・・うん、美味いな」
一葉「(笑顔で)ホント!?嬉しい!」
透・一葉、弁当を食べ進めている
弁当が空になっている
透「──で、佐藤が階段から転げ落ちたんだよ」
一葉「アハハ、なにそれ〜」
透「見てたやつ、全員笑ってたよ」
透・一葉、笑っている
一葉M「(透を微笑ましく見ながら)・・・私、幸せだな
ァ」
子供の泣き声が聞こえる
透・一葉「(声のする方を見て)ん?」
安藤高彦(7)、泣き叫んでいる
一葉「迷子かな?」
透「そうみたいだな」
一葉「(立ち上がり)センターに連れて行ってあげよう
よ」
透「(一葉を見ながら)・・・お前が言うなら」
透、立ち上がる
安藤、目を擦りながらすすり泣いている
透・一葉、安藤に近づく
一葉「(しゃがみ)どうしたの?」
安藤「お母さんが・・・居ないの」
一葉、透を見ると首を傾げる
一葉「・・・じゃあ、一緒に探そっか!」
安藤「え?」
透「え?」
安藤、一葉をじっと見ている
透「待て、一葉。センターに連れて行くって言ってな
かったか?」
一葉「あ、そうだった」
一葉、安藤の手を取り立ち上がる
一葉「じゃ、センターに行こ?そしたらお母さんにも
会えるよ」
安藤、手を振り払う
一葉、驚いている
安藤「お姉ちゃんと一緒に居たい!」
一葉「え?」
安藤「お姉ちゃん、お母さんに似てるから!」
一葉「え、そうなの?」
安藤「うん!」
安藤、一葉に抱きつく
透M「さっき会った見知らぬ人に抱きつく最近のガキ
怖ェ〜」
安藤「お姉ちゃん大好き!」
一葉「うわ、わ、え、ええ」
一葉、透を見る
透「(首を横に振り)・・・無理無理、専門外」
一葉「ん〜」
安藤、一葉をじーっと見ている
一葉「・・・分かった!なら、一緒にお母さん探
そ!」
安藤「うん!」
透「坊主、名前は?」
安藤「僕、安藤高彦です!」
一葉「(しゃがみ)高彦君ね、今何歳?」
安藤「7歳です!」
一葉「剣司もこの歳の時には甘えてくれてたな〜」
○天童家・全景(昼)
天童、くしゃみをする
○同・居間(昼)
美波「(天童を見て)風邪?」
天童「なんか、バカにされたような」
美波「(天童を見て)え?」
美波の携帯に電話がかかってくる
美波「沙良?どうしたの?」
天童、美波に視線を移す
美波「え?迷子?」
○遊園地(昼)
一葉・高彦、ベンチに座っている
透、立っている
一葉「へー、お母さん、学校の先生なんだ〜」
透「安藤先生じゃねえだろうな」
一葉「そんな偶然ある〜?さ、行こ!お母さん探し
に」
安藤「うん!」
一葉・安藤、歩いていく
透「安藤先生だったら文句言ってやる」
透、歩いていく
瀬戸影輝(16)、物陰から見ながら不気味に笑っている
○同(夕)
安藤、夕日が照らすベンチに座っている
一葉「(ベンチに座り)疲れた〜。お母さん居ない
ね〜」
透、アイスクリームを持って来る
一葉「(アイスクリームを受け取り)ありがとう」
安藤「(アイスクリームを受け取り)ありがとうござい
ます」
安藤「(不安そうに)お母さん、どこに居るのかな。も
しかして置いてかれたのかな・・・」
安藤、涙目になっている
一葉「・・・大丈夫、きっと見つかるよ!ほら、アイ
ス食べないと溶けちゃうよ?」
安藤、不安な表情をしている
一葉「(安藤の頭を撫で)・・・大丈夫。見つかるま
で、お姉ちゃんが傍にいてあげる」
安藤「うん」
一葉「この怖そうなお兄ちゃんも一緒にいてくれるか
らね?」
安藤、透を見る
透「(アイスクリームを完食し)お前が一葉と一緒にい
るうちは、一緒に居てやる」
一葉「ほらね、私とお兄ちゃんは健児君の味方だ
よ?」
安藤、透を見ると頷かれ、一葉を見ると微笑んでいる
安藤「(表情が明るくなっていき)・・・うん!」
一葉「よし!なら、お母さん探し再開しよっか!」
透「坊主、お母さんの特徴教えてくれないか?」
安藤「・・・えっと、髪が長くて、赤くて──」
赤い長髪の女性、髪が靡いている
透「ん?」
安藤「黒いジャンバー着てる!」
赤い長髪の黒いジャンバー着た女性、走ってきている
透「今1人浮かんだんだが、非常に似てる人に覚えがあ
るような」
一葉「私も」
沙良の声「高彦!」
透、振り向く
安藤「あ!お母さん!」
安藤、走っていく
安藤沙良(39)、走ってきている
透M「やっぱり!」
一葉「あ、沙良さん!」
沙良「(安藤を抱き寄せ)高彦!無事でよかったわ〜。
どこいっとったんや、心配したやないか!」
安藤「ごめんなさい」
安藤「(透・一葉を指さし)でも、あのお兄さんとお姉
ちゃんが一緒に居てくれたから大丈夫だったよ!」
透、立っている
一葉、手を振っている
沙良「(透・一葉を見て)あ、お二人さん。ホンマにあ
りがとう!」
一葉「いえいえ、大したことは・・・」
透「ええ、お礼はいりませんよ・・・焼肉でいいんで」
一葉「透!」
沙良「うん!うん!焼肉でもなんでも奢ったる!」
透「え?」
一葉「え?」
沙良「(ポロポロ涙を零し)ホンマに、ありがとう!!」
一葉、透をじっーと見ている
透M「(苦笑いしながら)冗談で言っただけなのに」
一葉「安藤先生、もういいですから、頭上げてください」
沙良「(涙を拭いながら)ごめんな、大事な一人息子やから。ところで、あんたらは何しとんねん」
一葉「ちょっと、遊びに」
沙良「二人で?」
一葉「は、はい」
沙良「ほ〜、2人でね〜」
一葉「アハハ・・・」
透「・・・子供、居たんすね」
沙良「あぁ、言うてなかったな。息子の高彦や」
透「さっき、沙良さんと一葉が似てるって言ってセンターを嫌がってましたけど」
沙良「え?ウチと一葉が?全然似てないやないか!」
安藤「似てるもん!」
沙良「ところで、美波見らへんかった?高彦探しても
らう為に電話したんやけど」
一葉「え?」
美波の声「あ、いたいた。沙良〜!」
透・一葉、振り向くと美波が手を振りながら、天童があくびをしながら歩いてきている
沙良「もう遅いわ〜、もう見つかったで?」
美波「え〜、せっかく来たのに〜」
透「の割にガッツリ化粧してますね」
美波「どうせ来たんだから剣司と少し遊んでいくの」
透「へ〜。ところで剣司」
天童「はい?」
透「小さい時、一葉に抱きついて甘えてたらしいな」
天童「・・・姉ちゃん」
一葉、ギクッとなる
天童「覚えとけよ」
一葉「は、はい」
天童「ハァ、ところでデートはどうでした?先輩」
透「デート?」
一葉「(頬を染め)ちょ、剣司、やめてよ!」
天童「俺の黒歴史暴露しておいて無事に済むと思わな
い事だな、クソ姉貴」
透「?・・・何の事か知らんが、今日は坊主の母親探
しに付き合ってたぞ」
美波・天童、沙良を見ている
沙良「・・・ごめん」
天童「・・・まあ、いいっすわ。先輩、今日は流れ星
が見えるそうっすよ」
一葉「え!?そうなの!?透、見に行こ!」
透「どの辺だ?」
天童「海岸沿いがいいそうです」
透「じゃあ、行くか」
一葉「うん!」
沙良「なら、ウチらは帰るわ。じゃ、2人で楽しんで
な〜」
美波「私たち、遊んでいくから」
美波・天童・沙良・健児、歩いていく
健児「(振り向き)じゃあね!お姉ちゃん!」
一葉、笑顔で手を振っている
透「いいのか?」
一葉「え?」
透「今日、楽しみだったんだろ?」
一葉「・・・いいよ!また来れたらいいから」
透「・・・お前がいいなら」
一葉「(少し寂しそうに)······うん」
透「・・・流れ星見に行く前にトイレ行ってくる」
一葉「じゃあ私、お土産屋に居るね!」
透「分かった」
透、トイレに入っていく
○同・土産屋(夕)
一葉、棚を見ている
一葉M「あ!」
一葉M「(キーホルダーを取り)これ、透に買ってあげ
よ!」
一葉、レジに並んでいる
一葉「友達に送りたいので包んでください!」
店員「はい、分かりました」
一葉、土産屋の前に立っている
一葉M「(小箱を見ながら)透、喜んでくれるかな」
影輝「すいません」
一葉「(影輝を見て)はい?」
影輝、立っている
影輝「少し、道案内を頼みたいのですが」
影輝、微笑んでいる
透、トイレから出てくる
透「(辺りを見回し)ん?」
店員、店を閉めている
透「すいません、この辺りに黒髪の姫カットの女性が
居ませんでしたか?」
店員「あ、店の前に居ましたけど、私が見た時にはも
う居ませんでしたよ。これも落としていったかと思
うんですけど」
透、小箱を受け取ると透へと書いている
透「チッ!」
透、走り出す
○廃工場(夜)
防犯ブザーから黒紫の霧が出ている
一葉「(目を開け)・・・ん?」
一葉、椅子に縛られている
一葉「え?」
影輝の声「目、覚めたか?」
一葉、声のした方を見上げると影輝が天井の影に隠れて軒桁に座っている
影輝「アンタ、天童一葉だろ?昔、月無に居た」
一葉「誰?」
影輝「俺は瀬戸影輝。田坂の知り合いだ」
一葉「(顔が青ざめ)え?」
影輝「大丈夫だ、仇を討とうなんて思ってねぇ。お前
の彼氏に用があるだけだ」
扉が大きな音と共に揺れている
一葉、扉を見る
影輝「ほォら、おいでなすった」
扉が勢いよく開くと透が息が荒くなって立っている
影輝の声「来たな!霞勝透!」
影輝、一葉の傍に飛び降りて月の光に照らされる
透「(歩きながら)テメー、誰だ?」
影輝「俺は瀬戸影輝。「黒耀穹」だ」
透、立ち止まる
影輝「足を止めたのはいい判断だ。それ以上近づいた
らさっさと女を殺すとこだったぜ」
透「一葉に手ェ出してねえだろな」
影輝「もちろん」
影輝の背中に弓状の銀色の気が流れている
透M「「黒耀穹」・・・夜、正確には満月の夜では敵
無しとされる神器か。月光に当たっている間は弓も
矢も見えなくなるとか」
透「チッ!」
影輝「霞勝、俺がしたいことが分かるか?」
透「俺を殺すか?」
影輝「いや──」
影輝、透明の弓を構えている
影輝「お前を、いたぶる。そしたらこの女はじきに思
い始めるだろ、私が捕まらなければってな?そし
て、この女が殺してって言った瞬間、大神器で頭を
吹っ飛ばす」
透「!」
一葉「透!逃げて!」
透「なんでこんなことすんだ?」
影輝「ちょっとした実験だ。世の中の人間は、大切な
ものを守るために己の生を犠牲にできるのかってい
うな」
透、黒紫の霧で黒紫槍を出す
影輝「さぁ傷つけ、「女王」」
影輝、矢を放ち、放った矢が物陰に入る度現れ、月光に晒される度に消えていく
透「(服のシワが増えていき)ぐ!」
透の体から血潮が吹き出す
透「ぐっ!」
透、地面に両膝をつき手をつく
影輝「どうだ?俺の矢は」
透「(体を動かそうとして)くっ・・・クッソ!」
一葉「透!」
影輝の声「俺の矢は特別製でな、先端に毒を塗ってあ
る。普通の人間に効果は無いが、能力者相手なら体
の自由を奪える。動けないだろ?」
透「くっ!」
影輝「もう少し」
影輝「(弓を構え)・・・足掻け」
○神崎町・ビル群・全景(夜)
○同・電波塔・屋上(夜)
瀬戸、カップ焼きそばを食べている
瀬戸「(カップ焼きそばをすすり)ん?」
瀬戸「(カップ焼きそばを完食し)・・・見つけた」
○廃工場(夜)
透、血まみれで倒れている
影輝「情けねえ」
一葉、泣いている
影輝の声「もうちょっともってくれるって思ったんだ
けどな〜」
一葉「透ぅ・・・」
影輝「もうそろそろか?・・・嬢ちゃん」
透、立とうとするも立てない
一葉「透・・・立たないで」
影輝「(一葉を見て)意外と根性あるな。思ってる事は
口にした方がいい。あいつを助けたいと思うなら殺
せって叫べ。言えば、あいつは助かる」
一葉、俯いている
一葉M「透の・・・為なら!」
一葉「わ、私を・・・ころ」
透の声「一葉ァ!」
透、体から血を吹き出しながら立っている
透「バカな事考えてんじゃねーぞ!!」
透、足が震えている
影輝「おお、すげぇ。流石は「女王」と言ったところ
か」
一葉「(泣きながら)もういいから!逃げて!」
透「うるせェ!口しっかり閉じてろ!!」
影輝「自分の命がどうなっても構わねぇってか。な
ら、死んでいけ。大切なモン何一つ守れずに
な!!」
影輝、弓を構える
一葉「やめて!言うから!私を殺して!」
影輝「ダメだぁ、時間切れだ!」
構えた弓と矢が銀色に輝き、周囲に風が起こる
一葉「透逃げて!」
透の体から血が吹き出している
影輝「オブシディアン・シルバー・アーチャー!!」
影輝、銀色の矢を放ち、風を起こしながら透に向かっていく
瀬戸の声「オーロラ・・・ブレイキング・ボウ!!」
矢が光と共に扉を突き破り、影輝の矢を相殺し、爆発が起こる
透「!」
影輝「・・・チッ、邪魔者が」
扉付近の壁が崩れていく
瀬戸の声「邪魔者で結構」
砂煙が晴れていくと瀬戸が弓を持って歩いてきている
瀬戸「お前の邪魔が出来るならな」
透「誰だ・・・?」
瀬戸「愚弟を引き取りに来た「煌穹」だ」
透「・・・弟?」
透、影輝を見る
影輝「テメー、しつけぇな。俺は戻らねぇぞ」
瀬戸「(透の横に立ち止まり)こんな事しても妹は戻っ
てこねぇぞ」
影輝「うるせぇ!テメー、なんとも思わねぇの
か!?」
瀬戸「思わねぇ訳ねぇだろ。だがこんなことやってあ
いつが喜ぶのか?」
影輝「(歯を食いしばり)あいつが、どんな気持ちで死
んでいったか知ってんのかぁ!」
影輝、矢を放ち瀬戸が避ける
瀬戸「・・・知らん。あいつとは距離を置いてたから
な」
影輝「それがムカつくっつってんだぁ!!」
影輝、瀬戸を睨んでいる
瀬戸「・・・」
透、フラフラしている
瀬戸「(透を支え)ん?おっと」
透、顔が赤くなっている
瀬戸「ああ、毒か」
瀬戸、透に矢を刺す
透「ぐっ!」
瀬戸「解毒矢だ。これでしばらくは動ける」
透「くっ!」
透、膝に手をつく
透「(瀬戸を見て)ハァ、ハァ・・・感謝する」
瀬戸「いいってことよ」
影輝「邪魔すんじゃねェ、クソ兄貴」
瀬戸「ああ、俺はもう邪魔しねぇよ。俺はな」
影輝、透に視線を移す
透の周りに黒紫の霧が出ている
透「(影輝を睨み)もう一度・・・やってみろ「黒耀穹」。もう、お前の器は見切った!」
瀬戸「先輩、解毒矢はもうないっすよ」
透「構わん」
影輝「・・・フン、お望みとあらば」
影輝、弓を構え、矢を放つが透の前で黒紫の霧に弾かれる
影輝「!?」
透「(歩き出し)もう一度」
影輝「(イライラしながら)・・・うああああああ!」
影輝、大量に矢を放ち各方向から透に向かっていくが黒紫の霧に弾かれていく
影輝「な、なにぃ」
透「・・・あんがとよ、瀬戸影輝。「女王」が防御に
特化したやつって事、忘れてた」
影輝「守るだけだろうが!!」
影輝、透に矢を放つ
透「そうだ、守るだけだ。「女王」は、守りたい人を
目の前にしてその真価を発揮する、前の時もそうだ
った。身体の中心から力が湧いてくる」
影輝「・・・そうなら──」
影輝、怯える一葉に弓を向ける
透「・・・」
影輝「守ってみろ」
影輝「(大声で)・・・守ってみろよ!!」
一葉、透を見ながら怯えている
透「・・・一葉、前と同じだ。絶対に助ける、俺を信
じるか?」
一葉、涙を流しながら頷いている
一葉「(大声で)助けて!透!!」
影輝「(歯を食いしばり)・・・やってみろぉ!」
影輝、一葉に矢を放つ
透、一瞬で一葉と影輝の間に来る
影輝「!?」
透、剣で矢を弾く
影輝「クッソ!」
影輝、弓を構える
透、影輝の懐に入る
透「お前の──」
影輝、身を引かせている
透の声「負けだ」
影輝、腹を殴られ壁まで吹き飛ばされ、尻もちをつき、弓が消えていく
瀬戸「・・・」
瀬戸、小走りで走ってきている
瀬戸「(影輝の前まで来て)やっと捕まえたぜ、バカ
弟」
透、一葉のロープをほどく
透「大丈夫か?」
一葉「(泣きながら)ごめん・・・ごめん」
透「お前が謝ることじゃない」
瀬戸「そうっすよ、一葉先輩。先輩を助けるために命
張ったんすから。剣司から聞いてた通りっすね」
透「(瀬戸を見て)剣司を知ってるのか?」
瀬戸「(影輝の肩を担ぎ)一葉先輩が仲良くしていた男
を、剣司に頼まれて追ってたんですよ」
透「お前には、ホントに助けられてるな」
瀬戸「気にしないでください、俺も一葉先輩をいじめ
たっていう事にムカついてましたからね」
一葉「(涙を拭い)・・・もしかして、光輝君?」
瀬戸「(微笑み)久しぶりっすね、一葉先輩」
一葉「(涙目で)・・・ありがとう」
瀬戸「(微笑み)さ、病院行きましょうか?こいつも病
院に叩き込みに行くんで」
一葉「うん」
一葉、透の肩を担ぐ
透「いや、先に行っててくれ。寄りたい所がある」
透、一葉を見る
一葉「え?」
透「星見に行くぞ」
○神崎町・海岸(深夜)
透、一葉に肩を担がれながら歩いている
一葉「ホントに行かなくていいの?」
透「ああ、いいんだ」
一葉「ねぇ、今度また来よ?星なんてまた見にこれる
から」
透「お前、遊園地楽しみにしてたんだろ?ロクに楽し
めなかった上、流れ星まで見れないとなると嫌だ
ろ?せめて、星だけは──」
透「(空を見上げ)見ろ」
一葉、空を見上げると流れ星が見えている
一葉「(目を輝かせ)うわあああ、綺麗!」
透「今日は、散々だったが、お前の笑顔見れたし、これも貰ったしな」
一葉、透を見るとキーホルダーを持っている
一葉「あ、それ」
透「戦ってる時に箱が破れちまってな。こういうの
は、先に中身を見ない方がいいんだろ?すまなかっ
た」
一葉「(首を横に振り)ううん、いいの。透にあげる予
定だったから」
透「ああ、ありがたく貰っておく。ありがとう」
一葉「う、うん。また、遊園地来ようね?」
透「ああ・・・約束、だ」
透、一葉の肩から滑り落ち倒れていく
一葉、透を見る
暗転
一葉の声「透!」
○透の病室(朝)
透、目を開けると横になっている
透、体を起こし、見回している
透「ん?」
一葉、透の手を握って顔を伏せて寝ている
透「・・・」
透、一葉の頭に手を伸ばすとドアが開き、手を引っ込める
中田蒼海(17)「(歩いてきて)よぉ、災難だったな。能力
者にやられたんだって?外に居る金髪に聞いたぜ」
透「ああ、意外と強くてな」
○廊下(朝)
瀬戸、携帯を見ている
透の声「あいつのおかげで一葉を助けられた」
○透の病室(朝)
透「そういえばあいつ、弟を病院に連れていくって言
ってたな」
中田「あ、それも聞いたぜ。精神的に病んでるらし
い」
○影輝の病室(朝)
影輝、寝ている
中田の声「妹が目の前で死んで、助けられなかった無力な自分とすぐ近くにいた兄貴を恨んだ。その結果、自分と同じ気持ちを他人に味わせるようになった。だから、一葉ちゃんを攫ったんだろ」
○透の病室(朝)
中田「なんらかの精神疾患もあったそうだ」
透「それで、兄貴はそれを止めに来た」
中田「そんなところだろ」
透「(一葉の頭を擦りながら)・・・こいつが無事な
ら、それでいい」
一葉、頬が赤くなっている
中田「そういや、お前と一葉ちゃんの関係って──」
ドアが開く
沙良「おっす〜」
安藤「お姉ちゃん!」
透「一葉は今寝てるぞ」
沙良「静かにせなあかんで?」
安藤「は〜い!」
安藤、一葉に駆け寄る
透「高彦、一葉と母ちゃんは似てるか?」
安藤「うん!キレイでそっくり!」
中田「遠回しに息子にキレイって言われる気持ちはど
うですか?お母さん」
沙良「ええに決まっとるやないか〜」
安藤、一葉の顔をじーっと見ている
一葉、冷や汗をかいている
透「一葉を起こすなよ?疲れてるから」
安藤「・・・起きてるー!」
透・中田、思わず吹き出す
安藤「(一葉を揺すりながら)お姉ちゃん!起きてるん
でしょ!」
沙良「高彦!ダメやろ、姉ちゃん疲れてるんだか
ら!」
安藤「でも、笑ってるよ?」
一葉、体を起こし、伸ばしている
一葉「(あくびをし)・・・よ、よく寝た〜」
沙良「一葉、なんで顔赤いん?」
一葉「(手で顔を扇ぎながら)ちょっと、この部屋暑い
ので」
沙良「なんやそれ。まあ、ええわ。医者はなんて言っ
とんや?」
透「明日には、退院出来るそうです」
沙良「そうか、なら平気そうやな。ほな、行くわ」
安藤「(一葉に抱きつき)え〜、もう少し居たい!」
沙良「ダ〜メ!学校あるやろ」
安藤「嫌だー!」
一葉「高彦君、静かにしないとダメでしょ?それに、
学校終わったら、またおいで?私、今日1日ここにい
るから!」
透の声「人の病室なんだと思ってんだ」
安藤「ホント!?」
沙良「これってサボりになるんやろか?」
中田「病欠でいいんじゃないすか?」
沙良「ほら、行くで!」
安藤「はーい!じゃあね、お姉ちゃん!」
安藤、走っていく
中田「(歩きながら)俺もジュース買ってくる〜」
透「おう」
一葉、手を振っている
ドアが閉まる
透「(一葉を見て)お前、怪我無かったのか?」
一葉「うん」
透「なら、よかった」
透、窓を見ている
一葉の声「透」
透「(一葉を見て)ん?」
一葉「(頬を染め)あの、また、遊園地、行きたいな。
もちろん、治った後に」
透「(窓を見ながら)・・・」
一葉「透?」
透「・・・話しておきたいことがあるんだ」
透「(一葉を見て)母さんに会わないか?」
一葉「え?」
○エンディング
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