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3 アルファジェットC

 ブリーフィングルームは、学校の教室くらいの広さがあった。よく会議室などにあるようなキャスターつきの大きな黒板と、何脚ものパイプ椅子、壁に張られた地図や表の類なども、教室らしい雰囲気つくりに一役買っている。もっとも、地図に描かれていたのは見たこともない地形であったが。

 すでに部屋の中には十名ほどの人々が集まっていた。ほぼ半数が白い肌のヨーロッパ系だが、アフリカ系が二人、東洋人、アラブ系らしい人、それに東南アジアあたりと思しき淡い褐色の肌の痩せた人がいた。色の違いはあれど、全員が同じようなカバーオール姿だ。

 ……女性だ。

 渚は同性の姿を認めて急に嬉しくなった。黄色味の強い金髪をショートボブにした、三十前後と思しききれいな人だった。着ているのは、ややくすんだ真紅のカバーオールだ。その女性が、渚の姿を認めて薄く微笑んだ。

「よし、みんな集まったな」

 集った人々の中で一番年上……五十は越えているだろう……の男性が、大きな声を張り上げた。頭頂部が禿げ上がった、目つきの鋭い男で、ちょっとジャック・ニコルソンに似ている。やや小柄だが、凄まじく分厚い胸板をしていた。

「例によってマス・トラックを捉えた。規模はブルー。四機出したい」

 ニコルソン似の男が、ちょっとしゃがれ気味の声で言う。

「XO、いいチャンスだから、俺がこのお嬢さんを連れて出ますよ」

 すかさず、エリックが言った。XOと呼ばれたニコルソン似の男……ということは、副長なのだろう……が、渚を一瞥してからエリックに視線を戻し、軽くうなずく。

「……いいだろう。ウィングマンは?」

「ホルヘで」

「そうこなくっちゃな、相棒」

 やや小柄で痩身の若い男性が、そう言いながらエリックの背中をどしんと叩いた。

「あとは誰を連れてゆく?」

 XOが続けて訊く。

「アラートの二人で構わないでしょう」

「ヴァーリャ、プラサーン。行けるな」

「もちろんです」

「稼がせてもらいます」

 金髪の女性と、東南アジア系の男性が相次いで答える。

「よし。行って来い」

 XOが深くうなずきつつ、静かに言った。


「俺の愛機だ」

「はあ」

 エリックが自慢げに紹介してくれたのは複座の練習機、アルファジェットだった。イルカを思わせるずんぐりとした胴体に、高翼の後退翼。胴体側面、主翼の付け根左右に抱え込まれるように付いているやや小さ目のファンジェットエンジン二基。絞り込まれた後部に突っ立っている垂直尾翼。練習機だから、当然複座である。

 すでにアルファジェットは、滑走路端の脇にあるいわゆるアラートエリアに引き出されていた。機首前方にはコンクリートの分厚い壁を土嚢で覆った掩体があり、万一搭載火器が暴発しても、他所に被害が及ばないようにしてある。機体には二人の男性と一匹のアライグマ……体長は一メートル以上ある……が張り付いて、飛行前点検に取り組んでいる。

 見た感じ全長は十二、三メートルくらい、横幅は十メートルもない比較的小柄な軍用機である。練習機といってもむろん武装できるし、エンジンパワーもあるから旧式の亜音速ジェット戦闘機よりも運動性能は良い。フランスと当時の西ドイツが共同開発した機体で、フランスが練習機として、西ドイツが軽攻撃機として大量採用した。渚の記憶では、輸出にもまずまず成功したはずである。

「アルファジェットEね」

 渚は記憶をたどってそう言った。練習機タイプは、フランス語の『エコール』(学校)の頭文字を取ってそう呼ばれていたはずだ。

「ほぼ正解だ。アルファジェットC。Eの輸出型だ」

 渚は腰をかがめて機体の下を覗いた。胴体下部には大きなガンパックが装着されており、左側に太い砲身が見えている。おそらくDEFA30ミリ機関砲だろう。翼下の合計四つのパイロンには、見慣れぬ小さ目のガンポッドが吊られていた。

「FNのHMP−400だ。口径は12.7ミリ。DD相手には、これで充分だ。20ミリを使う奴も多いし、UPK−23を好む奴もいるが。……おっと、紹介しとこう。機付長のベネンデレントだ」

 とことこと近付いてきたレッドカンガルーを、エリックが渚と引き合わせた。大きな作業用エプロンに、工具がやたらと詰まったベルトを締めている。渚はカンガルーと握手を交わした。

「渚を乗せておいてくれ」

 エリックが言い、外部点検のために機体の周囲を回り始めた。

「ちょっと待って。わたしが乗るの?」

「DDを見せとく必要がある。ちと早いが、COの意向だからな。大丈夫、危ないことはない」

 機首アクセスパネルの閉まり具合を目視点検しながら、エリックが答える。

「Gスーツは?」

「必要ない。Gはプラスもマイナスもそれほどかからん。……そうだ、トイレは済ませておけよ」

 真顔で、エリック。

 渚は急いでカンガルーが指し示す建物へと飛び込んだ。

 渚は今まで軍用ジェット機に乗ったことはない。これもいい経験だろう。アルファジェットでは、ロシア取材でSu−27UBに乗ったことがあると、ことあるごとに吹聴しているシロクマにはかなわないが。

 渚はカンガルーに促されるままにインテイク外側に設けてある蹴り込み式の足掛け……ご丁寧に赤枠で示してある……を使い、後席に潜り込んだ。カンガルーにレッグストラップを含むハーネスを締めてもらい、合成皮革の手袋とヘルメットを受け取る。……酸素マスク付きの、ちゃんとしたフライトヘルメットだ。カンガルーが身を乗り出して、ホースとラジオのコードをコネクターに繋ぐ。ついでにいじっていったのは、ラジオのボリュームだろうか。

「頼むから、何も触るなよ」

 外部点検を終え、前席に乗り込んできたエリックが、機内インターフォンを通じて注意を促す。

「判ってるわよ」

 応えながら、渚は違和感を覚えた。本来この機体は練習機であり、その場合訓練生が前席に、教官が後席に着くのが基本である。エリックが一人で乗る場合は、当然視界のいい前席に座るはずだから、渚が後ろに乗るのは当然といえば当然なのだが……。

 カンガルーが再び顔を見せ、手を伸ばして渚が座るシートのセイフティ・ピンを抜いていった。

「エンジンスタートする」

 エリックが宣言した。外部電源により、エンジンの回転が始まる振動が、渚の尻に伝わってきた。渚は眼前の計器パネルを注視した。右側エンジン回転計と排気温ゲージの数値がピンと跳ね上がり、着火したことを告げた。次いで、左側エンジンも回り出す。ほどなくカンガルーがまたコックピットに頭を突っ込んできた。渚のシートのセイフティ・ハンドルを上げてロックしてくれる。

「外部電源カット。キャノピーを閉める」

 エリックが言った。モーターの唸りと共に、後席のキャノピーがゆっくりと下がってゆく。

「アーミングする。手を外から見える位置に出しておけ」

 エリックに言われ、渚は両手を計器盤覆いの上に載せた。整備員が兵装に取り付いている最中に発射スイッチなどに手が触れないようにするための予防措置である。むろん、コックピットの兵装マスタースイッチはオフになっているから、仮に渚が操縦桿のトリガーを引いたとしても何も起こらないはずだが、パイロットというのは万全を期したがる人種なのである。

 赤いリボンがついたセイフティ・ピンを手にしたカンガルーが、確認を求めるかのようにそれをコックピットに対してかざしてみせる。

「ホルヘ。行けるか?」

 エリックが、別の場所で離陸準備を進めるウィングマンの様子をラジオで尋ねた。

 渚のヘッドセットにも、雑音混じりの応答が聞こえる。……あれ。

 聞こえた声は、意味不明の外国語であった。グエが、翻訳してくれなかったのだ。

「こちらエリック・エレメント。Fベースコントロール、離陸許可を」

「エリック・エレメント。ベクター010。ウィンド280。5ノット。ランウェイ・クリア」

 コントロールからの声も、渚には単なる航空英語にしか聞こえなかった。

 ……そうか。

 グエは単なる翻訳機ではない。外国語を直接訳すのではなく、グエ同士が情報をやり取りした上で意訳してくれるのだ。したがって、グエ同士がやりとり……ある種のテレパシーなのだろう……できない無線越しでは、翻訳が不可能なのだ。

「エリック・エレメント、了解。……いくぞ、お嬢さん」

 いよいよアルファジェットが動き出した。一回だけブレーキのテストを行っただけで、すぐに滑走路端に達する。すぐにホルヘの機もやってきて、アルファジェットの右後方についた。 渚は慎重に首をひねって、機種を確かめた。デルタ翼のミラージュだ。若干機首が細めに見えるので、おそらくはミラージュ5だろう。ミラージュIIIからレーダーを取り除き、燃料と兵装搭載量を増した対地攻撃重視タイプである。左右の翼内舷パイロンに、20ミリと思われる大きなガンポッドを吊っている。

「エリック・エレメント。離陸する」

 エリックがブレーキを解くと、アルファジェットが弾かれたように滑走を開始した。すぐに離陸速度に達し、機首上げとなる。五百メートル足らずの滑走しかしていない。……キロ単位で滑走するジェット旅客機とは雲泥の差である。

 キャノピーが青空で満たされる。渚は慎重に後ろを振り返った。右後方三十メートルほどのところに、ホルヘのミラージュ5がぴたりと付いている。……いかにもプロらしい、見事なフォーメーション・テイクオフだ。

 アルファジェットが水平飛行を開始し、ホルヘの機が右手後方というルーズなフォーメーションの位置に退いてから、初めて渚はエリックに話し掛けた。それほど高い高度は飛んでいない。高度計によれば三千フィート……約千メートルといったところか。

「ねえ、TACネーム……じゃない、パーソナルコールサインとか使わないの?」

 渚は慌てて言い直した。TACネームというのは航空自衛隊用語であり、他国のパイロットには通用しない単語である。

 返ってきたのは、楽しそうな笑い声だった。

「必要ない。飛んでいるのは俺たちだけだからな。通信規則も簡明、簡略そのものだ。混信の心配もない。傍受されることもない。ここには民間航路も制限空域もなし。ICAOもFAAもない。低空を飛んでも高圧送電線を怖がらなくていい。市街地上空を低空飛行しない限り、ここの空はやりたい放題だ」

「航法とかは?」

「原則的には地文航法だな。勝手知ったる狭い島だから、有視界飛行なら充分通用する。戦闘の場合はFベースの北西にあるヒルトップ・コントロールにある三次元レーダーの管制に従う。悪天候の場合は、FベースとオームラのTACAN(戦術航空航法システム)を使う。DDは夜間や雨天の際には飛ばないから、問題ない」

「ふうん」

 いとも単純なやり方である。縦横に民間航空路や自衛隊機用の回廊、米軍管制空域に各空港の管制空域などが重層的に置かれ、昼間ならば常に百以上の機体が在空していることがあたりまえの日本の空から見れば、ここキャリエス島の空は空っぽに等しい。

「ミッションを説明しておこうか。敵は南下してくるDD。写真で見た通りの超大型飛行昆虫だ。規模はブルー。つまり五十匹以下の群ということだ。これらが、知的哺乳類の街に到達する前に迎撃する。俺とホルヘが主力となって叩き落とし、ヴァルヴァラ・エレメントが撃ち漏らしたDDを片付ける」

「ヴァルヴァラってのは、あのブロンド美人のことね。彼女、何に乗ってるの?」

「Su−22Mだ」

「じゃあ、ロシア人?」

「そうだ。元ロシア空軍大尉殿さ。ウィングマンのプラサーンは元タイ王国空軍で、F−5Eに乗っている」

 Su−22Mはロシア製可変翼攻撃機Su−17後期型の輸出タイプである。F−5Eはアメリカ製の軽快なベストセラー戦闘爆撃機だ。

「DDは九日ないし十日に一回、大規模な襲撃を仕掛けてくる。この場合の規模は、ほとんどがオレンジ……五百未満二百五十以上だ。これとは別に、不定期に小規模で襲ってくることがよくある。規模は大半がブルーで、たまにイエローの場合がある。百未満五十以上だな。今回の襲撃は、不定期のほうだ。DDは凶暴で、市街地に達するとここの住人たちに対し襲い掛かってくる。だからその前に一匹残らず空から叩き落す必要があるんだ。そのために国王陛下に雇われた傭兵部隊がRQAFさ」

「国王に雇われた傭兵空軍ねえ……」

 渚の脳裏にシロクマの愛読書でもある有名な航空コミックスが浮かんだ。

「ねえ、COって額に傷があったりしない?」

「いや。そろそろ仕事にかかるぞ……ヒルトップ。バンディット(敵機)の位置を」

「エリック・エレメント。005。12マイル」

「エリック。……三十秒したら百八十度の水平旋回でDDどもの後ろにつける。そうしたらエンゲージ(交戦)だ」

 自分の名前だけで通信受領したエリックが、接敵戦術を説明してくれる。

「やつらは通常三千フィートあたりを飛んでくる。……対地高度で言えば二千五百から二千三百くらいだな」

 対地高度二千五百から三百といったら、八百メートルほどか。有視界飛行のヘリコプターが飛んでいるような高度である。……付近に高い山でもあれば、危険極まりない。

「安心しろ。このあたりは低い丘ばかりだ。もちろん、高層建築物も送電線もない。慣れているし、急激な機動はしない」

 渚の不安を感じ取ったか、エリックがなだめるような口調で言う。

「……訊き忘れてたけど……DDってどんな武器を持ってるの?」

「空対空装備はない。怖いのは空中衝突とFOD(エンジンの異物吸入)だ。それさえ気をつければ、まず問題はない。充分に近付いて、一連射するだけだ。DD一匹につき、二十ドルのボーナスがもらえる。ちなみに、コンバットソーティ一回に付き手当が五百ドル出る」

 ……二十ドルに五百ドル。安いんだか高いんだか。

「エリック・エレメント。ライトターン……ナウ」

「エリック」

 ヒルトップ・コントロールからの指示を受けたアルファジェットが、緩やかに右旋回を始めた。おそらく、ホルヘのミラージュもぴったりとついてきているはずだ。旋回が終わり、機首が南を向く。この先のどこかに、DDの群が飛んでいるのだろう。

「エリック・エレメント。タリー」

 エリックが、DD視認を告げる。渚は眼を凝らしたが、キャノピー越しの空には染みひとつ見えなかった。……さすがにプロだ。エリックの眼は鋭い。

「ホルヘ。左を頼む。ヴァルヴァラ・エレメント。あとは頼む」

 エリックがラジオで告げる。

 と、渚の眼にもDDの姿が飛び込んできた。黒胡麻のような点が、前方の空にある。

 その点が、見る見る大きく、かつ薄い色になってゆく。DDの群なのだろう。すぐに、個々の点が見分けられるようになった。そしてその点々が、急速に膨れ上がってゆく。

「エリック。DDは約二十。エンゲージ」

 すでに戦闘態勢へのスイッチが入ったのか、早口になったエリックが、そう告げた。

 渚はキャノピー越しにぐんぐんと大きさを増してゆくDDを凝視した。左右に張り出した上翅のせいで、滑空する褐色の鴎を後ろから眺めているようにも思える。各DDはかなりの間隔を空けて飛行しているようだ。その相対位置関係に、編隊飛行中の航空機や渡り鳥の飛翔のような規則性は見られない。

「いくぞ」

 エリックの宣言とともに、アルファジェットの機首がわずかに振られた。狙われたDDの姿が、見る間に細部さえ見分けられるほどに大きくなる。

 ……ぶつかる。

 そう渚が覚悟した瞬間、エリックが発砲した。二条の曳光弾が、渚の視界を走る。あっと思う間もなく、アルファジェットの機首が上がった。視界からサンドブラウンの塊が消え、軽い左バンクとともに別のDDが眼前に迫る。

 再び発砲。二条の曳光弾。

 機首が上がり、すぐに戻る。今度は右バンク。

 三匹目のDD。発砲。緩上昇。

「いったん離脱し、もう一度後方からエンゲージする」

 エリックが告げた。渚は息を止めていたことに気付き、マスクから冷たい酸素を吸い込んだ。

 二度目の航過で仕留めたDDは二匹だった。DDたちはやや散開し、増速したものの、積極的に逃走を図るでもなく、あっさりと撃墜された。エリックが、渚のために機をDDたちの正横につけ、ホルヘが攻撃するところを見せてくれた。ミラージュの主翼下に吊られた20ミリガンポッドが火を噴き、命中弾を喰らったDDが弾かれたように前に飛び出し、ぐらりと傾いて落ちてゆく。

「FODが怖いから、徹甲弾と曳光弾しか使わない」

 エリックが説明した。ホルヘのミラージュは四匹を撃破し、渚の視界から加速して消えた。

「ヴァルヴァラ。残数は?」

「フォア」

「ヴァルヴァラ・エレメント。後は任せる。エリック・エレメントは二十秒後にバグアウト」

「ヴァルヴァラ」

「ホルヘ」

 受領通知の声が、相次いで聞こえる。

「あの二人にも多少は儲けさせてやらないとな。さて、帰るぞ」

 エリックが、機首を南へと向けた。すぐに、ホルヘのミラージュがジョインナップしてくる。

「たぶん言い古されているとは思うけど……まさにバグアウトね」

 渚はそう言って、微笑んだ。バグアウトとは、戦場空域離脱を意味する用語である。

「そうだな」

 返ってきたエリックの一言は、いかにも楽しげだった。


「とりあえず、デブリーフィングに付き合ってくれ」

 Fベースに帰還すると、エリックがそう言って渚の腕を取った。トーイングされたアルファジェットにはさっそくカンガルーらが取り付き、燃料の補給と点検を始めている。

 渚は促されるままに、ブリーフィングルームに入った。エリックとホルヘの与太話をそれとなく聞きながら出されたコーヒーを飲んでいるうちに、ヴァルヴァラ・エレメントの二人……金髪美人とタイ人青年が帰ってくる。

 デブリーフィングはいとも簡単なものだった。用紙に墜としたDDの数を書き込み、XOに口頭で報告が行われる。全部で五分とかからなかった。

「あとでガンカメラと照合し、DD撃墜のボーナスが給与に加算される」

 XOが去ると、エリックがそう説明した。

「給与って、幾らぐらい貰えるるの?」

「……各個人の契約条件による」

 他の三人にちらりと視線を走らせながら、エリック。

「今までの実績、RQAFでのキャリア、などなどが考慮される。まあ、一般の空軍パイロットよりは貰っているがな。むしろありがたいのはボーナスだ。DD撃墜や通常のコンバットソーティだけじゃなく、偵察などのややリスクの高いミッションはいい金になる。あとFベース勤務手当、予備パイロット手当、その他諸々の諸手当も馬鹿にはならん」

「ふうん」

 やや歯切れの悪いエリックの物言いに、渚はそれ以上突っ込むことを諦めた。

「さて。本日の業務は終了だ。せっかくだからこの面子でパーティといこう。お嬢さんの初出撃を記念して、だ」

 にやにやしながら、ホルヘが言い出す。

「いいわね」

「お付き合いしますよ」

 ヴァルヴァラとプラサーンが同意する。

「俺も異存はないが……?」

 エリックが、渚の顔を覗き込む。

「もちろんいいわ」

 渚は内心躊躇しながらも、同意した。パーティに興味がないわけではないが……状況が状況だけに、はたしてそんな呑気なことをしていていいのだろうか、と言う気もする。

「よし。……1800にバーへ集合だ。遅れるなよ」

 ホルヘが念を押す。


第三話をお届けします。 用語解説 ウィングマン/二機編隊の僚機およびそのパイロット アラート/警戒待機 エレメント/二機編隊 Su−27UB/ロシアの戦闘機Su−27の複座練習機型 ICAO/International Civil Aviation Organization 国際民間航空機関 FAA/Federal Aviation Administration アメリカの連邦航空局。運輸省の下部機関 地文航法/地上の地形、地物などを参照し、自機の位置を確認しながら行う航法

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