転生者たちは舞台上で踊る(悪役令嬢視点)
初小説、初投稿です。
広い心で読んでください。
ヒロイン・・・レナ
悪役令嬢・・・エヴリーヌ・アンブロジオ侯爵令嬢
第二王子・・・マティアス・ユグドレイヌ第2王子
攻略対象一覧・・・第二王子、宰相子息、公爵子息、魔導士団長子息、騎士団長子息
「エヴリーヌ・アンブロジオ侯爵令嬢!
貴女の学園でのレナに対する嫌がらせ等の行為は悪辣非道である。全くもって王族に嫁するに相応しくない!よってここに私、マティアス・ユグドレイヌとの婚約破棄を宣言する!!!」
・・・・・・ついにこの時が来た。
貴族の子女が集う魔法学院の卒業式、卒業生代表の挨拶をするために壇上に上がったはずの第二王子マティアス・ユグドレイヌ様の言葉に会場中が凍り付く中。
背筋ををまっすぐに伸ばし、顎を軽く引き、目線は激しい怒りと侮蔑に染めた瞳を自分に向けるこの国の第二王子に向け、定められた運命通りに進むこの舞台(乙女ゲームの世界)で最後まで踊りきるために、私は再度気合を入れなおした。
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私がこの世界が乙女ゲームの世界で自分がいわゆる転生をしていると気づいたのは13歳の時、この方がお前の婚約者だと第二王子マティアスを紹介された時だった。
輝く金髪に、透き通るような碧い瞳。完璧な見た目の王子様を見たときふっと、あ、攻略対象だ、と頭に浮かんできた。そこからは芋づる式に乙女ゲームの内容や前世のことも思い出すようになった。転生ものでよくある、高熱でうなされたり倒れたりなどということもなく、前世の記憶に性格が引っ張られたり、乗っ取られたりということもなく。何気なく忘れてしまっていた昔のことをふとしたきっかけで思い出した。そんな感じで前世の記憶は自然となじんでいった。唯一影響されたのは素の時にお嬢様言葉を使わなくなったこと。お嬢様言葉って回りくどいと思うようになったのだ。
そんな感じで前世の記憶を思い出せるようになった私は、乙女ゲームの世界に転生なんてテンプレ(笑)、せっかくだしヒロインと攻略対象のリアルな恋愛模様でも観て楽しむか、と思ってゲームの内容を思い出せる限りでまとめる作業をした。
あ、ちなみに自分がゲームの知識を使って攻略対象を落とそうとかは全然思わなかった。もともと、スチルと声が秀逸で、追加コンテンツが面白いからと、友達に勧められてプレイした乙女ゲーム。特に推しキャラというのもなく、でも追加コンテンツをプレイするにはスチルコンプしなきゃいけなかったから本編は攻略サイトを見ながらなんとか全ルートクリアした。
ゲームのストーリーはテンプレな内容。魔法の存在する中世ヨーロッパのような街並みを持ったユグドレイヌ王国。本来なら貴族しか入学できない魔法学院にたまたま強力な魔力と稀有な光属性を持った平民のヒロインが特例で入学。貴族には無い天真爛漫で打たれ強く前向きなヒロインに、悩みを持った将来有望な高位貴族の子息たちが癒され恋に落ちていく。高位貴族の子息もテンプレというか、第二王子に、宰相子息、公爵子息、魔導士団長子息、騎士団長子息、かつ生徒会役員。もうここまで言ったら説明いらないよねって言いたくなるような性格で俺様だったり、腹黒メガネクールだったりが、兄との比較とかトラウマとか、テンプレな悩みを抱えている。
ぶっちゃけこのゲーム、本編に開発のやる気が見られない。なんなら公式が「追加コンテンツを作りたくてやった、後悔はしていない(`・ω・´)キリッ」と言わしめるほどである。スチルと声がいい?これすら追加コンテンツへの布石なのだからいいのは当然なのだ。
話を戻そう。これだけテンプレが並ぶということは当然恋の障害、全ルート共通の悪役令嬢が存在する。その名もエヴリーヌ・アンブロジオ侯爵令嬢、第二王子の婚約者。そう私です。
悪役令嬢転生なんて、
もう言い飽きたけど、
テ ン プ レ !!!!!!!
ってか、なぜ最初に気づかなかった自分・・・
…さて、本編のエヴリーヌ・アンブロジオは侯爵令嬢として何不自由なく甘やかされて育った結果。貴族主義至上主義のプライドが高く傲慢でわがままな性格になり、王子の婚約者という立場も最高のアクセサリーとしか思っていない。
そしてどのルートでも、平民ごときが高位貴族に近づき仲良くなることが気に入らないためにヒロインに対する嫌がらせを始め、最終的に暗殺をもくろむ。が、攻略対象に阻止され、今までの悪事とともに断罪される。
末路は領地での監視付き軟禁から始まり、貴族籍剥奪の上侯爵家からの追放、国外追放もあれば処刑もある。バッドルートであっても、婚約は必ず破棄され貴族として肩身の狭い思いをしながら生きることになる。他のキャラに比べて説明が詳しいって?自分のことですもの、とうぜんでしょ!
そんな未来を避けるために私がした対策は、はっきり言って何もしなかった!
うん、こういう時は攻略対象と仲良くなったり、トラウマクラッシュしたり、悩みを解消するために奔走するのが転生者としてやるべきことかもしれない、が、何もしなかった。というよりできなかった。
いや、言い訳させてほしい!
記憶を取り戻した時点で攻略対象たちは13歳前後、トラウマやら悩みやらはすでに完成済みだったし、攻略対象と仲良くするなり、悩みを解消しようにもとにかく時間が無かった。
なぜなら、魔法学院は14歳で入学し3年で卒業。ゲームは第二王子と私が第3学年の時にヒロインが第1学年に入学してくることで始まる。だからゲーム開始まで約3年あった。だがしかし、忘れてはならない私は第二王子の婚約者。王位継承権の順位は生まれ順。つまり第二王子は王位継承権第2位であり、第一王子のスペアとして相応の教育がなされ、その婚約者も同じように相応のものが求められる。学院に入学してからは公務の手伝いや特別な仕事も任されまさに分刻みのスケジュールをこなしていた。そんな生活でそれ以外のことに時間を使うなんて不可能だった、もちろんヒロインへの嫌がらせなんてもってのほか。そんな時間あったら少しでも休みたかった。
そして、何もしなかった理由は実はもうひとつあるのだが…
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と、思い返しているうちに壇上には第二王子に腰を抱かれたヒロインを中心に攻略対象たちが並んでいた。
そっと周りを見回すと、あきれと嘲笑、嫌悪の表情が壇上に注がれていた。
それもそのはずで、ヒロインは天真爛漫という名の礼節を欠いた言動をし、攻略対象たちによる逆ハーレムを形成してからはその権威を笠に好き勝手振舞っていた。攻略対象たちもそんなヒロインの愛を得ようと生徒会の仕事や授業、各々に課された義務を放り出し、遊び惚けていた。ここにいる生徒も教師も全員がその被害者なのだ。
壇上にいる攻略対象たちとヒロインはその視線に気づいているのかいないのか、断罪が再開される。
「さて、エヴリーヌ。レナに対する嫌がらせの数々、何か言うことがあるだろう?」
「はて、嫌がらせとは具体的に何のことでございましょう?わたくし身に覚えがございませんわ」
第二王子の言葉に疑問を返す。嫌がらせなどしていないのだから当然の疑問だ。
「素直に事実を認めレナに謝罪をすれば、婚約破棄はしてもその悪辣さは学内に収め多少の恩情をかけてやったものを。
身に覚えがないなどとのたまうとは、本当にどこまで根性が腐っているのか」
「まったくこんな女性が王子の婚約者だったかと思うと、我が国の恥ですね」
「嫌がらせをしておきながらしらばっくれるなんてサイテーだよね」
「嫌がらせ…ダメ…」
「さっさと認めたほうが身のためだぞ」
第二王子の言葉を筆頭に攻略対象たちが好き勝手言い募る。
「みんなっ、エヴリーヌ様を責めないであげて!エヴリーヌ様、罪を認めてください、わたしは、エヴリーヌさまが罪を認めて謝ってくれるだけで、それだけ、それだけで十分なんですっ!」
ヒロインが第二王子の腕にすがりつき、目にうっすらと涙を浮かべてのたまう。
攻略対象たちはそんなヒロインの姿に、愛おしくてたまらないという目線を向ける。
なんて茶番かとヒロインに白けた目線を送ると、蛇に睨まれたかのようにヒロインは第二王子の陰に隠れる。
一転、嫌悪と侮蔑を目に浮かべ王子が私のほうを向き、
「言い逃れなどしようとせずに、さっさと謝れエヴリーヌ!そうすれば貴様の行ったことを公に罰するのはやめ、この場で収めよう。謝るだけで十分だという、レナの聖女のようなやさしさを受けて、嫌がらせという低俗なことを行ったおのれの恥を悔い、その身を改めるといい!」
と言い放つ。
謝るだけで十分とは、馬鹿というべきか貴族を分かっていないというべきか。
攻略対象たちは根っからの貴族のはずだが、ここで謝罪を行うということがどういうことか本当に分かっていないのだろうか?それとも分かっていてこのようなことを言っているのか?
謝罪をするということは、己の非を認めること。この会場にいるのは教師と生徒のみであるが全員が貴族である、どれだけ彼らが公にしない、と言おうが各々が家に帰れば報告するのは必須。それだけでも貴族としての面子、ひいては家の面子に泥を塗ることになり我が家の貴族生命は絶たれたも同然。さらに相手は平民。平民に対し特権階級の貴族が、それも高位に位置する侯爵令嬢が嫌がらせごときで頭を下げるとなれば、最早貴族制度の根底を覆しかねない問題にまで発展しかねない。
そこまで考えが至らなくなっているのだろう彼らの言動に頭が痛くなってくる。
「言い逃れ、ではありませんわ。いつ、どこで、何をしたのかを具体的におっしゃっていただきたいとお願いしているだけですわ。わたくしは嫌がらせをしたつもりはございません。とはいえ、知らず知らずのうちに誤解を招く言動をとった可能性は否定できませんの。第二王子のマティアス殿下に、ひいては王家に嫁ぐ身として、貴族の皆様の見本になれるよう振舞ってまいりました。ですが、それゆえに、平民の方の常識というものには疎くって」
手に持った扇を口元にあてながら申し訳なさそうに言う。言葉に含まれた揶揄に攻略対象たちは気色ばむ。
「貴様っ、黙って聞いていれば」
「それに!ただ謝るのでよろしいので?理由なき謝罪は、誠意も反省もございませんことよ。皆様はそのような言葉だけの謝罪を欲していらっしゃるのかしら?」
「っ!」
二の句が継げなくなる攻略対象たち。
話をまともに聞くのも面倒なので、マナー違反だが割り込んで話を進めた。
はーっ、全然話は進んでいないが、頭痛もしてきたしとっとと話を終わらせたい。が、いろいろと事情もありそういう訳には行かない。
「まったく、厚顔無恥とはあなたのためにある言葉ですね、エヴリーヌ嬢。せっかく、殿下とレナが恩情をかけてくださろうとしていたのに。
殿下、この女にかける恩情など必要ないです。望み通りこの場ですべてをつまびらかにし、皆にどれだけ性根の腐った存在か伝え、適当な罰を与えましょう!」
「あーあ、せっかくのレナのやさしさを無駄にしちゃったね」
「…」
「後悔したって遅いからな、覚悟しろよ」
第二王子以外の攻略対象たちが言い募る。
「頼む」
第二王子が鷹揚に頷き答えると、宰相子息が書類を持ち話し始める。
さっきまで手ぶらだったくせに、どこに隠し持ってたんだその書類・・・
「それではエヴリーヌ嬢の罪状を述べさせていただきます。まずは、クラスでの無視、すれ違いざまの悪口、お茶会に呼ばせない等の恒常的ないやがらせを権力にものを言わせあなたの取り巻きやレナのクラスメイトに指示ていました。
それだけでなく、夏の三の月9日昼休みにあなたは中庭にレナを呼び出し、平民を貶める言葉や、尻軽であるかのような言葉で罵倒しましたね。
夏の三の月28日放課後、レナを中庭の噴水に落ちてびしょ濡れになっていました。レナがエヴリーヌ嬢に突き飛ばされ、噴水に落ちてしまったと証言しました。
秋の一の月30日放課後、レナの机に置いてあったノートや教科書がボロボロに切りつけられていました。それを見つける直前、エヴリーヌ嬢、あなたが教室から出ていく姿をレナが見ています。第三学年のあなたが第一学年の教室に入る用など本来ならばないはずですよね?
秋の三の月25日学園主催の聖人祭の夜会でレナのドレスが赤ワインで汚されていました。レナに事情を聴いたところ、夜会の会場内でエヴリーヌ嬢にワインをかけられたと証言しました。
冬の二の月6日放課後レナが階段から落ちました。これもレナの証言から、あなたが階段ですれ違いざまに突き飛ばしたことが分かっています。
そして先月、冬の二の月20日には街で無法者にレナが襲われました。無法者はその場で捕え、尋問したところ、その三日目の17日の放課後エヴリーヌ嬢、あなたに直接レナの殺害を依頼されたと吐きました。偶々、私たちと殿下の護衛であるアレクシス殿が一緒にいたため無事だったものの、そうでなければレナは今この場に居ることは叶わなかったでしょう。
階段から突き飛ばしたことも含め二度の殺人未遂。第二王子の婚約者として不適格であるどころか、罪人としか言いようがありません。もう言い逃れはできませんよ!」
本来の悪役令嬢が行うはずだった悪事が述べられた、すべてレナ嬢の自作自演だ。
一瞬、嘲る目をして勝ち誇った笑みを浮かべたレナと目が合った。が、即座にあたかも悲劇のヒロインかのような表情をうかべ。
「違うの、私が悪かったの。エヴリーヌさまという婚約者がいるのを知りながらマティアスや、みんなと仲良くなってしまったから。平民である私が身の程知らずにも、だから、ごめんなさい。でも、仲良くなるのに身分なんて関係ない。私はそう思うから、仲良くするのを止められなかったの」
最後の方は嗚咽交じりで言い切った後、レナは泣き顔を見せぬように両手で顔を覆った。
攻略対象たちがそれを周りの目を気にせず、まあそれは最初からだが、慰め始める。
顔には出さないが、変わり身の早さに驚きつつ、レナ嬢の評価を若干上方修正。演技派だねレナ嬢は。
さて、どこから切り崩していこうかと考えながら周りの様子を観察する。
全体の空気が最初のヒロインと攻略対象たちに向けられた一方的なものから、エヴリーヌへの疑念や、この状況をいかに切り抜けるのかを観察するようなものが混じるものへと変化している。
ネックは無法者を使った殺人未遂。それ以外の嫌がらせに関しては、自分の婚約者に近づく女を排除するためにして当然のこと。彼らは貴族としてふさわしくないと考えているようだが、あれくらいの嫌がらせなんて可愛らしいもの、本気でやろうと思えばもっとえげつない手段はいくらでもあるのだ。階段から落ちたのも、証言に甘さが残る。すれ違いざまに少しふらついてぶつかってしまった、で言い逃れできてしまうレベルだ。
しかし、明確な殺意を持った行為はよろしくない。特権階級の貴族が平民を意図して殺しても罪には問われない。残念だが、この世界は皆平等というわけではないのだ。平等ではないが、平民が家畜やモノであるという極端な考えでもないので、平民であろうが意図的に殺そうとしたことが知られてしまえば悪評が広まり貴族としては終わってしまう。まあ、バレなければ良いという貴族の怖い側面もあるのだが…。
とはいえ、自分がやっていないことで瑕疵を残す気はないので徹底的に反論させていただきます。
「よろしいかしら?」
会場中の視線が集まる。
「なんだエヴリーヌ、観念してレナに謝罪する気になったか?」
「さすがのあなたも、ここまで詳らかにされれば謝罪せざるを得ないようですね」
「やっとだね、往生際が悪すぎるよ~」
「…早く…あやまりなよ…」
「とっとと謝って楽になっちまいな」
まったく、攻略対象たちの偉そうなこと。今からその鼻っ柱へし折ってやる。
「いえ、お聞きしたいのですが、最初のレナ様の呼び出しと聖人祭の夜会での出来事以外はすべて放課後に行われた。これは確かでしょうか?」
「…まだ認めんとは、どこまで性根が腐っているのやら。いいだろう、最後まで付き合ってやろう」
「殿下がそういうのであれば、お供いたしましょう。
ええ、あなたの言う通りです。レナがそう証言しています。」
「無法者への依頼を行ったとされるのも放課後でしょうか?」
「ええ、無法者たちがそう証言しています。わざわざ確認せずともあなたが行ったのですからご存知でしょう?」
宰相子息は皮肉交じりの笑みを浮かべそう答える。
それを無視して話を進める。
「ありがとうございます。一応、確認しておきたかったのですわ。
まず、レナ様を中庭にお呼びして注意をしたことは事実ですわ。
『男性とお話しするときの距離が近すぎるので、注意なさいませ。また、複数の男性とあのように親しくするのも誤解を招く元となりますわ』
と注意したところ
『私にとっては普通の距離だし、誰と仲良くしようがわたしの勝手でしょ』
とおっしゃられたので
『平民にとっては普通の距離かもしれませんが、貴族の男女としては不適切な距離ですわ。貴女がどなたと親しくなるかは確かに貴女の自由です。ですが、あのような近い距離で複数の男性と接していれば尻軽な女性と取られかねませんわよ。この学院は本来貴族しか入学できません、それもあって学問だけでなく各々の身分にふさわしいふるまいを学ぶ場でもございますの。貴女が珍しい魔力を有しているために特例で入学を許された唯一の平民として、貴族との様々な違いで苦労されるのは当然のこと。ですがそれは貴女が好き勝手に振舞って良いということではありませんわ。この学院内では貴女以外は皆貴族なのです、貴族としての最低限の礼節を守ってお過ごしくださいませ。そうでなければ、いらぬ誤解を招き損をするのは貴女自身でしてよ。もし、貴族の礼節が分からないとおっしゃるのでしたら、わたくしや先生方に尋ねられたらよろしいですわ、皆さま喜んでお教えするはずです。向上心のある生徒を見捨てるような人間はこの学院にはおりませんから』
と申し上げましたの。これは罪と言われるほどの言動でしたかしら?」
「エヴリーヌ嬢の言うことに間違いはありませんか?」
「え、ええ」
宰相子息の質問に、苦虫を嚙み潰したような表情を滲ませながら答えるヒロイン。
本当はその時もう少し会話をしたのだが、それをここで言うと面倒なことになるのは分かっているので暗黙の了解でスルーする。そして、ヒロインとエヴリーヌ・アンブロジオ侯爵令嬢がまともに対面したのはこの時だけだったりする。第一学年と第三学年ではは生活圏が違う上に、攻略対象含め相手をしたくなかったし、ヒロインの自作自演に巻き込まれたくなかったので積極的に回避した結果廊下などですれ違うこともまずなかったのだ。
「…それだけであれば、罪、と言うのは難しいでしょうね。ですが、貴女の言葉がきつくレナを傷つけたのは事実です」
「わたくしも、理解していただこうと思うあまり、必要以上にきつい言葉になってしまっていたかもしれませんわね。これからはきつい言葉にならぬよう気を付けることといたしますわ。
それではつぎに、そもそもわたくしが行ったという証拠はございますの?」
一つ目の切り崩し成功。付け加えられた苦言は、言質を取られないうちに流して、次の話題に移す。さて、自作自演にどこまで偽の証拠が用意されていることか。
「何を言っている、レナがそう言っているのだから。貴様がやったに決まっているだろう」
「は?」
第二王子のまさかの言葉に一瞬呆けてしまう。
「…それは証拠、ではなく証言ですわ。何か物的証拠はございませんの?せめてレナ様以外の証言とか」
ショックが冷めやらないまま、話を進めるために言葉を紡ぐ。
「レナは貴様のように性根が腐っていないから、嘘など吐くはずがない。これ以上ない証拠だろう。」
続く第二王子の言葉にさらなるショックが私を襲う。攻略対象たちはそれが当然とばかりに、皆一様に頷きあっている。
私がおかしいのかと周りを見渡せば、何言っているんだこいつら、というような表情が大半を占めていた。
うん、落ち着いた。話が進みそうにないので別の角度から攻めてみる。
「さようでございますか。では、クラスでの無視やすれ違いざまの悪口などはいかがでしょう?よもや、わたくしがレナ様のクラスメイトやあなたがたのおっしゃるわたくしの取り巻きとやらに指示しているところをレナ様が見ていた等ということはありませんわよね?
クラスメイトの方々やわたくしの取り巻きといった方々に証言させた、ということでしょうか?」
「そのようなことをしても無駄だろう。貴様のことだ、アンブロジオ侯爵家の権威を笠に貴様の名を出さぬよう脅しているに決まっている!まったく、こざかしい!」
第二王子は吐き捨てるように言う。
「つまり、調査をする気もなく、証拠も証言もないただの憶測で罪を擦り付け、わたくし、ひいてはアンブロジオ侯爵家を貶めようとされているということですわね。」
「っ!だからっ、貴女が脅しているから証言を取ろうとしても無駄でしょう」
宰相子息は若干の焦りを含んだ憎々しげな表情を浮かべる。
調査する気がない、ってことを明言され危ういことは察することができたらしい。
しかしまったく、何を言っていることやら。
「皆様、本当にわたくしがアンブロジオ侯爵家の名で脅してわたくしの名を出さぬようにさせていると、そう思っていらっしゃるの?」
壇上の面々と順に目を合わせていく。
約一名、目を合わせた瞬間にきゃっと小さく悲鳴をあげ、男の陰に隠れた者もいた。が、他は全員頷く。
「さようでございますか。つまり皆様はアンブロジオ侯爵家が王家よりも権威を持っているとお考えですのね。」
「何を言っている。一侯爵家が我が王家よりも権威を持っているだと!貴様言うに事欠いてふざけるなっ!思い上がるでない!!」
第二王子が私の言葉に激高する。
会場全体が、何を言い出したのかと、驚きや困惑、少数面白がる空気に変わる。
「もちろん、わたくしは一臣下の者としてそのような恐れ多いことを思ってもみませんわ。ですが、皆様はそうお考えなのでしょう?」
「何を言って」
「だってそうでしょう?第二王子であるマティアス殿下名のもとに行われる調査において嘘の証言をするということは、王家への反逆の意志があるということ。皆様のおっしゃる通りにわたくしが脅して嘘の証言をさせたとなると。当主ですらない一娘にすら国家に反逆させるだけの権威がアンブロジオ侯爵家にはあると、第二王子であるマティアス殿下の、王家の権威はそれほどまでに落ちてしまっているのだと、皆様がおっしゃられていることはそういうことですわ。」
絶句
会場中がしんっと静まる。
壇上の面々も言い返そうとしているのか、口を開くが何も言えず口を閉じる。を繰り返している。
間違っているとは言わないが、話が飛躍してしまっているのに。王家と貴族との力関係はこんなにもシンプルなわけがない。話の持って行きようによっては誤魔化しや形勢逆転もできるのだろうが、そんな頭が、冷静さがある連中ならそもそもこんなバカなことをしないだろうから、まあ、無理だよね。
そろそろ、あめちゃん投げましょうか。
私は満面の笑みを浮かべ、
「とはいっても、皆様はきっと調査が間に合わなかったからついそのような言い訳をされてしまっただけでしょうね。もしくは、わたくしに揺さぶりをかけるため、ですかしら?でも、少し言い回しが悪かったですわね。口は禍の元ともいいますし、お気をつけあそばせ。」
「う、うむ。少々言い方が不味かったな。調査も間に合わず、ついな」
第二王子から完全追従のお言葉いただきましたー!
陥れようとしている相手の尻馬に乗っかるとは、やっぱり馬鹿かな。断罪の場までに調査を終わらせられない能無し、て暗に言ってるのだけど気づいてないんだろうな。
「では、この件に関しましては改めて第二王子マティアス殿下の名の元に調査をしていただき真実を詳らかにしていただくということでよろしいでしょうか?
ご安心ください。わたくしを含めユグドレイヌ王国の貴族は王家の方々に忠誠を誓っておりますゆえ、一貴族の脅しなどに屈し、王家に反旗を翻す嘘偽りを述べることなく、真実を語ってくださいますわ。
また、わたくしはアンブロジオ侯爵家の名にかけて、脅しなど、王家の方々に顔向けできぬ恥ずべき行いはしていないということを誓いますわ。」
もし、調査が行われたとしてもここまで言ってしまった中で、私に脅されたなどと嘘を吐くだけの覚悟を持てる者もいまい。たとえ第二王子たちに有利な証言であっても嘘を吐いた時点で王家に反旗を翻す気があるとみなされると断言しているのだから。
「ええ、改めて調査させていただきます。」
宰相子息が不承不承頷く。
二つ目切り崩し成功、正確には先送りだけど。これは瑕疵って程でもないし、証言も出ず、すぐに忘れ去られるだろうから。これで良しとする。
「では次に、聖人祭の夜会についてですが」
「それでしたら、レナの貴女にワインをかけられたという証言と、汚されたドレスという証拠がありますから。エヴリーヌ嬢、今までのように逃げられませんよ。」
人の話をぶった切って、ドヤ顔でのたまう宰相子息サマ。ここまで言い負けてるから、巻き返したいのだろうが、そうはいかない。
あ、ドレスはやられた証拠であって、やった証拠ではない。なんて言っても無駄だろうからスルーしますよ。
「さようですか、わたくしがドレスにワインをかけた、と。それは大変不思議な出来事ですわね」
「なにが不思議だというのだ?」
第二王子は少し慎重になったのか若干の怒気を孕むものの、静かに問う。
「ええ、だってわたくし学園の聖人祭の夜会には参加しておりませんもの。それどころか国内にもおりませんでしたわ。それなのにどのようにすればレナ様のドレスにワインをかけられたのでしょうか?マティアス殿下もわたくしをエスコートした覚えはございませんでしょう?僭越ながらわたくし、マティアス殿下の婚約者として学園内で顔が知られていると思いますの。夜会にいましたらどなたかわたくしが参加していた姿を見ているはずですわ。レナ様以外に、どなたか夜会に参加しているわたくしの姿を見た方はいますかしら?」
最後の問いはこの会場全体に投げかける。
会場中がざわめく。が、誰一人として姿を見たという者は出てこない。
「確かにエスコートはしなかった。だが、それが貴様がいなかった証拠にはなるまい!人に見られぬよう会場付近に忍び込みレナにワインをかけたのかもしれん。」
「あら、先程会場内でワインをかけられたとレナ様が証言したとおっしゃっていましたがそれは間違いでしたの?会場内で誰にも見つからずにいるのはさすがに不可能かと思いますわ。夜会の会場には魔封じの結界も貼られていたはずですから、魔術も使えませんでしょうし」
夜会など人が大勢集まる場で魔封じの結界が張られるのは常識である。さらに今は第二王子が在籍しているのだ。学園での夜会とはいえ、王宮から魔術師が派遣され最高峰の結界が張られる。
うっ、と言葉に詰まる第二王子は当然そのことを知っている。
「わたくしは、聖人祭の日は隣国におりましてそちらの晩餐会に参加しておりましたの。そちらは隣国の国王陛下始め王族の方々が証言してくださるはずですわ」
「なぜ貴様が聖人祭の日に隣国で晩餐会に参加しているのだ?」
第二王子が訝しげに問う。
「はぁ~、ご存知なかったのですか?公務も兼ねた訪問だったのですが。
聖人祭の日の少し前に隣国の王妃さまが病で身罷られたのはご存知でしょう?それにわたくしの母が隣国の現王の王姉であることも。聖人祭前後は忙しい時期ですので、隣国の王の姪という関係がある、比較的自由が利く学生であり、第二王子の婚約者という立場のわたくしが代表して訪問することになったのですわ。喪に服す意味もあり、夜会ではなく晩餐会を行いましたので長時間抜け出して誤魔化すこともできませんわ。」
もはや、ため息も隠せなかった。
夜会であればなんだかんだと、居場所を誤魔化すこともできなくもない。が、晩餐会だと席順も決まっており誤魔化しはきかない。
「ど、どう言うことだ?レナ、確かにエヴリーヌにワインをかけられたのだろう?」
「え、えーと。ぎ、銀髪に立派なドレスを着た後ろ姿だったからエ、エヴリーヌ様かと思ってぇ。ず、ずっとにらまれたり、い、嫌がらせされてたからぁ、うぅ・・・」
さすがに分が悪いと思ったのか第二王子がレナに確認するが。最初こそ焦った様子を滲ませたものの最後には泣きの演技を入れるレナ。
攻略対象たちはそんなレナを慰める。
うん、なかなか手ごわいね。敵ながらあっぱれ。
「では、わたくしがワインをかけたのではないと納得いただけましたでしょうか?」
と、締めようとしたのだが。
「貴女が直接手を下してはいないとはいえ、とりまきにやらせればいいだけです。貴女が主犯であるという否定にはなりません。」
宰相子息がこちらをにらみながら難癖をつける。
「ええ、ええ、さようでございますね。ですが、わたくしがやったと見せかけるメリットは何でございましょう。むしろ、どなたかがわたくしを陥れようと行ったという方が納得できるのではなくて?それにそもそも、ワインをかけたというのはわたくしが実行したとおっしゃっておられましたでしょう。それが後姿を見ただけ、とは証言が不確かでありませんこと?先程のことも含めきちんと調査しているとは思えませんわ。このような不確かな証言で断罪を行うとはアンブロジオ侯爵家を愚弄していらっしゃるのかしら?
どちらにせよ、きちんと調査を行い、実行犯は誰であったのか、本当にわたくしが命じたのか明確にしてくださいませんこと?」
攻略対象たちは口惜し気にこちらをにらむが、何も言えることはないようなのでこの話も崩せたといっていいだろう。
ヒロインも攻略対象たちに見えないようこちらをにらむ、が、攻略対象たち以外には見えてるけどいいのかな?
会場の空気もほぼほぼ私の味方に戻っている。さて、最後の仕上げに取り掛かろう。
「あとは、放課後に実行されたという諸々ですが、わたくしはやっておりませんわ」
「はっ、それこそやってない等といくらでも口にすることができる!そんなもの証拠になるものか!!」
鬼の首を取ったのかのように勢いが盛り返す第二王子。
「話が途中ですわ、最後まで聞いてくださいませんこと?
やっていないと申しましたが正確には『できない』、ですわ。ご存知の方もいるかと思いますが、わたくしは学園に入学してからこの三年、王妃教育と公務で忙しくしてまいりました。スケジュールも王宮で管理されておりますので確認をとっていただけたら何時、何処で、誰と、何をしていたかすべてわかりますわ。」
「確かに、忙しかったと思うがまったく自由な時間が無かったわけではなかろう。私も公務も生徒会の業務もあったがそれなりに友人と楽しむ時間はあったし作れたぞ。それに貴様も取り巻きどもと放課後に茶会などしていただろう。まさかそれまで王宮に予定を管理されていたなどと申すまいな?それに王妃教育などなにを言っている、王になるのは私の兄上で当然王妃となるは義姉である、貴様に王妃教育など必要なかろう」
少なくともこの半年公務も生徒会の仕事もまともにこなしていなかった癖に、なに偉そうにいっている馬鹿王子。仕事をサボっていた余波を食らっていた生徒たちが空気をぴりっとさせているじゃないか。
そもそも、さっき嫌がらせ実行日まで明言していたのだ少なくともその日は王宮で予定を確認できると察しろ。ってか王妃教育の必要性を理解していないとは・・・。
「何から説明していけばいいのやら・・・。
まず王妃教育をわたくしが受けていた理由ですが、皇太子さまに万に一つのことがあった場合王位を継ぐのは継承位第二位を持つ者となります。ですから慣習として、継承位第二位を持つ者に嫁ぐ者も王妃教育を受ける決まりなのですわ。
次に確かに第二学年の頃までは放課後に友人とお茶会などをする時間も多少はございました。ですが第三学年になってからは毎日終業したらすぐに公務についておりましたからそのような時間を取ることもできませんでしたの。わたくしがこの一年でお茶会をしている姿をご覧になって?それほどまでにわたくしの予定は毎日詰まっておりましたの。放課後に嫌がらせを実行したりや無法者と落ち合う時間などありませんわ、再度言いますが王宮にて確認してくださいませ、予定をこなし遅刻などなかったこともすべて記録されておりますから。無法者がわたくしの名前を出した理由も存じませんわ、これもどなたかがわたくしを陥れようとしてわたくしの名を騙ったというほうがしっくりくるのではなくって?
それに、もう余計なやり取りをしたくないので言ってしまいますが。わたくしの取り巻きや家の者にやらせたというのはなしですわよ?あなた方はわたくしが実行したこととしてそれらを罪状としてあげました。であれば、わたくしが実行できない時点で無効ですわ。反論する前にご自身の調査不足をお恨みになって。」
面倒になったので一息で言い切り、無理やりに場をひっくり返す。
そして、余計なことを言われる前に空気を変える。
「さて、壇上にいる皆様。今日この晴れの場で、このようなお粗末な断罪を行い、場を乱し、アンブロジオ侯爵家を愚弄した覚悟はございまして?この場であった出来事はすべて王宮、アンブロジオ侯爵家、皆様のご実家に報告されておりますわ。それに、この一年の行状も、ですわ。」
空気を変えた私にたじろぐ攻略対象たちとヒロイン。
「どういう、意味だ?」
自分たちの描いたシナリオのはずが
「そのままの、意味ですわ。皆様が王子として、高位貴族の子息としてふさわしい振る舞いをしていたと自信をもっていらっしゃるのでしたら何も問題ございませんわ、今行われたお粗末な断罪劇を含めまして、ね」
「・・・。それに、報告されている?今からするのではなく?」
自分たちの用意した舞台上で踊っているはずが
「ええ、今日この場で皆様が断罪を行うかもしれないという情報はすでに知られていましたの。ですから事前に、この場にはこの国の貴族にのみ出席するように、何か起こるかもしれないから冷静に行動するように、他国の留学生は欠席するように通達がなされていたのですわ。加えて、通信具が置かれておりますので、この場でおきたことはすべて王宮で監視されていましたの。」
「なん、だと」
他人の描いたシナリオをたどり、他人が用意した舞台で踊らされていたのだと
気づいた時の驚きはいかほどのものか
「それと、レナ様は自作自演のいじめで高位貴族の子息をたぶらかし、わたくしエヴリーヌを陥れ、アンブロジオ侯爵家を侮辱。学園内とはいえ行き過ぎた権利の行使や他の生徒への暴言等々なさいましたので。不敬罪、詐欺罪、国家反逆罪、等々の罪状により牢屋に入っていただくことが決まっていますわ」
「嘘よっ!!」
ヒロインの悲鳴に近い叫び声が会場内に響き渡る。
その後のことを簡潔に述べよう。
あの直後、各家の保護者達と騎士団に攻略対象たちとヒロインは回収された。ヒロインが連れていかれるときに攻略対象たちが、ヒロインが罪を犯すはずがない、嵌められたのだなどと暴れる一幕があったものの、保護者たちにあっという間に鎮圧されていた。
もちろん、第二王子と私の婚約は解消された。
攻略対象たちは表向き、領地経営の修行ためということで王領の一角を任せられた。
その実、家の跡継ぎから外され、子供を作れなくなる魔法をかけられたうえ、身を守る以外の魔法を使えなくし魔力を吸い取って魔石にする枷をはめられた。そして、治める領地は王領の中でも魔物が多く出現し、作物の育ちにくい不毛な大地の広がる領土なのである。
そしてヒロインは高位貴族をたぶらかし、国家転覆を狙った悪女に仕立て上げられ、学園外の都合の悪い罪まで被せられたうえで処刑された。