第六話「真相」
説明回。
あまり展開は動きません。
日本刀少女、川瀬は寂れた部室の椅子に腰掛け、私を睨み付けている。
その目には、僅かな敵意が宿っていた。
私何か、川瀬さんを怒らせるような事をしたかな。あー、そういや「誰も居ない所で手紙を読んで」っていう約束を破っちゃったっけ。
でも、今の川瀬さんは時間が巻き戻ってる事に気付いているのか? 反応的に、気付いてない様に見える。
鬼の形相、とまでは行かないが。彼女は間違いなく、私を敵視している様子だ。
その鬼気迫る表情を見て、日本刀を振りかざし追いかけてきた時の彼女を想起し、思わず私の顔が引きつる。
「ノックもなしに、勝手に余所の部室に入るなんて、不作法ではないかしら」
「えー、と。あ、あはは、急いでたんでノックとかする余裕がなくってね。ごめんね」
「急いでいた、ね。急いでいた癖に、きっちり音は消して入ってくるのね」
川瀬の不満は、続く。
しょうがないじゃん、誰かに日本刀持って追いかけまわされたんだから、ノックとかする余裕あるわけないでしょ。
それに、私はかなりデカい音を立てて入ってきたよ? 難聴かな?
─────いや、彼女がそう言う意味で発言していないと、分かってるけと。
……まぁ、やっぱりそうだよな。彼女には、明日の記憶は無いらしい。
つまり。
「川瀬さん、今日は4月20日ですよね」
「……それが、何?」
「約束通り、私はこの部室に来たわけですけれど。タクさん? って人から何か聞いてない?」
「聞いてないわ。……ちっ、あのキチガイは何を企んでいるんだか」
……彼女は、時間逆行に直接関わってはいないと言うことだ。
私は、川瀬の命令のでこの部室まで逃げ込み、タクさんとの約束通りに私は”昨日の放課後”に部室に居る。
明日のことを覚えているのなら、ここに私がいても何も不思議ではないはず。
「タク、という人が来るまで待ってていい?」
「部長の客人なら、私に追い返す権利はない。好きにすると良い」
そう言って彼女は、再び読書へと戻った。
結局、何の情報も得られないまま、会話が終わってしまった。
……彼女には、明日の記憶はないけれど。明日に渡された手紙から考えるに、私の時間逆行について何かは知っている。
そのことについて、聞いてもいいのだろうか。何やら、初めて会った時より、彼女は攻撃的で刺々しい気がする。
明日の昼休み、彼女がラブレター(?)を手渡してきた時は、もうちょい親しげだったのになぁ。
川瀬さんは、日によって性格が変わるタイプのキチガイなのかな。
あの時はどっちかって言うと、かなり親愛の情を感じる目をしていた様な。
……まさか、好き避け? 私のことを性的な目で見ていて、照れてつれない態度を取っているとか?
噂では、彼女は同性にも手を出して、欲望の限りを尽くし廃人まで追い込むキチガイ。
私は今、非常な危険な状況なのかもしれない。
「ねぇ川瀬さん」
「……何かしら。あまり、私に話しかけないでほしいのだけれど」
この避けっぷりが、逆に怪しくなってきた。川瀬さんを、少し揺さぶってみよう。
キチガイはどれだけ対策しても、しすぎということは無いのだから。
「川瀬さんは今、好きな女の子とか居るの?」
「……どういう意味かしら」
────まずは普通の恋バナっぽく、話を振ってみる。私を性的に意識してるなら、ちょっとは動揺するだろう。
……しかして。私の質問を聞いた彼女の顔からは、僅かな困惑が見て取れた。
これは、当たりかもしれん。
「ただの雑談だよ、川瀬さん。川瀬さんはどんな女の子が好みなの?」
「ちょっと待って。え、何、どういう質問?」
ぐ、と顔を近づかせてみる。
すると川瀬は目を丸く見開き、あたふたと緯線を泳がせた。
明らかに動揺している。チャンスだ、畳みかけよう。
「ああ、大丈夫。私は同性愛とか、気にしない方だから。川瀬さんも素直になると良いよ」
「!?」
「おお、何か顔赤くなってきてない? あれ、ひょっとして気になる子がいるのかな? まさか私か?」
「ちょ、待って。ああ! あの噂を真に受けたのかしら? あれは脚色されていて、私にソッチの気は……」
「とか言いつつ、顔真っ赤だけど? 私は言いふらしたりしないよ、大丈夫」
……さっきまでのツンツンはどこにやら。私が少し顔を近づけると、机の上に本を開いたまま、川瀬は視線を激しく左右に揺らし動揺している。
「女の子には興味ないんだ?」
「な、無いに決まってるでしょ」
「じゃあなんで、そんなに顔が赤いのかしら?」
「えっ、それは……」
当たりだな。この川瀬という女子は、やっぱり私に性的な興味を抱いている危険な女に違いない────
「……マリキューちゃん。お前、そっちの趣味だったの?」
「き、き、キマシタワー?」
おや。
部室のドアが開き、例のキチガイ先輩共が私と川瀬さんを遠巻きに覗いていた。
「あの、その、気持ちはうれしいけど、その、私そっちの趣味は本当になくて、」
「ふーん?」
……川瀬さんは、まだ動揺している。だがしかし、この期に及んでなお、私への想いを誤魔化すつもりらしい。
私は鈍感では無いのだ、態度でバレバレだっていうの。二人ほど野次馬がいるが、奴らは気にせずもう少しぐいと顔を近づけてみようか────
────って!
これじゃ、私から迫ってるやんけ!
「って、違うそうじゃない! 私はその、川瀬さんの気持ちを確認してただけで!?」
「落ち着け後輩。俺は別に、同性愛とか気にしないよ。マイというド変態で耐性あるから」
「私を変態呼ばわりはいただけませんが、タクに同意見ですのよ。恋愛とは、自由な形でいいのですわ」
「待って、変な方向に収束させないで! 本当に違うの! その、私が両刀って噂は、あそこでニヤニヤしてるキチガイ共がバラまいたデマで、私は普通にノーマルで…………」
あ、川瀬さんが動揺してたのって、そういう……。
「誤解だぁ!!」
「あら~^^」
この後めっちゃ弁明した。
「ぜー、ぜぇ。これで私がノンケなことは理解していただけましたね!」
「お、そうだな」
「そうですわね」
「……」
だめだ。みんなの目が生ぬるい。
こんな頭のおかしい連中に、こんな扱いをされるなんて。なんたる屈辱か。
「ねぇ川瀬さん、なんでさっきから私の方見ないの?」
「……別に、何も意図はありませんよ?」
「ちっくしょう! 全然目を合わせてくれない! しかも敬語になりやがった!」
私の川瀬さんの心の距離がぐーんと開いた模様。
「どうどう、もういいかマリキュー後輩」
「良くないですよ! このままじゃ、変な噂が広がって私の学園生活が終わってしまう!」
「既に結構ヤベぇ噂広がってなかったか、お前」
この金髪の言うとおり、私の珍妙な行動の数々は学校中で噂になってはいる。だが、それは私の望むところ。
「変な奴」という噂が広がる分には構わない。
ただしレズはダメだ。本物サンが沸いて迫られたら、扱いに困るし、その相手にも失礼だ。
「それよりさ。マリキュー後輩、そろそろ本題聞きたくないのか?」
「本題?」
「お前、何の説明もされないままここに来ただろ。質問攻めにあうと思って、気構えてたんだが」
「……あ」
そういやそうだった。いや、そうだ。
そうだよ! それが本題だったよ!
「おい金髪先輩!! やっぱりあんた何か知ってるんですね!」
「金髪先輩は勘弁してくれ……。タクな。柊卓也、あだ名はタク」
「名前とかどーでもいいです! あんた、何を知ってるんですか!? あんたは明日の事、覚えてるんですか!?」
「失礼な奴だなー。質問に答えると、俺は覚えてるぞ、明日の事。俺だけは、な」
そう言って、タクと名乗った金髪の男は、自らのこめかみを指で撃ち抜く動作をする。
それは明日、タク先輩が自殺した時の動作にそっくりだった。
「コレ、だろ?」
「……本当に、覚えてるんですね。時間を超えてるの、私だけじゃなかったんだ」
これで疑いようもないだろう。彼は、時間逆行現象について何かを知っている。
「なぁ後輩。何から聞きたい?」
「そうですね、ではまず────」
タク先輩には色々と、聞きたいことがある。順位をつけるのが本当に難しいくらいに。
ただ、強いて最初に聞いておきたいことがあるとすれば、
「タク先輩はホモなんですか? 女装先輩とのご関係は?」
「よりによってそこか」
いや、だってそこも重要だし。
正直、私も女の子なので、ちょっと興味があります。
「タクとはただの同級生ですのよ。最初は普通の娘と思ったけど、あなた少し変わってますわね」
「え、本当ですか? ふふ、よく言われるんです♪」
「褒めてませんわ、嬉しそうな顔しないでください。……で、どうしてそんな質問を?」
「明日、お二人は部室でシッポリ行為をなさってたので」
「タクゥゥゥ!! あなたまたヤりましたの!?」
女装先輩は激おこの様だ。タク先輩の胸ぐらをつかんで揺さぶりながら、裏声で絶叫した。
この人は女装をしている変態さんなのに、同性愛者ではないらしい。そういうタイプの人も居るんだな。
「その、アレだ、すまん。ヤクザ共との追いかけっこがやっと終わってだな、一息ついたら無性にムラムラしてきて」
「だからって私に手を出さないでくださいまし!! これで何度目ですの!?」
「き、昨日は最後までヤれなかったから!! 大丈夫、ヤってもちゃんと無かったことにするし」
「無かったことにされようと、同級生に掘られるとか気持ち悪すぎますわぁぁ!! 確かに今まで、私の主観的にはなにもされてませんけど、絶対に時の狭間で何度かヤってますでしょアナタ!!」
女装先輩は本気で嫌がっているようだ。ゾワリと鳥肌を立て、タク先輩から距離を取っている。
……彼女(彼)は、存外にまともな人なのかもしれない。金髪は疑いようなくキチガイだけど。
いや、それよりも気になる言葉があったな。
「……なかったことにする? 時の狭間?」
「お、食いついたか。ソコを今日は主に説明するつもりだったんだ。じゃあ、種明かしと行こう」
金髪の男、奇特部の部長、タク先輩は語りだした。
私が、一体どんなものに巻き込まれてしまったのか。明日の、意味の分からない数々の事件について。
時間逆行の、真実について。
「まぁなんだ。端的に言うと、俺は時を巻き戻せるんだ」
「先輩が……ですか?」
金髪の青年は、半笑いのままに説明を続けた。
先ほどと同じく、指で自分の脳みそを撃ち抜くジェスチャーをして、
「俺が死んだら、その瞬間からきっかり24時間、巻き戻るんだわ」
「……それ、証明はできますか?」
「うっ……出来るけど、つまり俺に死ねって事? めっちゃ痛いからなるべく死にたくないんだけど」
「いや、いいです。次、先輩が死んだときに確かめます」
「そーしてくれ。俺の家は時々、時を巻き戻す能力をもって生まれてくるガキが居る。たまたま俺がそうだったって話」
タク先輩の言葉を聞いて、チラリと周りを見渡す。残りの二人の反応が見たかったのだ。
────ド真剣な顔で、タク先輩の後ろ側、二人は私を見据えていた。人をからかっている雰囲気では無さそうだ。
「まぁ、それで何でマリキュー後輩の時間まで巻き戻っているかというとだな……」
男はニヤリと口元を歪め、話を続ける。
「おめでとう、後輩。お前は、俺と同じ能力を発現した」
「……え?」
「時空跳躍能力者の、能力発現の第一歩。それは、時間が動かされた時にそれを感知できる能力なんだ。ちょうど、今のマリキュー後輩みたいにな」
「……正しく、タクに後輩が出来たってことですわね」
ほ、ほーん。
いかん。話は理解できるけど、私がいきなり超能力者に? 正直、ついていけんわぁ。
……このキチガイ共によって、私も自殺とかさせられるのだろうか。絶対嫌なんだが。
「もっとも、発動条件は人によって違う。俺の能力は自分の死で自動発動するタイプだが、お前はそうとは限らないぞ」
「貴女には貴女の能力発動条件があるということですわ。もしあなたが時間を巻き戻した時は、その時の状況をよく覚えておきなさい」
「時間を巻き戻せるとも限らないがな。今は、後輩ちゃんは時間系の能力者って事しかわかんねぇ状況だ。……俺の知ってる他の時間系能力は、時を止めれるけど自分も動けなくなるっていう欠陥能力だった」
「ゲームでいうポーズ画面みたいな感じですわね、あの人のは。咄嗟でも思考時間が稼げるのは、確かにメリットですけれど」
そ、そっか。話の流れ的に、私も死んで時間逆行とかさせられるのかと思った。
生き返れると分かってても、さすがに嫌だわ死ぬのは。目の前のタク先輩とやらは、ここ数日で3回くらい死んでるけど。
そういや、何でこの人死んだんだろう。
「……ちなみに、4月20日に何度も死んだ理由は?」
「ん? ヤクザに追い回されて射殺された」
「ヤクザに喧嘩売ってるって噂、やっぱりマジなのか……」
私を混乱の渦に叩き込んだ、繰り返す4月20日現象。それは単に、ヤクザに喧嘩を売ったキチガイの時間逆行に巻き込まれただけだったらしい。
私が時間逆行を知覚出来るようになったから、こんな酷い目にあったのか。
「最初の4月20日は自殺だけどな。あれだ、ヤクザから車奪って上手い事逃げだせたんだが、警察共が参戦してきて追い回されてな……」
「……タク先輩、車運転できるの?」
「出来るに決まってんだろ。ヤクザとカーチェイスして何度も死に覚えたんだ。その辺のやつよりかはずっと運転上手いぜ?」
「あー、成程」
「でもあの日は、いきなり飛び出してきたうちの生徒をひき殺しちまってなぁ……。警察からは上手い事逃げ出せたんだけど、後味悪いから自殺してやり直した」
「気に入らないことがあれば何度でもやり直せるのが、タクの能力の強みですわ」
「……めっちゃくちゃ痛ぇけどな」
そうか、うちの生徒をひき殺しちゃったから、深夜に自殺して4月20日をやり直したのか────
「つまりあの黒塗りの車はお前かぁぁぁ!!」
「ッグエ!?」
「お前が私にトラウマ植え付けた張本人か!! 目の前でクラスメイト跳ね飛ばされて、私がどれだけ苦しんだと思ってるこの野郎!!」
「そ、そんなこと言ってたな。スマン、お前の知り合いだったか」
「当事者じゃあ!! 目の前でヒロシの首がエライ方向に曲がって今でも夢に見るわ!」
私のここ3日くらいのストレス要因は、半分くらい初日のヒロシの事故に起因しているのだ。
絶対にゆるさん。
「そもそもアンタ、なんでヤクザなんかに喧嘩売ってるんですか! 馬鹿じゃないんですか!?」
「あー、まぁそこは事情があってだな。まぁ、なんだ────」
その言葉を聞くと、タク先輩は少し嫌悪感を言葉に乗せ、質問に答えた。
「ヤクザの連中、能力の存在を知ってるから、積極的に能力者を拉致ってるんだよ。基本、裏社会の人間は能力者を見ると追っかけまわしてくるな」
「というよりはむしろ、能力者がヤクザ組織を運用してるというべきかしら? ヤクザのトップ層はほぼ能力持ちですからね」
「能力に目覚めたせいで社会からはみ出しちまった連中は、裏社会での生活を選ぶって事。で、俺もウッカリ能力バレして、ヤクザに追われる身な訳」
……ヤクザの正体は、異能力者の集いだった? え、そうなの? そういうもんなの、やくざって。
そういやこの人達も、学校の中で浮いてるもんなぁ。
超常現象に巻き込まれまっとうに生きることが出来ず、生きるために犯罪に手を染めた結果、ヤクザになっちゃうのか。
「さて、マリキュー後輩。この奇特部の真の存在意義について述べておくぞ」
「反社会的勢力以外にも、能力を持ってしまった者に居場所を用意する。それこそが、この部活の意義な訳です」
で、能力者を犯罪者にさせない為の組織が、この部活。
そういう話でいいのかな。
「我が部の目的は、一言でいえば”能力者同士の互助組合”だ。社会から隠れて生活をする上で、互いが互いに助け合い、一般人として生活を送るための部活。……で、俺の役目は、ヤクザみたいな直接的に襲ってくる連中の処理。絶対死なんしな」
「私だって協力してますわよ。まぁ、タクを矢面に立たせているのは事実ですが」
「……私は、その」
「ブン子はまだ見習いだからいいんだよ。能力制御も出来てねーんだし」
なんか思ってた以上にまともな組織なんだが、この部活。
要するに、変な能力に目覚めた人を、普通に生活させましょーっていう活動内容でしょ。キチ〇イの巣窟じゃなかったの?
「うちのOBに、運命操作系の能力持ってる人がいてだな。ここ近辺で能力発現する可能性がある奴は、みんなうちの学校に通う様に運命を捻じ曲げたらしい。だから、ここら一帯の能力者は、みんなこの学校に入学するんだ」
「そして在学中に、能力を隠して生きる生徒を見つけ出して勧誘するのも、我が部の活動内容の一つですわ」
……入学早々奇特部入りした、川瀬さん。つまり、
「……川瀬さんを勧誘したのも、活動内容の一環だったってことですね」
「ブン子は分かりやすかったしな。少し経歴を探ったら、すぐ能力者だと当たりがついた」
「……今の話を聞いて、私はこの部活に入ったの。悪質なデマを流されたのは正直腹立つけど」
「ま、能力者は元々孤独なもんさ。少なくとも能力の制御が付くまでは、ブン子はボッチの方がいい。それは納得したんだろ?」
「……うん。私が人と距離を取る必要があったのは認める。だから、文句は言わない」
そうか。何かしらの事情があって、敢えて人から引かれる噂を流してたのね。
……あれ? じゃあ川瀬さんが、両刀メンヘラって情報は嘘なのか?
「つまり俺も、好きでヤクザに喧嘩売った訳じゃない。奇特部部長として、ブン子やマイを守るために仕方なくやりあってるだけ」
「ちなみに、私も女装癖なんてありませんわよ? 能力の制約上、やむを得ない事情で女装しているだけですから。勘違いなさらないでくださいまし」
「嫌々女装してる割には、女の仕草とか完璧だけどな。正直に言えよ、ちょっと興味あったんだろ?」
「ありませんわ! あなたも知ってるでしょ、この姿の意味!」
ホモ女装先輩も、嫌々女装してるだけなのか。
あれ、じゃあ……
「ひょっとして、本当に頭がおかしいのって、私だけだったり?」
「そうだな」
「そうですわね」
「……」
お、うおおおお!!!
「よっしゃあ!! やっぱり、私の個性こそが学校で一番だったんだ!!」
「喜ぶのか」
「この子、やっぱり変わっていますわね」
「能力者って、個性的な奴ばっかだよな。この娘はとびっきりのイカレ具合だが」
「だろう? だろう? もっと私を褒め称えるがいい!! フーッハッハッハ!!」
やっぱり私は個性的だったんだ!
能力なんて言う意味の分からない超個性に後れを取ってしまっただけ! 私自身が能力とやらに目覚めた今、究極完全絶対無二な個性を手に入れたのだっ!!!
「ふーっはっはっはぁ! 私の天下だぁ!!」
「あーそうそう。この学校が能力者が集まる学校だっていうのは、さっき話したよな?」
「……それが何か?」
何だよ。せっかく人が喜んでいるときに、水差さすなよ。
「その情報、最近ヤクザ連中に流れたっぽい」
「おい」
じゃあ私ら一網打尽じゃないか。
「幸いにも奇特部の正体までは特定されて無さそうだけどな」
「ただ、探りを入れるべくヤクザさんも色々も暗躍しているようですわ」
「それで、去年から校内にヤクザ側の生徒が沸いてる。……多分、洗脳系のヤクザにに操られた可哀想な生徒だ。 お前さんを追いかけた連中も、ソレだよ」
「洗脳? そんな能力も有るんですか」
そういや私、カナに襲われたんだっけ。川瀬さんの日本刀のインパクトで忘れてたけと。
あの時のカナはどう見ても正気じゃなかった。洗脳とかもアリなのね。
「おう。むしろ洗脳系はかなりメジャーな能力だぞ? 能力の大原則として、基本的に物理法則は覆せないってのがある」
「ん? それってつまり?」
「瞬間移動したり、何もない場所に火を出したり、触らずにモノを動かしたりみたいな能力は存在しないって事ですわ」
「能力ってのは他人の目から分かりづらいモンなのさ。俺みたいに意識だけを過去に戻してるとか、誰かを精神的に支配してるとか、微妙に運を良くしたりだとか。目で見てわかる超能力ってのは、この世に存在しない」
「……それが、歴史上に能力者の存在が明るみに出ていない理由でもありますわね。ぶっちゃけますけれど、私も洗脳系ですわ。ブン子ちゃんは詳しく知りませんけど、彼女も精神系でしたわよね」
「……まぁ、否定しない」
「この二人の能力はまだ知らん方がいい。後輩、探ろうとするなよ?」
「う、うす……」
よく分からんが、残り二人の能力についてはあまり教えてもらえないらしい。
結構気になってたのに。この先輩が女装してる理由、結局何だよ。
「さて、次に聞きたいことはなんだ?」
「あ、え-と。じゃあ……」
TRRRRRRRR、TRRRRRRRR……
と、他に色々と聞こうとした時、突然私のスマートフォンが震えた。
着信の様だ。
「すみません、ちょっと」
「おう、良いぞ。でも学校では電源切っとけよな」
「あなたにマトモなこと言われると違和感凄いのでやめてくれません?」
「そんな理不尽な」
さて。普通に学校の時間だというのに、わざわざ電話してくるバカは誰だ……?
……お母さん?
「もしもし?」
『マリ!? 貴女今、何処にいるの!?』
「え? が、学校だけど」
『分かった、すぐに迎えに行くわ! 絶対に動いちゃだめよ!』
……母さんは、切羽詰まった声で、私に怒鳴りつけた。な、何事?
「母さん、どうしたの? 何か事件でも起こったの?」
『それを聞きたいのは私達よ!! 目が覚めたなら、何でおとなしく病院で待ってないの!? 何で勝手に抜け出しちゃうの!? 先生も大慌てだったんだから!!』
……。
……あ、そういやこの時間の私って、入院してたんだっけ。
「その、えっと、あははは」
『きっちり説明してもらいますからね!! 校門でおとなしく待ってなさい!!』
プツリ。
母親の泣きと怒りの混じった声が途切れ、ツー、ツー、と通話終了音が部室に木霊する。
「後輩?」
「あっはっはそうだった、今日は私、入院してたんだった」
「入院? お前、どっか悪いのか?」
「あー、半分は運が悪かった感じで、残り半分くらいはヒロシを轢き殺した先輩が悪い感じです」
「そっか、なんかスマン」
うるせぇぶっ殺すぞ。
「じゃあ話の続きは、また今度やろう。じゃ最後に、この部のルールを説明して終わりにする」
「貴女には3つ、守って欲しい事がありますの。1つ、誰かにに襲われた時、絶対に自分だけで対処しようとせず、すぐさま私かタクに助けを求めること」
「了解っす」
「んで2つ目、能力を匂わせる言動は禁止だ。どこに洗脳された生徒がいるかわかったもんじゃねぇからな……。万一、能力の事が誰かにバレたら、即座に俺に連絡しろ。バレる前まで時間を戻すから」
「あー。成程、それで明日の川瀬さん、タク先輩に会いに行けって言ったのか」
「3つ。貴女の能力の使い方が分かっても、むやみに使用しないこと。どんな副作用が有るかわかったもんじゃありませんので」
「副作用とかあるんですか」
なんかイメージしてた超能力と違うなぁ。成果を得るには、何か代償が必要って話か。
「俺やマイはなるべく部室にいるようにしてる。けどお前さんはクラスに馴染んでるみたいだし、無理に部室に顔を出す必要はない。困った時だけ、俺達を頼れ」
「私達もそうやって先輩から守ってもらいましたわ。そして貴方達が先輩になったら、きちんと能力に悩んでいる生徒を見つけ出して、貴女達が守ってあげなさい。いいですこと?」
「それと、空いてる日は俺に会いに来い。能力を使いこなせるようになるのも、能力者として生きていく上で必要な事だ。同じ系統の俺が鍛えてやるよ」
「タク。下心スッケスケですわよ?」
「いや、流石にこんな脳みそぶっ壊れた娘に下心は湧かねーわ」
「失礼な」
可愛い美しい元気で魅力的なキチガイを自称するこの美少女に向かって、なんたる言い草だ。
その後、彼等と別れた私は生徒の行き交う中を歩いて校門へと向かい、母親の運転する車で病院へと戻った。
病院に到着したら、看護師さんや眼鏡のお医者さんから凄い勢いで頭を下げられた。
目が覚めたときに気付かなくて申し訳ない。いきなり知らない場所で寝ていたら混乱するだろう。思わず知っている場所へ向かってしまうのも当然だ、悪いのは我々だ。病院としても最大限の謝罪をするつもりだ。
要約すると、こんな感じだった。
────罪悪感沸くからやめて欲しいわぁ。
次回は1週間後。
幕間、文学少女川瀬の話です。




