3章 最強の双子たちの救い
インターホンが唸り出す。
「藤井モナコって子が来てるんだけど、知ってる?というか早く起きなさい」
「あぁ、ペアだよ。母さん」
「つまり恋人ね?ロリになったのね……」
「違うし残念そうに言うな……それと」
私は玄関の扉を開けて言いつける。
「さっきからうるさい。少し静かに待ってろ!!」
扉を閉じる。
「女性には優しく接してあげるのが紳士だよ?」とコイトス。
「神は王茂子……」
玄関を殴る音が聞こえる。あの子は地獄耳の持ち主か。
「漢字が違うし、それにその名は……」
「禁句だったな」
私は食事を取り、身支度を済ませる。
「モナコちゃん。お待たせ」と私は言う。
彼女は私の顔を見るなり、ふてくされて駅の方へ歩く。
「モナコちゃんの家もこの近くなの?」
「キモイので話しかけないで下さいまし……ふんまし!!」
「キモイってひどいなぁ」
「じゃあ、ゲスに格上げまし」
笑いながらコイトスがつぶやく。
「嫌われたな。年頃の女の子に……相変わらずむかつくことを申すキツネだって思ったでしょ?」
図星だった。
「うわー、ホント最低まし」
「すみませんでした。これでいいだろう?」
「心こもってないまし!!」
「いいよ。じゃあ、一人で学校行くから」
モナコちゃんは私の袖を強く引っ張る。
「待ってくださいまし。ペアなんですから離れたらダメですまし」
なんか急に顔が熱くなる。それもそのはずだ。腕に彼女の柔らかい部分が触れる。
「あの……モナコちゃん?」
「はうううう。ごめんなさいまし。嫌でしたよね?こんな未熟者が偉そうに袖を掴むなんて……」
モナコちゃん、残念なことにそうだけどそこじゃないんだよな。
「話してる間に敵さんが来たそうだよ」とコイトスが告げる。
「でも電車が……」
「時計よ、止まりゆく世界を味わえ、時計停止ユーモニア(タイムストップユーモニア)!!これで時は止まったよ……たぶん」
たぶんじゃねー、と思いつつ敵が来るのを待つ。
しかし、その時だった。
「おい、お前ら。学校にさっさと行けよ。時は止めるなよ」
「うまーい……ポテチうまーい」
少年の声と少女の声が聞こえる。後ろを見ると、茶色と紫色のフード服の二人が立ってる。どちらも顔が似ている。双子か?
「お姉ちゃん、ポテチ食いまくると太るよ?」
「いくら食っても……あっ、めんどくさいから反論やめた。うまーい、ポテチ」
どっちが上なんだか。
「何やってるまし?天才と言われてきた最強の双子に任せておけば平気だよまし。電車来ちゃうましよ?」
「あぁ……あっ?」
目の前に腕の筋肉が分厚い人間が目の前で肩幅ほどの巨大な岩を抱えている。
(この人は敵なのか?っていうか、どこからその岩を持ってきたんだ?)
その岩を上に投げ飛ばした。
(これ、自分死ぬのか?)
「風切り(ウィンドブレイク)」とさっきの双子の声が聞こえる。岩が粉々に壊れる。砂になって散ってしまった。
「うお、目が……」と敵は目の痛みを訴えている。
「はよ、学校へです。そこのお兄さん」と少年の声が聞こえた。
「ありがとう。二人とも」
「ポテチうまーい……」
私は全速力で駅に向かって走る。
駅に到着して電車に乗った。コイトスが頭に乗っかってきた。
「ギリギリセーフねまし」
「あぁ」
彼女は私の脛を蹴り、ふてくされている。
「また、彼女を怒らしたね」
「みたいだね。ところでさっきの二人は?」
「谷本…… 」
コイトスがそう言うとモナコちゃんは私たちを睨みつけてくる。言葉を変えつつコイトスは説明する。
「Tさんとある人たちを除けば一番強いと言われてきた双子だよ。まぁ、同レベルぐらいな位置にいるのはモナコたちぐらいかな?君のレベルはこれから発達状態だけどね。とにかく、茶色の方は倉田亮。ポテチを食ってた紫色の方が姉の姫子だよ。二人とも協力して闘うのが好きみたいだよ。元の誰かさんたちみたいに。いやぁ、彼女の胸は柔らかかったな……」
「やらしいまし……鼻の下のばしてるまし」
「コイトス!!さらに嫌われたじゃんか」
「知らんがな」
本当にむかつくキツネだ。
こうして学校に着いた。
教室に入る。それにしても彼女が注目されることはなかった。昨日とは異なり、私服だからかもしれない。
「モナコちゃん、中学校はどうするの?」と聞いてみる。
「分身に行かせてる。あっ、そろそろ授業が始まる。バイバイ……」
「バイバイ?」
私の言葉を聞く間もなく目を閉じてる。そしてノートの上でペンを動かしている。
「これって中学校の内容?しかも数学?これから文系の講義なのに……」
「そう言う君も講義始まるみたいだよ?ノート、取って。いざ、弁当……じゃなくて勉強を」
コイトス、そのネタは昨日で飽きたぞ……そう思いながら講義を受けるのだった。
「ふわぁましゅ……まし?まだ、授業やってんまし?」
彼女は急に起き出した。
「まだ、授業中だよ」
「じゃあ、外に出ようかな?」
「立っちゃダメだよ」
そう、小声でやり取りする。彼女を止めようとしたため、肩を押さえるつもりだった。しかし、柔らかい感触が。でも彼女は睨みつけて小声でこう言う。
「後で覚えておきなさいよまし?それよりも今はお話しようまし?」
彼女は右手の拳を左手で掴む。さっきから話してて思うが、先生に叱られるではないか。
「筆談でいいかな?」
「まし!!」
彼女はそう笑顔で言うとノートを一枚手で破り、何か書いている。そして私に渡してきた。その髪にはこう書いていた。
『何か気になることある?』と。
私は冗談で『モナコちゃんの体が気になるよ』って書いて渡した。すると彼女はシャーペンの芯を机に無理矢理叩きつけてそのまま書く。講義の先生にその音がバレずに良かったと安心した。
『キモいまし。ないならないと書いてくださいまし。私にこれ以上変態発言すると七丘さんのハイパートルネードパンチングキックが炸裂させますまし!!』
なんか謎めいたネーミングが。パンチなのか、キックなのか分からないな。とにかく、真剣に気になったことを書いてみる。
『モナコちゃんが寝ながら中学校の授業を受けてたのはどういう原理?』
そう書いて渡すと、彼女は苦笑いしながらこう書いて渡してきた。
『あなたにはまだ無理まし。修行のせいかなのまし。それにこれは精神を分身に与えるから慣れないときついまし。まぁ、好きな授業だけそれを使ってるからなんとかなってるみたいだけどまし。あとは分身に任せておけば全てメモってくれてるまし』
私はもう一つ気になることを書いてみた。
『コイトスって何者なの?』
すると真剣な顔で書いて彼女は渡してきた。
『私も詳しいことは知らないまし。ただ、あなたもコインを受け取った時に気が付いたまし。総長はコインを生み出す……違うましね。コインの表裏を選ぶかなまし。だから、コインを投げて表と裏を決める"コイントス"に似てないまし?そういう感じの生き物だと思うまし。ちなみにきつねらしいまし。犬って言ったらエッチされたまし』
私は聞いてしまった。
『どんなエッチされたの?』
睨まれた。
『エッチされてないし冗談に決まってるまし!!処刑確定まし!!』
ナイスタイミングにチャイムが鳴る。
「処刑の時間まし」
「処刑って何?どんなことするの?血が出ることはやめた方がいいよ」
「いいから来るまし。これから空き時間なんでまし?」
「そうだね。昼飯ずらさないといけないからね」
私たちは扉を出て部屋を出る。コイトスも一緒について来る。なぜか天井を普通に歩いてるが……。
「あれ?処刑ってなんで食堂?」
「金出せまし?」
「えっ?」
「お金忘れてきたのでお金出すまし」
「何食うんだ?」
「味噌ラーメンまし。二百五十円で二コッと御礼ですまし」
「何だ。その決まり文句みたいなセリフは……」
「コイトスから教えて貰ったまし」
そう、照れながら彼女は言う。
「そうか。じゃあ、自分もこれで……」
「えっ?でも……」
「嫌なの?」
彼女は首を横に振る。なんでそんなにあたふたしてるんだろう。そう思いつつ五百円玉を券売り機の投入口に入れていつも通りに買う。
彼女は私から券を一枚受け取るとすぐに食堂に入る。私も後を追う。
券を置いてラーメンを受け取る。出来上がるまで二人の間では沈黙が続いた。
私たちがお盆の上に味噌ラーメンと箸をのせて窓際の方に歩いてる時だった。
「ひゃっ……」
モナコちゃんは変な声を上げた。私たちの前に朝見かけた倉田の双子がいた。
「よう、モナコと朝の兄ちゃん。ん?お前たち、どちらも味噌ラーメンか。付き合ってるのか?」
倉田亮からそれを聞いたモナコちゃんは赤面してオロオロしている。
私は思った。味噌ラーメンをこれが理由で彼女が嫌いになることを避けなくては、と。
「倉田くん、いいじゃないか?彼女も自分もたまたま好きなのを選んだラーメン何だから。君はお姉さんと一緒にいてシスコンとか言われたらどうする?嫌でしょ。それと同じだよ」
「シスコンって何?姉ちゃん」
そう言って今度はチョコのクッキーを食ってる姉の姫子ちゃんに聞く。
「ん?シスコンも知らないのか?双子なのに知識が私よりも愚かね。シリアスな素晴らしいコンビのスケバンの略だよ?」
(ちょっと待て。元の略よりも長くなってるぞ。それに英語だし)
「……っていうことは褒められてるのかな?」
いや、貶してるんだよ。
「シスターコンプレックス……つまり姉が好きで好きで手放せないほどの感じみたいな。まぁ、褒められてなく貶してるんだよ」
いつの間にか机の下にいたコイトスがそう言う。
「そうか。貶されたのか。ふぅん。で?ラーメンのびちゃうよ?早く席に座りなよ。ほら、おいで」
倉田亮はそう言って私たちに席を勧める。顔が怖いけど、ラーメンは確かにのび始めてる。
「では、遠慮なく。モナコさんも座ろう?」
「死んでくださいまし。下の名で呼ばないでくださいまし。これ以上付き合ってるなんて思われたら……」
急に彼女の襟元が掴まれた。
「今、何って言った?」
声の主は姫子ちゃんだった。
「ちょい待ってよ。暴力は良くないよ?」
「あなたは死ねって言ったら死ぬ?死にたくないよね?でも、彼女は平気でそれを口にした。彼女はあの女に裏切られたことを後悔してるからね?七丘さんよりはマシだと思うわよ?」
「姫子さん、これ以上やると……」
「あっ、お姉ちゃん。ここに美味そうな新商品のお菓子があるよ?」
その声に反応したのか、彼女は咄嗟にその商品に飛びつく。
(気が変わるの早いな)
「ラーメン、冷めるよ。モナコちゃん。おいで。お姉ちゃんは餌釣れば大人しくなるから。ね?」
モナコちゃんは席に座る。
「いただきます」
私たちはそう言って味噌ラーメンを食べる。
(おや?今日はなんだ、この味は?)
モナコちゃんは美味そうに食べてる。
「お兄ちゃん、美味しいかな?醤油にソースなどここにあった種類はできるだけ多く入れてあげたよ?」
「まさかさっきの復讐のためかな?」
「ご名答!!」
私はしょうがなく、ラーメンを食べる。
「お兄さん、無理しないでまし。確かにさっきは死んでくださいって言ったけど。その……」
彼女はそう言って止めようとしてくれるが、私はそのまま食べる。
そして……。
「あれま?全部食われちゃった。お兄ちゃんの勝ちだね。まぁ、自分的にはシスコンと言われ用が何しようが何も怒らないけど、今回は面白かったから試したよ」
「倉田亮くん。今度からは塩だけは少量にしろ。後で喉が痛くなってくるよ。じゃあ、行こうか。じゃーね、双子さんたち」
「ふふ。勝ち逃げのセリフ。彼の味はおぞましそうね。総長?」と姫子さんは言う。
私たちは彼女のその言葉を後ろでぶつけられながら流しトレーにお盆を持っていくのだった。そして食堂を出る。
「お兄さん、大丈夫……じゃなさそうましね……」
私は急にその場を倒れ込んでしまった。
気が付いたら頭が何かに乗せられていた。
「あれ、気が付いたまし?」
「ごめん……」
私は何となく手を頭の下にある物に触れてしまった。
「……!?」
触れてから私は気が付いた。それは彼女の足だった。膝枕してもらっていたのだ。彼女は赤面していた。
「……ごめん」
「ごめんで許されるならさらに触られることを許してしまうまし。だから……」
「ごめんね。すぐ、どくから」
その言葉通り、私はどいた。
「あっ……」
「ん?どうかした?」
「いえ、別に……まし」
私たちはその後、時間通りに講義を受けた。家庭科の授業があるからと言い、彼女はまた寝ていたが。
そして私たちは帰る……と私は思ったていた。
「さて、モナコちゃん、帰ろうか?」
「何を言ってるましか?」
「へ?」
「あぁ、うん。そっちに向かうよ」とコイトスは誰かとやり取りしている。
「七丘姉さんましか?」
「ご名答!!車来てるようだよ。さて、彼を拉致して術を覚えてもらわなくては……」
「拉致って……それならそうと言ってくれれば素直に行くのに……」
モナコちゃんは私の耳に近寄り小声でこう言う。
「さっさと行くぞまし?この役立たずのゴミまし!!」
「へ?」
「お兄さん、どうなされたましか?」
「いや、何でもないです……よ」
さっきのは何だったんだ?それはもちろん、事実だ。でも、ゴミはひどいだろ。ん?そういえば拉致って……まさかそのシチュエーションパターンか!!
私たちは昨日の車に乗せられて理由は分かってるけど、モナコちゃんに手を紐で縛られ口をガムテープで塞がれる。
「モナコ、エロいな。そのままスボンを下ろしてしまうんだ」
「なるほどまし」
待て待て待て。コイトス、彼女気が付いてないぞ。信じちゃってるから。私は慌てて首を振る。
「お兄さんまし?なぜそんなに首を振ってるんですか?」
「だって下手したら男のアレが見えちゃうもん」
コイトスは代弁した。その言葉に反応して彼女は赤面した。そしてコイトスを睨んで殴り蹴る。
「お兄さんましも鼻を伸ばさないで下さいまし!!」
彼女に腹に向かって一発グーで殴られた。意外と痛かった。
「あの……もう着きましたよ」
前から声がかかる。
「ありがとうまし!!」
そう言って彼女は外に出る。私たちも後に続く。
「拉致ご苦労!!」
七丘さんはそう言って扉を開けて私たちを入れる。
「さて、彼を殺しますか?」
「!?」
殺すな。心の中でそう唱える。
「まずは私たちの服を脱がなくては……」
殺すってそっちか。いや、それもそれでダメでしょ?
「何言ってるんましか?未成年である私にはその話ついていけませんまし」
あれ?手が楽になった。どうやらモナコちゃんが紐をハサミで切ってくれたようだ。
「もうちょっと弄びたかったのになぁ。彼が赤面になって私を見る度に鼻血を噴き出すようになるまで……」
「それは私のできるましか?」
「モナコちゃんはもう少しお姉さんらしく胸が大きくなってからね」
「そうやって私の未熟さを言うまし、七丘姉さんはまし。お兄さん、何か言ってやってくださいまし。っていうかいつまでガムテープを口に付けてるまし?そこはセルフサービスまし」
私は彼女に悟られてガムテープを口から取る。
「さて、拉致シチュエーションはいいから。彼に修行をさせなくては 」
「そうね、総長」
どうやら、総長のおかげでこの場の雰囲気は丸く収まったようだ。