表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1章 始まりは終わりを告げる

プロローグ


私はあの日、死んだ。


もう一度会った少年たちの顔を見た。


私はこの世から去った。


でも、憎いものは憎い。


【登場人物】


秋上成助

(あきうえなりすけ)……主人公。ある日、突然コイ

トスたちに会う大学生。コ

インは黄色。


藤井モナコ

(ふじいモナコ)……「まし」と語尾を付ける中学

生。王茂子子を姉のように慕っ

ていたが……。コインは赤色。


王茂子子

(おうしげここ)……谷本百合(たにもとゆり)という名

を捨て、さらにこの名を捨てる。

唯一の裏切り者という異名を持

つ。しかし主人公との出会いで彼

女にも動きが乱れる。コインは黒

色。


コイトス……しっぽが三つに分かれた謎の生物。


七丘晴美

(ななおかはるみ)……ギルド内で姉御と慕われるほ

どの女性。怒ると男女構わず激

怒するが、それも彼女の優しさ

である。


大橋信

(おおはしまこと)……無口で優しくもあり、残酷で

もある男性。


星野愁

(ほしのしゅう)……運転がすごい男性。なぜか、寿

司屋にいそうなイメージ。


倉田亮くらたりょう……双子の弟。コインは茶色。


倉田姫子くらたひめこ……双子の姉。なんか食ってる。コインは紫色。



今、私は井戸に載せられた本を見た。


そう、私の付けられた名前のように。


憎きべき者を殺すために。

私の手に違和感を覚えた。

始まりは幼稚園の時に紙に炭を塗って手形を付けた作品を壁に貼ることになった時だ。先生が表情を一つも変えずにこう言った。


「周りの子と違ってもいいじゃないの?」


それが何を意味しているのかについては分からなかった。他の子たちには笑われた。だが何に対して笑われているのかについても分からなかった。

私の手は普通の人と同じだった。長さがそれぞれ違う五本の指に手のひらがあった。そう、見た目は普通の人と似ていたのだ。でも私の一部だけが違ったんだ。

それに気が付かされたのは高校の時だった。そして私のこの違和感が原因で大事な仲間たちに出会うのだった。

それは何もない平然とした秋の日だった。


「おーい、なりー。……あっ、読書してたか。すまん」


私は推理小説から目を逸らし右斜めの方向を見る。そこには一人の生徒の周りに三人が集まっていた。ちなみに秋上成助(あきうえなりすけ)だから“なりー”と呼ばれている。


「いや、平気。……で何?」

「手相占いしてみる?」

「何だそれ?」

「お前、高校生なのに知らないのか?」


“手相占い”という言葉はテレビで聞いていたが、テレビに映る手は自分の手じゃないからという理由で無視していた。だが今はどうだろう。何だか見てもらいたい気分になってくる。


「もちろん知ってるけど、お前できるの?」

「まぁ、テレビや雑誌等の情報程度だけど出来ないことはないと思うよ」


せっかくだからやってもらうか。そう思い私は彼の方に向かうのであった。

彼の前にあるイスに座る。


「じゃあ、手相を見るぞ。左手を見せて」

「おう。右手じゃなくていいのか」

「右手は女性、左手は男性だ。ではこれより私は集中する」


彼は私の差し出した左手を自分の左手に軽くのせて虫眼鏡を掴みその手相をじっくり見る。

しかし数秒だった。彼は肩を揺らし始めてこう言った。


「悪い。お前の手相は占えねぇよ」

「……」

「おい、こいつの手相、そんなに複雑なのか」


黙っていた私の代わりに周りにいた男子生徒の一人が言う。


「いや、お前らの手相よりも簡単だった」

「じゃあ、何だよ。こいつの手相が占えないのは」

「無いんだよ、手相の重要な線が……お前らも見れば分かるだろう」


周りの三人も私の手相を見た。そして占った彼が私の違和感を言う。


「こいつには生命線がねーんだよ。ククククク……」


彼とその周りの男子生徒は一斉に笑い出す。占った彼が肩を揺らしていたのは笑っていたのだ。そう、幼稚園の先生の言葉も私の生命線に対してのことだった。彼女も彼らのように影で笑ってたのだろうか。

とにかく今は周りにいるこいつらが憎い。殺してやりたい。だがそうする度胸がない。たとえ近くにハサミやカッターナイフがあっても出来ない。だが私の手と彼らの間の空間で何らかの術が使えれば話は別だった。そんなもんはファンタジーでいう魔法の話だ。現実には起こらない。

私は彼らの笑いに耐えきれず自分の席に戻り読書を再開した。あと五分もすれば昼休み終了のチャイムが鳴る。そう思っていてもなぜか手を震えながら読書をするのだった。おそらく悔しかったのかもしれない。

その後、彼らから私のこの手相の情報が伝わったのであろう。

「生命線が無いなら死んでんじゃないのか」などという悪口や蔭口を男女学年関係なしに時間が過ぎていく度に言われた。さらに両親にも言われるようになった。私は神社で生まれたから生命線が消えたのではないかとも思うこともあった。そんな風に考える度に自分でいろんな刃物を使って体に傷を付けることがしばしばあった。

相手を傷付けることよりも自分に傷を付けることは簡単だった。心の傷に比べればこんな傷は痛くなかった。まぁ、死ぬのが怖いから脈を外して切っているからかもしれない。だから首を吊ったり高いところから落ちたりなんて考えなかったのかもしれない。たとえ他の人にどう思われてもよかった。しかし次第に自分の行為がむなしかったのか、そういう行為をやめた。さらに彼らのことを気にしない生活を送った。

私がそのようにして三週間くらい経った頃、彼らは悪口や蔭口をやめた。

高校を卒業し大学に入りそして時が流れて大学三年生になった。この頃になると手相の生命線がないという存在を忘れがちでいた。自動販売機の前にいる彼女に会う現在に至るまでは。

大学の授業が終わった。

私は二・四・五時限を終え電車を三本乗り継ぎし、駅から家に向かう道を歩いていた。その途中で自動販売機から缶コーヒーを買って飲むのは一時の幸せだ。しかもこんな暑い夏休み前ならなおさらである。

私はいつも買う自動販売機の前に制服を着た黒髪のポニーテールの女の子がそこにいることに気が付いた。

どこの学生だろうか。

彼女は自動販売機をじっと見つめたまま動かない。私は先の自動販売機で買おうと思いこの道をそのまま歩くことにした。その自動販売機は五分かかったここよりも三倍は時間がかかる場所に設置してあるが仕方ないことだ。

そう思いそのまま先に歩く……つもりでいた。私が彼女の背後の辺りを歩いた時だった。彼女は私の方に首を振り向かせてこう言った。


「お兄さん。……あげるので……下さいまし」

「え?」


急に言われたのですべて聞き取れなかった。


「お金あげるのでジュース買って下さいまし」


彼女は再びそう言いお金を片手に持っていた。その金貨は太陽の光で輝いている。お金があるなら自分で買えばいいのに……。まさかどこかの貴族の人で使い方が分からない……。いや、そんな人がこんな道を歩くわけないだろうと思いつつ両手を皿のようにして両手を差し出す。

彼女は私の手のひらを見ると苦笑いした。ここでやっと思い出された。生命線が 無い手のことに。私は彼女から受け取った百円玉と十円玉三枚をそのまま投入口に突っ込む。最後の十円玉が入った瞬間、私の右肩から上と頭の右側の空間を何かが背後から通過する。自動販売機に思いっきり石を叩きつけたような音がしたと思ったら取り出し口に物が落ちる音がした。


「両方とも取って下さい、お兄さんまし」


取りだし口の中からオレンジジュースEXを取り出す。

両方って何だ?

なんとなく自動販売機の下に目がいく。

地面にコインが刺さっていた。そのコインをつまんでひっぱてみたら、簡単に取り除くことができた。コインを見ると赤色に“M”という文字が書いてあり、裏には赤色のまま何も書かれていなかった。


「ありがとう、兄さんまし」


彼女にコインとオレンジジュースEXを渡すとそう言われた。そして彼女は一口飲んでダッシュで私の来た道を逃げていった。私はその間口を開けたまま立ち尽くしていた。結局、ここの自動販売機で缶コーヒーを買って帰るのだった。

私がマンションのエレベーター前で待っていると女の子が横に立っていた。黒髪のショートヘアの黒い浴衣の女の子だった。

エレベーターが私たちの前に来る。私はその中に入った。


「あれ?君も乗らないの」

「気を付けて。始まりは終わりを告げるものよ」


彼女はそう言うと壁のある方へ行く。

私はいったん降りて彼女が行った方向を見た。しかし彼女はそこにはいなかった。壁を通り抜けたらしい。幽霊なのか?

彼女が何者なのかはここでは知らなかった。また、彼女の言った言葉の意味も分からなかった。

そして私はある者に出会って全てが始まるのだった。


始まりは終わりを告げる物語が……。

 その後、私はいつものようにテレビを見たり食事したりなどして普段通りの時間を過ごしていた。夜九時頃、母親に「風呂入ってきなさい」と言われたので入ることにした。服を脱ぎタオルを持って中に入る。後ろを振り返り扉を閉じた。

その時だった。


「ねえ、今日はまだ傷付けてないね。痛そうな傷跡も残ってる。もしかしてこれから?」


どこからか声がする。一番可能性のある人物の名を言ってみる。


「母さん?」


しかし彼女が息子である私にこういうことは言わないだろう。


「違うよ」


予想通り違った。声が少年みたいだった。声変わりしている弟でもなさそうだ。


「お前、一体どこにいる?」

「風呂場の桶見てみなよ。僕はそこにいるから」


その声の通りそこを見てみる。そこにいたのはパッチリした青い目をし茶色の体をした生き物が仰向けで浮かんでいた。私は駆除するためにひとまず扉を開けようとした。


「ふふ。無理だよ。僕の話が終わるまで扉は開かないし大声出しても外には聞こえない」

「おい、狐みたいな犬みたいなお前……」

「狐ならいいけど犬は嫌だな。それに僕には“コイトス”っていう名前があるんじゃい」

「急に口調が乱れたな……っていうかしゃべれるのか?」

「気付くのが遅いよ。あんた……身体洗うのか」

「ああ。洗いながらでも聞いといてやる……っていうかお前、母親が入っていた時もいたのか」

「うん。普通の人間には見えないし人間の男女関係には興味ないからね……ってうわー」


私はなんとなくコイトスにシャワーを五秒間ぶっかける。


「何だよ、急に。君のことは知ってんだぞ」

「何をだよ?」

「君の手に生命線が無いことを……」


身動きが止まってしまった。私は肉球をこちらに見せているコイトスを見て言う。仰向けに浮かんでいるから仕方のない格好なのだろう。


「肉球のお前が言うな」

「人間は嫌味を言われるとすぐ怒る。面白い生き物だ」


私は黙れと思いシャワーをまたコイトスにかける。


「だからやめたまえ。君、今日はなんかおかしいことなかったか」

「今日……自動販売機の前に立ってお金を俺に渡してジュースを買わせた制服の……」

「その制服は中学生だね」

「ああ、黒髪のポニーテールの女の子がいたよ」

「その子は藤井モナコ」

「お前、知ってるのか」

「もちろん。コイン見ただろ」

「赤色に“M”って書いてあった」

「あぁ、モナコの頭文字のMで彼女が強く願う色の赤」

「ん?」

「彼女の好きな赤色だよ」


全て洗い終わったところだった。コイトスはそれに気づく。


「おっと……洗い終わったか」


私の場所とコイトスは入れ替わった。コイトスは体をそこで犬のように身震いした。そして窓側に行き逆立ちするかのようにしてそこの網戸に張り付いてまた話しかけてくる。三本に分れた尻尾が揺れていて意外とかわいい。


「へえ、そのコインがあるとすごい力が使えるんだ」

「あいつ、説明省いて術発動したな。お仕置きしなくては。口に手を突っ込んで心臓を握り捻ろうかな」

コイトスがよだれを垂らしながら言う。目まで光っていて恐ろしい。


「何震えてるのさ。冗談に決まってるでしょ。ほら、僕の手は短いんだからさ」


コイトスの手を見ると確かに短いから無理である。


「話は戻させてもらうけど君が見たコインはただのその術者の証。君にもその才能はあるんだよ」

「どういうことだ?」

「生命線が無いこと……まぁ、僕らの中ではそれを“無命線”って呼んでる」

「まぁ、“亡命線”って呼ばれるよりはマシか」

「あと僕に会ってコインを受け取ることだな」

「……でお前らは誰と戦うんだ」

「簡単に言ってしまえば能ある犯罪者だね」

「はい?」

「能力のある犯罪者としか言い切れない。まぁ、君が見ることはないかあるか今から言う判断で決まるよ」


私はそう言われたとき黒い浴衣の少女を思い出した。もしかしたら彼女も……。


「コイトス、気になったんだけど黒い浴衣の少女……」

「え?……ゴホゴホゴホゴホ……」


コイトスは動揺したのか、窓縁から落ちお風呂の中に入り込んできた。


「大丈夫か」


また仰向けで目を開けたまま浮かんでいる。

死んだのか?


「……大丈夫。その女の子はどこに行った?」


生きていた。正直言って間際らしい狐だ。人を騙すとはよく聞くが。


「……ここのエレベエーターに俺が乗ったら死角に入って壁の向こうに消えていった。『気を付けて。始まりは終わりを告げるものよ』って言ってたぞ」

「そうか。彼女の名は谷本百合。またの名を王茂子子。コインの色は黒」


私は率直に聞いてみる。


「何で二つの名前を持ってるの?」

「死んだ際に死名というのをもらってこの世の後悔を償いに来たっていうのが噂である。彼女は僕に協力したら君も狙う予定だよ」

「ふうん。俺狙われるのか」

「こういう話言われたら決められないよね。もし僕の目が汚れていないなら君はすべての事件を無事解決できる才能があるかもしれない。だから……」


私は手相占いで笑われた時に願ったんだ。術が使えるように。それが人を傷つけるのではなく、人を助けるのならやってやろうじゃないか。死のうとした償いのためにも。


「協力してやるよ。お前たちの戦いに……」

「なんで……そんな簡単に」

「気まぐれだからだ。それにこの生命線が無い手で人を救うことができるなら俺を見くびってた奴を驚かせるかもしれないだろ」

「本当に僕と協力していいんだね」

「あぁ」

「左の手のひら出して……」


私の左手にコイトスの柔らかい肉球が触れる。


「彼の共鳴たるコインよ、我が右手の下に現れよ……神判断遊歩道(ゴッドジャッジプロムネイド)!!」


左手に何かが乗っかった。コイトスも自分の手をどける。


「君の色は黄色だね」

「Nか」

「頭文字のNだよ。神の判断によって遊歩道を間違えたら現れないけど君は出た。分かりづらいよね。まぁ、見込んだ通りだよ。ちなみにさっきのは英語読みだよ」


こいつの話を聞きながら風呂桶から出て扉に手をかけたら開いた。話は終わったようだ。


「さて僕もここから出ないとな」


私の股をすり抜けて風呂場の外に出ていた。コイトスは茶色の床の上で一瞬白色に光り出した。見ると毛が乾いていた。


「あ、ごめん。自動光(オートフラッシュ)したら眩しかった?」

「いや、大丈夫」


どうやら、その光は家族に気が付かれずに済んだようである。彼と長い時間話したつもりだったが、五分しか風呂に入っていなかったことになっていた。コイトスが言うには時間を止めていたらしい。また、こいつの存在も家族の者には気が付かないで普段通りに過ごしていた。コイトスは明日学校から帰るまで共にいると言っていたので私と共に布団の中で寝るのであった。話さなければかわいいものだと思いながら。


そして物語の歯車は動き始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ