第2話
眩い光に包まれ、意識を失ってからどのくらい経ったのだろうか。
気づけば、見知らぬ天井を眺めていた。
「(ここが異世界なのか・・?)」
覚醒したばかりで重い思考を巡らせる。
「(どうやら知らない野に放置されるパターンは回避したみたいだな)」
とにかく、天井ばかりを眺めていても始まらないので起き上がろうとするがまるで全身に力が入らず全く起き上がれない。
何度試しても起き上がれず、なぜだと思い自身の身体を確認する。
まずは手を確認すると見慣れない赤子の手だった。
「・・・」
次に首から下を確認したいが頭が重くて持ち上がらない。
「・・・」
現在、唯一確認出来た手から判断するにどうやら俺は赤子のようだ。
「あうあ~!(そんな~!)」
思わず嘆きの声を上げるが言葉まで上手く話せず、俺の精神に更なる追い打ちをかける。
驚きの事態に思考が追いつかない。
まず、俺は赤子だ!赤子ということは無事に異世界に転生したということなのだろう。
というかそうとしか考えられない。
俺の読んでいた小説にも赤子から転生する物語はあったが正直、このパターンは想定していなかった。
まず、自身を落ち着かせる為にも状況を正確に把握する必要がある。
現状では首や手足が少ししか動かせないということは生まれてからまだ日が浅いと思う。ということはまだまだこの状況は続く。
「・・・」
つまり、はっきりとした自我を持っている俺にとって今の状態は赤ちゃんプレイに等しい。
まさか、転生して早々にこんな上級者プレイを強いられるとは地球にいた時でもこんな高難度プレイの経験はないのに・・・異世界転生恐るべし。
常人とは違う斜め上をいくアホなことを考えていると唐突に部屋の扉が開く音が聞こえ、誰かが近付いてくる。
まだ異世界にて覚醒したばかりで心の準備も出来ておらず、赤子という姿での強制ファーストコンタクトに緊張で体が強張る。
「(第一印象は大切だ!愛想良くしなければ!)」
俺が笑顔を作るとともに次第に足音は近付いてくる。
足音はベビーベッドの横で止まり俺の上に陰が差す。
そこには猫耳を持つ十代半ばだと思われるメイド姿の女性が上から覗き込んでいた。
「(猫耳だとぉー!?)」
リアル猫耳に驚きと感動を覚えていると呼び掛けられる。
「アーサー様、起きていらしたのね」
「(アーサー様?)」
女性はおもむろに俺を抱き抱える。
どうやら、俺の名前はアーサーという名のようだ。しかも、メイドらしき女性から名前は様付けで呼ばれている。
俺の知識(ラノベ小説)からして、これは貴族なのではなかろうか?
そんな俺の思考を巡らせている間もメイドらしき女性はおしめが濡れていないか確認している。
「濡れてないようですけど、ついでなので交換しておきましょうね」
ベッドに戻され、おしめを剥ぎ取られる。
「あう~あう~(あっ!見ないでっ!)」
恥ずかしいので抵抗を試みるが今の俺は無力だ。
「どうかちまちちゃか?」
抵抗する俺に相手は赤ちゃん言葉まで使って俺を翻弄してきやがる。
「いちゅ見ても可愛いおティンティンでちゅね~」
この上、言葉責めで辱しめるなんて・・・
おしめを取られたことでお股がスースーし、オシッコを催す。
「(くっ!今出したら大惨事になりかねない!)」
しかし、俺の幼い身体は制御を離れ、勝手に波動砲は放たれた!
波動砲は見事な放物線を描き、おしめを交換中の目標に直撃する。
びちゃびちゃびちゃびちゃ
「う~~~(ふぅ~~~)」
「・・・・」
俺は今、爽快感と達成感にわずかに恍惚な表情を浮かべる。
「ああう~(スッキリ~)」
俺とは真逆に女性からは表情が消え、手早くおしめを交換すると濡れたシーツとおしめを持って足早に部屋を出て行った。
「(ふっ、やっちまったぜ)」
過ぎ去った時間は戻らない。
少し癖になりそうだが気を取り直し、するべきことを考える。
「(確か、神様はレベルとスキルがあると言っていたな)」
神様の言葉を思い出し、テンプレの言葉を頭の中で唱える。
「(ステータスオープン)」
言葉を唱えると頭の中に窓が開かれる。
「うう~!(おお~!)」
【名前】アーサー・エル・ナイトレイ
【性別】男
【種族】人族
【職業】なし
【レベル】1
【スキル】なし
【加護】地球神の加護
特筆すべき点はまず名前がカッコいい。そして地球神の加護かな。以上
神様が言っていた餞別とは加護のことだと思う。というか、それしかない。
効果はお楽しみと言っていたがさっぱりわからん。
仕方ないので俺のラノベ知識をフル活用し考える。
「(こういう場合はまず鑑定スキルを覚えるのがテンプレだ)」
早速、天井を見つめながら鑑定と唱える。
「(鑑定、鑑定、鑑定、鑑定、鑑定)」
【天井】材質は木
「(おっ!?)」
なんか説明が出たのでステータスを再確認してみる。
【名前】アーサー・エル・ナイトレイ
【性別】男
【種族】人族
【職業】なし
【レベル】1
【スキル】Lv:1鑑定
【加護】地球神の加護
見事に鑑定を覚えていた。
「(よっしゃー!)」
早速、地球神の加護を鑑定してみる。
【地球神の加護】???
「・・・」
恐らくレベルが足りないのだと思う。
仕方ないのでとことん鑑定レベルを上げてやる。
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
ガクッ!
◇◇◇
気付けば、外は暗くなっていた。
「(あれっ?俺、さっきまで鑑定レベルを上げようとしてたのにどうして寝てたんだろう?)」
不思議に思いながらもまた鑑定を使っていく。
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
「(鑑定)」
ガクッ!
◇◇◇
また、急激な疲労感に襲われ気付けば、朝になっていた。
寝ぼけた頭を無理矢理、働かせ気を失った理由を推測する。
俺の推測では恐らく鑑定を使用したことにより魔力を使い切り、気を失ってしまったという結論に至った。
「(それにしてもお腹が減ったな~)」
当然、気を失っていた為、昨日から何も口にしていない。
「(鑑定のレベルを上げたいけど、ご飯を食べてからにしよう)」
程なくして無事に食事にありつくことになるのだがこの時は食事が母乳であるという事実を忘れているのであった。




